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濡れ衣は言葉足らずが生み出すもの

 -- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --


 元の世界に戻るための扉(出口)を見つけるため、その足掛かりとなりそうなヒミツを知る髭マスGAGA。

そのヒミツがかなりのマル秘っぷりであることを理解するも、何とかそのマル秘をこじ開けようとする常松。

 しかし、一筋縄ではいかない髭マスGAGA の老獪な立ち回りに翻弄され続け、ヒミツの話にた辿り着くことが出来ない状況が続く。


 GAGAの口から連発される『マル秘』というワードに苛ついた常松は、その憤りからか堪忍袋とは違う、何か別の下の方にある袋が切れたかのような状態になったことで幼気(いたいけ)な過去の記憶が蘇る。


 それは少年時代、本屋に陳列されたオッサン向け週刊誌の袋綴じに対する追憶であった。

 マル秘と印字された袋綴じの中身に何度も裏切られた青春時代に思いを馳せつつ、

『髭マスGAGAのマル秘程度は、俺がガッツリとこじ開けてやるぞ!』

と意気込むのであった。


マル秘と云えば袋綴じという連想が、しょーもない過去の記憶を呼び覚ましてしまったが、果たして髭マスGAGAが握るマル秘情報を聞き出すことは出来るのだろうか?


そして、この裏世界からの出口、つまり元の世界へ戻るための扉は何処にあるのだろうか?


▽ ▼ ▽ ▼ ▽



 漲る闘志を剥き出しにして、俺様がマル秘の袋綴じをこじ開けてやるぞー的な宣言をしてしまった常松は、自らの想い(イライラ)を全て吐き出した。

そして、むしろ清々しさのようなものを感じていた。


(よーーし! こうなったら俺の誠心誠意ってやつを見せつけて、絶対に髭マスが握っているヒミツに辿り着いてやるぞ、もう後が無いようなものだしな)


 そう決心して、尚も髭マスに挑む姿が凛々しくもある……が、やっぱりそんなことはない。


「マスター! 俺は自分が元いた世界に戻りたいだけなんですよ。だから、協力してください!」


「YES!! わかったわ。あたしは常ちゃんを認めた訳だから〜、もちろん任せてちょーだい! 常ちゃんの熱〜い気持ちに応えてア・ゲ・ルわよぉーーー」


「良かったあーー! ホント助かります」


「じゃあ、さっき常ちゃんが熱〜く語ってくれた通り〜、常ちゃんがあたしの〜、マル秘の〜、袋綴じを〜、開けてくれるのよねえ〜〜! なんか恥ずかしいけどお〜! でもね〜、袋の方だけよ〜、それ以上は、ダ・メ・よ」


(ん??? おいおい、このオッサンは一体何を言ってるんだ? っていうか、袋の方だけってなんだ?)


 完全に勘違いをしているかのような口調の髭マスに動揺を隠しきれなくなる常松。

だが、髭マスの袋綴じ発言は、元はと云えば常松の先の発言(18話)が招いた訳である。

そのことに全く気がついていなかった。


「………あっ、先程はついつい生意気なことを述べまくってしまいましたが、マスターのマル秘って奴について知りたいということでしてぇ……」

「そうでしょ〜、だから、あたしのマル秘の部分を知りたいんでしょーー! あたしのマル秘はね、いろいろあるのよお〜、だから、袋の方だけよ」


(いやいや、“部分”とか“いろいろ”とかって何なんだっつーの!)


「いや、ちょっと意味が違ってるっぽいんですけど……部分(・・)ってのが余計でしてぇ〜……それに『袋の方』っていう言い回しは、何か妙なというか誤解を招くような、そんな感じがするんですけどお」


「………あら、嫌だわ〜、意味が違っていたのかしら〜、だって常ちゃんが『あたしのマル秘の部分(・・)について知りたい』って言ったのよお。だから、あたしのマル秘といったら、やっぱり〜、袋の方だから……」


(だから、その“部分”ってのが余計だっつーの! あと、その“袋の方”ってのは、どっちの方なんだよ!)


「ちょ、ちょっと待ってください。マスターのマル秘の部分(・・)ではなくてですねー、はっきり言いますがー! 知りたいのは、先程からマル秘だとおっしゃっていたユリコママのヒミツについてなのですよ!」


 と、そこまで反論したが、最後の方が言葉足らずになってしまい、何か嫌な予感がする常松。

当然、その予感は的中してしまう。


「えええええーーーー!! 嫌だわ〜!! 常ちゃんったら〜、お隣のユリコママのマル秘の部分まで知りたいなんてえーー」


「 ―――――!! 」 


 ついにノックダウン寸前の常松。

薄れ行く意識の中で、よせばいいのにノーガード戦法に出たのが悪かったのかもしれないと反省してしまう。


(マズイ、これはヤバすぎる! ギガクラスのダメージだぞ! 俺のHPが一桁になっちまったんじゃあないのかぁーー、俺ってば、何故にこの大事な局面でやっちまったんだろうかー!)


「残念だわ〜、やっぱり常ちゃんもぉ〜、その辺のお下劣でギラギラしていてモテないオジ達と変わらないのねえ……」


(いやいや、お下劣なのは、お前だろっ!)


「まあ、仕方ないわよね〜、モテない男ってのはねえ……っていうかあ〜、あまりにモテなさすぎて、そんなことしか考えられなくなってしまった、ってのが正解なのかしらぁ」


(おいおい、黙って聞いてれば、えらくドイヒーな言われ方をしちゃってるぞ。クッソーーーー! 反論したいのに、なんかダメージがデカすぎて、次の一手が出てこない……)


「あらら、常ちゃんってば、なんか変な顔が余計に変になってるしい〜、やっぱり正解だったの? 汗がすごいわよお、大丈夫?」


(正解なわけねえだろ! クッソォーーーー! お前のせいだっつーの! あと変な顔とか言うなって)


 この時、常松は怒りのボルテージがマックスになる。

そして、このボルテージをHPの回復に利用出来た……ような気がしたので、気力が復活する。


「ちょっと待ってくださいって! だから誤解ですって! ユリコママが教えてくれた異世界から来た男の話

ですよ! その続きが秘密とかって、言っていたじゃあないですかあ」


「えっ? ウッソォーーー! そんな流れだったかしらあ?」


「いやいや、嘘なんてついてないですよー。ついさっきまでは、俺と同じ世界からやってきた二人の男の話をしてくれていたじゃあないっすか!」


「あら、嫌だわ、あたしったら、思い出したわーーよ! そうよねえ、常ちゃんの言う通りじゃあないのよ〜う。ホント、嫌〜よねえ」


(嫌〜よねえ、じゃあないっつーの! こっちが嫌なんだよ)


 心で怒って、顔では笑って誤魔化す常松。そして、ようやく話の筋を軌道に戻すことに成功した。


「良かった〜、やっと思い出してくれたようですね。 これでシャンパン抜いて乾杯した甲斐があったってもんですよ、アッハッハッハ…」


「ほ〜んと、ごめんなさいねえ、あたしったら、常ちゃんに失礼なこと言っちゃったりして……」


「俺の言い回しが悪かったんですよ。誤解を招くような言い方をしてしまいましたから」


「あら、常ちゃんたらあたしなんかのことを庇ってくれちゃったりして……」


「いやいや誤解が解けて何よりですし、マスターも悪気があった......訳ではないですよね?」


「もちアーンドろん、よお〜! あたしも勘違いで良かったって思ってるのよ〜。常ちゃんがユリコママのマル秘を知りたい訳ではなかったと分かってホッとしたわよ〜」


「もうホント、その勘違いだけは勘弁してくださいよ〜」


「でも、ユリコママってミステリアスな感じがするでしょう。だから、あたしも彼女の魅力に惹かれてしまうこともあるのよ〜」

「そうなんですか。マスターも美人に弱いんですねえー」

「ただの美人になんて興味ないわよ。ユリコママはミステリアスだから特別なのよ〜。それにさっきも言ったけど、あたしはイケメンが好物なの!」


(なんか、また話がややこしい方へ流れてしまいそうだぞ。話を戻すぞ!)


「確かにユリコママって、謎のベールに包まれているっていうか、なんとなくですけど只者ではないって雰囲気ですよね」

「そうなのよ。だから、そんな彼女が他言無用と言った意味……というより、どうしてあたしなんかにそんな情報を教えてくれたのかってことも何か引っかかるのよねえ。わざわざ教えてくれたことに意味があるってことかしら?」


 髭マスGAGAの話を聞いて、またまたシンキングタイムに突入する常松。


(わざわざ教えたって、どういうことだろう? 確かにすごいマル秘っぷりの話なのに、そんな重要な秘密を

髭マスに話すなんて不自然だよな……。ということは、敢えて髭マスに伝える必要があったということなのか!?)


 常松はユリコママが仕組んだ何かとその意図、その輪郭がボンヤリと見えてきたような気がした。


「常ちゃんは、ユリコママから何か聞いたりしなかったのかしら」

「そういえば、ユリコママは、俺が乗ってきたエレベーターは消えた訳ではなくて見えていないだけだと、そんなことを言ってましたね…… あーっ! 思い出した!! さっき、マスターが『わざわざ教えてくれた』的なことを言ってましたけど、もしかしたら、それって本当に『わざわざ教えた』のかもしれません」


「それって、どういうこと?」


「ユリコママは、俺がエレベーターを探しにスナック(みせ)を出る時に言ったんですよ!」

「だから〜、何を言ったのよ〜」

スナック(みせ)を出た後、『まず最初にアイアンヘッドに入ることを勧める』って言ったんですよ!」


「あらあ、ユリコママってばぁ、嬉しいことを言ってくれるじゃあないのよ」


「マスターが喜ぶ話でもあるんですが、つまり、向こう側の世界への扉のヒミツを知っているマスターに会えっていうことを俺に教えてくれたんではないかと……」


「な〜るほど〜! 常ちゃんってば冴えてるわね」


「いやあ〜、それほどでも……ありますけどお…」


 謙遜が出来ない常松が嬉しそうな顔をする。


 そんな常松のアホヅラを見つめながら髭マスGAGAは、再びタバコに火をつける。

タバコを蒸す姿がスマートで様になっている。GAGAの言葉を借りるならとってもセクシーだ。


 髭マスGAGAが大きく煙を吐き出して神妙な表情になる。


「ユリコママが話していたヒミツを知りたいんだったわね……いいわ、迷惑かけちゃったお詫びに教えてあげるわ」


皆様、よろしければ、お星様とブックマークをいただけましたら幸いです。

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