まさか、伝説の……
-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --
せっかくのユリコママの好意を無に帰すかのようなエロチャクラ全開の勘違いを披露してしまう常松。
それでも某辛口ビールのようにキレがあるのにコクもある神対応で善意を尽くそうとするユリコママは、
“消えたエレベーターの真意”を伝えようと奮闘する。
しかし、ユリコママの神対応をも凌ぐ勢いで暴走する常松のエロチャクラは、自身をエロ大魔王の化身へと変貌
させる.........かの如く妄想本領を発揮させてしまう。
この全く軌道を読むことの出来ないステルス妄想攻撃によって、ユリコママの口は開けっ放し状態に陥ってしまう。
“―― 告。グレート&スーパーウルトラ級のレアスキル『妄想勘違い』を入手しました ――”
と、どこかの大賢者の声が辺りに響き渡りそうな状況下で、常松は消えたエレベーターの謎を聞き出すことができるのだろうか!?
ついでに、飲み屋ダンジョンと化したこの裏世界の飲み屋ビルから脱出出来るのだろうか?
そして、若干放心状態というより石化寸前のユリコママはその秘密を明かしてくれるのだろうか?
さらに、全然あらすじとは関係ないのだが、
何故なのか突然『あなたに女の子の一番大切なものをあげるわ』という山口百●のヒットソングが作者の脳内を
疾走し始めてしまい、“大切なもの”が気になって全く筆が進まないという大ピンチを無事に乗り越えられるの
だろうか!?
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
常松からの予期せぬというよりも、予測不可能な攻撃に不意を突かれフリーズしてしまったユリコママは、それでも持てる限りの力で自らフリーズ状態を抜け出した。
そして鋭い眼光を常松に向けると大きく息を吸い込んだ。
そのまま常松の耳元近くまで顔を寄せる。
「そういうプレイとか、何かのフェチ的なプレイのことじゃあ、ありませんからーーーぁ!!」
ユリコママの台詞は、最後に『残念!!』という言葉で締めるのではないかと思われた。
そんなママが繰り出す怒りのリローデッドを耳元でもろに受け止めてしまい、耳がキーーーーン状態の常松はハッ! と我に返った。
どうやら、日頃はあまり使わない脳みそをフル回転させたせいで思考回路がショート寸前になっていたようである。
ようやく我に帰った常松が頭を掻きながら自分の行為を確認、そして反省する。
「もしかして俺って、また何かバカなことを口走ってしまいましたか?」
「口が走るなんて、生易しいもんじゃあないですよ! 激走でしたよ!! おかげでこちらはすっかりフリーズ状態でしたわ」
「すみません。こんな時に、俺って奴はバカ野郎だなあ。本当に大変失礼しましたーー!! どうか怒らずに俺に今一度大事な話を聞かせてくださいぃぃぃ!! お願いしまぁーーーっす!!」
常松はテーブルに額を擦りつけながら、これまでの人生の中でもベスト3に入るかのような懇親の平謝りをみせた。
それはもう、見事なまでの平謝りである。
幸いユリコママは、この程度で怒り心頭になって真実を伝えずに闇に葬るなんてことは大人げないと考えていた。
さらに、こんなところで話を終えてしまうと、この物語自体が闇に葬られてしまうわけで………それは流石に忍びないという大人の対応で常松と作者を助けようとする。
本当にイイ女である!
「はあ......もう仕方ないですねえ。では気を取り直して、もう一度このビルの、そしてエレベーターの秘密をお話しますわ」
「すみません! 本当に恩に着ます、、、です」
ユリコママは神妙な顔つきになると、とっても重大な発表をしますよオーラを全身に纏い、今後一切つまらないギャグやシモネタなどは全く受け付けないわ! と言わんばかりの鋭い眼光を放つ。
「実はこのフロアにある4つのお店には、それぞれエレベーターの手がかりになる鍵が存在するのよ。その4つのお店というのは、この“スナック亜空間”以外のお店のことなの。常松さんはすべてのお店を品定めなさっていたはずよね?」
(いや〜、品定めというより、単にディスっていただけ……だったよな……)
「ああー、はいっ、そうです、けど……」
「けどぉ? けどって、何が、けどなのかしらー? 貴様―っ!! まさか否定する気かー!? 面倒臭いからそこは素直に肯定しろっつうのーー!!」
常松の中途半端な受け答えに、某男塾の校長のような勢いで怒りを顕わにするユリコママの表情は、あの香港映画『ドラ●ン※1怒りの鉄拳』でお馴染みの●ルース・リーのような険しい表情で顔を震わせている。
注※1・・・字面がちょっと似てるけど耳のない未来から来たネコ型ロボットではない。功夫映画のタイトル。
「すみましぇぇぇ〜〜ん!! 間違いなくお店を吟味してましたぁーー!!」
怒りに震えるママの表情に思わず超速で謝罪する常松。
「だったら、“けど”って言わないの!」
「失礼しましたぁ!! 勘弁してくだせええ......」
常松の謝罪が終わると共に、ユリコママの怒りの鉄拳フェイスが一気に消え去って、従来の優しく穏やかな表情に戻った。
「それじゃあ、常松さん、あなたがこのビルから脱出するための方法を教えてあ・げ・る・わ♡」
「お願いします!!」
「あら〜、そんなに畏まらなくてもいいのよぉ」
「はあ……」
常松の顔が引き攣る
(……おいおい、さっきはあんなに怖え顔して凄んでたくせに……)
「だから、よ~く聞いてくださいね♡」
「はい!」ママの顔を真剣に見つめる常松。その表情を確かめてママは続ける。
「神様が創造したこの世界はそもそも表裏二つの世界があるのよ。二つの世界は双子のようにほぼ同じように造られているの。私から見たらあなたの世界は裏世界なの。あなたからすれば、逆にこちらの世界が裏世界になるわね。
その2つの世界は全く交わることがないのだけれど、唯一ひとつだけ行き来できる空間があるのよ。
それが、このビルというわけ。このビルそのものが2つの世界を繋げる唯一のゲートなのよ。そして時々、このゲートに間違って入り込んでしまう人たちがいるのだけれど………ウフフ、つまり、それが常松さんね……」
常松はゴクリと唾を飲み込んだ。
(裏の世界……? ゲート?)
ユリコママの突然の突拍子も無い話に戸惑いながらも、少し思考を張り巡らせてみる。
正直なところ揶揄われているのか!? と思う反面、この店に入る前に体験した出来事を考えると、この話は満更嘘ではないようにも思える。
妙な話のように思うのだが、消えたエレベーターの理屈を考えれば道理が通り辻褄も合うと思ってしまう。
だから常松はユリコママの話を信じるしかないと考えた。
「じゃあ、エレベーターが消えたのは、この空間がそういう場所だからってこと……ですか?」
(やっぱり俺は、この妙な空間に迷い込んでしまったのかよ)
「そうなの………でも、エレベーターは消えた訳ではないのよ。常松さんには見えないだけなの」
「俺には見えない? それって、俺が違う世界の人間だからってことですか?」
「そうよ。私たち、こちら側の人間にはわかるのだけれど……」
「えっ! ってことは……もしかして! 俺は元の世界に戻れないとか......ですかあ!?」
「戻る方法はあるのよ。これから、そのエレベーターに乗る方法を説明するわ」
「良かった〜〜、それは助かります。方法があるなら問題ないな〜」常松はホッと胸を撫で下ろす。
「ごめんなさいね。もっと早くこの話をしてあげれば良かったのだけれど、迂闊に一見さん(迷い込んだ人)にこの話をしてはいけない規則があるの。だから常松さんの為人をしっかりと見極める必要があったのよ」
(何!? ってことは、俺はママの品定めに見事合格したってわけかよ!! 参ったな〜俺!! やったぜ俺!!)
そういう意味ではないのだが、内心小躍りする常松がママの言葉に答える。答える必要もないのだが……。
「いやあ、こうして今まさに、このビルの秘密を教えてもらった訳ですからママが謝る必要なんてありませんよ!」
更に常松はまるで“俺ってイケメンだろ”と言わんばかりの表情で視線をママの瞳にロックオン。
「それってぇ、つまりは、俺はママのお眼鏡に叶ったってことですよね?」
「まあ、そういうことになるかしら」
妙に余裕たっぷりなイケメン調子の常松にやや圧倒されるユリコママ。
「やはり、そうでしたか。まあ、俺って罪作りな程のナイスガイですから、これは最もな話ってやつですよ」
ユリコママはその発言に怪訝そうな表情をつくる。
しかし常松の話は本質からズレにズレまくり、そして尚もその妙に滑らかな口調で追い討ちをかける。
「そんな俺ですから、ママもこの俺を認めざるを得ないということですかねえ…ふっ、ついでにちょっと惚れちゃいましたか!?」
「……はああ? 一体、何を……」
ユリコママはその先を言いかけたが、慌てて口を閉ざすと思考を巡らす。
今までの経験上、この店に迷い込んできたあちら側の人間は、この不可解な事実を全く信用せずに自滅するか、混乱して取り乱すかといった反応を見せる者がほとんどのはずなのだが、目の前にいるこの男は違う。この男だけは何かが違った。
ただのバカなのだろうが………否違う。
それはまるで、“24時間戦えますか!?”という昭和のフレーズにあるようなジャパニーズビジネスマンの非情さをも超越するかのような死線を乗り越えてきた戦士の佇まい……なのではないだろうか。
ユリコママはそう確信してしまう。
目をキラキラと輝かしてカッコをつけまくる阿呆顔の常松に、かつてこの世界を救った“伝説の勇者の何か”を感じとってしまったのだ。
そして、
ーーーーーそれはまさに、
ーーーーーただの勘違いであったのは言うまでもない。
しかし、ユリコママのこの勘違いが、常松にとっては一筋の光明となる。
▽ ▼ ▽ ▼ ▽
更に、どうでも良いのだが、結局のところ、
女の子の一番大切なものって? いったい何なのだろうか???
山口●恵はそれを知っていて歌っていたのであろうか!?