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妄想炸裂

-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --


 大女優である五●みど●さんのおかげで熟女の神様の加護を受けた……と思い込んだ常松は、ユリコママが仕掛ける“エロ堕ち”誘導攻撃を阻止するべく、このフロアで発見した『居酒屋漢だらけ』の話題にすり替えた。


 更にどーでも良い自らのむさ苦しい思い出話を披露することでエロ堕ち(エロオヤジー化)を食い止めることに成功する。

 しかし、熟女の神様の神通力と引き換えに“しょーもない話を力説する男”の称号を受け取ることになってしまうのであった。


 常松とユリコママの二人は、そんなどーでもいい会話を弾ませるが、時の流れに身をまかせ過ぎてしまう。


 そして、無情にも時計の針がテッペンを指そうとした時、ユリコママの柔和な笑顔が険しい表情へと変わる。

 

 ユリコママの大事な話とは………?



▽ ▼ ▽ ▼ ▽


「あら、いけない! もうこんな時間だわ!」


 ユリコママの表情が先ほどまで常松をイジリ倒していた時の表情とは一変し、キリッとした顔つきに変わる。

そして真剣な眼差しを常松に向けた。


「これから話すことは常松さんにとって、とっても大切なことなの。でも誰にでも話せる内容ではないの。でも、チョイエロだけど誠実そうな常松さんには特別にお伝えするわ。だから、お耳の穴をしっかりかっぽじって、よ~く聞いて下さいね」


 その発言に思わず姿勢を正して、ママを見つめ返す常松。


 ママから『大切なこと♡』などと意味深な言葉をもらい、しかもクールな眼差しで見つめられた常松の思考回路はすっかり小踊り状態になってしまう。ママの気持ちとは裏腹に。


(これは、もしかしてイケるのかーーぁ!! キメるのかーーぁ!! テイクアウトするのかーーぁ!)

心の中でそう叫んだ常松は鼻息荒く答える。


「はい! もちろん、ノ―プロブレムです!!」


 更に常松のエロ妄想スキルが全開となる。

(んん? あれ? “かっぽじって”とは? かっぽ…じる…って、なんの汁のことだ? まさか、あの!? Beforeな汁のことなのか? 俺ってそんなに我慢してるように見えるのか!?)


 背筋はピーーンと伸びているものの、鼻の下までビローーンと伸びきっている常松を見て、ユリコママは『こいつ、完全に勘違いしてるわ』と察知する。


 しかし、心の内を見透かされているアホ…でなくて常松は、そんなこととは露知らずに軽快に口を開く。


「いやあ~、女性にそんな大事なことを言わせてしまうのは男として申し訳ない限りですがー、望むところです! わかってますから! しっかりと耳の穴をかっぽじって聞きますよ。汁はまだ出ていませんがしっかりと聞きますから!!」


 キリリとしたユリコママの表情が、キレはあるのにコクがある某辛口ビールのような波動を醸し出した。

「常松さーーん、間違ってエロいチャクラが脳内を流れていらっしゃるみたいだけど、勘違いしないで下さいね!」


「んん? エロいチャクラ? え? 勘違い??」


「そうですよ。何か勘違いされてないですかあ?」


「えっ…んん? 勘違いって、もしや...“俺”がですかあー?」


 ここには“俺”しかいないというのに、頭のてっぺん辺りから抜けるような間抜けな声を漏らすエロ松。


「もしかしなくても常松さんが、ですよ! もの凄~くエロ~い顔してましたよ~♡」


「ええっ!? あっ、違うんですよ! ちょっと酔いが回ってきてしまって、なんだか空耳的な聞き違いって言いますかあ……」


 そう言い訳しつつも、タモさんの顔までが脳裏を過ぎると、常松はいろいろなところが凋んで我に返る。

(マジかああーー! これは恥ずかしいぞぉ、俺!)


 恥ずかしさが北半球を一周してきたような引き攣った照れ笑いの常松の言い訳を無視するように、ユリコママは話を続ける。

「いいですか!? 常松さん、エレベーターが消えて困ってるんですよね? このビルから出たいと思っているんでしょ?」


「ええ、そうです。もともとはこの上のフロアにあるお店に行こうと思ってましたから。エレベーターも消えて階段も見当たらず、難儀していたんですよ」


「そうよねぇ。だったら、そのエレベーターに乗る方法を教えるわ。誰にでも教えるわけではないのよ、うふふふ」

ママの表情が再び柔和な笑顔に戻ったように思えた。


 常松はスケベモードを解除して素直にママの話に耳を傾けた。


「実は…エレベーターは消えたわけではないのよ。常松さんには見えていないだけなの」

「――――それって、どういうことですか?」


「それは、常松さんがあちら側(・・・・)の人間だから……」


「?? あちら側(・・・・)って、どういう意味ですか?」


「私たち、このフロアにいる人間は“こちら側”の人間ということ。常松さんは“あちら側の人間”という意味よ」


 常松はしばらく考え込み、スナックには似つかわしくない静寂が店内を包み込む。


 酔いが一気に冷めていくのと同時に、先ほどまで自慢げに全身を漲らせていたエロチャクラまでもが、ママの不可解な話によってすっかり鳴りを潜めてしまった。

 それどころか、冷静になって思考すればするほど得体のしれない戦慄を覚える。


 ユリコママは左耳のピアスを触りながら、沈黙する常松を見つめている。


 ひとときの静寂を破り、常松が口を開く。


「それってのは、あれですか? つまり、その……」


 頭ではようやく理解出来てきたのだが、その現実を言葉にするのが怖くてたまらない。


 そんな常松を優しく受け止めようとするユリコママがその発言を先導する。

「はい、つまり?」


 常松は勇気を振り絞って、その言葉を口にするべく歪んだ口元を開いて言葉を紡ぐ。


「つまり、あれ…ですよね……“あちら側”の俺はノーマル系で、ママの“こちら側”がアブノーマルを好む系ってことなんですよね!!」


「――――!」

 空いた口が塞がらないユリコママの意識が、来年のサマーバケーションの彼方へと飛ばされた。


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