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妄想炸裂

-- 前回までの『スナッキーな夜にしてくれ』 --


 大女優である五●みど●さんのおかげなのかどうかはわからないが、熟女の神様の加護を受けた……と思い込んだ常松は、ユリコママが仕掛ける“エロ堕ち”誘導攻撃を阻止するべく、このフロアで発見した『居酒屋漢だらけ』の話題にすり替え、更にどーでも良い自らのむさ苦しい思い出話を披露することでエロオヤジー化(エロ堕ち)を食い止めることに成功する。

 

 しかし、熟女の神様の神通力と引き換えに“しょーもない話を力説する男”の称号を受け取ることになってしまうのであった。


 常松とユリコママのそんなどーでもいい会話が弾む中、スナック亜空間の楽しい時は流れてゆく。


 そして、無情にも時計の針がテッペンを指そうとしていた時、ユリコママの柔和な笑顔が険しい表情へと一変する。


 ユリコママの大事な話とは………?




▽ ▼ ▽ ▼ ▽


「あら、いけない! もうこんな時間だわ!」


 時計の針は、今日というかけがえの無い大切な一日に終わりを告げようとしていた。

 否そのような綺麗な話ではなく......かけがえなどはどうでも良くて、とにかく、いつもならば間も無く終電がなくなってしまうので、吐きそうになりながら駅まで走るか、大船に乗ったつもりで散財覚悟のタクシーを選択するのかのドキドキ選択タイムになろうとしていた。


 ユリコママの表情が先ほどまで常松をイジリ倒していた時の表情とは一変し、キリッとした表情に変わる。そして真剣な眼差しを常松に向けた。

 その台詞と、妙な険しさのある美しい顔に、ハッとしてgoodなエッセンスを感じるも、終電のそれとは違う何かに動揺してしまう常松。


(いけない.........って、何が? 俺がいけないのか?)


 そう自分を責めようとする常松に、ママの美しい口元が開いて真剣味のある声が発せられる。


「これから話すことは常松さんにとっては、とっても大切なことなの。でも誰にでも話せる内容ではないのだけど、チョイエロだけど誠実そうな常松さんには特別にお伝えするわ。だから、お耳の穴をしっかりかっぽじって、よ~く聞いて下さいね」


 その発言に思わず姿勢を正して、ママを見つめ返すチョイエロな常松。


 ママから『大切なこと♡』などと意味深な言葉をもらい、しかもクールな眼差しで見つめられた常松の思考回路はすっかり別次元の方向へと吹っ飛んでしまい、小踊り状態になってしまう。


(これは、もしかしてイケるのかーーーぁ!! キメるのかーーぁ!! テイクアウトするのかーーーぁ!)


 心の中でそう叫んだ常松は鼻息荒く答える。


「はい! もちろん、ノ―プロブレムです!!」


 更に常松は得意の方向に想いを巡らせる。

(んん? あれ? “かっぽじって”とは? かっぽ…じる…って、なんの汁のことだ? まさか、あの!? Beforeな汁のことなのか? 俺ってそんなに我慢してるように見えるのか?)


 背筋はピーーンと伸びているものの、鼻の下までビローーンと伸びきっている常松を見て、ユリコママは『こいつ、完全に勘違いしてるわ』と察知する。


 しかし、心の内を見透かされているアホ…でなくて常松は、そんなこととは露知らずに軽快に口を開いた。


「いやあ~、女性にそんな大事なことを言わせてしまうのは男として申し訳ない限りですがー、望むところです! わかってますから! しっかりと耳の穴をかっぽじって聞きますよ。汁はまだ出ていませんがしっかりと聞きますから!!」


 キリリとしたユリコママの表情が、キレはあるのにコクがある某辛口ビールのような波動を醸し出した。


「常松さーーん、間違ってエロいチャクラが脳内を流れていらっしゃるみたいだけど、勘違いしないで下さいね!」


「んん? エロいチャクラ? え? 勘違い??」


「そうですよ。何か勘違いされてないですかあ?」


「へ…え…...あっ、んん? はあ!?  勘違いってのは、もしや......“俺が”ですかあー?」

 “俺”しかいないというのに、頭のてっぺん辺りから抜けるような間抜けな声を漏らすエロ松。


「もしかしなくても常松さんが、ですよ! もの凄~くエロ~い顔してましたよ~♡」


「ええっ!? あっ、違うんですよ! ちょっと酔いが回ってきてしまって、なんだか空耳的な聞き違いって言いますかあ……つまりは、タモさん的なアレというかあ......」


 言い訳にならない言い訳をしながら、常松はいろいろなところが凋んでしまって我に返った。


(マジかああーー! これは恥ずかしいぞぉ、俺!)


 恥ずかしさが北半球を一周してきたような妙に引き攣った照れ笑いの常松の言い訳。それを華麗に無視するかのようにユリコママは話を続ける。


「いいですか!? 常松さん、エレベーターが消えて困ってるんですよね? このビルから出たいと思っているんでしょ?」


「ええ、そうです。もともとはこの上のフロアにあるお店に行こうと思ってましたから。エレベーターも消えて階段も見当たらず、本当に難儀していたんですよ」


「そうよねぇ......だったら、そのエレベーターに乗る方法を教えてあげるわ。でもね、誰にでも教えるわけではないのよ、うふふふ」


 ママの表情が再び優しげな笑顔に戻ったように思える。


 常松はエロチャクラを弱に切り替えると、スケベモードを消し去って素直にママの話に耳を傾けた。


「実は…エレベーターは消えたわけではないのよ。常松さんには見えないだけなの」


「――――それって、どういうことっすか?」


「それは、常松さんがあちら側(・・・・)の人間だから……」


「?? あちら側(・・・・)って、どういう意味なんでしょうか?」


「私たち、このフロアにいる人間は“こちら側”の人間ということよ。逆に常松さんは“あちら側の人間”という意味よ」


(おいおい、それってのは......やっぱり何かがおかしいとは思っていたが......)


 常松はしばらく俯きながら考え込み、その間スナックには似つかわしくない静寂が店内を包み込む。


 酔いが一気に冷めていくのと同時に、先ほどまで自慢げに全身を漲らせていたエロチャクラまでもが、ママの不可解な話によってすっかり鳴りを潜めてしまいそうだ。

 それどころか、冷静になって思考すればするほど得体のしれない戦慄を覚える。


 ユリコママは左耳のピアスを触りながら、沈黙する常松を見つめている。


 しばらくしてひとときの静寂を破り、常松が口を開く。


「それってのは、あれですか? つまり、その……」


 頭ではなんとか理解出来てきたのだが、その現実を言葉にするのが怖くてたまらない。

 そんな常松を優しく受け止めようとするユリコママがその発言を先導する。


「うん、つまり?」


 常松は勇気を振り絞って、その言葉を口にするべく、ビビって歪んだ口元を開いて言葉を紡ぐ。


「つまり、あれ…ですよね……“あちら”の俺というのはノーマル系で、ママの側の“こちら”がアブノーマルを好む系ってことなんですよね!!」


 空いた口が塞がらないユリコママの意識は、来年のサマーバケーションの彼方へと飛ばされた。


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