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2人でお出かけするという事はデート?

この日から、夜遅くまで作業するので朝は遅めに起きるのが日課になってきた。

起きたらカレンダーを開けて、それを実行する。

『毛糸玉を吊るせ』とか、『キャンデーを吊るせ』とかそんな日があれば、『雪だるまを作る』とか、そんな日もあった。


日に日にダイニングルームのオブジェが飾りでいっぱいになってきた。


忙しいせいか、フランクさんは綺麗に剃ったはずの髭は立派な髭に戻っていた。

「この方が騎士として威厳があるように見えるだろ?」

そうフランクさんが言うと、農夫たちに笑われているのをよく見るようになった。


収穫が始まって一週間後、フランクさんに街に誘われた。



「今日は街に行こう」

と誘われてアレグ号に一緒に乗せてもらって街に行った。


葡萄の収穫で街の人とはもう顔見知りになって、みんな私を見ると声をかけてくれる。

私も手を振り返した。


「今日はデートかい?ほら、二人で食べな。

美男美女でお似合いだよ。でも領主様は髭を剃った方がもっといいね」

と食料品店のおばさんは言いながら、焼き栗をくれた。


その後もみんな口々に「デートか?」なんて言うから、私は首を横に振るし、フランクさんも笑いながら「違うよ」と否定していた。


「街の広場に行商人が来てウインターマーケットが開かれているんだ。」


と話を聞いてると、そこに田舎町には似つかわしくない豪華な馬車が停まって、中から派手に着飾った若い女性が降りてきた。


「フランク・ユールサイト子爵様、お久しぶりでございます。

私も火祭りを見るためにフィオナ・フリト侯爵令嬢に誘われて今年もフリト侯爵家の別荘にやってきましたのよ。」

と言ってカーテシーをした。


「イースティン伯爵令嬢、お久しぶりです。」


「まぁ、そんな呼び方ではなくグロリアとお呼びくださいませ。

数日で騎士団の皆様もいらっしゃるんでしょう?

フィオナ様がランチパーティーを開くそうなので、是非皆様でいらっしゃってくださいませ」


そう言いながらグロリア嬢は一歩、また一歩とフランクさんに近づいてきた。


かなり至近距離になってから私の存在に気がついたようだが、フランクさんは

「今、領地の見回り中なので、イースティン伯爵令嬢、またの機会に」

と言うと、私の手を掴んで足早に床屋に入った。


突然入ってきた私たちに、ジョディさんは驚いていたけど、窓の外から見える豪華な馬車を見て、


「領主様、毎年毎年、色々な女性に追いかけ回されて大変だねぇ。」

と笑いながら言われていた。そして


「私たち、領民はシアさんだったら大歓迎だよ。

葡萄の収穫は慣れない作業なのに私達と一緒に働くし、愛想もいい。

考えておいておくれ」

と言われながら裏口から出してもらった。


「ここ数日、あんな馬車が何台も往復しているから、多分、領主様を狙った貴族のご令嬢様達だよ。

大変だねぇ。フフフフ」

と笑いながら見送ってくれた。


床屋から出た後も、ジョディさんの言葉のせいで私とフランクさんの間には気まずい空気が流れた。


そのまま、アレグ号に乗って領主館に向かった。



しばらく無言だったけど、フランクさんは小さな声でぽつりぽつりと話し出した。


「私は、貴族の女性が苦手なんだ。

毎日着飾ってパーティーに行って。しかも、ああやって露骨な態度を取る。

どうも苦手で無理なんだ…。もう跡取りを辞めて弟に譲ろうかと本気で考えている所だよ。

弟は運良く貴族籍のある女性と結婚したから、私よりも弟が跡取りに向いているかもしれない」


そのタイミングで領主館に着いた。

私は飛び降りると、すぐに雪に近づいて


『フランクさんはここが大好きなのが良くわかる。

弟さんがフランクさん以上にここの領民を大切にできる保証なんてないから、領主を続けて欲しい』

と雪に書いた。


フランクさんは私が書いた事を覗き込んで、困ったような笑顔になると

「シア、ありがとう」

と言ってくれた。


そして厩舎に向かっていった。



私はそんなフランクさんとアレグ号の背中を見ながら複雑な気持ちになっていた。



私はここに来るまで毎日パーティーにばかり出ていた。本当の私を知ったフランクさんは失望するのかな…私はいつも『パーティーガール』と言われて、まるで何も考えてないように思われているから…。


フランクさんにそんな風に思われたくない…。

ここにいる『シア』という架空の私はいつか消えるんだから、ここにいる間だけでもやりたくても出来なかった事をして本当の私らしく過ごそうと思った。




色々な事を考えてなかなか寝付けなかったせいなのか。

久しぶりに早く起きてしまった。


カーテンを開けると外が白んでいて、日の出はまだのようだった。


私は急いで着替えると部屋を飛び出して、領主館の裏の小高い場所に向かった。


じっと空を見ていると、だんだんと空が茜色に染まり、遠くの木の先の方から小さな光が差してきた。

その光がだんだん大きくなってきた。


ゆっくりと太陽が登ると、茜色と青が混ざり、凍った森の木々がキラキラと光り出した。



「綺麗な夜明けだね」


その声に驚いて振り返ると、そこにはフランクさんがいた。


「おはよう。シアが立っているのが見えたからここまで来たんだ。

夕日も綺麗だけど、朝日も神秘的だね。」


私は頷いた。


「少し、散歩しない?」

フランクさんに誘われて頷いた。


「この季節の早朝、運がいいと雪の精霊がスノーフラワーを降らせるのが見れるんだ。」

とフランクさんは言った。


少し歩いて森の入り口に来た。


すると、キラキラした雪の花びらが沢山降ってきた。

綺麗な花びらは手に乗せると体温で溶けてしまう。


晴れた夜明けの空から花びらの様な雪が降るのは幻想的だった。


「よく見てごらん。ほらあの木。

木の葉の表面の雪が風で飛ばされて、このスノーフラワーになっている。

木の葉についた雪が落ちる時は屋根雪が落ちる様に下に落ちるだけなのに、この森は何故かあんな不思議な落ち方をするんだ。

朝、落ちきってしまうから、早朝しか見られない光景なんだよ」


本当に綺麗…。

私はしばらくスノーフラワーが舞うのを眺めていた。


「このまま、隣町のハトーブに行ってみない?

今日は朝市が行われているよ。」


一旦領主館に行って、馬車で隣町のハトーブに向かった。

隣町は馬車で1時間くらいだった。


ハトーブは、街の中心部に大きな広場があって、そこにテントが建てられており沢山のお店が開いていた。


「もう少し行くと貴族の荘園がいくつもある。

このマルシェは、この時期は火祭りを見るために来る観光客を相手にしたものだよ。

まあ、貴族はマルシェには来ないけど、貴族の使用人達がかなり利用しているようだね。」



朝の市場はかなり活気があった。

そういえばウィルコクス国にいた時、ドレスのリメイクのために裁縫通りに行くにはマルシェを通らないと行けなかったなぁ。


フランクさんは慣れた様子で、マルシェで焼きたてのパンとホットティーを2つ買うと、カフェスペースの空きテーブルを見つけて、そこに座った。

私も向かいに座ると、

新聞紙に包まれた焼きたてのパンを出して、半分ちぎると


「はい。このパン食べてみて!」

と私にくれた。


フランクさんはニッコリ笑うと、大きな口でパンにかぶりついた。

私もフランクさんのように大きな口でパンを食べた。


美味しい!


焼きたてのバゲットに切り込みを入れてそこに濃厚なチーズが挟んであった。

チーズがトロトロに溶けて美味しい。

紅茶にはレモンの砂糖漬けが入っていて、甘酸っぱくて美味しかった。



だんだんと人が増えてきて、フランクさんは迷子にならないように私の手を繋いでくれた。


まずはカフェスペース側の蚤の市を見た。


蚤の市は、今年結婚式を挙げたグレイグ国の第二王子の結婚式をお祝いする品物が多かった。


蚤の市の沢山のお店には第二王子の結婚式の新聞の切り抜きや、第二王子夫妻の結婚パレードの写真が飾ってある。


「そこのお兄さん、彼女にどうだい?

彼女の髪にぴったりの髪飾りだよ。第二王子妃のマリーナ様が社交界でつけていたものと同じデザインだよ」

とか

「彼女にもう指輪は贈ったかい?

ほら、第二王子のクリストファー様夫妻が指に嵌めている指輪と同じものだよ」

とか沢山声をかけられた。


中には希少本を売っているお店や、古代の魔道具を売っているお店もあった。

やはり『魔道具』という言葉に弱い男性が多いのか、かなりの人で賑わっていた。



色々なお店を見ているとアクセサリーショップに目が止まった。

複数の星が繊細に揺れる独特のデザインの星のピアスに目が止まった。

不思議、見たことないデザイン!

と思って眺めていると


「このピアスひとつください」

とフランクさんは言って買ってくれた。

私は嬉しくて、大切にポケットにしまった。

すぐにつけて落としたら悲しい。

「これは火祭りをモチーフにしたデザインだよ」

と店主は教えてくれて

「彫金師の一点物だからね、お目が高いよ」

と言われた。


その後もフランクさんと蚤の市を見て回って、馬車に乗った。

「楽しかった?」

とフランクさんに聞かれて私は頷いた。


馬車の外の景色を眺めているうちに、いつのまにか寝てしまっていたようで、目が覚めると向かい合わせに座っていたはずのフランクさんが横に座っていて、私はフランクさんのコートを掛けられ、フランクさんにもたれかかるように眠っていた。



「シアがうとうとしていたけど、辛そうな体勢だっから。

よく眠れた?」

フランクさんは笑顔で私の顔を見た。


フランクさんは髪の毛は好き無造作に流していて、今は髭が生えているけど本当に綺麗な顔をしている…。


「さあ、もう着くよ」

と言われて外を見ると、領主館がもうすぐそこまで来ていた。


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