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雪の日のピクニック

領主館に着くと、トーマスさんが出迎えてくれた。

「お帰りなさいませ。」

トーマスさんはなんだか嬉しそうに笑っていた。


私達は手を繋いだままだった。


フランクさんはゆっくりと手を離すと

「後でね」

と優しく言ってくれた。



部屋に戻ると、バスルームで汗を流した。

その後、朝食を取ってからフランクさんと一緒にダンスホールに向かった。


ダンスホールではトーマスさんが見守る中で、フランクさんは身体強化の魔法の使い方を教えてくれた。


「極寒の中で葡萄を摘むから、身体強化をして寒さに強い体にするんだよ。特に常に雪に触れている足と、指先が冷える。

他の部分が寒くなくても、指と足が寒いと作業は続けられないから、それを忘れないでね」

と説明を受けて身体強化の方法を教わった。


30分くらいでできるようになったので、コートを着ずに外に出た。そして先程教わった身体強化の魔法をかけて雪を触ってみた。


冷たくない!


「シアは教え甲斐があるいい生徒だ。騎士団の部下達よりも早いよ!

じゃあ次に、葡萄を摘むためには明るくないとできない。

しかし火魔法を使うと熱で凍った葡萄が台無しになるから、光魔法で照らすんだ。

光魔法は使える?これは向き不向きがあるんだけど。」

とフランクさんは言った。


発光魔法って事だよね?ドレスのスパンコールを魔法でいつも以上に光らせるとかはやった事があるけど、何もない空中に光を出すのはやった事がない。

私が迷っていると、


「休憩を挟みながらしないと疲れてしまうから、一旦休もう」

とフランクさんは提案してくれた。


「では、身体強化をしてピクニックと魔法の訓練はいかがですか?」

とトーマスさんは言った。


楽しそう!


「雪のピクニックかぁ。子供の頃以来だ。

うん。それはいいかもしれない」

フランクさんの返事を聞いて、トーマスさんは楽しそうに笑いながら


「それではエントランスで休憩しながらしばらくお待ちください」

と言ってトーマスさんは準備に行ってしまった。


しばらくするとトーマスさんが戻ってきた。

「では準備が整いましたが、歩いて行かれますか?

それともアレグ号で行かれますか?」


「じゃあ、アレグ号で行こう。湖の辺りまで行ってくる。今年はスケートがいつできるか見てくるよ。」

とフランクさんは言った。



領主館を出て、厩舎まで行くと、アレグ号には二人乗り用の鞍と、荷物としてバスケットが準備されていた。


フランクさんはバスケットをアレグ号にくくりつけた。

アイテムボックスは使わないのかしら?


アイテムボックスは収納の大きさによって値段が違う。

私が持っているアイテムボックスはマントのポケットより一回り小さい大きさで、犬小屋3個分くらいまでなら入る。重さは全く感じない。

でも、安価タイプなので食べ物は味が劣化するから入れられない。

安価と言っても1カラットのダイヤモンドと同じ値段だったけど。


ウィルコクス国では軍や騎士団に所属していると、容量は少なめだけどアイテムボックスが支給される。

遠征に行く時のためだ。貴族籍がある者は、自前で大容量のアイテムボックスを持っていると聞いた事がある。

もちろん食べ物も収納できる優れ物だ。



フランクさんは持っていないのかな?

騎士団員で貴族なら持っていそうなのに。



フランクさんは準備が整うとアレグ号に乗った。

私は横座りで一緒に乗せてもらう。

フランクさんに後ろから抱きしめられるような体勢になった。

…恥ずかしい。


アレグ号は森に向かって歩き出した。

「この街周辺の森は定期的に魔物狩りをしているから心配ないよ」

とフランクさんは言ってアレグ号を進めた。



しばらく行くと、湖のほとりに出た。

湖のほとりは、あまり木が生えておらず、湖の先に街が見えた。

街と領主館の中間くらいに位置するようだった。

湖といっても大きい物ではないが、対岸には船着場が見えて、船着場の横には小さなボート小屋も見えた。


「着いたよ。降りる時は手を貸すから、鎧に足をかけてゆっくり降りるんだよ」

と言ってフランクさんは馬から降りると、私の手を取って降りるのを手伝ってくれた。

私は言われた通り鎧に足をかけたが、お尻が滑ってフランクさんに抱きついた形で落ちた。


「シアはドジだね」

抱き止めたフランクさんは笑いながら私を降ろしてくれた。


またもや失敗した…。

社交界では、クールなシンシアで通っていたのに!

何をやってもスマートにこなすって、いつも言われていたのに…。自信無くすわ…。



私はバスケットから敷物を出すと雪の上に敷いた。

そして、バスケットに入っていたサンドイッチとキッシュをお皿に乗せた。


フランクさんはその間、アレグ号の紐を木にくくりつけると別の袋に入っていた干し草をアレグ号の前に置いていた。


「冬のピクニックは久しぶりだ。この不便な感じがまた楽しい。」

とフランクさんは笑った。



私はサンドイッチを頬張った。

美味しい!ローストビーフのサンドイッチだ。

サンドイッチがこんなに美味しい物だなんて知らなかった。

いつもサンドイッチを食べる時は、色々な書類と睨めっこしながら片手で食べていて、味わって食べた事がなかった。


今までベルーガ家のシェフには申し訳ない事をしたかも。

思い出すと、普段不規則な私の体調を考えたメニューが出ていたと思う。

それなのに、味がわからない状態で食べていたなんて。


バスケットには紅茶が入った魔法タンブラー と陶器のカップも入っており、私はカップを敷物の上に置くと、紅茶を注いだ。


紅茶は湯気を立てて、香ばしい匂いとともにカップの中に落ちていった。


タンブラー の蓋を閉めてから、一つをフランクさんに手渡して、もう一つを手に取った。


「ありがとう。」

フランクさんの声が紅茶に溶けていった。



普段の暖かい室内で飲む紅茶とは違い、湯気を立てながらゆっくりと飲む紅茶は格別に美味しかった。


時折り、木から落ちる雪の音だけが響いていた。


ランチを食べ終わりバスケットにお皿を戻すと、

「湖の側まで行ってみない?」

と言われて、ゆっくり湖に近づいた。


「シア、ここから動かないでね。氷の状態を見てくるから」

とフランクさんは言うと、自分にシールドを張ってから勢いよく氷の上に飛び乗った。


そして、氷の上を滑っていた!

楽しそう!

行ってみたいけど動くなって言われている。


フランクさんはすぐに戻ってきた。

「スケートができるようになるのに、あと数日ってところかな?まだ氷の状態は不安定だね。この街ではスケートが流行っているんだ」



知らない事がいっぱいで、フランクさんの言葉を聞くたびにワクワクしてしまう。



「じゃあ、そろそろ、光魔法を使ってみようか」

とフランクさんに言われた。


私は小さい頃から「魔力量は多いけどコントロールが下手だ」と言われていた。

それが私のコンプレックスだったのだ。

国王陛下の姪ならなんでも完璧でないといけないというプレッシャーが辛くて、魔法を使う場面を避けていたし、わざと使わなかった。


でも、ここでは私の事を知っている人はいない。

私は思いっきりやってみることにした。


「まず指先を光らせて、それからその光を指から離して少し高い位置まで上げる」

フランクさんは説明しながら実践してみせてくれた。


「じゃあシアもやってみて」


私は図書室のソファー横の読書灯を思い浮かべた。

手元が明るくて見やすくなる光…。


私はイメージを膨らませて、フランクさんが見せてくれたように人差し指を顔の位置で上に向けた。


すると、指先に溜まった魔力が少し光り、それからすごい勢いで空に上がると空中の高い位置で破裂した。

悔しいことに指先から離れた時の光は小さかったのに、破裂した後の魔力が光魔法でキラキラと輝いて、地面に着くまで輝き続けた。



「シア!失敗だけど最高だよ!

打ち上げ花火を魔力でこんなに綺麗に上げれる人は数少ないよ。」


フランクさんは、掌を空に向けると、手から魔力の光が空に上り、空の高い位置で花火が開いた。

開いた花火の光はすぐに消えてしまった。


「ほらね、シア。

シアの花火の方が綺麗だ!試しに花火を上げるイメージでやってみて」


私は言われた通りやってみるとさっきより特大の花火が上がった…。



その後も何回も試したけど、光魔法は全て花火となって空に打ち上がった。

でも、フランクさんは楽しそうに、「素敵な才能が開花したね」と言ってくれた。


「心配いらないよ。みんなが光魔法が使えるわけじゃないから、魔法石の灯りも準備しているよ」

と言われ、屋敷に戻った。



その日の葡萄の収穫の時に、皆が口々に、

「湖から花火が上がっていたけど昨年の何倍も立派な花火だったよ。ありゃ火祭りの花火の予行練習だな。

今年は凄い祭りになりそうだ」

と噂していた。


フランクさんは、真実は言わずにニコニコしていた。


葡萄の収穫は大変だけど楽しかった。

街の人も手伝いに来てくれて、賑やかに行われた。


収穫が終わった後にみんなで食べるポトフは格別に美味しかった。


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