ドミニクの優しさ
なんだか肌寒いわ。
目を開けると、私に背中を向けて、カーテンを開けるリーナの姿が目に入った。
「シンシアお嬢様、今日は春の匂いがしますよ。
まだ肌寒いから風邪をひかないようにしませんとね。」
と言うリーナの声を聞いてなんだか安心して
「リーナ、おはよう。体が重くてベッドから起きれないわ」
と言うと、リーナはすごい勢いで振り返り、私のそばに駆け寄ってきて手を握ってくれた。
「おはようございます。シンシアお嬢様!
お声が!!!」
リーナは嬉しそうに笑った。
私は魔力切れで2週間眠っていたみたいで。部屋中がお見舞いの花で埋め尽くされていた。
私が目覚めてすぐに、ウィルコクス国大使館専属のお医者様がやってきて私を診察してくれたけど、私にはそのお医者様がユールサイト子爵領で診察してくれたお医者様に見えた。
私はひどい魔力切れで、命の危険もあったらしい。
1ヶ月は安静にした方がいいみたい。
普通は1週間安静くらいですむはずなのに。
あの剣って魔力、体力、筋力、全てを消耗するのね…。
「ねぇリーナ、ここは?」
「ここはグレイグ国のウィルコクス国大使館ですよ。」
「じゃあさっきのお医者様はわざわざユールサイト子爵領から来たの?」
「シンシア様、夢でも見たんですか?」
リーナとクロエは私の世話を甲斐甲斐しく焼きながらも楽しそうに笑っていた。
お医者様の診察を終えた私の所に、すぐにドミニクが来てくれた。
ドミニクはベッドの縁に座って、子供の頃のように私の髪を撫でた。
「シンシア!よかった。声も戻ったんだね。
あと1ヶ月もすれば回復するそうだね。
ありがとう。シンシアのお陰であの戦いに勝利できた。
ツユミム帝国は、グレイグ国や我が国の入らずの森に封印されている幻獣を狙っていたんだ。
ツユミム帝国には入らずの森は無いから、幻獣を手中に収めて兵器として利用しようという無知な発想が生まれるんだよ。
あの時、私は一旦帰国しようとしていたんだ。
でも、シンシアの魔力が感知出来なくなったから何かあったのではないかと帰国しようとしていたのを途中で引き返した時に、あの進軍に出くわした。
あの時、グレイグ国第一小隊と偶然一緒になったのは、小隊長の所には至急戻るように電報鳥が来ていたようで、あの道で偶然出会った時にツユミム帝国軍と鉢合わせしたんだ。
シアが来なかったら全滅していたかもしれない」
私が意識を無くした後は、ヘベリウスが私を守ってくれたらしい。
私がツユミム帝国軍を半壊状態にしたので、その後、ドミニクとフランクさん達は総攻撃を仕掛けて、なんとか勝利したようだ。
「レヴホーン副団長は拘束された。
あの男は、レヴホーン家の先代のバカ息子がメイドに手を出して産まれた子供らしい。
そのメイドは身籠った事がわかった時点で屋敷を追い出され、ツユミム帝国にたどり着いて貧民街で生活していたそうだ。
大きくなって復讐を誓い戻ってきた男は、レヴホーン家の先代伯爵を拘束し、地下牢に入れて、自分の血液鑑定を持って貴族院で次期伯爵として登録したらしい。
レヴホーン家の家計事情は、蓋を開けると破綻寸前で、騎士団から横領した資金で贅沢三昧をしていたようだ。
地下牢に閉じ込められていた父親にあたる先代伯爵は未婚で、子供は結局あの男しかいなかったそうだ。」
とドミニクは教えてくれた。
これを機に、セザールさんを含め、この国にいるツユミム帝国のスパイをどんどん摘発して行くそうだ。
第二王子の結婚の時もツユミム帝国から侵略を受けていたと聞いたから、ツユミム帝国って本当にしつこいのね。
「シンシアが意識を失った時、ユニコーンが『私はシンシアを守る者。お前たちが勝利した時には、もう一度シンシアと逢えるであろう。
それまでは安全な場所に連れて行く』と思念が聞こえた後、シンシアとユニコーンの姿が消えたんだ。
シンシアの切れそうな魔力がすごいスピードで移動しているのを感じたよ。
あの場所から一瞬で大使館まで来たようで、ユニコーンは魔力が無くなったシンシアをリーナに預けたんだ。
そして消えたらしい。」
ヘベリウスは私をここまで運んでくれたんだ。
私の首にはあの大きなサファイアのついたペンダントが下がっていた。
このペンダントは眠っている間もずっと首に下げていたようだ。
魔力切れで命も落としかねなかった私を救ったのはこのペンダントだとお医者様が言っていたそうだ。
だから外せなかったらしい。
「シンシアは、『シア』としてこの国で生活していたから、『シア』と『シンシア』が同一人物であるとはバレたくないだろう?
だから、『シア』はマリーナ嬢と共にセガールに追い詰められていたと言う事にしてある。
マリーナ嬢はどこかの教会で発見されたそうだから、『シア』も、ウィルコクス国ゆかりの教会で発見された事にしてある。
それでいい?」
とドミニクは聴いてくれた。
「ありがとうドミニク。私を尊重してくれて」
「どういたしまして」
ドミニクは笑顔で返事をした。




