ユニコーンに乗った女神
本日2回目の投稿です。
遠くに大都市が見える。
大都市の中に一際大きな教会が見えた。
「あれはザーランド大聖堂?ってことは、ここはグレイグ国の王都が見える小高い丘なの?
毎回この場所に出てくるの?」
と聞くと
『嫌。この地の危機だからここに来たまでだよ。』
ヘベリウスは優雅に丘を降りた。
丘の上から見ている分には気が付かなかったが、道幅は狭く、あまり通る人がいないのか整備されていなかった。
しかも道の両側は切り立った壁のようになっていて逃げ場がない。
そんな道のカーブを曲がると、100メートルくらい先に沢山の兵士の姿が見えた。
入らずの森への進軍の兵士にしては鎧が緑色で森に同化できる色だ。
私が見ているのは進軍している兵士の最後尾で周囲を警戒しながら歩いている。
あんなに警戒しているのに道の真ん中を歩いている私達には気づかない。
「なんで私達に気が付かないの?こんなにキラキラに光っているのに?」
聖地を出てもなお、ずっと光り続けているのに、誰も気づかない。
光すぎて人だと認識できないのかしら?
と疑問に思って聞くと
『私は今、姿を消している。
私が見えないということは私の上のシンシアも見えないという事だ。
ただし、私の上で剣を抜いたらシンシアと私の姿を誰もが認知できるようになろう』
とヘベリウスの声は聞こえた。
「ふーん。しかし、私達の目の前にいるこの軍隊はなんなのかしら?
グレイグ国の兵士は皆、黒い鎧だったはずだし。
もしかしてクーデター?」
『嫌。クーデターではない。この兵士達はツユミム帝国から来た。
入らずの森への侵入が失敗だったんだよ。
ツユミム帝国は結界を破壊して聖なる神殿を破壊しようとしたが失敗して、軍を用いて再度侵入しようとしているようだ。
聖なる神殿には魔道具があり、その中にはヒドラが封印されている。奴らの狙いはヒドラを封印している魔道具だな』
「入らずの森は、ウィルコクス国にもあるけど、もしかして封印された何かがいるの?」
とヘベリウスに聞くと
『世界中に点在する入らずの森は全てそうだ。
その入らずの森に封印されし魔物の中でもヒドラは厄介だ。なにせ他の封印されし幻獣と共鳴しやすいから。ヒドラの封印を解けば、いずれ他の幻獣の封印も解けよう。
そうすると、この地に生まれし沢山の生物にとって脅威となる。
私達にとって、この地から人類が築いた文明が消えることは何の痛手もないが、沢山の生物が生存の危機に晒されることは痛手だ。それは何としても避けたい』
「私にとっては文明が消えるのも避けたいわ!」
『ならばこの軍隊を壊滅させることが先決だな』
そうヘベリウスと話していると、軍隊の動きが止まった。
「誰も通らない道だから魔物が出たのかしら?
先頭に回り込んで」
ヘベリウスにお願いすると、ヘベリウスは丘の上に登り、隊列をなしているツユミム帝国軍を追い越すように並走した。
ヘベリウスに乗っているとゆっくり進んでいるように感じるが、実際はすごい速さで進んで先頭集団が見える位置に来た。
ツユミム帝国の先頭集団と向かい合っていたのは、第一騎士団第一小隊と先日の演習に参加していたウィルコクス国騎士団だった!
何故フランクさん率いる第一小隊と、ドミニク率いる我が国の精鋭部隊がここにいるの?
たかが数十人しかいないフランクさんとドミニクの部隊は、進軍してきたツユミム国の軍隊の前ではちっぽけに見えた。
ツユミム帝国軍の先頭に立つ数十人は馬に乗っており、甲冑をつけているせいで顔は見えない。
それに対してこちらの騎士や魔導士達は鎧を付けていないせいなのか、今にも負けそうに見える。
「ピーター・レヴホーン!お前、やっぱりスパイだっのか?」
フランクさんが言うと
《おっとり坊やと、顔だけ侯爵だ。
おっとり坊やのオンナは、冴えないメガネ娘とどこかに消えたよ。
今頃、地下迷路で迷子だ。野垂れ死ぬのも時間の問題じゃないのか?
お前達もすぐに後を追わせてやるよ》
とバカにしたように知らない言語で話している。
「お前の言葉はツユミム帝国の少数民族キール族の言葉だな。」
フランクさんはそう言うと、それに対してレヴホーン副団長の醸し出す空気が変わった。
《こいつらが邪魔だ。早く片付けろ》
とレヴホーン副団長は叫ぶと同時に、レヴホーン副団長の両サイドにいた10人くらいが氷をマシンガンのように撃ち込んできた。
フランクさんとドミニク達は咄嗟にシールドを張って防ぐが、相手の魔法騎士の人数は多いようで次々と攻撃されて防御に徹している。
このままではヤバい!
「ヘベリウス!あそこにいって!」
私は剣を鞘から抜きヘベリウスに命令した。
ヘベリウスはツユミム帝国の前に躍り出た。
「ヘベリウス!力を貸して!」
私が叫ぶと、
ヘベリウスが光の矢を雨のように降らせ
ヒヒン
と短く嘶いた。
ヘベリウスが大きく跳ねたので、光り輝く私のストロベリーブロンドの髪と、マントが風にはためいた。
「その魔力とその声は、シンシア?
何してるんだ!危ないから退け!」
ドミニクの声が聞こえた。
私はドミニクの声を無視をしてツユミム帝国の攻撃を結界で防ぐ。
そして聖剣に魔力を流しながら天に翳した。
その途端、炎の雷がツユミム帝国軍の中心に落ちた!
雷雲が立ち込めてきて、次々と雷が落ちる。
ツユミム帝国軍はシールドを張りながらこちらに反撃を仕掛けてくる。
色々な魔法を撃ち込んでくるが、全て結界で跳ね返した。
対してツユミム帝国のシールドは聖剣を通して放たれる雷には無力のようで、雷の攻撃はシールドを通り抜けてツユミム帝国軍にダメージを与えて行く。
グレイグ国騎士団の誰かが
「あれは『ユニコーンに乗った光り輝く女神!』!」
と叫んだ。
ついにグレイグ国騎士団と、ウィルコクス国騎士団が反撃を開始した。
ツユミム帝国軍の弱ったシールドに打撃を与え、直接攻撃を仕掛けて行く。
私は剣に魔力をどんどん剣に流すので、魔力が底をつきそうだ。
だんだん意識がなくなりそうになってきた。
ヤバい…。
「シンシア!」
ドミニクの声がした。
「ドミニク!私は大丈夫。攻撃を辞めないで!」
そう叫んだのが最後の記憶だ。