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鏡の中の自分の姿に驚く!


「ユニコーンが君を守ってくれてたんだね。

ユニコーンは幻の生き物なのに、まるで君の馬のようだね。

ユニコーン君、彼女を宿まで運んでくれるか?」


ブルルル


ユニコーンは返事をしてゆっくり立ち上がった。

私はユニコーンの背中に横座りに座って首にしがみついた。


ユニコーンは歩き出した。


まるでどこに向かうか知っているように、迷いなくユニコーンは歩いて行く。


その後ろを、男性が馬に乗ってついてきた。


ユニコーンは、私を気遣ってゆっくり歩く。

そのまましばらく歩いたら、森が開けて民家の裏庭に出た。民家の裏庭には、鶏小屋のゲージがあって、鶏が忙しなく動いていた。

その横にはかなり大きい厩舎がある。

民家の向こうには教会の小さな塔が見える。


やっと人が住んでる地域に来たんだ…。

私はホッとした。


それにしてもユニコーンはゆっくり歩いていたのに、しばらく経ってもフランクさんは来ない。

ユニコーンは自分の来た道の方を向いて待っているみたい。

私もそちらを向いて待っていた。


少し時間が経ってからフランクさんが馬を走らせて来た。


「ユニコーンって走るのが馬とは比べ物にならないくらい早いんだね。知らなかったよ!

私の馬である『アレグ号』は走らせたら向かうところ敵なしなのに。どんなに走らせてもユニコーンには追いつけなかった。

しかも、まるで道を知っているかのようにここまで迷いなく来たんだね」


漆黒の馬はゼイゼイしている。

ユニコーンはゆっくり歩いているだけのようだったのに!


フランクさんは宿屋の入り口に置いてある踏台を持って来てくれた。

「これを踏台にして降りて」

と言われたので、私はゆっくりユニコーンから降りた。


「厩舎に馬を預けるから待っていて」

とフランクさんは言って、鶏小屋の横の厩舎に入っていった。



フランクさんとアレグ号が見えなくなると、ユニコーンは私の方を向き、マントの内ポケットの中に鼻先を入れた。


私は突然の事に驚いていると、すぐにポケットから出て

ヒヒン

と短く鳴いてどこかに行ってしまった。


ユニコーンはすごいスピードで見えなくなってしまい、私は厩舎の前で立ち尽くした。


ユニコーンが鼻を入れたポケットに手を入れると、大きな物が手に当たった。

それをポケットから出すと、金細工を施した5センチくらいのサファイアがあしらわれたペンダントトップが無造作に革紐に括り付けてあるものだった。


何これ?宝石?まさか!こんな大きなサファイア見たことない。

多分ガラスでできたイミテーションジュエリーだろうけど、なんだか大切な物のような気がして、マントの内ポケットに縫い付けてあるアイテムボックスに入れた。



しばらくしてフランクさんは厩舎から出てきた。


「あれ?ユニコーンは?

もしかして森へ戻ったのかな?

ユニコーンを生まれて初めて見たけど、気高い生き物だった。

また会えるといいね。」


とフランクさんは言って中に入るように私を促した。


中に入ると、フランクさんは宿屋の店主にグレイグ国語で何か言っていた。

複数の言語を習ったけど、グレイグ国語はあまり熱心に勉強はしなかった。

ベルーガ領は観光産業が中心で、国内外から沢山の観光客が来るけど、グレイグ国からはあまり来ないから…。



しばらくすると、快活な雰囲気の体の大きな女性が私に近づいてきた。

多分この宿の女将さんよね。


グレイグ語だから何を言っているかはわからないけど、私に何か優しく語りかけ、目に涙を浮かべて抱きしめてくれた。

そして、ゆっくりとしたキルコフ語で


「大変だったね。もう大丈夫だよ。一人で心細かったね」

と言ってくれた。


そして、私をバスルームに案内してくれた。




そこで鏡を見てびっくりした。


フードを被った私は、マントや顔に所々泥がついており、フードからはみ出た髪は焦げてちぢれて、しかも、泣いたせいでマスカラが取れて目の周りが真っ黒になっていた。

泥だらけになったマントを隠すかのように騎士服を上から羽織っている姿はなんともみすぼらしかった。



そんな自分を鏡越しに見て、叫んだけど、やっぱり声が出なかった。

女将さんは、私の背中を優しく撫でてくれて

「新しい服はここに置いておくよ。」

とだけ言うと、バスルームから出て行った。



泥だらけだった体や髪を綺麗にしているうちに気持ちが冷静になってきた。

マントのフードに入りきらなかった長い髪は、転んだ時に泥がついて、しかも火の粉で焦げてちぢれて、見るも無惨になっていた。

それを綺麗に洗ってから風魔法で乾かした。



それから女将さんの出してくれた服を着た。


服は多分、女将さんの若い頃のものだと思うけど、厚手の生地で、濃いグリーンにオレンジやイエローの小花が沢山描かれているクラシカルなデザインの可愛いものだった。

そして、服と一緒に準備してくれてあった頑丈そうな皮のブーツを履いてから改めて鏡を見た。


茶色の髪にクラシカルなデザインの服を着たノーメイクの自分はまるで別人だ。 

鏡で自分を確認してからバスルームを出た。



女将さんが私の服を見て、嬉しそうに

「古い服ではあるけど、私のお気に入りだったのよ。

すごく似合うわ。でも、貴女は細いから少し大きいわね」

と言ってくれた。



この服のスカート丈やウエスト位置を調節して…ハイヒールの色は…。

って、もうファッションアイコンなんて言われたくないのに、すぐそんな事考えてしまう。

私はそんな自分の事を笑った。


私の笑顔を見て、女将さんは安心した表情をした。

するとフランクさんが来て、

「少しは落ち着いた?」

と聞いてくれた。


私は頷くと、フランクさんは笑顔で

「よかった。

森で君を見つけた時はどうなるかと思ったけど、安心したよ。とりあえず、焦げた髪を綺麗にしよう。

もう女将さんが床屋にお願いしてあるから心配しなくていいよ」


と言われて私は頷いた。

「じゃあ、床屋は数軒先だから行こうか?」

と言ってくれて、玄関先にかけてあった厚手のコートを手渡ししてくれた。


私はコートに袖を通した。

このコートも多分、女将さんの若い頃のものなのだろう。軽くて着心地がいい。


その様子を横で聞いていた女将さんはフランクさんに何かを言った。

フランクさんは少し困ったように笑うと、女将さんはフランクさんに向かって軽く怒って何か言い、私の方を向いて笑顔で笑いかけてくれて、

「女の子を褒めることを知らない、ダメな子だよ。

こんな可愛い子を前にして何にも言わないなんてねえ。

領主様になっても相変わらず気がきかないね」

と言いながら、玄関まで見送ってくれた。



私はフランクさんの歩く方について行った。



宿屋から出ると、そこはこの小さな街のメインストリートのようでいくつものお店が並んでいた。

街並みは煉瓦作りで統一されていて可愛い街並みで、ちょっと心が躍る。



フランクさんは私の声が出ない事を気にする様子はなく

「ウィルコクス人の君と、グレイグ人の僕が、キルコフ語で会話をするって変だよね」

と言われた。


私も変だと思っていたから笑いながら頷いた。


「やっぱり?君も変な感じがするよね。でも、残念ながら私はウィルコクス語に自信がないんだ。

あっ!多分、ウィルコクス国を話せる人に宛があるからもう少しコミュニケーションが楽になるかもしれない」

とフランクさんは言った。


そんな話を聞いているうちに、数軒先の床屋さんについた。

看板にはハサミの絵と、グレイグ語で多分『床屋』と書いてあるんだと思う。


中に入ると、2脚だけ椅子があり、入り口に髪をお団子に結んだ細身の女性がいた。

女性はコートを脱ぐのを手伝ってくれた後、椅子に案内してくれてケープをかけられた。


女性は

「はじめまして。

私はこの床屋の店主のジョディ。

私のキルコフ語合ってる?

髪の毛を切らせてもらうわね。焦げた所だけを切るとアンバランスになるから短く切り揃えてみない?」

と言われて、


「切ってもいい?」

ともう一度聞かれたので私は頷いた。




しばらくして、ショートボブに切り揃えてもらって鏡を見せてもらった。

ウィルコクス国の貴族社会での美人の基準の一つに艶やかな長い髪というのが含まれていたから、必然的に髪を伸ばしていたけど。

短いのも悪く無いわ。


「ついでにメイクもしていいかしら?ノーメイクは嫌よね?」

と言いながら、私の返事を聞かずにメイクをしてくれた。


今まで私がしていた濃いメイクと違って簡単なファンデーションとチークにリップ。

すごくナチュラルメイクに仕上げてくれた。



ショートボブにナチュラルメイクの私はまるで別人。

沈んだ気持ちが少し戻った。



髪を切った私は今までとは違う外見になった事に満足してご機嫌で宿屋に向かって歩き出した。 


宿屋に戻ると、満面の笑みの女将さんがいた。

女将さんは嬉しそうな顔で、

「可愛いよ」

とキルコフ語で言ってくれた。


「うん、よく似合ってるよ。」

とフランクさんも言ってくれた。


「今日はこの宿に空室がないから、領主館に行こう。

領主館には連絡してあるから、もう馬車が来ている」

とフランクさんは言った。


すると女将さんが

「これは、貴女が着ていた服と靴だよ。

もうクリーニングは済んでいるから返しておくね。

また遊びにおいで」

とゆっくりしたキルコフ語で言って荷物を渡してくれた。


そして外まで出て、私が馬車に乗るのを見届けてくれて手を振って見送ってくれた。

フランクさんはアレグ号に乗って馬車の横に来ると、「それでは領主館に向かうね」

と言って馬車の前を走っていった。


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