メゾンから出た後で
メゾンを出て、ドミニクと並んで歩く。
ドミニクには手信号だけで言いたい事が伝わるから一緒にいても気楽だ。
ドミニクの軽口に手信号で答えながら歩いていくと、一軒の食堂についた。
中には、沢山の人が食事をしていてすごく賑やかだ。
バザールなどとは違い、活気があって凄いけど、入る勇気はない。
入り口で立ち止まると
「シア、早く入ろう!」
と促されて中に入った。
中は所狭しとテーブルと椅子が置かれていて、通る隙間もないくらい人で溢れかえっていた。
ドミニクは慣れた様子で奥の空いている椅子に腰掛けて、私にも向かいに座るように促した。
注文を聞きに来た店員さんにランチを2つ注文すると、ドミニクは他愛のない話を始めた。
でも、ドミニクは話の内容とは関係ない手信号を送ってきた。
『現状維持』これは、何もするなという合図。
帽子を取ろうとしたら合図が来た。なんでだろう?
ドミニクは、何かを警戒しているようだ。
…ゴシップ誌の記者でもいるのかな?
ランチを食べ終えると、ドミニクはお金を払ってくれて外に出た。
外に出るとドミニクは恋人のように寄り添って来た!
離れようとすると、小さな声の古代語で
『あの店は一人で行くなよ。私がマークしている人物が変装をして紛れていたからな。
それから、何かを見たり聞いたりしてもわからないフリをしろ。
シアのブレスレットは翻訳の魔道具だろ?だから、下手をしたら狙われる。
何故、ブレスレットの事を知っているかって?
そりゃ、さっきノースリーブのドレスを着た時に見たからだ。
絶対に、そのブレスレットは隠し通せよ。
特に、騎士団の中ではな』
知らない人が見たら恋人同士のように見える雰囲気で私に囁いてから、ドミニクはニコニコと笑っているけど何かを考え込んでいた。
その後、もう一度メゾンに戻ってから朝着てきた服に着替えて、シラウト侯爵邸に送ってもらった。
シラウト侯爵邸には、メゾンから沢山の服が届いていた。
「おかえりなさいませ、シア様。エッゴールド大使からのプレゼントですか?
お花まで添えてありますよ?」
沢山の服をプレゼントされると思っていなかった私は驚いていると、その様子を見たリサさんとティナさんは騒いでいた。
「さすが女性の心を掴む方法を知ってるわね!」
「ええ!フランク様に見習って欲しいですわ」
「本当ね。強敵が現れたわよ」
と二人で色めきだっていた。
その日の夜、久しぶりにフランクさんがシラウト侯爵邸に戻ってきた。
「今日は巡回中にシアに似た雰囲気の人を見かけたんだけど…」
とフランクさんが言った。
うそ!見られていたかな?
フランクさんには誤解されたくない…。
「定食屋さんから猫背の男性と出てきて、仲睦まじく歩いているのを見たよ」
それ私だ…。
見られたくないところを見られてしまったかも…。
「それ、シア様ではありませんわ。
今日、エッゴールド大使とシア様はショッピングに向かわれました。
迎えに来たエッゴールド大使にお会いしましたけど、背筋の伸びた儚げな雰囲気の大変素敵な方でしたよ。
エッゴールト大使って素敵な方ですわね。この入り口のお洋服の数々はエッゴールト大使からシア様への贈り物ですよ」
とティアさんが言った。
「ふーん。見間違えか」
フランクさんは納得していない様子だったけどそれ以上何も言わなかった。
ドミニクとの事は誤解されたくない。
なんで誤解されたくないかは私にもわからないけど…。