声が出ない!
本日2回目の投稿となります。
ここはどこなんだろう?
そこで今日の記憶を思い返した…。
そうだ。家を飛び出した私は馬にもたれかかって、そこで記憶を無くしたんだ。
馬は洗濯物のように背中に引っかかった私を森の中に連れてきたみたい。
日陰のせいなのか、寒い。
そこへ森を吹き抜ける風が吹いて木の葉を揺らした。
着ていたマントが風にはためく。
寒い!
寒さを凌げる場所を探そうと、マントの隙間から風が入らないようにマントをピッタリと体に巻きつけて、私は歩き出した。
日の当たる木の下が一番暖かいかもしれない。
ちょうどよさそうな場所が見えた。
暖かそうな場所を目指してゆるい上り坂を歩いていて、足元を見ていなかった。
そのせいで少しぬかるんでいたところにハイヒールの踵をとられて転んでしまった。
その拍子に顔に泥がついて、マントがはだけて服や髪にまで泥がついてしまった。
手をついた場所はぬかるんでいなかったので、私は立ち上がると乾いた手で顔についた泥を拭った。
そして足元を見ながら歩いた。
日の当たる木の下にたどり着くと、もう一度マントをきつく体に巻きつけて木に寄りかかるようにして体を縮こめて座った。
しばらく座っていたけど体はどんどん冷えていく。
特につま先や、指先が寒い!
こんなに寒い経験はないから、試しに護身術として習った結界を張ってみた。
…寒さは改善しない。
そうだ!火魔法を使ってみよう。
掌の上で炎を出してみた。
私は火魔法が得意ではないから弱い小さな火しか出ない。
これじゃ全く暖かくない。
この火をずっと維持するには…何かに火をつければいいんじゃないかしら?
足元にある数本の枯れ木が目に入った。
それをひとまとめにして枯れ木に火をつけようとしてみた。
でもなかなか火がつかない。
「なんで?」
私は炎の火力を上げていく。
「簡単に火が着くと思ってたのに」
私は独り言を言うと、どんどん魔法の炎を大きくしていった。小さな火にどんどん魔力を送り込んだせいで急激に大きな炎になり、火をつけようとしていた枝からカタカタと激しく音がした。
バチバチ
と火がついたばかりの木が爆ぜた!
その火の粉で焦げた嫌な匂いがした。
胸元を見ると、マントから出ていた髪の毛が火の粉で焦げてチリチリになっていた。
「もう!」
私は泣きそうになって一旦、魔力を止めた。
冷静になろう。
自分を落ち着かせて、爆ぜた木を見た。
魔力のせいで、木の幹が爆発したように粉々に割れて、破片に火がついて燃えていた。
どうすれば焚き火になるのか…。
そうだ!秋になると庭師が落ち葉を集めて燃やしているのを見た。
落ち葉なら火を維持できるかも。
もう歩きたくなかった私は風魔法を使うことにした。
既に消えそうになっている割れた木の破片の周りに落ち葉を集めて、もう一度火魔法をかけた。
炎は落ち葉に燃え移り、煙を上げながらゆっくりと燃え出した。
そこに枯れ枝をくべる。
枯れ枝はゆっくりと燃え出した。
火のそばに来ると暖かい。
すると、枯れ枝を踏む音を立てながら、向かい側から白い馬が歩いてきた。
口には枯れ木を咥えている。
その馬は私が転んだ泥濘みを避けるようにこちらに向かってきた。
そして私の横に来ると私に枯れ木を差し出してきた。
私は枯れ木を受け取った。
『この木も火にくべろ』、とでも言っているように馬は火の方を向いた。
私は馬をじっと見た、
馬は真っ白な綺麗な毛並みで額には立派な角が生えている。
ユニコーンだ!
ユニコーンは、私が枯れ木を火にくべたのを確認すると、また森の方へ向かって歩いていった。
「どこいくの?私をここまで連れてきたのは貴方なの?」
私の質問にユニコーンは振り返って、
ブルルル
と鳴いた。それからまた森に入っていった。
森に入っていったユニコーンは、次に戻ってきた時、口に大きなリンゴのような果実を2つ咥えて戻ってきた。
そして、私の前に来ると、私の目を見て右耳をフルフルと振った。
「くれるの?」
と聞くと、ユニコーンは頷いた。
私は両手を出すと、ユニコーンはそこに赤い実を一つ落とした。
そしてユニコーンは残りの一つを目の前で食べた。
『毒がないよ』と教えてくれるように。
「ねぇ、この森に私を連れてきたのはあなたなの?
ここはどこ?なんでこんなに寒いの?」
馬は何も答えずに、長い尻尾を左右に振った。そして火のそばに腰掛けた。
私は馬をじっと見た。
美しい毛並みの白い馬の額には立派な角が生えている。
ユニコーンは私にじっと見られている事を気にする様子もなく、私の袖を噛むと、私を背中に回らせた。
「座っていいの?」
ブルルル
ユニコーンは返事をした。
私はユニコーンの背中に座ると暖を取るために馬の首に腕を回して馬の背に横座りになるようにして座って寄りかかった。
私は火を眺めながらゆっくりと赤い実を食べた。
甘酸っぱいその果実は、リンゴのような洋梨のような食感で瑞々しくて美味しかった。
それからしばらくユニコーンに寄りかかって火を眺めていた。
なんだか悲しくて涙が溢れてきて一人で泣いていた。
その時、遠くから馬を走らせる音が聞こえ、だんだんとこちらへ近づいてきた。
近くの木の枝が揺れて、漆黒の馬に乗った男性が現れた。
「ユニコーン!」
男性はそう言った後、馬を降りた。
そして何かを捲し立てたが言葉は聞き取れない。
男性は怒っているみたい。
私はその様子を見ていて心細さが増してきた。
何を言っているかわからないし怒鳴っている…。
ここがどこかもわからない。
また涙が溢れてきて、ユニコーンの首にギュッとつかまった。
するとユニコーンは男性の方に顔を向けて
威嚇するように
ヒヒーン
と鳴いた。
男性は突然の事にビックリしたようで黙った。
男性の馬は
ブルルル
と小さく鳴いた。
しばらく沈黙があった。
「ここは…どこなの?」
私は聞こうとしたが声が出ない!
「あ…あ…」と言いたいのに、ヒューヒューという音だけが出て、全く声が出ない。
何故?ついさっきまでユニコーンに向かって話しかけていたのに?
私はパニックになりかけた。
そんな私に向かって男性は何か言ったが、早口でわからなかった。
そこで私は、枯れ枝を使って地面に『ここはどこ?』と書いた。
男性はびっくりした顔をして、ゆっくりとした口調で
「君はウィルコクス国から来たのか?ここはグレイグ国だ。
君はその服装でどうやってウィルコクス国から来た?
…私のウィルコクス語は合っている?」
グレイグ国???
グレイグ国は私が住んでいるウィルコクス国から、隣国であるキルコフ公国を抜けないと行けない、国境は一切接していない国?
多分、ユニコーンに運ばれてここまで来たのね。
でも話せないから何も言えない…。
「君は身分を証明する物を持ってる?」
とゆっくりとしたウィルコクス国で聞かれた。
そう聞かれてマントのポケットを探った。ポケットにはウィルコクス国のお金しか入っていない…。
今の私は転んで泥だらけ、髪の毛は焦がしてしまってボロボロ。
その上、声が出なくて、持っているのはこの国では使えないウィルコクス国のお金…。
そのお金をポケットから出しながら、なんだか悲しくなってまた涙が出てきた。
嗚咽すら出ずに、音もなく泣き喚いた。
『なんでこんな目に合わなきゃ行けないのよ…。
今まで私は頑張ってきたのに…。なのにこれはあんまりじゃない!』
そう言っているのに、ヒューヒューという音だけがした。
泣きじゃくる私のそばに男性は黙っていてくれた。
私が少し落ち着くと、
自分の上着を脱いで私に着せてくれた。
少し落ち着いた私は、地面に
『グレイグ語はわからないけど、キルコフ語ならわかる』
とキルコフ語で書いた。
男性はウィルコクス語はあまり話せないようだし、私もグレイグ語はわからない…。
「そっか。ウィルコクス国とグレイグ国の間にあるのがキルコフ公国だからね。今からそうさせてもらうよ」
と男性はキルコフ語で流暢に言うと、
「言い辛い事だけど…君はウィルコクス国で綺麗な服を着せられてお金を渡されて、さらに眠らされた上にこの森に捨てられたんだね。
そのマントは明らかに庶民の物なのに、洋服はシルクだ。
多分、なんらかの事件に巻き込まれたんだよ。
何があったか覚えてる?」
私は首を振った。
「もしかしたら、何か薬を飲まされて記憶を消されているのかも知れないね」
そうなのかな?
ただ、ユニコーンにここに連れてこられただけだと思う。
現に服や靴やマントは家を飛び出してきた時のままだし、お金だってそのままだ。
しかし男性は、『庶民の女の子が綺麗な服を着せられて騙された結果』だと思っているようだ。
確かに、どこの国の貴族も、自分でお金を持って買い物なんか行かないから当然の誤解と言えば当然か…。
騙されたわけではないと、誤解を解こうと地面に文字を書こうとするが男性は、
「大変な目にあったのに無理に思い出さなくていいよ。
この火は消すよ。森の中の火は危険だ。山火事になるといけない」
そう言って火を消した。
「私の名前はフランク。グレイグ国の第一騎士団員で、ここユールサイト子爵領の領主をしている。
この近くに宿がある。とりあえずそこに行こう。
大丈夫。心配いらないよ。」
男性は優しく笑った。
その時に初めてちゃんと男性の顔を見た。
口元は髭で覆われていだけど、ダークブラウンの癖毛の髪は少し長く、目元にかかってはいたけど見たこともない蒼とも碧ともつかない瞳が優しい眼差しでこちらを見ていた。