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お嬢様方は欲望に忠実

そういえばドミニクは何しに騎士団に来ていたんだろう?

教えてはくれなかったという事はきっと重要案件なのかな?


その答えは数日後にやってきた。



この日、演習場の一般見学ができる日で朝から忙しかった。

今回はガードナー国と、ウィルコクス国と、グレイグ国の合同演習で、ガードナー国とウィルコクス国からはそれぞれの国の騎士団が参加する。


私が所属する総務はお手伝いする事は何もない。

唯一、部外者が建物内に侵入しないようにと結界を張るだけである。

そして結界を張った建物の3階の窓から外を眺める。


演習場横の有料観覧ゾーンの芝生にはお嬢様達がひしめき合っていた。

ソファーを持ち込み、そこににクッションを敷き詰めて膝掛けをして座り、騎士団員に声援を送っているお嬢様方が多数。

もちろん、後ろには執事が控えており、紅茶や焼き菓子などを楽しみながら優雅に振る舞っている。


お嬢様達がいる有料席とは別に、無料の場所があり、そちらは平民の女の子達や家族連れで賑わっていた。


そして騎士団がよく見える場所には来賓席が設けられており、やってきたのはドミニクと、クリストファー第二王子と、ガードナー国大使夫妻が座った。


お嬢様方の

「ドミニク様〜!」

という歓声が聞こえてくる。


どうもドミニクは人気なようだ。

確かに見た目はいい。



クリストファー第二王子は見目麗しいのにお嬢様方の熱狂的な歓声はなかった。

ガードナー国大使は歓声というより拍手が多かった。

やっぱり、独身の見目麗しい男性が人気らしい。



騎士団の演習が始まった。

各騎士団対抗の模擬戦や個人戦などがある。

総務課の職員は皆、窓際に椅子を置いて模擬戦を眺める。

ちょうど、この庁舎の入り口も見えるので不審者が入ってこないかの確認も兼ねている。

…とは言っても、総務課の職員は私とティナさんの妹のキャロルさん、私より年下のマリーナちゃん、そして軍部総務課から移動でやってきた少し足の悪いセザールさんと言う30代くらいの男性と、ガスパルさんというお爺ちゃんの5人だ。


不審者が来たら誰が戦うのだろう?

結界を張ったガスパルさんかな?

と疑問に思っているとガスパルさんが

「今年も懲りずにやってきた。」

と言ったので、指差す方を見た。


デビュタントを終えてすぐくらいの年齢の着飾ったお嬢様が数名、こちらに向かって歩いてくる。


「今日は演習場からここまでの道が封鎖されているの。にもかかわらず、封鎖された道を突破するために魔道具を装着してここまで来るお嬢様が毎回必ずいるのよ。

『庁舎に入れたら好きな騎士とお見合いができる』って噂があってね…。

なんでそんな噂が広まったのかはわからないけど、そんな事実はありませんと公表しても侵入を試みるお嬢様が沢山いるのよ。

そのお嬢様方の侵入を防ぐのが私達の役目よ」

とキャロルさんは苦笑いした。


「相手は貴族令嬢だから、怪我をせずに帰れるか中から見ているんだよ。

この建物を覆っているのは幻覚が見える結界だ。

ほら、お嬢様達が混乱している。

演習場からは綺麗な庁舎に見えるけど、目の前で見ると朽ち果てたゴーストが出そうな建物に見えるんだよ。

さらに近づくと、結界の中をゴーストが彷徨いているように見えるんだ。

お嬢様には恐怖だと思うよ」

とセザールさんが言った。


案の定、お嬢様方は悲鳴をあげて逃げ帰って行った。

しかも次から次へとやって来る。

…もしかして、わざわざ弱い魔法でここまでの道を封鎖してあるのかな?



すると次は取り巻きを連れたご令嬢が近づいてきた。



「フィオナ・フリト侯爵令嬢だ。年に3回ある演習の開放日には必ずここまで侵入して来るんだよ。

いつも何かしらをやらかしてゴシップ誌を賑わせてるよ。

今回は何をするつもりかな?」

とセザールさんとガスパルさんは笑いながら見ていたら、フリト侯爵令嬢は地中から潜入しようと試みているようで、お取り巻きのご令嬢達と共に魔道具で地下に潜ろうとしているようだ。


「甘いなぁ。ここは国の機関だよ?

あの娘は本当に懲りないなぁ。地下も地中も空中も簡単に侵入できるわけないのに。」

とガスパルさんは、楽しそうに笑いながら言った。


「ほら!皆んなで力を合わせればできるわ!」

とフリト公爵令嬢は地面に向かって魔道具を向けている。

他のご令嬢達も同じように地面に向かって魔道具を向けていた。

「穴が空きそうよ!」

と声がした瞬間。


バシャッ


と音がして、フリト侯爵令嬢とその取り巻きのご令嬢が頭から泥を被っていた。

魔道具で穴を掘ろうとしていたようだけど、穴は掘れずに土が液状化して泥の水溜りが出来上がり、その泥が結界まで達したので弾き返されたようだ。


ご令嬢達は一生懸命魔法で元の綺麗な姿に戻ろうとしているけど、泥はこびりついて綺麗にならない。


と、そこに騎士団の見習いをしている10代前半の子供達が通りかかった。


「うわっ!泥の塊。なんでこんなところに人間の大きさの泥の塊が4つもあるわけ?

しかも臭い…」


「これっていつものごとく侵入を試みた馬鹿なご令嬢じゃないよな?」


「まさか?だとしたら大変だよ。

この泥、多分一週間は臭いが取れないぞ?」


と口々に子供達がいいながら、その場を離れると、ひとりのお嬢様が泣き出した。

「フィオナ様ぁ。どうしましょう?臭い、取れないって」

と言うと


「フリト侯爵家お抱えの魔術師を呼ぶ緊急魔道具を動かしましたから、きっと綺麗にしてもらえますし臭いも取れますわ!」

とツンとした声で言った。


しばらくすると魔導士がやってきて、4人を元の姿に戻したが

「臭いは一週間取れませんから、他の方にで会わない出口から出ましょう」

と言われてお嬢様方はガッカリしていたけど、フィオナ・フリト侯爵令嬢は


「次こそは中に入ってみせるわ!」

と言いながら悔しそうに帰っていった。


それを見ていたマリーナちゃんはクスクス笑って

「あの方々も懲りないですね。

あれだけ欲望に忠実なのはむしろ尊敬に値しますよ。

フィオナ様は、皇太子殿下狙いだと噂で聞いたんですけど…最近ではレヴホーン副団長狙いみたいですね」

と言っていた。


確かに、このご令嬢、嫌味なご令嬢だけど常に自分の欲望に正直でどうにかして目標を達成しようとしてくる心意気は凄いわ!

ある意味では尊敬に値する。ちょっと友達になってみたいかも。


私とマリーナちゃんは窓から演習場を見ながら、次々にやってくるお嬢様方の失態を眺めて、楽しんでいた。


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