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王都に来ても働く事になってしまった私はワーカーホリック?

1時間後、長距離専用馬車に乗った。

その時フランクさんから


「この馬車は特に揺れるから酔い止め(ポーション)を飲んだ方が良いよ。」

と言われて、カプセル型のポーションを貰い、すぐに飲んだ。

長距離専用馬車は何回乗っても酔う…。



動き出すと、酔い止め(ポーション)を飲んでいても気持ち悪くなって私は目を閉じてじっとしていた。



「もうすぐ到着です」

とトーマスさんに言われて目を開けると、周り景色が一変していた。

広い石畳の道は、沢山の馬車が走っていた。

大きな建物がいくつも並ぶ所を通り過ぎて、高級住宅街に入ると、その中でも一際大きい建物の前に停まった。


子爵邸とは思えない立派な建物だ。


馬車を降りると、ユールサイト子爵領とは違い、そんなに寒く無い事に気がついた。

ウィルコクス国よりも少し寒いくらいかな。


出迎えてくれたのは、小さな子供を抱いたフランクさんにどことなく似た女性だった。


「フランク!新年おめでとう!領地はどうだった?」

と女性は言うと

「姉上、おめでとうございます。領地は変わりなく平穏です」

とフランクさんは返事をした。


「シア。こちらは、私の姉のリサ・シラウト侯爵夫人だ。私は普段、寄宿舎にいるが、休みの日は侯爵邸に住まわせてもらっている。

姉上、こちらがシアだ。」


「貴方がシア嬢?『シア』って呼んでいい?

貴方、フィオナ・フリト侯爵令嬢にギャフンと言わせた子ね?

たまたまあのパーティーに行っていた友人から貴方の噂を聞いたのよ。

フフフ。会えるのを楽しみにしていたわ。

私のドレスで恥をかかせてごめんなさい。そもそも弟がこんなに可愛いお嬢さんにドレスの一つも贈らないから悪いのよ。

本当に気の利かない弟でごめんなさい。」

と言って優しく笑いかけてくれた。



うちの引きこもりのお姉様と大違い。

うちのお姉様は、私の顔を見ると飛び上がって逃げてしまう。でも文句を言う時は強気で本当に厄介。



「ところで…。私、あなたに似た人を知っている気がするんだけど…。

うーん。うーん。思い出せないわ。

気のせいだったかしら?」

と言った後に、


「そうだわ!まずお部屋に案内しなくちゃ。フランクの部屋は2階の東側なんだけど、シアの部屋は3階の南側よ。ここが一番、暖かいの。

シアはウィルコクス国から来たって聞いたから、寒いの苦手でしょ?」


そうして部屋に案内してもらった。

この日は、長距離専用馬車で疲れてしまってディナーの後はすぐに寝てしまった。



次の日、朝起きるとすでにフランクさんはいなかった。


するとリサ様が

「フランクは夜中に連絡があって出かけてしまったの。

あの子、忙しいと食事をするのすら忘れてしまうから、騎士団に差し入れを届けてくれないかしら?」

と言われた。


私は笑顔で頷いた。




リサ様は小さなバスケットを手渡ししてくれた。そして

「これは沢山の食事が入るアイテムボックスよ。

中には沢山のサンドイッチが入っているから、騎士団の方々にもお渡ししてね。

ただ、私とフランクが姉弟なのは公にしていないから、話さないでね」

と言われた。


複雑な家庭環境なのかな?

よくある話よね。どちらかが正妻のお子様ではないとか、養子に出した事を内緒にしたいとか。理由は様々だけど。


「騎士団の庁舎へはティナが同行してくれるわ」

と言われて、ティナさんと一緒に騎士団庁舎に行く事になった。


「騎士団は結婚適齢期のお嬢様達があの手この手で侵入しようとしてくるから鉄壁の守りなんです。

入館証を見せても入れないくらい厳しいんですよ」

とティナさんは笑っていた。



騎士団の庁舎前に着くと、厳重な警備になっていた。

庁舎入り口には検問があり、50歳を超えたくらいの軍人風の男性が立っていた。


そこに、馬車を降りたティナさんと2人で検問所に向かう。

「入館証はありますか?」

男性がぶっきらぼうに聞くと、ティナさんは、入館証を出した。

男性は入館証を見て、検問所に戻ると誰かに連絡したようだった。


ティナさんは普通にしていたが、そこに庁舎から1人の女性が出てきて

「姉さん、迎えに来たわ」

と言った。


そこにはティナさんそっくりの女性がいた!



「はじめまして。私は、騎士団の総務を担当しているキャロルです。」


キャロルさんはティナさんの妹で、ティナさんはフランクさんに差し入れを持ってきた事を説明して中に入れてもらった。



フランクさんが来るまでは、キャロルさんの所属する総務課で待たせてもらう事にしたのだけど、キャロルさんの所には次々と書類が運ばれてくる。


「姉さん、待っている間だけでいいから書類を確認してくれない?

計算が間違っている書類や、明らかにおかしい領収証だけでも弾いてくれるとありがたいんだけど…」


総務課は明らかに人手不足だった。その証拠に、空いた机の上には『未処理』と書かれた箱が沢山積んである。


「騎士団に入ってくる女の子はことごとく、問題を起こして退職しちゃうのよ。

こないだも3人辞めたわ。

1人目の伯爵令嬢は騎士団の宿舎に夜這いを仕掛け。

2人目の侯爵令嬢は食堂のランチのスープの鍋に惚れ薬を混入し。

そして3人目の子爵令嬢は、魔物討伐の激励会に、一糸纏わない姿で現れたのよ!

しかも締まりのないワガママボデイを晒して…。その激励会は阿鼻叫喚の恐怖の会と化したわ…。

なら男性を採用しようとしても人が集まらないのよ。騎士団員ってみんな容姿端麗だから、並みの男じゃ横に立てないからよね…。

男性の応募はゼロよ」


とキャロルさんは愚痴を言いながらすごいスピードで書類を処理していく。


「ここにいる間だけよ?」

そういうとティナさんは書類チェックを始めた。


私も、ベルーガ領の資金繰りを何年も考えてきたんだから、役に立てるかもしれない。

私は、沢山積まれている『未処理』と書かれた箱を一つ取ると、中を開けた。


中には、先月の請求書が入っていた。




30分後、ノックの音でハッと我に返った。

「来客があると言われたんだが…」

と、フランクさんが入ってきた。


「シア、何してるの?もしかして手伝ってくれていた?」


私の開けた箱は、先月の魔物討伐で遠征した第六騎士団の請求書だった。

いつも持ち歩いているメモ帳に、疑問点を書いて、種目別に仕分けをしてあった。


それを見たキャロルさんが

「すごい!シアちゃんは、シラウト侯爵家に滞在しているのよね?

しばらくでいいから手伝ってくれないかしら?」


侯爵邸でやる事なくフラフラしているのは性に合わないので、受けたい…けど、私はこの国の人間ではない。

その事を伝えると


「騎士団から滞在証を発行してもらうわ。

ここの総務にいても、国家機密なんて扱わないから、多分簡単に滞在証は発行されるわよ。

ここは慢性的な人手不足だから即戦力はありがたいわ」

とキャロルさんは答えた。



ウィルコクス国でずっと忙しくしていたせいなのか、グレイグ国に来てからもじっとしていられない自分がいる事に気付いた。


…もしかして私、ワーカーホリックなの?

知らなかった…。



サンドイッチを渡す前に、キャロルさんとフランクさんに付き添われて事務局に来た。

そしてフランクさんが身元保証人になって滞在証と、就労許可証、そして入館証が発行された。


それと一緒に、事務局員の制服を渡された。



「ここまで、しといてなんなんだけど…。

言ってなかった事があるの」

キャロルさんは申し訳なさそうに


「ここに勤める若いお嬢さんは、騎士団との結婚を虎視眈々と狙うお嬢様方から嫌がらせを受けるから、目立たない格好で出入りした方がいいわ。

私のようにオバサンは全く狙われないのよ…」

なんだ、そんな事。


私は全く気にしない事を伝えて、明日から通う事になった。


「そういえば、シアが来たのは差し入れを持ってきてくれたからと聞いたけど?」

とフランクさんが言った。


私とティナさんは慌てて総務課に戻ると、バスケット型のアイテムボックスを手渡した。


「ありがとう!明日から、魔物討伐の遠征だから数日留守にするよ」

と言われた。



「騎士団が忙しいと総務も忙しいのよ。本当にシアちゃんは救世主だわ!

明日からお願いね」

と言われて、ティナさんとシラウト侯爵邸に戻った。


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