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未来を占うケーキ

数日後、葡萄の収穫が最後の日だった。

収穫が早く終わって、みんなで、いいワインができるように祈って乾杯をした。


その後、一人一人にフランクさんからお給料が渡された。

フランクさんは一人一人の名前を呼んで、これからもよろしくと話していた。


「最後に、シア。収穫を手伝ってくれてありがとう。少ないけどシアのお給料だよ」

と言って、私にもお給料袋をくれた。

身元が確認できない私を置いてくれているのに、辞退しようとしたけど、フランクさんは笑って

「仕事をした分は受け取ってほしい」

と言ってくれた。



みんなは口々に来年の目標や、ワイナリーの未来について語っていた。



なんて楽しい日々なんだろう。

ここにずっといたいけど、そういうわけにはいかない。

現実を見なきゃ。

私はウィルコクス国に戻ることを考えるのよ。

何とかしてウィルコクス国に戻って、お爺様の財産を受け取って、ドレスのメゾンを作る!

それが目標。忘れてはいけない。


…ここに居るとフランクさん達に甘えてしまうし…。

早く帰る方法を考えよう…。



楽しそうに飲んでいるみんなの輪からそっと抜けて廊下に出ると、窓から外を見ながらどうやってウィルコクス国に帰るかを考えていた。


この場所に私の未来はない…。

その現実に少し悲しくなっていると、


「シア、こんな所にいたのか?」

フランクさんが近付いて来た。

私の横に立って一緒に外を見た。


「どう?楽しいでしょ?」

私はフランクさんを見た。

すると、フランクさんも真っ直ぐ私を見ていた。


「この国で市民権を得るのも悪くないと思うよ?

私としてはずっとこの国にいてほしい。ずっとシアに側にいてほしいと思う。」


フランクさんが何か言おうとした時、ダイニングの扉が勢いよく開いて


「2人ともこんな所にいたんですか?

領主様もシアさんも!ほら!もっと飲みましょう?」

と数人の使用人が顔を出して、私たちはダイニングに戻った。




収穫が終わった翌日から、フランクさんは第一騎士団としての任務があるらしく、一週間ほど留守にしていた。

だから、隣町に第一騎士団の団員が全員いたのね。


フランクさんが戻ったのは、火祭りの前日だった。



この地域では、年末に火祭りを行って新年を迎えるらしい。

火祭りはハトーブの街が有名で沢山の観光客がくるけど、この街でも火祭りは行われており、明日は湖の辺りで火祭りをするとティナさんから教えてもらった。


ダイニングルームにある、大きな三角コーンのようなオブジェはもう飾りでいっぱいで、飾り付けを追加できない状態になっていた。

火祭りではそれを大きな荷馬車に乗せて祭り会場まで運ぶらしい。


年末である明日食べるケーキを焼くからと、厨房に呼ばれた。

「さあ、シア様、今からケーキの生地を作ります。

シア様はナッツを一掴みいれて、願い事をしながら3回かき混ぜてください」


そこには大きな大きなボールにケーキの生地が入っていた。


言われた通り、ナッツを一掴み入れて願い事をした。



この楽しい日々がずっと続きますように。



領主館に住んでいる従業員やその子供まで、全員やってきて、ドライフルーツやナッツを一掴み入れてケーキの生地を混ぜた。

領主館やその従業員寮に住んでいる人数は総勢80人。

80人が順番に生地を混ぜるのですごい時間がかかった。



ケーキは直径20センチの型に入れて焼いた。

「あの型は、魔法の型なんですよ」

ティナさんが楽しそうに教えてくれた。


その後は夕方まで、ティナさんにココアを入れてもらって図書館で窓の外を眺めながら本を読んだ。

窓から見える景色は本当に綺麗だ。



朝起きると、領主館では口々に

「ニューイヤーイブ、おめでとう!」

と挨拶をしていた。


明日が新年なのに気が早いなと思って笑いそうになってしまった。


この日の夕食は早く済ませて火祭りに行くとティナさんが教えてくれた。


「今日のディナーの席はくじ引きなんですよ?

フフフ面白いでしょ?これは、フランク様のお婆様が始めた事で、この領主館の伝統なんです」


テーブルにはすでに料理が並べられていて、各テーブルの真ん中には、昨日焼いたケーキが置いてあった。



クジを引いて席を決めていく。子供も含めて全員、クジを引いた。


私は、フランクさんの隣になった。


フランクさんは

「領主様、シア様の隣に座るなんて、なんかズルしましたか?」

とニヤニヤしながら庭師に揶揄われていた。


ワインが配られて、来年の豊作とワインの出来を祈ってからディナーが始まった。


ディナーの終盤、フランクさんが魔法で10個あるホールケーキを一瞬で8ピースに分けた。


「よっ!さすが騎士様!」

なんて、酔ったワイン職人が声をかけていた。



私の横に座っていた庭師の子供のマッジちゃんが

「ねぇ、シア様。これは未来を占うケーキなのよ。

このケーキを焼くケーキ型には魔法がかけられていて、ケーキの中から『よげん』が出てくるのよ。

だからどのピースを選ぶかちゃんと決めて取らなきゃね!」

と教えてもらった。


私は笑顔で頷くと、ケーキを眺めて、右奥のピースを取った。


「それじゃあ、皆のお楽しみ、ケーキの時間だ!」

フランクさんの声で、皆慎重にケーキを崩しながら食べていく。


隣に座っていたマッジちゃんが大きな声で

「やったー!私銀貨が入っていたわ!将来お金持ちよ!」

と言うと、別の席から

「俺は、おしゃぶりだ。と言う事は、近いうちにカミさんに子供が出来るのか?」

と言う声やさまざまな声が聞こえてきた。



私のケーキには…宝石のようにカットされたダイヤモンドのようなガラスが出てきた。


隣のマッジちゃんが

「わぁ!初めて見るわ!宝石かしら?シア様は将来、お姫様になるのね」

と言ってうっとりして、

「ねぇ、領主様には何が入っていたの?」

と聞くいた。


フランクさんは慎重にケーキを崩していくと指輪が出てきた。

「領主様は指輪!もうすぐ結婚するのね!

でも、シア様はお姫様になるんだから…。残念ながら、領主様のお嫁さんはシア様じゃないわ」

としたり顔で言った。


「コラ!マッジ!!!お前は何を言うんだい!!

これはあくまで占い。そんな未来の事、誰にもわからないだろ?」

と庭師の奥さんにマッジちゃんは怒られて、

「はい、ごめんなさい、お母さん」

とマッジちゃんが言うと

「謝るのは私じゃなくて、領主様とシア様にだよ」

と促されて私達に謝ってくれた。



ケーキの型に生地を流し込んで、それからオーブンに入れたのを見ていたのに、指輪や金貨なんて誰も入れてない。

そして、一つとして同じものが入っていない!


占いのケーキってすごい!


と私は驚いていたけど、皆んな大笑いして

「いつもの年末だね」

と笑い合った。


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