表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

12/36

ドレスの恨みはドレスで返す

帰りの馬車の中で、フランクさんは

「レディはドレスの流行にあんなに敏感だなんて知らなかった。シアを笑い物にするつもりではなかったんだ。ごめん」

と謝ってきた。


私は首を横に振った。

フランクさんは何も悪くない。


私はフツフツと怒りが湧いてきた。

何故、あの侯爵令嬢はあんな事を言うの?

ドレスを貸してくれたフランクさんのお姉様を馬鹿にした事になるし、私を連れてきてくれたフランクさんやドレスを選んでくれたティナさんを馬鹿にした事になる!


フリト侯爵令嬢にドレスの事をバカにされた事をフランクさんはトーマスさんやティナさんに話したようで2人から謝られてしまった。



次の日、フィオナ・フリト侯爵令嬢の言っていた通り、翌日のパーティーの招待状が届いた。

フランクさんは欠席の返事を出そうとしていたけど、


『出席にしてください。

相手は侯爵家ですから、フランクさんの立場もありますもの。

それよりも、今日、ティナさんと隣町に行かせてください』

とメモ帳に書いてお願いすると、フランクさんは

「わかったよ。すぐに馬車を出す」

と言ってくれた。

私はコートを着て帽子を被って出かける準備をした。



そして私は紙袋を持ってティナさんと隣町に行った。

「シア様、その紙袋はなんですか?」

と聞かれたけど私はニッコリ笑うだけにした。


隣町に着くと、ティナさんに生地屋さんに行きたいと言った。

ティナさんは生地屋さんに行った事がないらしく、

「シア様、迷子になっては困りますから、朝市のカフェスペースで待っていてください」

とカフェスペースで待つ事にした。


市場はかなり活気があって、周りを眺めているだけでワクワクする。


《計画は順調だな。火祭りが終わったら最終段階だ》

と、聞き慣れない言語が私の後ろから聞こえてきた。


私はフランクさんから『どんな言語でも翻訳出来るブレスレット』を借りているから、何語を話していてもわかる。何語かしら?


《荷物は届いたのか?》

《ああ。誰にも疑われずに第一便がな》

ボソボソと話しているから私の真後ろに座っているようだ。


《しかしこの時期に王都を離れるのは辛い。武器の調達もままならない。その上、ケバケバしい女達を褒めならパーティー三昧だ。ケバくて、ヒステリックで、頭の悪い女しかいなくて退屈だ》

《まあ、それも仕事のうちだ。》

《そういえば、『おっとり坊や』が珍しく女連れだった。坊やが連れている女なのに、ありゃアタリだな》

《坊やのオンナを口説くのか?》

《もちろん、ありゃ何にも手を出してないぞ》


2人の男はそんな話をした後、立ち上がってどこかに行ってしまった。

私の横を通らなかったからどんな男性なのか見れなかったけど、あれは何語なのかな?



「お待たせしました。シア様。こちらです」

私はティナさんと共に生地屋さんに向かった。

でも、お目当ては生地屋さんではない。


生地屋さんの側にあるであろうセレクトショップだ。



生地を買いに来るのは、お針子だけではない。ドレスをメゾンに仕立てに出せない貴族達は、生地屋さんに買いに来る。

その時、古着のいいドレスはないかセレクトショップを覗くのだ。

その事を教えてくれたのは、リメイクが難しいものを買い取ってくれるセレクトショップ『ブラクストン』のオーナーの夫婦だ。



聞いていた通り、生地屋さんの側には数件のセレクトショップがあった。


何軒か覗いた後、ショーウインドウに飾ってあるドレスを見て、一つのお店に入った。

ウインドウには新品のドレスと、払い下げのドレスがディスプレイされていた。


ティナさんは予想してなかった私の行動に驚いていた。


私は、セレクトショップに入ると、ティナさんに

『このドレスの買取価格を聞いて欲しい』

とお願いして紙袋を渡した。


中に入っていたのは、この国に来た時に着ていたドレスだ。

泥がついたところは、あの時に宿屋の女将さんが魔法でクリーニングしてくれてあるから綺麗になっている。


紙袋の中を見たティナさんは、

「わかりました。お任せください」

と言って交渉してくれた。


あのドレスはお母様のリメイクドレスを普段着として仕立てた物だけど、すごく気に入っていた。

シンシア・ベルーガ公爵令嬢という立場からすると普段着だったけど、下位貴族にとっては外出用ドレスになるはず。



交渉はうまく行って、かなりの高値で買ってもらえた。

そうしたら、売ったお金で買える金額のドレスをこの店で探す。

探すのは、生地が良くて安い物。



一枚、一枚見ていくと、すごく生地のいいドレスを見つけた。

しかもサイズは大きい!これなら解いて仕立て直せる。


「こんなビンテージドレスどうするんですか?

シア様が着たらブカブカですよ?」

とティナさんに聞かれたけど、答えずにそのドレスを買った。


ドレスはビンテージのレースがふんだんに使われている。このドレスを手放した人は、古臭いデザインだからと思ったのだろうけど、今では珍しい手織りのシルクに、細やかなデザインのレースがふんだんに使われている!

これを活かすとしても、ストッキングのように薄い透けるレースやオーガンジーも欲しいので生地屋さんに向かった。



帰りの馬車の中で、このドレスを仕立て直したいから手伝って欲しい事と、今日は葡萄の収穫をお休みしたいとお願いした。



ティナさんに手伝ってもらって、ドレスを解き作り直していく。


このビンテージの生地が映える渾身の一枚を作った。

ドレスが出来上がったのは、皆が葡萄の収穫を終えた時間だった。



「シア様のお仕事は、ドレスの販売とリメイクと聞いていましたけど。

リメイクって、解いて新しいドレスに作り替える事だったんですね!」

とティナさんは楽しそうに笑っていたが、

「さあ、明日はパーティーですからお肌の調子を整えるためにすぐに寝てください」

と言われた。



そして、いよいよフリト侯爵家のパーティーの日だ。


ティナさんは気合を入れてメイクをしてくれた。

私は、昨日リメイクしたドレスを着た。

前回の社交界では誰も着ていなかったマーメイドラインのドレスだ。

そして、フランクさんが買ってくれた火祭りをモチーフにしたピアスをつけて、エントランスに向かった。


エントランスではフランクさんが騎士服を着て待っていてくれた。


フランクさんは驚いた顔をして

「昨日、ドレスを作ったと聞いたけど。本当にそれ、自分で作ったの?

シア。君の才能は凄いよ!」

と、私を抱きしめようとしてくれたけど

「フランク様、それではシア様のドレスに出発前にシワがついてしまいます」

とトーマスさんに言われて思いとどまってくれた。


「じゃあ、最後の仕上げだ。目を閉じて」

とフランクさんに言われて目を閉じた。


首元に冷たい感触があって、目を開けると、ダイヤモンドのネックレスが付けられていた。

「これで完璧だ。

いきましょう、お嬢様」

とフランクさんはかしこまって言った後に、クスッと笑って私の手を引いてくれて、馬車に乗った。



会場に着くと、すでに沢山のご令嬢がいて、フィオナ・フリト侯爵令嬢のドレスを見て何かを言っていた。

どうも有名なメゾンの新作らしい。


そこに、フランクさんと私は優雅に歩いていき、招待のお礼を伝えた。


フィオナ・フリト侯爵令嬢は、私のドレスを見て勝ち誇ったように笑っていた。

「あら、そのドレス、どちらのメゾンのかしら?昨日みたいなドレスじゃない分だけ褒めて差し上げるけど。

でも…無名なメゾンのドレスじゃねぇ?

フフフ。おわかりになるでしょう?」



…フィオナ・フリト嬢は物の価値がわからないのかしら?ビンテージのレースに、今では珍しい織り方のシルク。

生地で手に入れようとしたら、なかなか手に入らない物で最新のデザインを作ったのよ。

誰が作ったドレスを着るかより、どんなドレスを着るかが大事なのよ。

でも、私は友達でもなんでも無いからそんな事は教えてあげない。



その時、1人のマダムが私に話しかけた。

「なんてステキなドレスかしら!どちらで手に入れたの?」

マダムはシンプルなドレスを小物で華やかに飾っている方だった。


「お久しぶりでございます、ロヴァン伯爵夫人。」

とフランクさんが挨拶をした。


「あら、ユールサイト子爵のお連れの方なの?ねぇ、このドレスをどこで手に入れたのかしら?

こんなステキなドレス見た事ないわ」


私とフランクさんはロヴァン伯爵夫人に、優雅に談笑しているマダムの一団の所に連れて行かれた。

マダムばかりではなく、若い女性も混ざっている。


よくある「この人たちが来た夜会は格が上がる」とか言われるマダムの一団である事は容易に想像がついた。


私は、ビンテージドレスを仕立て直しした事を伝えた。

「まぁ!なんてステキな方法かしら!」

マダム達はドレスを見ては口々に褒めてくれた。



これでこのパーティーの主役はフィオナ・フリト侯爵令嬢から私に変わった。



ウィルコクス国のファッションアイコンと呼ばれた私にファッションで喧嘩を売るなんてバカね。


視界の隅に入っているフィオナ・フリト侯爵令嬢とその取り巻きは悔しそうにしていた。



マダム達とお話をしていて、話が途切れたタイミングでレヴホーン副団長が話しかけてきた。


「シア殿、今日もお美しい。是非、私と一曲踊ってください」

私の手を取り、タンスのお誘いをするレヴホーン副団長の姿にマダム達は色めき立った。


「まぁ!レヴホーン副団長が女性をダンスに誘うなんて珍しいわ。シアさん、是非踊っていらっしゃい!」



私は、レヴホーン副団長に手を引かれダンスホールに連れ出された。

「シア殿、2人っきりでお話ししてみたいと思っていました。こんな美しいレディはお目にかかった事がないもので。

前回はフランクが君を離さなかったから話せませんでしたが…君はフランクの恋人?」

私は首を横に振った。


「そうか!よかった!それなら私にもまだチャンスはあるね」


この自分に自信のある女性に振られた経験のない人をお断りすると、しつこくしてくるのよね。


私は曖昧に笑っておいた。



一曲踊ったところで、フランクさんがレヴホーン副団長に声をかけてくれて、ダンスを代わってくれた。


「シアのドレスは今ご婦人達の間で話題になっているよ?」


当然よ!と思ったけど顔には出さなかった。


「これ以上いると質問攻めにあうから、今日はもう帰ろう?」

と言われて私は満面の笑みで頷いた。




帰ってから、フランクさんはティナさんやトーマスさんに今日の様子を伝えてくれた。


「やりましたね!シア様!」

いい気分のまま、日が暮れた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ