どこの社交界にもいる面倒な令嬢
年末のイベントである火祭りが近いとあって、荘園には沢山の貴族が集っていた。
荘園に着くと、モラレス伯爵ご夫妻と、ウォーレン・モラレス伯爵令息とその奥様に挨拶をした。
ウォーレン・モラレス伯爵子息はワインレッド色の騎士団の正装で、奥様は同じ色のドレスを纏った小柄な女性だった。
幸せそうだけど、確かにお節介が好きそうな感じの奥様ね。
舞踏会の会場ではホットワインやシェリー酒など、ウィルコクス国ではあまり馴染みのない飲み物が多かった。
飲み物を片手に談笑している人が多く、荘園に来ている若い貴族の令嬢や令息の出会いの場となっていて楽しそうに話す男女が沢山いた。
フランクさんは一通り挨拶を済ませると、騎士団の方々の所に案内してくれた。
さっき御令嬢達が、
「第一騎士団はエリート集団で、しかも皆、見目麗しいだなんて罪ですわ。
第一騎士団に入隊する試験は、外見も審査対象だという噂さえありますわよね」なんて話していた。
第一騎士団の方々はたしかに、皆背が高く顔も整っている。
さっきの噂話では、殆どの方が独身で、しかも婚約者や恋人がいないらしい。
それは、若い御令嬢たちが色めき立つわ。
フランクさんは私と腕を組んで、第一騎士団の集団に合流したので、ご令嬢達から刺さるような視線が向けられた。
フランクさんは1人1人紹介してくれた。
初めに紹介されたのが、先ほど沢山の御令嬢が群がっていた副団長のピーター・レヴホーン伯爵。
若くして爵位を継いだエリートの中のエリート。
…ってさっき噂されていた。
レヴホーン副団長は、彫刻のような彫りの深い整った顔でニッコリ笑って、私の目を見ながら指先にキスを落とした。
確かにこんなに甘い行動をサラリとやってのけるなら御令嬢達に人気があって当然。
漆黒の髪をスタイリング剤でオールバックに綺麗に固めており、所作もスマート。
世間知らずのご令嬢の中にはいつか婚約できるなんて思って入れあげる人も出てくるタイプだ。
さっきのご令嬢達の噂話によると、恋人にしたいランキング1位兼結婚したいランキング1位はレヴホーン副団長だって言っていた。
フランクさんは子爵なので、子爵籍や男爵籍のご令嬢にはすごく人気が高いのと、婿養子として狙う伯爵籍のご令嬢も一定数いると噂されていた。
ちなみに、恋人にしたいランキングにも、結婚したいランキングにもフランクさんは入っていないらしい。
理由は、極寒のこんな田舎に小さな領地があるだけだからって言われていた。
それにあの髭とナチュラルヘアが不人気らしい。
人間性は最高なのに!
今まで、シンシア・ベルーガとして参加してきたイベントでは、会場に入るのは他の貴族とは違う専用の入り口で、しかも滞在時間は短い。
それは女性しかいないお茶会でも同様だった。
だから今、誰も知らない存在になってみんなの噂話を聞くのが新鮮!
そっか。女性貴族は職業だけじゃなく、嫁ぐにあたっては領地の事も気になるのね。
そんなふうに気を抜いていた私の所に、取り巻きを連れた令嬢がやってきた。
「初めて見る方ですけど。貴方、フランク・ユールサイト子爵様のご親戚か何かかしら?
まさか、恋人とかではないわよね?」
私に話しかけている気の強そうなご令嬢は誰なのかしら?
このご令嬢の取り巻きに、以前に街で見かけたフランクさんの追っかけの、グロリア・イースティン伯爵令嬢がいる。
ということは、私に話しかけているのがフィオナ・フリト侯爵令嬢?
「私を目の前にして何も答えないなんていい度胸ね!」
このフィオナ・フリト侯爵令嬢が怒り出した。
こういうタイプに絡まれると面倒なのよね。
ウィルコクス国にもいるわ。
いつも私に対抗心を燃やす人…。
事を大きくするのはフランクさんの手前、良くない。
どうやってやり過ごそうかな。
例えば…子供の頃よく使った手だけど、突き飛ばされたふりをしてわざと転ぶとか?
…でもそれをすると、大人同士であるこの場は修羅場になるし…。
とそこにフランクさんと、レヴホーン副団長が来た。
「どうしました?」
とフランクさんが私達に声をかけた。
すると、
「ごきげんよう。レヴホーン副団長様、ユールサイト子爵様。
こちらの女性とお友達になりたいと思いまして、わざわざこちらから挨拶しましたのに、何もお返事をくださらないのです。」
と先頭のご令嬢が言うと
「シアは異国から来たからこちらの言葉は話せない。
それに今は療養中で」
とフランクさんが言うと
「異国の方という事は遠縁の方で療養にこの国にいりっしゃってるのかしら。まさか、ユールサイト子爵様の領主館に滞在されているのですか?」
とグロリア・イースティン伯爵令嬢が聞いてきた。
「ああ。我が領地は自然溢れるから、多くの自然に触れて療養して欲しいと考えて、滞在を許可している」
とフランクさんが答えた。
「ユールサイト子爵様、婚約者ではない女性を領主館に滞在させるのは、誤解を招きますし、女性にとっては醜聞となる事もございますからお気をつけください」
とフィオナ・フリト侯爵令嬢は言った後に私を見て、
「今お召しになっている淡いピンクのドレスはいつの時代の物なのかしら?
フフフ。そんな流行を追わない田舎のパーティーに行くようなドレスだなんて。」
と言いながら私の事を眺めた。
そして
「そうだ!明後日、フリト侯爵家の荘園でパーティーがありますの。そちらでは、最新のドレスのお披露目をしますから、いらして欲しいわ。」
フィオナ・フリト侯爵令嬢は嫌な笑いを浮かべて去っていった。
流行に関係ないドレスほど素敵な物はないのに!
お母様のドレスのリメイクは、一旦ドレスを解いて、解いたドレスから作り直す事が出来るデザインを考えて作っていた。
そのため限られた生地の中で作るドレスは結果的に攻めたデザインになってしまう。
だからファッションアイコンとかファッションリーダーとか呼ばれていたし、パーティーガールだと思われていたけど。
でも私はクラシカルなデザインのドレスに憧れていた。