社交界に行く約束をする
葡萄の収穫は短い期間で終わるそうで、収穫終了まであと数日となった日。
フランクさんは、
「湖の様子を見に行かない?」
と誘ってくれた。
外に出て、湖の方に行こうとすると
「シア、今日はコレで坂を降りよう」
とフランクさんはソリを持っていた。
ソリに乗るのは初めて。
ソリの前には私が乗って私の後ろに座ったフランクさんと一緒にソリの紐を持った。
私の体が安定するようにフランクさんが後ろになった。
「じゃあ行くよ!」
ソリは勢いよく滑っていく。
だんだんソリのスピードが上がってきた。
ソリは雪のコブに乗り上げると跳ねるようにバランスを崩した。
「うわっ!」
フランクさんの声と共に私とフランクさんは雪に投げ出された。
私はうつ伏せで新雪に落ちた。
私の上に乗るようにしてフランクさんも雪に落ちた。
「ごめん、シア!大丈夫?」
私は雪の上で転がって、寝っ転がるように空を見た。
すると、雪の上で寝転んでいる私の顔をフランクさんが覗き込んだ。
至近距離で見たフランクさんは、さっきの衝撃で髪が乱れて、無造作ヘアーが更に乱れていた。
なんだかおかしくて笑ったけど、相変わらず声が出ないのでヒューヒューという音がした。
それもまたおかしくて私は大笑いした。
大笑いする私を見てフランクさんも笑った。
それから手を貸してくれて立ち上がらせてくれた。
楽しくてもう一回したいから、私は人差し指を立てた。
「もう一回?」
と聞かれ、私は笑顔で頷いた。
「じゃあ、坂を登ろう!」
フランクさんと何度も坂を登って、何度もソリで滑った。
坂を登っては滑り、登っては滑り。
「何回も滑ったから、そろそろ湖に行こう。さあ、ソリに座って?」
と言われて、最後の一回を滑り終えた後、平坦な雪道で、私がソリに座ると、フランクさんはソリの紐を引いて歩き出した。
「重いなぁ!私は何を運んでいるんだ?
何の荷物だったかな?」
とフランクさんは空を見ながら考えるように言って、それから振り返り、私をみるとニヤッと笑って
「そっか!シアを運んでるんだった。シアは重いなぁ!」
と言うので、雪玉を投げつけた。
「嘘。ごめん、ふざけたんだよ。じゃあ交代」
えっ?私、フランクさんは引っ張れませんけど
「顔に無理って書いてある。ハハハ!
シアはいつも表情に出るね」
そう言いながらもフランクさんはソリを引いてくれた。
今回は、ピクニックの時とは対岸の船着場の辺りに来た。船着場の側には頑丈そうな小屋があり、フランクさんは小屋の扉を開いた。
中は、閉店中のお店のようだ。
フランクさんは、お店の中に入ると、スケート靴を持ってきた。
スケートは、寒冷地帯の友好国との文化交流で見たけど、やったことはない…。
「ここは貸靴屋だよ。スケート靴を借りるんだ。
他にも、飲み物や軽食なんかを毎年販売しているよ。
はい、シアの靴。履いてみて」
渡されたスケート靴を船着場に座って履いた。
フランクさんは氷上に立つと、船着場に座っている私の手を取り
「ほら、転んでも痛くないように防御魔法をかけてあげるからおいで。」
と言った。
フランクさんに手を引かれて、恐る恐る船着場から氷の上に降りた。
それだけでも滑って転びそうになってフランクさんにしがみついた。
「さあシア、真っ直ぐ立って」
フランクさんは私と向かい合って両手を取って滑り出した。
後ろ向きに滑るフランクさんに感動していると
「ほら、真っ直ぐ立って滑ってみて。ダンスと同じだから」
と、フランクさんは言って、ずっと私に付き合ってくれた。
思ったよりも滑れる!
だんだん楽しくなってきた。
フランクさんが片手を離して、並走するように滑ってくれるようになり、そして一人でなんとか滑れるようになった頃
「忘れていた。氷の準備が整った合図を送らないと」
とフランクさんは言うと、赤色の花火を上げた。
「これで明日から、ここも賑わうよ」
と楽しそうに笑った。
スケート靴を片付けてからフランクさんが
「シア、もう一度、光魔法を試してみない?
シアは魔力は多い方だよね?でもコントロールが難しいようだから、リラックスしている今、もう一度試してみようよ?」
そう言われて、今度は月を思い浮かべた。冷たくて明るい物…。
今度は前回と違い、指先の明かりは指からは離れないが、指を動かすたびに、光で軌跡が出るようになった。
光っている人差し指を横に動かしてみると
『ー』
と光の中で空中に線が書けた!
光る文字は、厚みもなく、ただただ空中に浮いた不思議な物体だった。
例えるならパブのネオンの看板のように、立体的ではない平面的で『ー』と書いた物だけがだけが光っている…そんな感じだった。
「シア!もしかしてこれで空中に文字が書ける?」
フランクさんに言われて
『シア』
と空中で書いてみると、光で文字が書けるようになった!
…でも消えない…
「シア!すごいじゃないか!強い魔力を持っているんだね。試しに色を付けれる?
そうだなぁ、ブルーは?」
とフランクさんが言うので
頭の中でブルーに光る事をイメージして
『ビール』
と書いてみた。
「これ、パブの看板みたいだ」
とフランクさんは笑い出した。
その後も、色とりどりの文字を書いてみた。
気がつくと、私の周りは『色とりどりの文字が宙に浮いている』という謎な状態になった。
しかも、この文字は風が吹いてもピクリとも揺れない。
触っても消えない、動かそうと触っても動かない。
消す事ができないこの文字をどうしたらいいか…
しばらくフランクさんと悩んでいたら
「明るくする事を想像して作り出した魔法だから、暗くなる事を想像してみたら?」
とフランクさんの提案で、このキラキラ輝くネオンが真っ暗になる事を想像したら、ふわっと消えた!
フランクさんは笑いながら
「シアの魔法は、面白いな」
とニヤッと笑っていった。
フランクさん、またからかってるな!
私は雪玉を作ると、フランクさんに投げた。
「あっ!冷たい。何するんだよ!
シアの魔法を誉めただけなのに。」
でもフランクさんはニヤッと笑っている。
私はもう一回、雪玉を投げた。
「やったなー!」
フランクさんは私に雪玉を投げてきた。
私も投げ返す。
「シアが降参するまでやるからな。」
フランクさんは大人気なく私に沢山の雪玉を投げてきた。
その雪玉を作って投げるスピードがすごく早い。
本気を出してきたのね!
私も本気で投げ返したけど、全く追いつかない。
しばらく雪玉を投げ合ったけど、全く勝負にならず、私は両手を上げて降参した。
「シアは降参か。
負けたシアにシアにお願いしたい事がある。
実は舞踏会に出席しなければならないんだ。
明日、同僚のウォーレン・モラレスの結婚後のお披露目のパーティーがあるんだ。
それにパートナーとして出席してほしい。
ウォーレンはいい奴なんだけど、奥方の友人を紹介したがるんだ。
前も言った通り、私は貴族の女性が苦手で」
これだけお世話になっているんだもの。舞踏会くらいなんて事ないわ!
パートナーのフリくらい簡単。
私は笑顔で頷いた。
帰って、ティナさんにその事を相談した。
ティナさんは
「舞踏会の件、わかりました。まずお肌のお手入れをちゃんとして、今日は早くお休みになってくださいね。」
と言った。
トーマスさんには
「シア様は、立ち姿や歩き方など完璧ですからマナーレッスンなどは問題ありませんね。明日は楽しんでください」
と言われた。
その日はオイルエステをされて、葡萄の収穫はせずに早く寝るように言われた。
朝起きると、早速フェイスパックをされてしまった。
雪が多く降るこの地域では社交イベントは日中が基本らしく、朝から準備をしてすぐに出発しないといけない。
ティナさんがヘアメイクをしてくれて、淡いピンク色のドレスを纏い、騎士服のフランク様と共に舞踏会に向かった。
フランクさんは長めの無造作ヘアーを少し整えただけで、髭は剃らずにそのままだった。




