12/14
Ⅻ吐瀉物
「天使の様に美しい」
と、会場で、ある男に言われたが、
自分には翼が無い事など私は知っている。
また、ある人には「大理石の様な肌だ」と言われたが、
自分の肌が石ではない事位、
私は子供の頃から知っているのだ。
別の男達は
「深い海の様な瞳だ」
と私の瞳を讃えたが、
自分の眼球の色など
虹彩の色素に過ぎないではないか!!
やがて私は
他者の幻想に吐き気を覚え、会場を後にする。
なぜ、ああも、
[ここにいない者]の話をするのだろうか?
まるで自分など最初からそこにいなかったかの様に!!
我々は闘い続ける命だ。
ただの老朽化していく醜い肉だ!!
ああ!!
虫も暮らせぬ会場!!
蠅も集らぬ腐敗!!
道端で私は嘔吐した。
その吐き出された吐瀉物を眺め、私は思った。
ああ、これこそが・・・
これこそが私の臓物。
私の生命・・。