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Ⅺ死者の頭蓋(クラーニョ)の潰れる音で

私は、人殺しをする亡霊の夢を度々見る。

亡霊と私は組み合いながら深淵(アビスモ)へ転げ堕ちていき、

突き出た石灰岩(カリーサ)に亡霊の頭蓋は叩きつけられ、

黄土色の死紛が舞い上がる中、

死者の頭蓋(クラーニョ)の潰れる音で私は目覚めるのだ。

目覚めると、足元に亡霊が立っている。

そして私の魂を殺そうと手を伸ばしてくる。


私は想う。

海で足を掴んで来る褐藻(ヴィフルカリア)は亡霊だ!!

葬儀で泣き崩れる親族の横で、哀しみもなく淡々と並ぶ人影は亡霊だ!!

大量に切り殺される浜菅(ジュンサ)は亡霊の骸だ。

カサス・ビエハスで人々に向けられたアサルトガードの銃口は亡霊の目だ!!


何百回と他者を呪い殺そうと、

疎外というシステムから逃れられない亡霊は、

目的も失い雑踏の中でしか存在出来ない腐臭漂う影となる。

彼女は哀しみすら忘れ、淘汰の循環に組み込まれる。

隣人を見失い、羊飼いから解き放たれ、

故郷を見失った羊となった我々は

その影に気づく事も、供養する事も最早手遅れだ。


亡霊は、フコキサンチンが破壊され、死んだ褐藻の死骸だ。

変色し、ただ異様な光景だけを我々に見せる。

しかし、管理業者も、職人も、

その異様さに気づく事はないのだ。

それが産業革命と、孤独を抱える我々の末路だ!!


そして私は、やはり

今日も人殺しをする死者の夢を見る。

突き出た石灰岩(カリーサ)に亡霊の骨が叩きつけられ、

黄土色の死紛が舞い上がる光景を繰り返すのだ。

やがて、いつもの様に目覚めた私は、

現代の予定調和の中、呪われる。


我々は、あらゆる日常に存在する緑膿菌(シュードモナス)と共に暮らし、

健全な免疫システムの狭間に、死を目撃する。

泥炭地に住まう灰色藻(グロウコフィタ)を愛せよ!!

それは我々の身体だ!!


十字架の灰で!!

命が燃えた灰で身体を洗え!!

おお!!混沌の中で見る、あらゆる亡霊と死よ!!

救われぬ私の病んだ臓物(オルガン)よ!!

アヴェイロの海の暗闇の先にあるものを教えてくれ!!

それは死んだ海藻と、夜の間に波間に打ち上げられ、

朝には海に消えている何かなのだ。


救われない病人よ。

救われない死骸よ。

救われない水の無い土壌よ。

救われない思想よ。


だが、それでも、サトゥルニア・ピリは、

我々の頭上を自由に飛んで行く。


私は、人殺しをする亡霊の夢を度々見る。

亡霊と私は組み合いながら深淵(アビスモ)へ転げ堕ちていき、

突き出た石灰岩(カリーサ)を見つけると、

亡霊を庇い、自分の身を叩きつける。

そして私の残骸は深淵(アビスモ)の底に堕ちていく。


そうか。

私は想う。


何一つ変わらないこの世界で、

我々は日々、己の聖書を読み、物語を紡いでいかねばならない。

閉塞的に閉じ込められた受難の試練の中で、

それでも我々は、そこに受難(グロリア・)栄光(パッシオニス)を見つけるのだ。


私は想う。

海で足を掴んで来る褐藻(ヴィフルカリア)に祝福を!!

葬儀で泣き崩れる親族の横で、哀しみもなく淡々と並ぶ人影に祝福を!!

大量に切り殺される浜菅(ジュンサ)に祝福を!!

カサス・ビエハスで人々に銃口を向けた私達罪人にどうか慈悲を!!


私は目覚めない。

足元に亡霊が立っている。

亡霊は泣き崩れる。


呪うべき者に救われた霊は、

初めて神を見るだろうか?


ああ!!神よ!!

この世は、無慈悲で、救いなく、道のない海辺だ!!


石灰岩(カリーサ)の中に、

黄土色の死粉の中に、

緑膿菌の中に、

死んだ褐藻の中に、

切り殺された雑草の中に、

死んだサトゥルニア・ピリの死骸に、

我々は灰色の倦怠感と、不信心(アテオ)と、

蓋の無い棺桶だけを常に見つける。


ああ!!主よ!!

それでもそこに楽園への入り口を見つけられる者は幸いだ!!


ああ!!主よ!!

我々は・・

亡霊だろうと、善人だろうと、悪人だろうと、

腐肉の癌を抱え、後悔の蛆に身を喰らわれながら、

黒い沼の中に身を沈め、嗚咽を漏らし、

それでも、その悪臭と腐敗の中に、

いつかは楽園の入り口を見つけ、優しい救いの王国へ脱出するのだ。

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