俺がトラックに轢かれて死んだら神様が最強スキルをくれて異世界で最高な人生を過ごす話
世界は俺が救った。
俺は二十五歳のニート男。
学生時代にいじめられて引きこもりになった。
そこから中々社会復帰に踏み出せずに生きていた。
家族に疎まれているがまあ、幸せな生活を送ってた。
だが、突如として俺の人生は転換点に入る。
コンビニ帰りにトラックに轢かれて俺は死んでしまった。
死んでから目が覚めると目の前には神様がいた。
その神様からもう一度人生をやり直せるとお告げがあった。
しかもトラックに轢かれたのは神様も予想外だったらしく哀れに思ってくれて最強のスキルもくれた。
俺は異世界に転移した。
まずは冒険者になった。
この世界の知識も無い俺が生きるには冒険者として成り上がるしかなかった。
だが、最強スキルのおかげで俺はE級からすぐにS級へと上がる。
その時に仲良くなったリリィという冒険者の美女とパーティを組んでやりまくった。
彼女はラピスラズリのような青い髪と穏やかな性格を持っていた。
前世では童貞で死んだのだから異世界では好きに生きてやった。
S級になってからはだいぶ依頼の方も忙しくなった。
国からも討伐依頼などが来たりした。
そんなこんなで解決して俺は国王の娘ミーシャを頂いた。
サファイアのような情熱的な愛を持つ美女で俺もすぐに好きになった。
そっからは国境付近に家を建ててやりたい放題だ。
無事に妊娠し俺は父親になった。
国王に報告しに行っても大歓迎されて国中がお祭り騒ぎになった。
英雄と国王の娘が結ばれたとか言われて正直俺も恥ずかしかったが、みんなの笑顔を見てると悪く無いのかなと思う。
ミーシャと結婚もしたが冒険者の時に付き合ってた女リリィとも暮らしている。
勿論、ミーシャも了承済みだ。
晴れて俺はハーレム生活をすることになったのだ。
最高の女性達に囲まれて幸せの結晶である子供までいる。
前世では考えれないほど俺は幸せだ。
しかし、その幸せを壊すような報せが舞い込んできた。
西の海で魔王が誕生し出していると噂されたのだ。
国王はすぐに軍を向かわせて噂の真偽を確認しに行かせた。
結果は軍の全滅という状態で終わった。
これはまずいという事で国王は俺に頼み込んできた。
あの権威ある国王が頭を下げてきたのだ。
妻達は心配そうな顔をしているが実力のある俺が行くしか無いだろう。
俺は了承して旅の準備を始めた。
リリィも一緒に行くと言い出したが流石に冒険者だったとしても今回は荷が重いという事で彼女もお留守番だ。
そして俺は我が家を出立した。
半年ほど一人で旅をしていたらエルフの女に出会った。
名をシルファと言う。
これまたエメラルドのような髪色と澄み切った瞳を持っていた。
彼女は迷宮にある古代兵器を集めているらしい。
魔王にも長い人生の中で借りがあるらしく俺に付いてきた。
まあ、二人の妻には申し訳ないが抱いた。
半年は一人で頑張ったんだ。
我慢した方だとは思う。
その後、俺たちは西の海に着いた。
俺はシルファと共に魔王軍と戦った。
数は一万ぐらいいただろうか。
流石に二人だけで敵うはずも無く俺たちは追い詰められた。
魔王と対峙せずに死ぬと思ったその時、国王軍が援軍に来てくれたのだ。
その数実に五万。
形勢逆転だ。
国王軍にその場を任せ俺もシルファは魔王の元へ向かう。
海が真っ黒に染まるほど混沌に包まれた魔王の姿は悪を体現していた。
シルファが魔王に攻撃する。
すぐに跳ね返された。
彼女が持つのは魔剣。
それを跳ね返すとはどんな仕組みかと探ったが何のことは無いただ魔力をはね返すバリアを張っていただけだ。
シルファの魔剣は効かないかもしれないが俺の最強スキルは魔力では無い。
神の力によって執行される不可避の必殺である。
スキルを発動する。
大海に穴が開き魔王はその存在すら消えた。
俺は魔王を倒したのだ。
帰国すると俺は全国民から称賛を受け取った。
世界を救った男だと言われている。
歴史には勇者と記されるらしい。
まあ、どう呼ばれようが俺にとっては些細な事だ。
俺は帰ろうとしたシルファの手を握った。
どこへ行くんだと聞くと森へ帰ると行った。
エルフ族は魔王軍により絶滅まで追い込まれた過去がある。
その恨みを晴らすためにシルファは魔王に一矢報いる為に迷宮に潜り古代兵器を集め力を蓄えていたらしい。
敵討ちを俺が奪ったので悪かったと謝ったが彼女にとっては魔王が死ねばどっちでも良かったらしい。
俺はシルファと手を繋ぎ我が家へ帰る。
一人で生きるよりみんなと一緒に生きて行った方が楽しいに決まっている。
リリィと息子を抱っこしているミーシャが此方に手を振っている。
優しい風が吹き麦畑が静かに揺れた。
金色の世界が動き揺らぐ。
そんな世界で俺は確かに幸せを手に入れた。
美しい妻三人と息子娘達。
前世では考えられなかった幸せがそこにはあった。
ーーー
「あー、そろそろ良いかな?」
無機質な病室で男の低い声が響いた。
「色々語って貰ってありがとね。リョウタ君の想像力は凄いねぇ、中々出来ることじゃないよ」
薄気味悪い笑顔を俺の目の前に寄せる。
「うん、意識もはっきりしてるし瞳孔も正常だ。ご飯は……ちゃんと食べてるね偉いよ。
でも、幻覚や妄想の精神症状がだいぶ出てるね。
お薬を出しておこうか」
男、いや俺の担当医は紙にペンを走らせる。
そして細い目で俺と目を合わせた。
「大丈夫、この病院はみんな君の味方だからね。ゆっくり直していこう」
そう言って医者は俺の頭を撫でた。
そこにはリリィもミーシャもシルファも俺の息子も娘も居なかった。
魔王は倒して無いし冒険者で結果を出してすぐにS級に上がるなんて言う事も無かった。
俺は異世界に行ってなど無いし神様に会って無いし最強スキルなんか貰っていなかった。
俺はただ引きこもり生活で心を病んでトラックに身を投げ自殺しようとした。
それが真実だ。
幸い命に別状は無かったが入院生活の中で俺は精神病を患った。
その症状である幻覚、妄想により俺は異世界に行ったなんて言う馬鹿げた想像なんかしてしまったんだ。
「う、うぅっ、ううぁっ、うううぅぅっ」
俺は泣き出す。
病室のベッドを思い切り叩いた。
この苛立ちを全力でぶつけた。
何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も拳をベッドに叩きつけた。
その内、音に気づいて駆けつけた看護師に取り押さえられた。
「うがぁぁぁぁ!!」
この悔しさが体を暴れさせた。
本当なら異世界で幸せに俺は暮らしていたのに……。
どうしてこんな事になったのか。
いや、あの体験が妄想だとは思えない。
妄想にしては感覚も匂いも全てがリアルだ。
そうだったら良いなと思いながら俺は目を閉じた。
瞼の裏には三人の妻と子供達が俺に手を振る景色が鮮明に見えた。