矢部先輩の襲来、正道葉月の変調
「お兄ちゃん、いってきますのちゅーっ!!」
「はいはい、行ってらっしゃい……」
「ぶぅ……てれやさんなんだからぁ」
昨日キスしたせいで陽花の要求が激しくなってしまった、何かにつけてキスをせがまれてしまう。
今のところは上手く回避できているが……またしても心身に掛かる疲労が増えてしまった。
「ふふ、本当に仲がいいんですね」
「あはは……そういえば先生、ちょっとだけ聞きたいことがあるんですけど……ゆきと君ってどんな子ですか?」
「あら陽花ちゃんに聞いたんですね、とってもいい子ですよ……それに男の子とは思えないぐらい可愛くって」
「い、いやその……陽花とどんな関係なのかなって……ま、まさか恋人ごっことかしてたりとかっ!?」
おませな陽花のことだ、恋人ごっこなどしていたらキスとかしててもおかしくは……ああ、なんてこったいっ!!
「あらあら、お兄さんは意外と過保護なんですねぇ……大丈夫ですよ、陽花ちゃんはお兄ちゃん一筋だって常々公言してますから」
「……それはそれで、ちょっと問題だと思うのですが?」
「あの齢ならそこまでおかしいことじゃありませんよ、それこそ幸人君もお姉さんと結婚するんだって言ってますからねぇ……」
「そ、そうなんですか、だから陽花と仲良くなれたのかな……色々腑に落ちましたありがとうございました」
同類だったというわけか、ちょっと安心……相互影響されないかちょっと怖い。
とりあえず納得したので先生には頭を下げて後をお願いして学校に向かうことにした。
(しかし、男のことは思えないぐらい可愛い幸人君かぁ……どんな子だろう?)
「おや通学路で出会うなんて珍しいね、おはよう皆川君」
「おお、戸手おは……どうしたその顔に巻いた包帯はっ!?」
顔の右半分を覆うように包帯を巻いている姿はどこか幻想的で……それ以上に痛々しい。
「ああ、気になるかな……出来るだけ面積を減らしてみたんだけど……」
「減らしてみたって……うぉ、確かになんか禍々しい色に変色した皮膚が見えてる……何があった?」
かつてのオカルト部で活躍していたころを思い出す……いや、全盛期はもっとこうミイラって感じだったもんなぁ。
「いやちょっとね……はは、先輩方も困ったものだねぇ、あれだけのことを経験してまだ懲りていないようだったよ」
「なあ、何かあったら遠慮なく言えよ……俺たち友人だろ、あの時だって一度も力なれなくて悔しかったんだぞ俺」
「……皆川は優しすぎるよ、だからこんな危険なことを頼るわけにはいかないじゃないか」
どうしてこいつはいつもいつだって笑っているのだろうか、絶対に痛いに違いないというのに。
「だけどたまには頼ってくれよ……ただ怪我が増えていくのを見守るしかないのも辛いんだぞ」
「わかったよ、本当に困った時は助けてもらうよ……ふふ、本当に僕は素晴らしい友人を持ったなぁ」
そういって俺を眩しいものを見るように見つめる戸手だが、こんな目にあってなお優しく笑える戸手のほうが素晴らしいと俺は思う。
「けど友人だというなら一つだけ我儘を言いたいねぇ……陽花ちゃんとの結婚式には友人代表としてスピーチをさせてもらいたいんだ」
「うぉいっ!? 何でそうなるっ!? というかそうだお前昨日何を電話したっ!? てか何で結婚式場にあんなに詳しいんだよっ!?」
「はは、そんなに一度に聞かれても答えられないよ……式場は実践経験からくる判断だから信じてほしいな」
「実践て何を実践したんだっ!? 俺たち学生だよなっ!? お前結婚してないよなぁっ!?」
「僕が結婚するときは君を真っ先に招待するさ……まあ、親というものも人間だから恋愛の発展形の結婚にだって何度辿り着いてもおかしくはないんだよ」
さらっと笑って言うな……複数回結婚式を経験してるってお前……親の再婚を複数回経験してるってお前……もう少し感情的に言ってくれよ。
「流石に式の途中で映画みたいに母が別の男と出ていった時は大変だったなぁ、関係者に頭を下げてもむしろ申し訳なさそうにされて……いやあ、いい経験だったよ」
「戸手よぉ、今度一度カラオケ行こうぜ……全力で叫んでストレス発散しようじゃないか……うぅ……」
俺は思わず涙しそうになってしまう……こんな提案しかできない自分の無力さが情けない。
「大声を出すのは苦手だけど、うん皆川とならきっと楽しい時間になるだろうね……よし約束だよ」
にこやかに笑う戸手の顔が、本当に嬉しそうに見えたのは俺の気じゃないと信じたい。
「ごめんね変に話が逸れてしまったね、それで陽花ちゃんからの電話だけど要するに惚気半分、愚痴半分、情報収集全分という感じかな」
「割合がおかしいよっ!? どういうことよっ!?」
「惚気とか愚痴にね、的確にあの手この手で皆川の周りの友人事情……特に女関係に関しての誘導尋問を交えてきてねぇ、いやあごまかすのが大変だったよ」
さわやかに言わないでくれ……陽花さぁ、本当に幼稚園児?
「ごめん、マジごめん……というかごまかさなくてもよかったんだぞ?」
「おいおいしっかりしたまえよ、女性が好きな男の周りを本人に内緒で探り始めたということはだよ……めぼしい対象を処分するつもりだからと相場は決まっているんだよ」
「い、いやそんな断言されても……」
「じゃなきゃ直接好きな人に話を聞くさ、その時間もいちゃつけるからね」
た、確かに陽花も俺とお話しするのが好きだからもし気になることがあれば直接聞いてくるだろう……マジでやばいのか?
「ちなみに処分の方法としては陽花ちゃんが写真を送ったみたいに軽い警告とか威嚇威圧が普通だけど、エスカレートすれば社会的排除とか物理的排除にまで発展するんだから男の君が気を配らないとね」
「お、おう……ど、どうすればいいんだ?」
「本人の性質にもよるけど基本的に不安だから行動に移そうとするんだよ、だから安心させてやればいいだけさ」
「……はい、とてもお詳しいですね戸手さん」
戸手に彼女が居たという話は聞いたことがないのだが……妙に実感がこもって聞こえるのは何故だろうか。
「女の子はか弱いからね、不安になるのも無理はない話だよ……そういう時は抱きしめて愛をささやいてあげるといいよ、仮に刃物が飛んできたとしても我慢して……ね」
「……お腹の傷はひょっとしてそれでついたんですか?」
「あはは、いずれ皆川には話してもいいかもしれないな……まあ当たらずとも遠からずってところで今回はね」
「お、おう……苦労してるなぁお互いに」
俺の苦悩なんてこいつが経験してる十分の一ぐらいかもしれないけどな。
「ああ、本当にねぇ……もう一度話を戻すけど実は陽花ちゃんから矢部稲子先輩だけ名指しされてどうしてもごまかしきれなかったんだ、ごめんね」
恐らくは携帯の連絡先を見て矢部先輩の名前を知ったのだろう、すさまじい判断力だ。
「いや気にしないでくれ……で、なんて伝えたんだ?」
「皆川とは入部以来の一年程度の付き合いであることと、精神的にやばいけど見た目は良いこと……まああくまで僕の主観だと告げておいたけどね」
「大体あってるから問題ないが……そういえば矢部先輩、ぶっ壊れてたんだけど?」
昨日学校であったことを軽く説明する、戸手はやっぱり笑顔で聞いてくれた。
「ああ、君も辞書ノルマを受けたのかぁ……あれは大変だよねぇ」
「何で知ってるんだ……君もってことはまさかお前……」
「一人ぼっちで部室に籠ってぶつぶつ言ってたから放っておいたら危険かなと思ってね……新鮮な経験だったよ、辞書を五冊も暗記したおかげでテストの成績も上がったし一石二鳥さ」
だからさぁ、笑顔で言うなよぉ……少しぐらい怒っていいんだぞお前は。
「五冊かぁ、俺は三冊だぞ……お前のほうが期待されてるってことかな」
「いや僕は君が顔を出さなかった全期間で五冊だからね……それに君のことをすごく気にしていたよ先輩は、何だかんだで先輩が進めた本を全部読んで感想を語れたのは君だけだったからって」
俺は元々読書が好きだったし、何より先輩が進める本は本当に面白かった……だというのになぜああなってしまったのか?
「あの人は……何であんな風になってしまったんだ、そんなに辞書話をしたかったのかぁ」
「僕は読んだけど最低限のノルマしか聞かれなかったから、それは表向きの理由だと思うよ……多分君が見ていない間にセクハラじみた行為でも受けて自衛もかねて暴走してるだけじゃないかなぁ」
本当に本好きな同士を求めての暴走か……本は目で追うだけじゃ無くて心で読むってあれ結構本気だったのかな?
「セクハラねぇ……うちの部員に目で追う輩はいても直接手を出せる度胸のあるやつはいないと思うんだけどなぁ」
「意外と女性からすればじろじろ見られるだけでストレスを感じるのかもしれないね、それが積もり積もってある日ドーンって感じなのかな」
「うぅ……それは、俺も横目で眺めるぐらいはしてたから……なぁ」
「まああれだけ胸部が立派だと女子からも見られてるみたいだし……ひょっとしたら君と本の話をしてガス抜きをしていたのができなくなって、というパターンもあり得るのかな?」
猶更俺の責任じゃないか……うぅ、今日の先輩と顔を合わせることへのプレッシャーが強い。
「最も僕は矢部稲子先輩とはそこまで親しくなかったから断言はできないけどね」
「はぁ……そうだよな、俺どうしたらいいんだ……今日も辞書の感想を聞きに来るって言うんだよ、読んでないけど」
「あはは、まあはっきり言って皆川は先輩と付き合ってるわけでもない、一学生同士なんだからそこまで責任を感じることもないよ……素直に思ったことを口にすればいいんだ」
「そうか、まあそうだよな……」
「そうだよ、もし仮にそれで相手の感情が高まっても最悪でも病院送りになる程度の攻撃を受けるぐらいだからね……簡単簡単」
全然簡単だと思わないのだが、本気で戸手はそう思っているようだった。
俺は少しだけこの友人の笑顔に恐怖を覚えながら、並んで通学するのだった。
「じゃあ僕はこっちだから……またね皆川」
「物凄く名残惜しいが、またな戸手」
クラスが違う戸手とちょうど俺の教室の前で別れる……名残惜しくて後姿を見送ってしまう。
教室に入る前に戸手が手を振ってくれて、俺も振り返しながら教室へと足を踏み入れた。
「おはよー、待ってたよーっ!!」
「うぉっ!? や、矢部先輩なんで俺の席にっ!?」
途端に俺の席に座ってこっちにむかいニコニコと手を振る矢部先輩と目が合ってしまった。
「来ちゃったぁ、どうしても皆川君に会いたくてぇ」
周りはひそひそとささやきながら俺と先輩に視線を集中している……バカップルだとか、あの様子じゃもつれ話とか、全部間違いだ畜生。
とりあえず俺が最初に感じた感情は恐怖と倦怠感だった……戸手君カムバックっ!!
全力で教室を後にしてHRが始まるまで逃走してみたいが……放置するわけにもいかないよなぁ。
「どうしたんですか矢部先輩、もうすぐHR始まっちゃいますよ」
「もうつれないなぁ……私が昨日皆川君に捧げた大切なアレの感想聞きたくてぇ」
わざとそういう表現をしているのか、案の定周りの反応が激しくなった……人をさん付けで呼ぶな、まだ大人になってねえよっ!!
「はっはは、ああ辞書のことでしょうっ!! あの読んでほしいって言って渡された辞書のことっ!!」
「もうわかってるくせにぃ……それでどうだった?」
目をぎらつかせながら詰め寄られて感想を聞かれる、接近しすぎて胸の弾力を感じるけど全然嬉しくない離れてほしい。
もうどうしていいかもわからず、俺はやけくそ気味に全てぶちまけてやることにした。
「読んでませんよ、あんな重いもの家に着いたら放り投げて忘れましたよ」
「え……そ、そんあぁ、じょ、冗談だよ……ね?」
「本当です、他の本ならともかく辞書を喜んで読む人間なんか居ませんよ」
「目の前にいるでしょっ!! 私私っ!!」
首根っこ掴んでグラグラ振り回さないでほしいです、息が詰まって死にそうだ。
周りから声が聞こえる、やっぱり痴話げんかだの修羅場だの……辞書は秘密の比喩表現とか勝手に推理してんじゃねえこの迷探偵ども。
「首から手を放してぇ……矢部先輩とにかく俺は辞書なんか読みません、今度持ってくるから返しますよ」
「う、裏切り者っ!? わ、私との蜜月の日々は嘘だったのっ!? あんなにたくさん私の思い出を共有しておいてぇっ!!」
「あはは、思い出の共有てお勧めの本のことですよね~~皆さん聞きましたねー誤解しないでねー」
一生懸命アピールするけど全然伝わらない様子で、露骨に女子からの視線がきつくなる……ヤジ飛ばさないでよ、心折れるわぁ
「や、やっぱり昨日のあの女が原因ね、陽花とかいう泥棒猫めっ!! あいつが私の皆川君を……許せないっ!!」
「矢部先輩が陽花と何を話したのか知りませんけど、うちの妹に手を出すなら流石に許しませんよ」
これだけは譲れない、陽花は俺の大切な妹なのだから危害を加えようというのならたとえ先輩が相手でも……だから浮気じゃないよ皆さん。
(皆からの視線が痛いなぁ、俺ってこんなに人望なかったのか……)
「その様子だとやっぱりあの子に騙されているんだね皆川君、あの悪魔のように恐ろしくも残酷な少女に……」
「天使のような麗しい魅力的な清涼感溢れる清純なる世界一美しい宝石のような少女の間違いじゃなくてですか?」
「ああ、洗脳されているぅっ!?」
正直な気持ちをつげたはずなのに洗脳扱いされるとは不思議な話だった、周りの目も……なんかドン引きしたみたいに後ずさりしてる?
矢部先輩はキリっと表情を引き締めると深く深呼吸して話し始めた……眼鏡越しの鋭い視線はちょっとだけ素敵だなと思った。
「いい、皆川君……あの子はね私に電話してきたと思ったらなんていったと思う?」
陽花が言いそうな事ねぇ……お兄ちゃんだいすき、は俺にしか言わないだろうし何だろう?
「うーん、俺に関する内容かなぁ……」
「全然違うのっ!! あの子はねぇ……あの子はねぇ……辞書なんかインターネットがある今ただの資源ごみだって笑ったのよっ!!」
「ウワァヒドォイ……」
すさまじくどうでもよかった。
「それだけじゃないわ、火を使えば焚き付けぐらいには使えそうですねって鼻で笑って私が渡した辞書をキャンプファイヤー代わりに燃やして実況してあげましょうかとまで言ったのよっ!!」
「それは少し酷い……というか、本当にそんなこと言ったんですか?」
あの陽花がそんなことを言うなんて信じられない、そもそもネットだとかの知識があるとも思えない……とも言い切れないなぁ。
(精神的成長が著しいとか言ってたし、意外とどこかからそういう知識を仕入れてきているのか?)
しかし本を燃やすのはいただけない、最初に言った通り資源ゴミとして回収してもらうべきだと思う。
その点は後で陽花にしっかり教えてあげないといけない、ゴミの分別は大事だからね。
「はっきり聞いたわ、あんな子と一緒に暮らしている間に皆川君まで影響されちゃったのね……よし、決めたっ!!」
「何をですか……資源ごみの回収?」
「皆川君しっかりしてっ!! 私が直接お宅訪問して陽花ちゃん共々しっかりお説教してあげますっ!! 目が覚めるようにねっ!!」
「勘弁してください……というかうちの陽花を虐めるなら本気で容赦しませんよ」
毎日迷惑をかけられていて精神的疲労の発生源でもあるが大事な妹なのだ、もし泣かせようものならたとえ先輩相手でも……デコピンぐらいはしてしまいそうだ。
(だけど確かに少しぐらい他所の人から説教されたほうがいいかもしれないなぁ)
戸手の発言と合わせても意外と外部でやんちゃしているようだし、俺に対する張っちゃけっぷりも激しくなるばかりだ。
毒を持って毒を制す……とまではいわないが、案外俺の生活も少しは落ち着くかもしれない。
「まあ辞書も返したいですし、家に寄るぐらいならいいですけど」
「わかったわ、任せておいてっ!! 必ず悪魔の手から皆川君を救い出し共に活字の海に溺れるであろうっ!!」
「……変な予言ですねぇ、辞書ばっかり読んでるから言葉遣いが変になるですよ?」
「もう皆川君の意地悪っ!! じゃあ放課後校門で待ち合わせねっ!!」
ようやく矢部先輩は自分のクラスへと戻っていった……ああ、朝から疲れた。
何で俺ばかりこんな目にあうのだろうか、全ては陽花が来てからのような気がする……けど可愛い陽花のせいではない、断言する。
とりあえず疲労を癒すために机に倒れこんで、昨日の陽花ダンスでも思い出すことにしよう。
「ちょっといいかしら、皆川君」
「はぁ……何でしょう委員長」
椅子に座るなり隣の席から声を掛けられて更なる対応を求められる……早く休みたいんだけども。
クラス委員にして生徒会長も務める成績優秀者の正道葉月さんだ、目付きこそキツイが間違いなく美人と表現できる女性。
しかも運動部で活躍していることもあり引き締まった身体のスタイルも良好で、性格も真面目で責任感が強く自分の意見をはっきりと主張していて格好良く……学校中のあこがれでもある人。
俺も隣の席になったばかりの時はドキドキしたけど、特にロマンスなどあるわけもなく日々を過ごしていた。
(あの正道さんが俺なんかに何の用だろう……って十中八九さっきの揉め事だよなぁ?)
「さっきの話なのだけれど……あなた、妹さんなんか居たかしら?」
妙に人の家族構成に詳しいが、確か生徒会長だから全生徒の情報を把握してるとか聞いた覚えがある。
本当だとしたら恐ろしい記憶力だが、実際にこう事実を突きつけられると納得してしまいそうになる。
「……最近親が再婚したんですよ、どうしてですか?」
「あらそうだったの、てっきりあの場をごまかすための嘘かと思ったわ」
「ごまかすって何をごまかすんですか?」
「浮気相手をよ……妹ということにして別れ話を有利に運ぼうとしてるんじゃないかなってね」
はっきりとこっちを見つめたまま言われて流石に辛い、俺は携帯を取り出して写真を見せることにした。
「別れ話も何も俺と矢部先輩はそういう仲じゃありません……ほら、この家族写真のこれが妹の陽花ですよ」
「どう聞いてももつれ話にしか聞こえなかったけど? 大体辞書にあんなにこだわる女性がいるかし……あぁら?」
俺の携帯画面に表示された陽花の姿を見て正道さんの動きがそのまま停止した、こんな間抜けそうな姿をさらしている彼女は初めてだ。
実際にクラス内もちょっとざわついてまたあいつかと後ろ指をさされて……俺が何をしたぁっ!?
「あ、え、えっとこの子があ、あなたのい、妹の……よ、陽花ちゃんって言ったわよねっ!?」
「あ、はい……どうかしました?」
「な、ななな、なんでも、なんでもないわよよよっ!!?」
どう見ても、いやどう聞いても何でもないとは思えないのだが……一体どうしたのだろうか?
「と、ところでその子せ、制服着ているけれどど、ど、どこの幼稚園に通ってるのねぇっ!?」
「血走った目で近づかないで、怖いです……ほら近くに炉利書田幼稚園があるじゃないですか」
「あ、あそこなのねっ!! き、奇遇だわね実は私の妹もそこに通っているのよっ!!」
「そ、そうですか……それは知らなかったです」
意外な接点に驚いてしまう、何より正道さんに年の離れた妹が居ることも驚きだった。
(同じ幼稚園なら、幸人君のこと何か知ってるのかな?)
「そ、それであなたはバス派っ!? じ、自力で運ぶ派っ!?」
「それはバス……あ、チャイムなりましたね続きはまた今度で……」
「こ、今度っていつっ!? 今話しましょうっ!! HRなんかどうでもいいじゃないっ!!」
何が彼女をここまで駆り立てるのだろうか……よくわからないけどとても怖いです。
全く会話を止める気配を見せない正道さんに怯えながら、俺は早く先生が来ることを祈るのだった。
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