皆で海
「お兄ちゃん、はやくはやく~っ!!」
「石生君、急いでよぉ~」
「はぁはぁはぁ、石生様早く早く早くぅううっ!!」
「お、おにいさんだいじょうぶですか? ぼくじぶんのにもつはもちますよぉ」
女性陣が荷物を担いだ俺を囃し立てる中で幸人君だけが気遣ってくれる……いい子だなぁ本当に。
「ゆ、幸人君の荷物は平気だよぉ……だけどあなたたちはせめてパラソルぐらい持って行って……場所取りはしてほしいんですけどぉ」
「駄目だよぉ石生君、か弱い女の子にそんなもの持たせちゃいけないんだよぉ~」
「そ、そんなぁ……うぅ……今回ばかりは葉月さんに頼めないしぃ……」
「陽花ちゃんお姉さまの水着ぃいいいっ!! 海水でベトベトになったところを私の舌でベロベロして全身をペロペロぉおおおっ!!」
興奮しきっている葉月さん……俺と陽花が海に行ったと聞いて以来ずっとこの調子だ。
(まさか旅費を出してまで俺たちを誘い出すとは……恐るべし……)
最もだからこそお金以外で恩を返そうと、こうして肉体労働しているわけだが……稲子さんも少しは協力してほしい。
「お兄ちゃん、いそがないとばしょぜんぶとられちゃうよぉ?」
「うぅ……そう思うなら手伝ってください~……しくしく……」
「ふふ~ん、大丈夫だよ陽花お姉さま……先にヒトミンに場所取りお願いしておいたからね~」
稲子さんの言う通り砂浜まで到着すると、向こうで戸手が手を振っていた。
「こっちこっち~、いやぁまさか皆川たちと海に来る日が来るなんてねぇ~」
「遅かったなぁヤベッチィ、全く手間取らせる奴らだ……私に感謝するんだぞっ!!」
いつの間にかあだ名で呼び合う関係になっている人見先輩と稲子さん……まあ同級生でボッチ仲間同士シンパシーでも感じているんだろう。
「あのねぇ詩里香……場所取りも荷物運びも朝起こしたのもここまで連れてきたのも全部僕がやってるんだけど……」
「お、お、お前が昨日も夜中まで寝かせなかったんだろうがぁああっ!!」
「ば、馬鹿お前っ!?」
「……お盛んだねぇ」
顔を赤らめて言い合っているバカップルは無視して、近くに荷物を置かせてもらう。
「しかしやっぱり夏休みだなぁ……この間と違って人が結構いるわ……」
まだ朝も早いのにあちこちで陣取っている人たちがいる、俺たちと同じく学生だろう。
「お兄ちゃん、イルカさんふくらませてっ!!」
「気が早いよ……先に荷物を出さないと……陽花はみんなと一緒に着替えておいで」
「はぁはぁはぁはぁっ!! ひゃっほぉおおおおっ!! 陽花ちゃんお姉さまお着替えタイムよぉおおっ!!」
「……興奮しすぎです葉月さん」
軽くチョップして諫めるが全然止まらない……温泉旅行で裸は見たはずなのにどうしてここまで興奮できるのだろうか。
「だってこの瞬間の為に来たのよっ!!」
「違うでしょ……着替えだけして帰る気ですかあなたは……」
「まあまあ、じゃあ私たちはお着替え行ってくるねーっ!!」
「あとおねがいねお兄ちゃん、とでおにいちゃん……ほらゆきとくんいこーっ!!」
「え、えっとぼくはまだおとこのこだからおにいさんたちとじゅんびしていきますぅ」
相変わらず健気な子だ……思わずナデナデしてしまう。
「ほら皆川、幸人君に構いたい気持ちはわかるけど準備だけは終わらせてしまおうよ」
「お、おうそうだな……幸人君は浮き輪とかイルカさんとか出してこのポンプで空気を入れておいてね」
「はい、ぼくがんばりますっ!!」
良い子の返事をして幸人君は黄色いポンプを一生懸命踏んづけ始めた……お兄ちゃんも踏んでほしい。
「ほらほら、見惚れてないで……パラソルは開くから皆川はシートとテーブルチェアーを用意してね」
「わ、わかったよ……」
戸手に言われるままにテーブルとイスをセッティングする……そしてシートの上に荷物を置いておく。
「ふぅ……ふぅ……で、できましたぁ」
「おお、大したもんだねぇ幸人君……偉い偉い」
「えへへ……ぼくがんばりましたぁ」
「これで大体準備は出来たね……後は女性陣の着替えを待つだけだ」
俺たちは椅子に座りながら女性陣の到着を待つことにした。
「うーん、やっぱり混んでるなぁ……」
「そうだねぇ……それに若い人が多いし、いろいろ気を付けたほうがいいかもしれないねぇ」
「いろいろ……ですかぁ?」
不思議そうに小首をかしげる幸人君、きゃわいい。
「そう色々……そういえば幸人君の水着はどんなのなんだい?」
「えへへ……ひみつですぅ」
「そんなこと言われると気になるなぁ……まあすぐにわかるけど……」
「ああ、楽しみだなぁ……」
「何が楽しみなのぉ~?」
稲子さんの声がして振り返り……俺たちは固まった。
豊満な肉体をまさかのスクール水着で包み込んだ姿は……凄まじくコメントしずらいものだった。
「い、稲子さん?」
「どぉ……やっぱり変かなぁ? あんまり予算無くて新しい水着買えなくて……古いのは胸のサイズが合わなくて……てへへ……」
「い、いや悪くはないんですけどね……むしろ良いと思いますよ」
正直ビキニとか胸を強調する水着だとばかり思いこんでいた……しかしこれはこれでいいかもしれない。
「稲子先輩は何を着たって魅力的ですよ……私に比べればねぇ……くぅ……」
「ほ、本当に何だよその胸ぇ……反則だろぉ……」
「陽花もぺたぺた……はやくおおきくなりたいよぉ……」
後から他の女性陣もやってきた、陽花は前と同じセパレートの水着だ……可愛いけど心配だよぉ。
葉月さんはハイネックとでもいうのか、胸から首までを覆うタイプのビキニだ……うん、すらっとしてて格好いいです。
そして人見先輩もフリフリのフリルが着いたビキニスタイルだ、ただし下はショートパンツ風になっている。
「葉月さん……何だかんだで見た目だけは美人……というか格好いいですねぇ……」
「も、もう少し素直に褒めてくれない……嬉しいけどさぁ……」
「うん、お姉ちゃんとってもすてきですぅ……やべおねえさんもすごくにあってますよぉ……」
「えへへ、ありがと幸人君」
「詩里香も凄く魅力的ですよ……ドキドキしてるよ僕」
「お、お前はいつでもだろ……馬鹿……」
人見先輩は口ではそう言っているが嬉しそうに笑っている……ラブラブだなぁ。
「陽花はっ!? 陽花はどうなのぉっ!?」
「勿論一番可愛いよぉ、決まってるじゃないかぁ」
「うん、ようかちゃんとってもかわいいですよ」
「ほ、本当は私が準備した水着着せてあげたかったのにぃいいいいっ!!」
「葉月ちゃん……あれは水着って言わないよぉ……」
「お前お前お前……あ、あんな紐みたいなの本気で着せる気だったのかぁあああっ!?」
とんでもない発言が聞こえてきた、葉月さんを睨みつける……紐って何だよ。
「あ、あれもスリングショットって言う立派な水着なのよぉ……うぅ……どうして認めてくれないのぉ……」
「あんなのきれないよぉ……はづきおねえちゃんだってきれないでしょ?」
「……ヤベッチィなら似合うかもなぁ」
「はぅっ!? さ、流石に勘弁してぇ~」
女性陣が悲鳴を上げているスリングショットという水着……一体どんなものなのやら。
「やれやれ……とにかく交代しよう、皆川も幸人君も着替えて来ようよ」
「ああ、そうだなぁ……じゃあ陽花を頼むよ」
「いってきますね」
「はいはーい、行ってらっしゃーいっ!!」
皆に見送られながら、俺たちも施設の更衣室に入って着替えることにした。
「幸人は一人で着替えられるかなぁ……もしよければお兄ちゃんが手伝ってあげるよぉ?」
「ありがとうございます、だけどぼくひとりでおきがえできますよ」
「け、けど万が一のことがあったらいけないし混んでも困るからやっぱり一緒に入ろうねぇっ!!」
「皆川、迷惑だからね……そして周りから物凄く睨まれてるからね」
俺の親切心はどうして伝わらないのだろうか……酷いよぉ。
そして幸人君は一人で更衣室へ入って行ってしまった……俺もさっさと着替えよう。
相変わらずトランクスタイプの水着に着替えて、上半身は裸だ……あっという間に終わった。
外に出て近くで戸手と幸人君が出てくるのを待つことにした。
「お待たせ」
「おお、来たか戸手……また本格的な……」
戸手はウェットスーツで上下をしっかり固めていた……サーフィンでもする気かなぁ?
「あはは、ほら僕って身体中に傷があるからさ……ちょっと見せられないだろ?」
「ああ、納得……」
「お、おまたせしましたぁ」
「おお、幸人く……幸人ちゃん?」
まるでお姫様が着るようなフリルが何段もついた、ワンピースタイプの水着を着た幸人君が姿を現した……可愛すぎるんだけどぉおおっ!!
「凄いねぇ、どこからどう見てもお嬢様にしか見えないよ……」
「そ、そうですかぁ……お、お兄さんぼくにあってますか?」
「うん、とぉおおおおっても似合ってるよぉおおおっ!! お、お兄さんねぇ抱っこしたくてたまらないよぉおおっ!!」
「み、皆川……凄い顔してるよ……流石の僕も引くよそれは……」
戸手がドン引きしている……仕方ないじゃないか、こんな可愛い子が目の前に居るんだから。
「ぼ、ぼくひとりであるけますよぉ……えへへ、にあってるんならよかったですぅ」
「ほら皆川、いつまでも見惚れてないでみんなのところに戻ろうよ」
「そ、そうだな……幸人君、手は繋いでいこうねぇ」
「はい、おにいさん」
幸人君のちんまいお手手を優しく握り、速度を合わせて歩き出した……幸せだなぁ。
「おお、幸人君可愛い~~っ!!」
「す、すごいねぇゆきとくん……そのみずぎちょっとうらやましいかもぉ……」
「……な、なあ本当にこいつ女じゃないのかぁっ!?」
「うんうん、流石幸人ね……私の選んだ水着がよく似合ってるわぁ」
女性陣が全員幸人君にかかりきりだ……まあ可愛すぎるもんなぁ。
「えへへ、ありがとうございますぅ」
「じゃあゆきとくん、さっそくおよごーよっ!!」
「ちょっと待って、準備体操はしたのかな?」
「そうね、流石に身体をほぐしておいたほうがいいわね」
みんなで輪になって準備体操を始める……チマチマ動く陽花と幸人君が可愛い。
「うんしょ……はふぅ……何でみんな私を見てるのぉ?」
「いや……」
「ねぇ……」
ジャンプしたり屈伸したりし始めると、今度はどうしても稲子さんに視線が集中した……だって揺れてるんだものぉ。
「と、とにかく運動はこれぐらいにして泳ごうよ?」
「戸手ぇ……お前まで見惚れて……罰としてお前荷物番してろぉっ!!」
「そ、そんなぁ……」
「すまんな、戸手……後は任せたっ!!」
日差しが熱くて早く海につかりたい、俺たちは戸手を置いて海へと向かった。
「ひゃぁっ!? 凄く冷たいぃっ!?」
「最初に心臓に水をかけましょうね……ほら陽花も幸人君も……」
「えいえい……うぅ、つめたいぃ~」
「えいえい……はぅ、ほんとうにつめたいですぅ」
「冷たくて……気持ちいいわねぇ……」
「くぅ、冷た……ひゃぁああっ!! と、戸手戸手戸手ぇえええっ!!」
しゃがんで水をかけていた人見先輩が大きい波に正面からぶつかり、涙目になって立ち去って行った……咄嗟に陽花と幸人君を抱きかかえて正解だった。
「ありがとーお兄ちゃんっ!!」
「ありがとうです、おにいさん」
「良いんだよ、陽花に幸人君……海は危ないからずっとこうしていようねぇ」
「よ、陽花ちゃんお姉さまはこっちに来ていいのよぉっ!!」
「私も混ぜてぇ~っ!!」
横から葉月さんと稲子さんがくっついてくる……柔らかい、ヤバい。
「お兄ちゃん、陽花とゆきとくんはイルカさんであそぶのぉ」
「もうぼくもだいじょうぶです、ようかちゃんあそぼぉ」
俺の腕から飛び降りる二人、イルカさんを浮かべて上に乗って遊び始めた。
「ふ、二人とも気を付け……うわぁっ!?」
「ふっふーん、隙ありだよ石生君っ!!」
「い、稲子さん……冷たいってぇ」
稲子さんが笑いながら水をかけてくる、ちらりと横目で見ると陽花たちは葉月さんが見ていてくれている……今のうちにお返ししておこう。
「うりゃぁっ!!」
「きゃぁっ!? 冷たいよ石生君っ!! ええいっ!!」
稲子さんと水を掛け合う……水着が濡れて肌に張り付いて、見た目が危険だ。
ついつい夢中になってしまう……だって揺れるし形もはっきり見えるし、魅力的過ぎるのだ。
「うっふっふ~、どこ見てるの石生君~」
「うぐっ!? す、すみません……」
「えっへっへ~、別に石生君ならいいけどねぇ~……このまま私の魅力でメロメロにしちゃお~」
「ちょ、ちょっと……うわぁっ!?」
じりじりと沖合へ押しやられ、さらに抱き着かれて海中に飛び込まれた……冷たいけど、それ以上に柔らかい。
(こ、これは破壊力がやばいぃっ!?)
「へっへ~、捕まえたよぉ~……」
俺の上に馬乗りになって、水に濡れた髪の毛をかき上げる稲子さん……下から見上げると胸の大きさと言いとても迫力があり……妖艶だった。
「い、稲子さん……ちょ、ちょっとこれは破壊力ありすぎですって……」
「えぇ~何のことぉ~……ああ、メガネ濡れちゃったぁ……」
眼鏡をはずして水滴を払う稲子さん、裸眼の姿はとても珍しくて……さらに色っぽく感じてしまう。
(や、やっぱり美人だよなぁ……凄く魅力的だ……)
改めて認識してしまう……そんな人と触れ合っている事実にさらに興奮が隠せない。
「あうぅっ!?」
「ふにゃぁっ!?」
「陽花っ!? 幸人君っ!?」
「あうぅっ!? い、石生君っ!?」
そんな俺の耳に二人の悲鳴が聞こえてきた、途端に何もかも吹き飛んでそっちに意識が向かってしまう。
起き上がり二人のほうを見るとイルカさんが転覆してしまったようで一生懸命顔に着いた海水を拭っている……ネコさんみたいで可愛い。
「石生君……全くぅあの子たちのことになると全部とんじゃうんだからぁ……」
「あ……す、すみません稲子さん……」
強引によけた稲子さんが尻もちをついてこっちを呆れたように見つめていた。
慌てて手を差し伸べて引き上げる……そのままの勢いで俺の胸に倒れ込む稲子さん、お陰で俺も一緒に尻もちをついた。
「あぅっ!? さ、支えてよぉ石生君っ!!」
「す、すみません……そ、そして離れて……む、胸が……」
「くっついてるねぇ~、どぉ……柔らかい?」
「柔らかすぎて理性が飛びそうですぅ」
水着越しに俺の胸板に稲子さんの胸が押し当てられて……ちょっとシャレにならない。
「えぇ~どれどれぇ~」
「ちょ、い、稲子さんどこを触ろうと……」
「お、お兄ちゃぁん、助けてぇええええっ!!」
「よ、陽花どうし……っ!?」
「陽花ちゃんお姉さまぁああああっ!! お顔キレイキレイしてあげるから戻ってきてぇえええっ!!」
俺に泣きついた陽花、その後ろから久しぶりに暴走している葉月さんが迫ってきた。
「葉月ちゃぁん……もぉ、せっかく良いところだったのにぃ~……何してるのぉ?」
「陽花のかおについたかいすいなめとろうとするのぉおおおっ!!」
「うぉいっ!! 何しようとしてんだぁああっ!!」
「はぁはぁはぁ陽花ちゃんお姉さまの顔から垂れる至純なるエキスを舐めとらないなんて嘘よぉおお……おぐっ!?」
何とかチョップを決めることができた……確かに顔をぬぐってる陽花は可愛かったが暴走までするなよ。
「あうぅ……い、痛いじゃないのぉ……」
「俺の陽花に欲情しないでください……」
「えへへ……そう、陽花はお兄ちゃんのものなのです」
俺に嬉しそうにしがみ付く陽花……その頬に雫が付いていて舐めと……いや何でもない。
「……あれぇ、幸人君はぁ?」
そういえば稲子さんの言う通り幸人君の姿がない、きょろきょろ見回して……イルカさんに乗ったまま沖に流されていくところを見かけた。
「なんかあんなアニメあったよねぇ……」
「ゆ、幸人君カムバァアアアアックっ!!」
陽花を稲子さんに預けて全力で幸人君を追いかける俺……何とかぎりぎり連れ戻すことができた。
「お、おにいさん……どうしたんですかぁ?」
「な、何でもないよぉ……よ、よかったぁ……」
どうやら幸人君は自分が遭難しかけていたことに気づいていないようだ……わざわざ伝えて不安にすることもない。
「そうですかぁ……このイルカさんとってもおもしろいですよぉ、おにいさんものりませんか?」
「ゆ、幸人君が良いなら……乗っちゃおっかなぁ?」
「ぶぅ……お兄ちゃんは陽花とのるのぉっ!!」
「あわわっ!? だ、だめだよ陽花ちゃんそんなむりやり……あうぅっ!?」
横からイルカさんに飛びついた陽花、お陰でバランスがくずれて幼い二人は海に真っ逆さまだ。
「だ、大丈夫か陽花、幸人君っ!?」
「ふぇぇ……おはなさんにみずはいったぁ……」
「お、おめめがいたいですぅ……ぐすぅ……」
二人とも涙目になってしまった、一度上がったほうがいいかもしれない。
「ちょっと陸に上がって休憩しようか、ほら抱っこしてあげるから……」
「お兄ちゃぁん、くちゅん……ふぇぇ……おみみさんもへんなの~」
「くちゅん……うぅ……おくちのなかしょっぱいですぅ……」
俺に抱き着いてくしゃみして震える二人、不謹慎だが最高に可愛い……俺は今世界で一番幸せな人間だ。
「陽花ちゃんお姉さまは私に抱っこさせてぇえええっ!!」
「私も幸人君抱っこしたいなぁ~」
後ろから追いすがってくる二人に構ってる暇はない……一人だって渡すもんか。
「もう大丈夫だからね、パラソルの下で休ん……ちょっとタイム……二人とも目を閉じて……」
「う、うわぁ……やべおにいちゃんとひとみおねえちゃん……ちゅ、ちゅーしてるぅ……」
「しかもだきあってますよぉ……す、すごいなかがいいんですねぇ……みてるとなんか、どきどきしちゃいますぅ」
「だから見ちゃ駄目、君たちにはまだ早い……稲子さん、葉月さん……何とかしてください」
二人を抱きかかえて戸手達に背中を向ける……教育に悪いわ。
「ちょっとちょっとヒトミ~ン、こんなところでエッチなことしちゃぁ子供に悪影響だよぉ」
「あのねえ戸手君、せめて人目から隠れてしなさいよ……」
「あ、あはは……み、見られちゃったかな……もう少し遅いと思ったんだけど……」
「だ、だからやめろって言っただろうがぁああっ!! 馬鹿馬鹿馬鹿ぁああっ!!」
もう大丈夫そうだ、改めてみんなの元へと合流する……顔を真っ赤にするぐらいなら最初からするなよ戸手に人見先輩よぉ。
「私たち少し休憩するから今度は二人が泳いで来たらどう?」
「そ、そうだね……行こうか詩里香……」
「し、知らん知らん知らんっ!!」
一人で走っていく人見先輩を追いかける戸手……本当にあの二人はバカップル過ぎる。
「さて飲み物でも買ってきますか……みんな何を飲むの?」
当たり前のように立ち上がる葉月さん……流石に飲み物代まで出させるのは悪すぎる。
「俺が行って買って来るよ、葉月さんは休んでて……」
「良いわよ気にしないで……」
「いや流石に……稲子さんも何か言ってやってください」
「私はコーラでよろしくぅ」
「そうじゃなくてぇ……」
稲子さんは意外に堂々としている……お金関係は出世払いということでけりが付いたらしい。
「じゃあ……陽花お姉さまと幸人君は何飲みたいのぉ?」
「オレンジジュースっ!! 陽花オレンジジュースだいすきぃっ!!」
「ぼくはおちゃがいいですぅ……あまいもののむとむしばになっちゃいますぅ」
「少しぐらい平気だけどなぁ……まあいいや、じゃあ買ってきますね」
「だから私が行くって……というか五本も買うんだからいっそ一緒に行きましょうよ」
葉月さんの提案は最もだ、俺は稲子さんに子供二人を任せると並んで歩きだした。
「もぅ、本当にお金のことは気にしないでいいのに……真面目ねぇ石生様は……」
「その辺はしっかりしておかないと気持ち悪いから……大体ここまでの旅費だって葉月さん持ちじゃないか、流石に悪いって」
「だって私が来たくて来たんだもん……本当に楽しいわぁ」
「俺だって楽しいですよ……だからこれぐらいは出させてください」
俺の提案にようやく葉月さんは頷いた。
「わかったわよ、全く……だけどこうして二人で歩くのって久しぶりねぇ……」
「そうだなぁ……何だかんだで陽花や幸人君それに稲子さんもいるからなぁ……」
「だけど意外とあなた稲子さんとは二人になってるわよねぇ……ちょっとずるいわ」
「たまたまだよ……それに大したことしてるわけじゃないし」
さっきだって何をしたわけでもない……ただちょっとドキッとしただけだ。
「本当かしらねぇ……あの大きな胸を揉んだりしたんじゃないのぉ?」
「まだ触ってすらいないよ……はぁ……」
「あはは、可哀そうねぇ……何なら私の胸でも触ってみる……触れるもんならねぇ……はぁ……」
「自分で言って落ち込まないで……それに葉月さんの胸も……正直魅力的だからあんまりそういうこと言わないでほしい……」
はっきり告げてやると、葉月さんははっと俺の顔を見上げ……顔を赤らめた。
「そ、そうなの……よ、よかったというかなんというか……やっぱり石生様って貧乳が好きなのね?」
「そうじゃなくてぇ……どうしてそうなるのかなぁ……」
「だってぇ……自分でも揉み応えなくてつまらないんだもの……稲子さんのはあんなに楽しかったのにぃ……」
ぺたぺたと自分の胸を触ってはため息をつく葉月さん……なんだかそのしぐさがどこか幼くて、可愛かった。
(美人なのに可愛いって……反則だよなぁ……)
改めて葉月さんの美しさを意識してしまう、水に濡れてスレンダーなスタイルが強調されて……本当に格好いい美人だった。
そんな人と並んで歩いている事実に……どうしてもドキドキしてしまう。
「葉月さんは……葉月さんで十分素敵ですよ……本当にドキドキしてますから……」
「あ……そうなんだ……私と一緒ね……ふふ……」
そう言って微笑む葉月さんを見て、俺もまた顔を赤らめてしまう。
心がとても温かくて居心地がよくて、俺たちはついついゆっくりと買い物をしてしまう。
「ただいま、飲み物机に置くからね」
「わーい、ありがとう石生君に葉月ちゃんっ!!!」
「どういたしまして……ほら、幸人もしっかり水分取りなさいね」
「わかったよお姉ちゃん……ごくごく、おいしいですぅ」
「ごくごく……ぷはぁ……あまくておいしぃいっ!!」
満面の笑みで飲み物を飲む子供二人を俺は笑顔で見守った……ああ、幸せだなぁ。
「よぉし、もういっかいイルカさん遊びしようっ!!」
「うん、ぼくもいるかさんのりたいっ!!」
「そうかそうか、じゃあお兄ちゃんが手伝ってあげようねぇ」
「うーん、私は少し休憩かなぁ……はぁ、やっぱりもう少し体力付けようかなぁ……」
「稲子先輩が残るなら私も残るわ……せっかくだしおしゃべりしましょう」
稲子さんと葉月さんに見送られて、俺たちは三人でイルカさん遊びをすべく海へと戻った。
「わーい、イルカさんイルカさんっ!!」
「えへへ、イルカさんでなみにのるとおそらをとんでるみたいでたのしいですぅ」
子供二人の喜ぶ声に癒されながら、俺はイルカが転覆しないよう支えながら波に挑み続けた。
「ふふふ……あれ、あそこにいるの戸手か?」
「ほんとうだ、とでおにいさん……ひとみおねえさんがいませんよ?」
「あぁ、ひとみおねえちゃんがかおだした……うわ、とでおにいさんころばされてるよぉ」
お互いに突き飛ばし合い、海の中で転げまわる二人……何してんだよ一体。
「戸手、人見先輩……何してるんですか?」
「や、やあ皆川……それがこの馬鹿が船幽霊だか何だかを見つけるって言いだして……」
「だ、誰が馬鹿だばぁあああかっ!! 最近お前が真面目にオカルト部しないからこっちが代わりにやってやってんだろうがぁあっ!!」
「だからって人を海の中に突き飛ばすなっ!! 僕だって息切れぐらいするんだぞっ!!」
「う、うるさいうるさいうるさいぃいいっ!! お、お前は私の言いなりになるって約束だろぉおおっ!!」
かつてのように言い合って水を掛け合う二人……修羅場、というよりも夫婦げんかにしか見えない。
「お幸せに……」
付き合切れない俺はさっさと去ることにした……我ながら最近戸手への対応が厳しくなってる気がする。
「お、おにいさん……ここっておばけでるんですかぁ?」
「お兄ちゃぁん、だいじょうぶなのぉ?」
「大丈夫だよ……大体こんなに太陽が照り付けてるのにお化けが出てこれるわけないじゃないか……」
怯える子供二人を落ち着かせるように笑顔で告げると、俺は再び波遊びをさせてあげた。
すぐに笑顔が戻って、俺は幸せな気持ちで時間を過ごした。
「さて、そろそろ昼ごはんにしようか」
「そうだね、流石に僕も疲れたよ」
「お、お前が無駄に抵抗するからぁ……うぅ……」
気づいたら合流していた戸手達と一緒に砂浜へ上がる。
「ああ、たのしかったぁ……」
「うん、このイルカさんぼくもほしくなっちゃったぁ……あれ?」
幸人君が首を傾げた、俺もまた視線の先を見て驚いた。
稲子さんと葉月さんが男に絡まれていたのだ……まああんな美人な二人組がナンパされないわけがない。
「……戸手、陽花と幸人君を頼んだ」
「ふふ、了解だよ……頑張ってね」
戸手に子供二人を預けて、俺は早足で稲子さんと葉月さんの元へと向かった。
「稲子、葉月……どうした?」
あえて呼び捨てで声をかけると、軟派な男には露骨に嫌そうな顔をしていた二人が笑顔で俺の元へ駆けつけてきた。
「石生……えへへ、来てくれたんだぁ」
「石生……ありがと」
「いや大したことじゃないし……それで俺の連れに何か用ですか?」
二人の肩を抱いて言ってやると、男たちは諦めたように去って行った……ああ、ちょっとドキドキしたぁ。
「ふぅ……すみません、二人とも美人なのに放置したりして……」
「えへへ、全然いいよぉ……稲子だってぇ……」
「ふふ……本当に気にしてないわよぉ……葉月って呼ばれちゃったぁ……」
「いや、ああ言ったほうが効果的だと思って……嫌だったか?」
「「全然っ!!」」
むしろ嬉しそうに微笑んで、二人は俺に抱き着いた。
「やっぱりおにいさんはかっこういいですぅ」
「陽花もたすけてもらいたいなぁ……ナンパされちゃおうかなぁ?」
「あはは……凄いなぁ皆川は……」
「やれやれ……まあヤベッチィと正道がいいならいいけどぉ……」
いつの間にか戻ってた四人に見られると途端に恥ずかしくなる……だけど稲子も葉月も離れてはくれなかった。
その後も俺たちはみんなで日が暮れるまで遊び続けるのだった。
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