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陽花と海

第52部分『俺がデレデレな可愛い義妹』直後のお話

「お兄ちゃん、うみさんのにおいがするよぉっ!!」


「そうだねぇ、危ないから窓から顔出さないの……伊代音さん、停める場所ありそうですか?」


「大丈夫よ、そのために早く出たんだから……それに一応穴場だから」


 珍しく俺の学校と陽花の幼稚園、そして伊代音さんの休日が重なったこともあり俺たちは海に来ていた……親父は休みが合わず泣き言のメールが届いているが無視しておく。


 夏も真っ盛りで朝早いというのに太陽の日差しは強い……伊代音さんが運転する車の冷房は最強になっているが、それでも日が当たると汗が止まらない。

 

「はやくはやくぅっ!! 陽花たのしみだったんだからねっ!!」


 後部座席で飛び跳ねている陽花、とっても可愛いが今からそんな激しく動いていたら体力を使い果たしてしまいそうで心配だ。


(泳いでる最中に疲れ切って……もしくは足をつったりして……ああ、もう絶対離れるもんかっ!!)


「お、お兄ちゃん……ちょっとあつくるしいよぉ」


 俺は反射的に陽花を抱きしめてしまっていたが嫌がられてしまう……春の間はあんなに抱っこしてほしがったくせに。


「陽花、海さんはね危険がいっぱいなんだよ……だから今日は一日ずっとお兄ちゃんの腕の中に居ようね」


「あのねぇ石生君……流石に過保護過ぎよ、そんなんじゃ陽花泳げなくなっちゃうわよ?」


「大丈夫です、ずっと俺が付いてますから」


「わーいっ!! 陽花ずっとお兄ちゃんといっしょぉ……だけどちょっとはなれよっか?」


 陽花も俺にくっついて……やっぱり熱いみたいで少しだけ身体を離した、酷いなぁ。


「はぁ……ほら、着いたわよ」


 車を駐車場に止めて、俺たちは荷物を持って移動を始めた。


 まだ時間帯が早いことと、伊代音さんお勧めの穴場ということもあって人気は少ない……良さげな場所に陣取ることができた。


 大きめのパラソルで影を作り、組み立て式の机を砂場に立てて簡易の休憩所を作る。


「じゃあ私たちは先に着替えてくるわね……石生君、見張り番よろしくね」


「任せてください……陽花、俺が持たせたアレをしっかり着込むんだよ?」


「お、お兄ちゃんしょうきなのぉ……あんなのきたら陽花うごけないよぉ……」


「大丈夫よ、私が選んだのを着せるわ……それなら石生君もいいでしょ?」


 伊代音さんが軽くウインクする……まあ母親ならしっかり陽花をガードする水着を着せてくれるはずだ。


「そうですね、じゃあお任せします」


 二人が更衣室へ向かって行くのを見送ると、俺は持ち込んだクーラーボックスから飲物を取り出し軽く喉を潤した。


(ああ、風が気持ちいいなぁ……)


 影でじっとしていても余りの熱気に汗が止まらない……服が張り付いて気持ち悪い。


 俺も早く着替えたいところだ……二人の帰りを待ちながら海を眺める。


 気持ちよさそうな波の音が聞こえる、光の反射も眩しい……きっと入ったら気持ちいいだろうなぁ。


(だけどちょっと波が強いかな……やっぱり陽花にはずっと付いてないと危険だなっ!!)


 俺は絶対に陽花から離れないと再度決意を固めた。


「お兄ちゃーん、おまたせぇっ!!」


「おお、戻ったか陽……花……な、何を着てるんだいっ!?」


「ふつーのみずぎだよぉ、陽花がかわいくてみとれちゃった?」


 俺の前でポーズをとる陽花、その身体を包んでいる水着は上と下で別れたセパレートタイプだ。


 胸の部分は肩ひもで縛られたヒラヒラの布切れが覆っているだけ……下も同じくヒラヒラでスカート状になっている。


 恐らくスカート部分の下にはスパッツか何かで隠されているとは思うが……露出が激しすぎる。


(へ、へそも見えてるし肩から腕先までも丸見え……太ももだって半分から下は丸出しじゃないかっ!?)


 肌色の部分が多すぎる、こんなの破廉恥だ……露出が許されるのはせいぜい両手足のつま先ぐらいじゃないだろうか。


「よ、陽花ぁ……やっぱり俺が持ってきたアレを使おうよぉ」

 

「えぇ……いやだよぉ、陽花あんなうごきづらいのつけたくないよぉ」


「あ、安全にも良いんだよっ!! だから両腕と両足にたくさんつけようね、補助浮き輪さんっ!!」

 

 腕や脚部に通して使う浮き輪、これで露出面を覆い隠すと同時に絶対に溺れないようにすることができる……やっぱり持ってきてよかったぁ。


「ほら腕と脚を出して……お兄ちゃんがつけてあげるからっ!!」


「石生君、いい加減にしなさい……流石に陽花が可哀そうでしょ?」


「で、でも陽花の安全……い、伊予音さん……な、何ですかその水着はぁ……」


「どうかしら、これでもまだ若いんだから……全然いけてるでしょ?」


 振り返った俺が見たのはビキニ水着を着こんで得意げにこちらを見ている伊代音さんだった……仮にも子供と一緒に来てる母親がそんなの着ないでください。


(しかしこうしてみると……伊代音さんってすごいスタイル良いんだよなぁ……)


 大きすぎず小さすぎず、締まるところは締まり出るところは出ている……稲子さんと葉月さんのいいとこどりをしたような体型だ。


「お兄ちゃん、ママじゃなくて陽花をみてよぉ」


「あ、ああすまん……陽花はとっても似合ってるけど……やっぱり露出を抑えるために補助浮き輪を……」


「はいはい、それより石生君も着替えてらっしゃい」


「そうだよ、はやくきがえて陽花とおよごーよぉ?」


 そういう陽花はよく見れば僅かに汗をかいている……確かにこのまま待たせたりして日射病で倒れられても困る。


「わかりました……じゃあ伊代音さん、陽花が変な輩にナンパされないよう十分気を付けてください……すぐ戻りますからっ!!」


「あ、あのねぇ……幼稚園児にそんな心配するのあなたぐらいのものよ……普通は私を心配するもんでしょうが……全く……」


 何かぶつぶつ言っているが陽花の可愛らしさにノックアウトされる人間は多いはずだ……少なくともこの場に葉月さんが居たら間違いなく声を開けてお持ち帰りしようとするだろう。


(俺だって幸人君が居たら声をかけるだろうし……やっぱり警戒すべきだようなぁ……)


 どうやら伊代音さんは少しお気楽すぎるようだ……俺はさっさと着替えて戻ることにした。


 上着を脱いでトランクス状の水着に着替えれば完成だ、急いで戻ると陽花と伊代音さんが俺のほうを向いて……同じような笑顔を浮かべた。


「あらあら、石生君たら意外にいい身体してるじゃないの」


「ど、どうも……」


「お兄ちゃんかっこいいーっ!! 陽花ほれなおしちゃうよぉっ!!」


「そ、そうか……」


 どうやら陽花を抱っこしているうちに身体が鍛えられていたようだ……後は葉月さんの暴走に付き合わされてるのも大きいのかな。


(しかし、やっぱり親子だなぁ……笑顔はそっくりだよ……)


 そうなると将来的には陽花もこれぐらい魅力的なスタイルの持ち主になるのだろうか……ああ、変な虫が寄り付かないか心配だよっ!!


「よぉし、お兄ちゃんさっそくおよごーよぉっ!!」


「おやおや、陽花ちゃんは準備運動は済んでるのかなぁ?」


「わすれてたぁ……お兄ちゃんいっしょにやろぉっ!!」


「分かってるよ、ほらまずは手首を動かして……次にジャンプして……屈伸もしておこうねぇ……」


 俺と一緒に陽花がチマチマと動き出した……可愛すぎてお兄ちゃん顔が緩んじゃうよぉ。


「うんしょ……えいえい……んにゃにゃぁ……」


「ああ、上手だねぇ陽花ぁ……もっともっとしようねぇ……」


「石生君……あなた物凄い顔してるわよ……鏡見せてあげましょうか?」


「こんな可愛いもの見て顔が緩まないほうがどうかして……伊代音さん、大丈夫ですかそんな顔してて?」


「大丈夫じゃないのはあなたでしょ……はぁ、本当に脳の奥まで陽花にやられて……」


 伊代音さんが頭を押さえている……頭痛には陽花の可愛さが効果的なはずなのになぁ。


「ううん……じゅんびたいそうできたよーっ!!」


「ああぁ……も、もう少しだけやろうなぁ……念には念を入れて……ほ、ほら続きを見せて……」


「いい加減にしなさいっ!!」


「あうっ!?」


 叩かれてしまった……だって可愛くていつまでも見てたかったんだもん。


「ほらほらぁ、陽花じゅんびできたよぉ……はやくいこうよっ!!」

 

「うぅ……分かったよ、ほら陽花抱っこするからこっち……」


「だから私の前でぐらい我慢しなさい……陽花もたまには身体動かさないと贅肉がたくさんついて見るも無残な身体になるわよぉ」


「うぅ~わかったよぉ、お兄ちゃんきょうはおててつなぐのでがまんしようねぇ」


 絶対嫌だと叫びたいが……伊代音さんの目が厳しい、諦めよう。


「はぁい、じゃあ陽花お兄ちゃんの手を取って……よし、行こうか」


「ほら陽花、私とも手をつないで……ほらぁっ!!」


「わぁいっ!! 陽花おそらとんでるぅっ!!」


 両側から陽花の手を掴んで、持ち上げてあげる……肩が外れないかちょっと不安だったけど、これぐらいの歳なら平気らしい。


 自転車を漕ぐみたいに足をばたつかせて喜んでいる……可愛いなぁ、陽花は本当に何をしても可愛い。


「もういっかいやってぇ~……わーいっ!!」


「ふふふ、このまま海の中に……ほらぁっ!!」


「つめたぁいっ!! お兄ちゃんうみさんつめたいよぉっ!!」


「う、た、確かに冷たい……陽花、心臓さんがびっくりしないように最初に手ですくって水をかけるんだよ」 


 俺自身も自分の胸に海水を当てて、慣らしてから海に向かって思い切りダイブした……気持ちいいなぁ。


「えいえい……これでいい?」

 

 陽花がペチペチと可愛らしく自分の身体に海水をかけている……本当に愛おしい、抱っこしたくてたまらない。


「本当に冷たいわねぇ……ああ、でも日差しが強いからちょうどいいわぁ……」


 伊代音さんも心臓に水を当てて……ちょっと胸を揺らしながら沖に向かって歩いていく、家族だからドキッとしなかったような気がしなくもない。


「えへへ、つめたくてきもちいい……わあぁっ!?」


「よ、陽花大丈夫かっ!?」


 少し大きい波が来て、陽花の小さい身体はあっさり飲み込まれた……上から下まで水浸しだ。


「お、お兄ちゃぁん……しょっぱいよぉおお……」


「ああ、陽花ほらこっちおいでっ!!」


「もぅ、抱っこしちゃ駄目って言ったでしょ……はぁ、過保護なんだからぁ」


 伊代音さんが呆れているが、半べそで俺の名前を呼ぶ陽花を見て抱っこしないでいられるはずがない……波に襲われない高さまで抱き上げる。


「んん……はうぅ、お兄ちゃん……やっぱり陽花お兄ちゃんといっしょにいるぅ」


 小さいお手手で顔をぬぐった陽花が俺に抱き着いた……やっぱりこうしてるのが一番幸せだなぁ。


「よしよし、じゃあこのまま海につかろうなぁ……ふぅ、気持ちいいなぁ……」


「温泉じゃないんだからそんな腰を下ろしてどうするのよ……陽花も少しは泳いだらどう?」


「だってぇ、すっごくしょっぱいし……おはなにおみずさんがはいっていたいんだもん……」


「まあ無理して泳がなくてもいいし、こうしてお兄ちゃんと一緒に波に揺られてようなぁ……」


 万が一にも陽花が溺れないよう砂の上に胡坐をかいて、俺の腰ぐらいまでしか深さのない場所で遊ばせることにする。


 さらに波が来る方向に背中を向けて座ることで、俺の腕の中にいる陽花に波が当たることはなくなった。


「えへへ、ちっちゃいプールさんみたい……おにいちゃんありがとーっ!!」


 ようやく安心した陽花もまたその場に座ったり海面を叩いたりして遊び始めた……見てるだけで心が癒されるよ。


「ふふ、陽……うわぁっ!? い、伊代音さんっ!?」

 

「にゃぁっ!? ま、ママぁ……お水さんかけないでよぉっ!?」


「ママを仲間外れにしてイチャイチャしないの……ふふ、それぇっ!!」


「もぉ、せっかくおにいちゃんとらぶらぶしてたのにぃ……じゃましないでぇっ!!」


 伊代音さんが水をかけてきて、それに対抗するように陽花も海面を蹴って水を飛ばし返す。


 仲のいい母娘のじゃれ合いに挟まれてどんどん水浸しになる俺……下から陽花が海水を跳ね上げるもんだからどんどん鼻に入って苦しい。


「ちょ……陽花、苦しい……い、伊予音さんもやめ……あぷ……っ!?」


「ええい、お兄ちゃんかくごぉ~っ!!」


「あはは、ほらほら抵抗しないとやられちゃうわよ~っ!!」


 気が付いたら二人して俺に水を浴びせてきていた……これはかなわない。


 こうなったら海に潜って逃げるしかない、もう少しだけ深いところに逃げ込む俺……だけど陽花が付いてくるからやっぱり戻る。


「こ、こうなったら……ええい、お返しっ!!」


「わわぁっ!? お、お兄ちゃんおとなしくていこうをやめて陽花にやられなさいっ!!」


「ああ、こらぁっ!? 冷たいじゃないの石生君っ!!」


 お互いに海水を掛け合って遊ぶ……単純だけど不思議と面白い。


「ははは……ふぅ……この辺でいったん休憩しましょう……」


「ふふふ、そうね……ほら陽花終わりよ……」


「やぁん、お兄ちゃんをもっとみずびたしにするのぉ」


「休み休み動かないと疲れちゃうでしょ……ほら、抱っこしてあげるから」


 陽花を抱き上げて一旦パラソルの元へ戻る俺たち……目に見えるところで遊んでたから荷物を取られる心配も少ない、貴重品もないから取られてもそこまで大変なことにはならない。


 クーラーボックスの中身もちゃんと残っている……中から飲物を取り出す。


「ふぅ……ほら、陽花オレンジジュース飲むだろ?」


「ええ、いいのぉっ!? わーい、あまいのみものさんだぁっ!!」


「今日は特別よ……はぁ、ビールが飲みたいわぁ……」


「昼間っから勘弁してください……それに誰が帰りの運転するんですか……」


 俺の言葉に伊代音さんが慌てて弁明する。


「わ、わかってるわよ……言ってみただけじゃない……」 


「ですけど……何かアルコール度って書かれてる飲み物が入ってるんですけど……」


「ううっ!? ちょ、ちょっと手違いで入っちゃっただけよ……厳しいんだからぁ……」


「飲酒運転は絶対にダメです……万が一飲んだら電車で帰りますからね」


 伊代音さんがろこつに不機嫌そうな顔をする……口をとんがらせないで、陽花にちょっと似てて困ります。


「石生君は真面目ねぇ……言われなくても飲まないわよぉ……あなたのお父さんが来たら飲もうと思っただけよ……」


「そーいえばパパはきてなかったねぇ、陽花すっかりわすれてたよぉ」


 俺の親父をパパと呼ぶ陽花、本当の父親の顔を知らないから平気なようだ……ただ思うところがあるのか伊代音さんが微妙な顔をしている。


「そうだなぁ、まあいなくてもいいけど……」


「ふ、二人とも流石に失礼でしょっ!?」


 どうやら陽花の発言が気になっていただけのようだ……だって親父うるさいんだもん。


「でも実際のところ、帰ってくるたびに陽花との仲を説教されるから困ってるんですよ……伊代音さんからも言ってやってくださいよ」

 

「そーだよママぁっ!! お兄ちゃんと陽花はこころのそこからあいしあってこいびとどうしだっておしえてあげてよぉっ!!」


「まだ交際モドキしか認めてないわ、それにどう言えばいいのよ……うちの陽花が石生君の頭を駄目にしちゃったから二人の交際を認めてあげてって言うの……勘弁してほしいわぁ」


 物凄い言われようだ……俺は壊れてないぞぉ。


「あの……勝手に人の頭を駄目扱いしないでください、俺は正常ですよぉ」


「……石生君、もしも陽花が公園に遊びに行くって言ったらどうするかしら?」


「陽花は一人で外出禁止だから行きたいなら俺が抱きかかえて絶対に離れない状態で行きます……もちろん遊具は使用禁止ですね、危ないから当然です……ああもういっその事近所の公園を潰すよう役所に陳情を入れてもいいかもしれませんね」


「……お兄ちゃんさぁ、それは陽花でもえんごしきれないぐらいひどいよぉ……」


「聞いたかしら……当の陽花ですらドン引きしてるわよ?」


 お兄ちゃんとして当然の行為のはずなのにどうして受け入れられないのか……おかしいのはこの世界のほうだと思います。


「あ、あはは……それぐらい陽花のことが心配なだけですぅ……良いお兄ちゃんしてるだけですよぉ」


「過保護すぎよ……まあそれだけ陽花を溺愛してくれるのは親として嬉しいし助かってるけど」

 

「そうだよーっ!! お兄ちゃんは陽花にメロメロなんだよーっ!! しょうこのちゅーっ!!」


「止めなさい親の前で……石生君も応えようとしないの、また少し見ない間に一段と陽花に甘くなって……しっかりしなさいよ」


 軽くデコピンされてしまった……確かに陽花に求められたとはいえ親の前で口にキスするのはやり過ぎかもしれない、おでこで我慢してもらおう。


「えへへ、お兄ちゃんはこのあいだ陽花のことがだいすきだってついにみとめたのです……あとはじゅうねんたてばしぜんとこいびとになっちゃうのですっ!!」


「……石生君、何か言うことはあるかしら?」


「あはは……まあ、その……何といいますか……ごめんなさい」


「お兄ちゃん、お兄ちゃん……そこはむすめさんをぼくにくださいっていうところだよ、ほらがんばってっ!!」


 伊代音さんの目が冷たい……というより呆れているように見える。


「……はぁ、まあ十年待つならもういいわ……石生君なら万が一陽花が心変わりしても納得するでしょうし……」 


「もちろんですよ、陽花が嫌がることはしません」


「ありえないよぉっ!! 陽花はずっとお兄ちゃんをあいしてますぅっ!! ほら、しょうこのちゅーをみせつけちゃおうよっ!!」


「キスは止められたばかりだろ陽花、あんまり我儘言ってると……人見先輩みたいになっちゃうぞぉ~」


「あ、あうぅ……わ、わかったよぉ……じゃあだっこしてナデナデでがまんするぅ……」


 大人しくなった陽花を抱きかかえてナデナデしてあげる……本当にいい反面教師だ。


「あの陽花がこうもあっさり主張を抑えるなんて……ど、どんな人なのよ人見さんって方は?」


「「せかいいちのわがままおんな」」


「……世界は広いのねぇ」


 かつての俺たちと同じ感想を口にする伊代音さん……だってそうとしか言いようがないもの。


「ごくごく……ぷはぁ、陽花たくさんのんだーっ!! もうげんきいっぱいだよっ!! もういっかいおよぎにいこーよーっ!!」


「そうだねぇ……じゃあまた抱っこして……」


「それより普通の浮き輪を膨らませてくれないかしら? それをつけてればそうそう溺れないわよ」


「分かりました、じゃあ膨らませますね……ついでにそっちのイルカさんも膨らませますよ」


 俺は持ってきたドーナツ状の浮き輪とイルカさんの形をしたフロートを膨らませた……物凄く息苦しい、ポンプを持ってくるべきだった。


「すごいすごいっ!! お兄ちゃんいっきにふくらませちゃったねぇっ!!」


「よ、陽花が急かすから……お兄ちゃん頑張ったんだよ……はぁはぁ……」


「石生君あなた……骨の髄までシスコンなのねぇ、はぁ……物凄い罪悪感だわぁ……」


 陽花のためならお兄ちゃんはいくらでも頑張れます……だけど少し休ませてください。


「ちょ、ちょっとお兄ちゃん休憩……」


「えぇ~陽花といっしょにイルカさんあそびしないのぉ?」


「うぅ……一緒に遊びたいよぉ、頑張るよぉ……」


「……はぁ……突っ込むのも疲れたわ、少し二人でイチャついて来なさいよもう……」


 陽花に手をひかれるままふらふらとゾンビのような足取りで海に向かい、イルカさんを海面に浮かべるとその上に陽花を乗せてやる。


「わーいわー……わわぁっ!? お、お兄ちゃんおさえてぇっ!!」


「よぉし……ほら、ゆっくりバランスとって……」

 

「うぅ……の、乗れたよぉっ!! わーいわーいっ!!」


 イルカさんの背中に乗って背びれを掴んで嬉しそうにチャプチャプしている……陽花は何をしても可愛いなぁ。


「お兄ちゃんひっぱってぇ~」


「分かったよ、行くぞーっ!!」


「えへへ~っ!! 陽花イルカさんといっしょにおよいでるぅ~っ!!」


 陽花が笑顔を浮かべている、生きていてよかったぁ。


 もっともっと喜ばせようと、俺は一生懸命イルカを引っ張って歩いた。


「わぁいわぁいっ!! お兄ちゃんもっともっとぉっ!!」


「まかせとけっ!! ほら、凄いぞぉっ!!」


「うわぁいっ!! なみさんものりこえちゃったぁっ!! これ楽しいねぇっ!!」


「そうかそうか……ふぅ、ちょっと疲れてきたなぁ……」


 俺は波の直撃を受けまくった状態で陽花を支えながら引っ張り続けている、流石に疲れてきた。


「お兄ちゃん、もっとなみさんにむかっていってぇっ!!」


「あ、ああわかったよ……おお、今の波は大きかったなぁっ!?」


「す、すっごいふくらんだぁっ!! 陽花いまおそらをとんじゃったみたいできもちよかったのっ!! もういっかいやってぇっ!!」


 陽花が可愛い笑顔でお願いしてる、お兄ちゃんには断れません……少し息が切れてきたけどね。


「はぁ……ふぅ……ど、どうだぁっ!?」


「あはははっ!! おもしろいのぉっ!! もういっかいもういっかいっ!!」


「ふぅ……はぁはぁ……そ、そろそろもう一回上がらないか?」


「やだぁ、もっとイルカさんであそぶぅ~っ!!」


 陽花がイルカさんにしがみ付き顔を膨らませて俺を睨む……すっごい可愛い、だめだ逆らえない。


 俺は疲れを押し殺して一生懸命陽花の為に奉仕し続けた。


「そろそろお昼にしましょう、上がってきなさい」


「ほ、ほら伊代音さんが呼んでるから……あ、上がろうなぁ……はぁはぁ、ふぅ……ひぃ~……」


「うぅ……しょうがないなぁ……お兄ちゃんこのままひっぱっていってぇ~」


「わ、わかったよぉ……うぐっ……す、砂の上を引きずるのは……き、きついぃいっ!!」


 陽花の体重が軽いこともあってイルカさんは穴が開くこともなく、伊代音さんの元までたどり着いた。

 

「はぁはぁ……ああ、疲れたぁ……」


「お兄ちゃん、とってもたのしかったねっ!! ごはんのあともいっぱいイルカさんごっこしようねぇ~」


「よ、陽花が笑顔を見せてくれるならお兄ちゃんはいくらでも頑張っちゃうよぉ……うぅ……」


「やれやれ……はい、お弁当……お肉多めにしておいたからしっかり食べて体力付けなさい」


 伊代音さんが持参したお弁当が机の上に並んだ、どれもこれも美味しそうだ。


「お兄ちゃん、あーんっ」


 陽花が自然な動作で俺の膝の上に座り、可愛らしく口を開いた……いつも通り食べさせようとして伊代音さんに睨みつけられてしまう。


「陽花ぁ……あなた何で石生君の上に座ってるのかしらぁ、ちゃんと椅子に座らなきゃ駄目でしょ?」


「ちがうもん、陽花のとくとうせきはここだもんっ!! もうそんなかたいところになんかすわんないんだから」


「……石生君、本当に甘やかしすぎよ……そんなに陽花を自分のものにしたいのかしら?」


「うぅ……そ、そんなつもりじゃないんですけどぉ……陽花の顔を見てるともう逆らえないんですよぉ……だって逆らったら泣いちゃうんですよ、可愛い可愛い陽花がぁ……耐えられるわけないじゃないですかぁ……」


 本当に陽花の涙は耐えられない……陽花がふくれっ面で要求するのも断り切れない。


(ああ、俺確かに頭おかしいわ……)


 伊代音さんの言うことがよくわかる、だけどどうしようもない……陽花が可愛すぎるのがいけないのだ。


「石生君、お願いだから少しは陽花を叱れるようになってちょうだい……じゃないとどんどん我儘になるわよ……」


「だいじょーぶだよ、陽花わがままなんかいわないもん」


「言ってばかりじゃないの……困った子だわ本当に……」


「陽花こまったこじゃないよぉ、いいこだよねお兄ちゃん?」


 そう言って頭を擦り付けてくる陽花、いい子いい子せずにいられない。


「よしよし、陽花はとってもいい子……だから伊代音さんの言うことはちゃんと聞こうね」


「はーい、ママのいうこときちんときくぅっ!!」

 

「じゃあ椅子に座って一人で食べなさい」

 

「だめぇ~陽花はお兄ちゃんからはなれられないのぉ~おはしもまだつかえないのぉ~」


「……ちょっと貸して石生君、お尻ぺんぺんするわ」


 伊代音さんの言葉を聞いて陽花が必死で俺にくっついた……一生懸命頭を横に振っている、濡れた髪の毛から海水が飛んで冷たい。


「やぁああっ!! お兄ちゃんたすけてぇええっ!! おにばばがいじめるぅうっ!!」


「よ、陽花……ほらお兄ちゃんと一緒にごめんなさいしようなぁ、伊代音さんごめんなさい勘弁してあげてください」


「貴方が謝ってどうするのよっ!! 甘やかしすぎっ!! ほら、陽花こっちきなさいっ!!」


「やぁああっ!! ごめんなさぁあいっ!! いたいのやぁああっ!!」


「よ、陽花も謝ってますから……どうかこの通り……」


 必死で頭を下げて許しを請う……だって陽花が涙目なんだもん、見てて心が引き裂かれそうなぐらい辛い。


「もう、石生君のほうが苦しそうじゃないの……本当に困った子達だわ……なら陽花こっちに来て一人で食べなさい」


「ほ、ほら陽花……今だけ我慢しような」


「うぅ……わかったよぉ、陽花がまんするぅ……だからあとでごほうびちょうだいね」


「もちろんだよ、陽花はいい子だなぁ」


「石生君もいい加減にしなさい……何度言わせる気よ」


 軽く小突かれた、だけど陽花が笑ってくれるなら何でもしてあげたいのだ……兄馬鹿すぎるな俺。


「ママぁ~お兄ちゃんをいじめないでぇ……いじめていいの陽花だけなんだからぁ……」


「陽花も虐めないでください……お兄ちゃんは弱い生き物なんです……」


「ああもう、いいからさっさと食べなさいっ!!」


 ついに怒られてしまった、俺たちは小さくなりながら食事を食べ終えるのだった。


「ふぅ……やっぱり伊代音さんのご飯は美味しいですね」


「うん、ママのごはんおいしねぇ……まいにちたべたいなぁ……」


「ありがとう二人とも……私も毎日作ってあげたいけどお仕事が……はぁ……安定して休みたいわぁ」


 落ち込んでしまう伊代音さん、本当に仕事は大変なのだろう……その分給料は良さそうだけども。


(俺も将来はこうなるのかなぁ……けど陽花の相手をしてあげたいし……)


 給料とか仕事の内容を無視してでも、早く帰れて陽花と遊ぶ時間をとれる場所に就職したいものだ。


「ご苦労様です……本当に感謝してますよ……」


「ありがと石生君、こっちこそ陽花の面倒を見てもらって助かってるわ……」


「えへへ~、ありがとーお兄ちゃんっ!!」


 二人がよく似た笑顔を向けてくれる、もうそれだけで何でも頑張れそうだ。


「俺が好きでしてることですから気にしないでください……こっちこそお礼がし足りないぐらいで……肩でも叩きますか?」


「まだ平気よ……けどそうねぇ、じゃあ日差しも強くなってきたことだし……日焼け止めでも塗ってもらおうかしら?」


 にんまりと悪戯っ子のような笑顔で俺にクリームを手渡す伊代音さん……本当にこういうところは陽花にそっくりだ。


「背中は塗らせていただきます……前は勘弁してください……」


「あらぁ、石生君は意外と照れ屋さんなのね……なんてね、それでいいわよ……陽花も塗りなさいよ?」


「えぇ……ヌルヌルするからやだぁ……」


 嫌がる陽花を置いて、とりあえず伊代音さんの背中に日焼け止めを塗ることにした……張りがあってすべすべだけど、幸人君に比べれば……考えないようにしよう。


「ふぅ……ありがと、石生君……陽花にもしてあげて」


「はい……陽花、こっちにきて……顔さんから塗るから目を閉じてね……」


「いやぁん……やさしくしてねぇ……」


 目を閉じて顔を突き出す陽花、反射的に唇をくっつけそうになってぎりぎりでとどまった……条件反射になってるぅ。


 手に日焼け止めを垂らして伸ばしてから優しく陽花の顔に塗っていく……つるつるのおでこ、もちもちの肌、プニプニのほっぺ……極上だぁ。


 ついつい長々と触り続けてしまう……ほっぺたを何度も指先で撫でる、とてもよく伸びるなぁ。


「うぅん、お兄ちゃぁん……まだぁ……」


「ああ、もういいかなぁ……よし、次は肩と腕と……おへそ周りだぁっ!!」


 身体の露出しているところにどんどん塗りたくっていく……ちっちゃい魅惑的なおへそ周りは幼児体型とでもいうのかぽっこりと出ていてこれがまた可愛らしい……撫で続けたい。


「あはは……お兄ちゃぁん……くすぐったいよぉ……」 


「よ、よぉく塗っておかないと日焼けして痛い痛いになっちゃうよぉ……はぁはぁ……可愛い可愛い……」


「い、石生君……ちょ、ちょっと今のはヤバいわよ……後は私がやるわ……」


「うぐっ!? そ、そうですか……じゃ、じゃあ足回りはお願いします……」


 余りの可愛さに理性が飛びかけた……伊代音さんが指摘しなかったら陽花に抱き着いて砂場に横になりずっとナデナデしてしまってたかもしれない。


「あは、あははっ!! ま、ママぁあしのうらくすぐったいぃっ!! あはははっ!!」


「ふふ、相変わらずくすぐりに弱いのねぇ……じゃあ、こっちはどうだ~」


「やぁんっ!! わきのしたはもうぬったよぉっ!? あはははっ!! お、お兄ちゃんたすけてぇ~っ!!」


「何だかんだで伊代音さんもメロメロじゃないですか……陽花が苦しんでますよ……」


 口では咎めながらも涙目で悶える陽花が可愛すぎて、ついつい反応を眺め続けてしまった。


「も、もぉ……ふたりともきらいっ!!」


「ご、ごめんよ陽花ぁ……お兄ちゃんが悪かったよぉ」


「あはは、陽花そうむくれないの……ほら石生君と遊んでらっしゃい」


「やだもん、もう陽花ひとりでおすなあそびするもん……あっちいってよぉ」


 ふくれっ面になった陽花は俺たちに背を向けて砂をいじって遊び始めてしまった……うぅ、やりすぎたぁ。


「抱っこしてナデナデしてあげるから許してよぉ……ほら、こっちおいでぇ~」


「ふん、だ……陽花はいそがしいのっ!! かってにあそんでなさいっ!!」


「確かにね……石生君もたまには一人で遊んできなさい、陽花は私が見てるから」


「お、俺も陽花を見ていたいんですぅ……陽花と一緒じゃなきゃヤダぁ……」


 何とか陽花に構ってもらおうと、近くで砂をいじって遊ぶことにする……伊代音さんがため息をついているが気にしないでおこう。


 しかし砂遊びなど久しぶりだ、とりあえず集めて山を作ろう……後は穴でも掘って見よう。


「ほら陽花、お兄ちゃんの山はおっきい……何でもないです……」


「ふふん、おおきいだけじゃだめなんだから」


 陽花のほうを見ると、どうやったのかかなり綺麗なお城が出来上がっている……集めてから指で削って整えたようだ。


「うぅ……幼稚園児に負けたぁ……ぐすん……」


「陽花さまにてつだってほしい?」


「手伝ってください、陽花様ぁ……」


「もぉ、しょうがないなぁ」


 自慢げに鼻を膨らませてこっちに来てくれる陽花、やっと戻ってきてくれた……嬉しくてたまらない。


 ぺたぺたと小さいお手手を動かしてお砂を弄る陽花、真剣な顔つきに汗で髪の毛が引っ付いて……本当に愛おしい。


 やっぱり抱きしめたい……けど邪魔したら怒られそうだから我慢することにした。


「ふんふっふふーん、ふんふっふふーん……できたぁっ!! 陽花とお兄ちゃんのあいのすだよっ!!」

 

「うわぁ、無駄に豪華だぁ……この周りにある大きな筒はなあに?」


「たいほーだよっ!! 陽花たちのじゃまするてきをうちたおすのですっ!!」


 大砲が必要な愛の巣……相手は国家権力かなぁ、幼稚園児が相手じゃ犯罪だもんなぁ。


「しかし上手いなぁ……陽花は芸術のセンスもあるんじゃないかな?」


「えへへ~そんなにほめないでよぉ~」


「いや大したもんだよ、これも俺の影響かな?」


「……それだけはぜったいにないよぉ」


 何故か全否定された……普段からあんなに良い服を着せてあげてるのにぃ。


「ふぁぁ……何か気持ちよくなってきたわ、陽花はお願いね……」


 伊代音さんは軽く欠伸をすると、持ってきたビーチチェアの上でくつろぎ始めた。


(ずっと仕事詰めだもんなぁ……ゆっくり休んでください……)


 俺は伊代音さんの邪魔をしないよう、静かに移動しようと陽花に声をかけた。


「陽……っ!?」


「ママぁ~、せっかくきたんだからあそぼうよぉ~」


 いつの間にか陽花が伊代音さんのお腹の上に乗って、ペチペチと顔を叩いている……止めてあげてよぉ。

 

「陽花……ママはもう歳だから疲れるのよ……少ししたら遊んであげるから……」


「えぇ~、まだ全然遊んでないよぉ~」


「陽花、伊代音さんを休ませてあげようね……ほら、イルカさんでもうひと遊びしてこよう」


「もぉ……じゃああとであいてしてよねっ!! お兄ちゃんいこぉーっ!!」

 

 何とか陽花を引き離すことに成功した、安堵の溜息をついて目を閉じた伊代音さん。


 少しでも伊代音さんが休めるよう、俺は陽花をイルカさんに乗せて泳がせ続けた。


 一時間ぐらいずっと遊んでいただろうか、ずっと陽花は笑顔で俺は癒されていた……精神は。


「はぁ……はぁ……た、たくさん遊んだねぇ……そ、そろそろ上がろうかぁ」

 

「えぇ~、まだまだイルカさんのりたいよぉっ!!」


「だ、だけどねぇ……お兄ちゃんも疲れたよぉ」


 陽花がイルカさんから落ちないよう支えながら海の中を泳ぎながら引っ張っているのだ。


 水泳選手でもない俺はもう体力の限界だ、陽花の笑顔だけを支えに頑張っている。


「やだぁ、もっともっとイルカさんあそぶぅっ!!」


「ありがとう石生君、変わるわよ」


「い、伊代音さん……もういいんですか?」


「ええ、短期睡眠は慣れてるもの……それより石生君もたまにはゆっくり休みなさい」


 そこへ休息を終えた伊代音さんが来てくれて、俺はお言葉に甘えて一旦休むことにした。


「ママもイルカさんに乗せて~」


「やぁん、ママがおもくて陽花のイルカさんおぼれちゃうよぉ」


「お、重くないわよ失礼ねっ!! ほ、ほら平気でしょ?」


「だ、だめぇ……バランスがくずれちゃ……うわぁぁ……」


 仲良く戯れていて何よりだ……俺はふらふらとパラソルの下に戻り椅子の上で横になった。


 こうして一人でゆっくりと休むのはいつ以来だろうか……何やら妙に力が抜けて俺はあっさりと眠りについた。


(……あ、熱い……それに重い……っ!?)


「あ……あれ……うおっ!?」


「おきたーっ!! お兄ちゃんおきたーっ!!」


「ふふ、よく寝てたわよ石生君」


 目を覚ますと何故か俺は砂の中に埋もれていて、その上から陽花と伊代音さんがニヤニヤと笑いながら見下ろしていた。


 いつの間にか椅子から降ろされて埋められてしまったらしい、身体が動かすに動かせない。


「ちょ、ちょっと……何てことするんですかっ!?」


「だってぇ、お兄ちゃんぐっすりだったんだもん……陽花がいくらこえかけてもむしするんだもん……ばつげーむさんですっ!!」


「石生君たら本当に疲れてたのねぇ……私が抱き上げても全く起きないんだもの……ご苦労様」


「笑いながら言わないでください……」


 全く感謝が感じられない……何でこんなに本格的に人を埋めてくれたのか。


「えへへ……お兄ちゃんちゅーっ!!」


「んっ!? よ、陽花ずるいぞっ!?」


 こっちが動けないのをいいことに陽花がキスを迫ってくる……伊代音さん止めてください。


「駄目よぉ陽花ったら……だけどママもしちゃお、ご苦労様のちゅーっ」


「ちょ、ちょっと伊代音さんっ!?」


 伊代音さんまで調子に乗って……こちらはおでこにだが軽くキスするのだった。


「本当にありがとう……あの臆病な陽花がこんなに活発になって……全部石生君のお陰よ……感謝してるわ……」


 陽花に聞かれないよう耳元で囁きながら、もう一度だけおでこにキスをされた。


 どこか陽花に似ている大人の女性のキスは……何故だかとてもドキッとした。


 その後、俺たちは陽花が寝落ちするまで三人で遊び続け……とても楽しい一日を過ごすのだった。

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