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エピローグ

ハッピーエンドです


「……夢か」


 懐かしい夢を見ていた。


 十年近い昔、まだ俺が学生だったころの夢だった。


 毎日が騒がしく忙しく……とても楽しかった頃の夢だ。


「……陽花」


 未練がましく周りを見回してしまう……いるわけがないのに。


「はぁ……会社行くかぁ」


 怠い身体を起こして居間に向かい、昨日の残り物を温めて食べるとさっさと職場へ向かうことにした。


 自宅から近いという理由だけで就職した職場は、力仕事がメインの現場仕事だった。


 給料は安いし結構危ないし……定時でほぼ確実に帰れることと休暇がしっかりしていることだけが救いだ。


 ただ楽しみもやりごたえもない……学生時代のような楽しさに満ち足りた生活とは程遠い。


「おい、皆川ぁ……それこっち持ってこいっ!!」


「へいへい……よっとっ」


 同僚も粗暴な口調の荒々しい奴らばっかりで、どうにも仲良くなりにくい。


 会話も下ネタばかりでかみ合わない……しかも俺が色々と未経験なのを察して下に見られている気がする。


「皆川よぉ……いい加減結婚とかしねぇのか?」


「はは……まあちょっと……」 


「煮え切らない態度だなぁ……それじゃあ恋人なんかできねぇだろうなぁ……」


(恋人ねぇ……)


 ついつい今朝見た夢を思い出してしまった……あの時はモテモテだったが、節度のある付き合いをしていた。

 

 それに対して今は……頭を振って考えを追い出した。


 仮にも仕事中だ、危険も多い……集中しないと怪我をしてしまう。


 俺はできるだけ何も考えないようにして仕事に集中した。


「ふぅ……やっと終わった……」


 ようやく仕事が終わった、ふらふらになりながら帰路を歩く。


 途中学生服姿の子たちの姿をちらほらと見かけた……懐かしい制服だった。


(楽しい日々だったなぁ……家でも学校でも……それが今じゃぁ……)


「くすくす……」


 こちらを見て女学生が笑っている気がする……もう俺も二十代後半、それも作業服姿のくたびれた様子を見れば笑われもするなぁ。


(まあ青春を楽しみたまえ……俺らみたいにひねくれないようになぁ……)


 内心ため息をつきながら俺は自宅へ帰り着いた。


 恐らく陽花は帰っているだろう……そしてきっとまた俺に苛烈な対応をしてくるのだ。


 少しだけ躊躇しながらも、俺は覚悟を決めてゆっくりと扉を開いた。


「ただ……っ!?」


「お帰りお兄ちゃんっ!! ちゅーっ!!」


「よ、陽……っ!?」


 ドアを半ばまで開いたところで腕を掴まれて強引に家の中へ連れ込まれ、そのまま口づけされる。


 そして舌をねじ込まれ、口内を全力で蹂躙される……やっぱりこうなったかぁ。


「んっ……ぷはぁっ!? よ、陽花はげし……んっ!?」


「ちゅ~っ……もっかいちゅーっ!! 後二十回はしないとね……ちゅぅっ!!」


「んんっ!? はぁ……よ、陽花さんそろそろやめて……っ!?」


「えぇ~まだ全然だよぉ? だっていっぱい溜まってるんだよ?」


 俺の首にぶら下がりながら、陽花は指折り数え始めた。


「おはようのキスが十回に、朝食でするはずのキスが五回でしょ……それに歯磨き後のキスが三回に行ってきますのキスが五回……それらに利子が付くから……うん、全然足りないねぇっ!!」


 そう言ってあの頃と同じ笑顔で笑う陽花……だけどやっぱり色々と違いがある。


 身長は俺の胸元まで育った、体つきも葉月のように引き締まりながらも稲子のように出るところは出ている。


 更に顔立ちは可愛さを残しながら美しく育った……一緒に歩いていると色んな人が振り返るほどだ。


 それに無邪気な笑顔がとてもよく似合っている……最もこの笑顔を見れるのは俺と身近にいる数人だけなのだが。


「ほらほらぁ……良いから抵抗しないでよぉ、それともやっぱりその場で清算形式にする?」


「だ、駄目でしょ……陽花ったら一度キスしたらもう離れないんだから……せめて中学校ぐらいはしっかり通わないと……」


「お兄ちゃんと一緒にいるほうが大事~、それに離さないのはお兄ちゃんもでしょ~」


 陽花の言葉通り、気が付けば俺も陽花を抱きしめている……だけどこれは条件反射なんだよ。

 

「陽花が抱っこを強請るからお兄ちゃんもう癖になってるの……ほら、そろそろ夕食の支度しような……」


「もぉ作ってあるよぉ~、陽花の手作りしっかり食べさせてあげるねっ!!」


 未だに俺の前では一人称に名前を使っている陽花……可愛いからどうしても咎められないのだ。


「一人で食べれるからねっ!! お兄ちゃんまだ介護必要ないからねっ!!」


「駄目ぇ~お兄ちゃんはお仕事でお疲れ様なんだから、陽花がちゃんと噛んでから口移しで食べさせてあげるのぉ~」


 そんなやり取りをしながらもお互いの腕が離れることはない……当時に比べさらに面倒さは増したが愛おしさも増しているのだ。


「ほらぁ、お兄ちゃんお姫様抱っこぉ……陽花はお兄ちゃんの腕の中に居る時が一番幸せなんだからねぇ」


「うぅ、わかったよぉ……」


 幼稚園児だった時は比べ物にならない重量がのしかかる……だけどもう慣れてしまった。


(ずっと抱っこし続けてるもんなぁ、小学生の陽花も……中学生になった陽花も……)


 むしろ俺にとっては陽花が歩く姿のほうが珍しい……外出する時ですら抱っこをせがもうとするぐらいだ。


「わぁいっ!! お兄ちゃん逞しいっ!! 格好いいっ!! チューするぅっ!!」


「さっき沢山したでしょ……ほら、椅子に座ってご飯食べようねぇ」


「陽花はお兄ちゃんの上ぇ~、ここが特等席だもんっ!!」


 絶対に俺の上から降りようとしない陽花……やっぱり今日もこのまま食べないと駄目らしい。


 前と違い大きくなった陽花が落ちてしまわないよう、しっかり両手で支える必要がある。


「うぅ、両手が使えない……」


「だから陽花が食べさせてあげるよぉ……どれから食べる?」


「いや自分で食べるからぁ、陽花も椅子に座って食べようよぉ」

 

「えへへ、遠慮しなくていいのにぃ……じゃあご飯にしようねぇ……もぐもぐ……んちゅーっ」


 ご飯を自分の口に含んでから強引に俺に口づけし、口移しで食事をさせる……ふりをして舌を絡めてくる陽花。


 身長が近づいたせいでもう抵抗も難しい……実際は陽花が愛おしすぎて拒めない所も大きい。


「んぅ……ぷはぁ……よ、陽花普通に食べようよ……」


「またまたぁ、陽花に食べさせてもらって嬉しいくせにぃ~……ほら次……もぐもぐ……んちゅーっ」


 何度も何度も濃厚なディープキスを繰り返される……気持ちよくて蕩けそうになる。


「ぷはぁ……えへへ、もっともっ……お兄ちゃぁん……陽花のお尻に何か当たってるよぉ?」


「うぐっ!? い、いやその……そろそろ離れよっかぁ」


「えぇ~離れていいのぉ~……陽花もっとお兄ちゃんとくっつきたいなぁ」


 俺の顔を嬉しそうに見つめながらもぞもぞとお尻を動かす陽花……ああ、俺の天使がいつの間にこんな知識を身に着けてしまったんだぁ。


「陽花ストップ……それは不味いから……せめて中学校を卒業するまでは止めようって家族で話し合っただろ?」


「何のこと? 陽花よくわかんなぁい?」


 可愛らしく小首をかしげる陽花……あの時と変わらないとぼけっぷりだ。


 だけど小悪魔度は増している、今も俺に抱き着く形で胸を押し付けてきている……お兄ちゃん辛いよぉ。


「と、とにかく夕食も終わったし……お兄ちゃんお風呂入るから……」


「はーい、じゃあ連れてってねぇ」


「一人で入るからね……それとも陽花が先に入るかい?」


「一緒に入るぅ……早く行こうよぉ」


 満面の笑みで逃がさないとばかりに強く俺に抱き着く陽花……家族風呂で吹っ切れたのか、あれ以来肌をさらすことにも抵抗がなくなっている。

 

 おかげで俺は色々と限界寸前だ……まだ一線を越えずにいる自分をほめてやりたい。


「頼むから一人で入らせて……お兄ちゃん陽花が魅力的過ぎて我慢できないから……」


「我慢さんは身体に毒なんだよ? 我慢しないで陽花と楽しいことしようよぉ」


「うぅ……だ、だからまだ駄目だよ……」


「駄目って何がぁ? 陽花楽しいことって言っただけだよぉ?」


 心底不思議そうに小首をかしげて見せる陽花……これを計算してやっているのだから恐ろしい。


「わ、分かってて言ってるでしょ……本当にお願いだから……」


「うーん……どうしてもって言うなら考えてあげてもいいけどぉ……そんなに陽花とお風呂入るの嫌なの?」


「い、嫌じゃないけど辛いのぉ……どうしても一人で入りたいの……良いでしょ?」


「そこまで言うなら仕方ない……うん、一緒に入ろうっ!!」


 駄目だった、考えるふりだけしてやっぱり笑顔で抱き着いて離れてくれなかった……陽花だもんなぁ、許してくれるわけないよなぁ。


 このまま待機していてもずっと離れてくれないだろう……それどころか別のちょっかいを出されかねない。


 俺はあきらめて陽花をお姫様抱っこしたまま脱衣所へと向かった、そして床に降ろそうとするが離れてくれない。


「陽花ぁ、お風呂入るから服を脱がないと……」


「陽花はお兄ちゃんに抱き着くので忙しいのぉ……脱がせてほしいなぁ」


「か、勘弁して……本当に限界なんだから……」


「えぇ~何が限界なのぉ? 教えて欲しいなぁ?」


 陽花はずっと笑顔のままだ、ある意味俺が望んだ光景だが……こんな展開は望んでなかったよぉ。


(やっぱりずっと無垢な天使のままでいてほしかった……あの時間がずっと続いてほしかった……)


 かつての幸せな時間を思うと涙が流れそうになる……今も幸せだけど辛さが桁違いだよ。


「ねぇ、お兄ちゃんったらぁ……陽花に教えてよぉ……色んな事お兄ちゃんから教わりたいなぁ……」


「あはは……じゃあ兄妹の正しい距離感でも教えてあげようかなぁ」


「今の距離感じゃ駄目なの? じゃあもっとくっ付こうねっ!! 二人の間にある邪魔なお洋服も退けちゃおうっ!!」


「ち、違っ!?」


 俺に抱き着いたまま陽花の両手が器用に上着を脱がそうとする……うう、ものすごく手慣れてるぅ。


 ほぼ毎日剥かれているのだから当然だ……もう抵抗も適わず上着は腕の部分にぶら下がってる状態になってしまった。


「えへへ……やっぱりお兄ちゃんの身体逞しいねぇ……それにちっちゃいお胸さんも可愛いなぁ……舐めてもいい?」


「駄目ですぅっ!! あ、こ、こらっ!? し、下着まで手をかけるの反則ぅっ!!」


「もぉ、我儘さんだなぁ……陽花を脱がすか、お胸さんを舐めさせるか……あるいは下着を脱ぎ脱ぎするか選びなさいっ!!」


「ど、どれも駄目だって……あ、し、舌を出さないっ!! 下着に手をかけないっ!!」


 俺の言葉など聞いてくれるはずもなく、陽花に弄ばれてしまう……まだお風呂にも入ってないのにもう疲労が限界近い。


「お兄ちゃぁん、陽花ねぇ……もう我慢できないのぉ、脱がせちゃうから」


「ちょ、ちょっとぉっ!?」


「お兄ちゃん、抵抗しないで脱ぎ脱ぎしましょうねぇ~……あれぇ、何か引っかかってるなぁ……」


「わ、わかった……分かったからいったん離れてっ!!」


「やだぁ、もう離れないもん……学校にいる間我慢したんだもん、お家にいる間は我慢しないもん」


 陽花がさらに密着する……胸が危険だ、やばすぎる。


「も、もうこれじゃあお風呂入れないでしょ……だから一旦離れて脱いで……交互に入ろうってば……」


「やぁだぁ……お兄ちゃんと一緒ぉ~」


「さ、流石に怒るよっ!!」


「えぇ~怒れるのぉ? お兄ちゃんが陽花を怒ったりできるのぉ?」


 顔を持ち上げて俺を見上げ、悪戯っ子のような笑みを浮かべている……こんな顔も生意気と思えない、可愛い。 


「うぅ……と、とにかく離れようなぁ陽花ぁ」


「はぁい、お兄ちゃんの負けぇ……いい加減覚悟決めて裸のお付き合いしようよぉ……今更でしょぉ?」


「そ、それはそうだけどぉ……お願いだからこれ以上お兄ちゃんを虐めないでください……」


「陽花は一度だってお兄ちゃんを虐めたことなんかないよ?」


 小首をかしげる陽花……ああもう可愛すぎる、ずるい。


「も、もう……はぁ……わかったよ、脱がせてあげるから万歳して……」


「わーいっ!! ばんざーいっ!!」


 ぱっと身体を離して両腕を上げた陽花、その服の裾に手をかけてゆっくり持ち上げてやる。


 おへそ周りが見えてきて、俺は何とか視線をそらしながら洋服を顔まで持ち上げた。


(よ、良し今だっ!!)


「す、済まん陽花っ!! お兄ちゃんを許してくれっ!!」


「はにゃぁっ!? お、お兄ちゃんっ!?」


 服で顔が隠れているのをいいことに、さっと離れて自分の服を脱ぎ捨てて風呂場へ駆け込んだ。


 浴室の扉を閉めると同時に、凄まじい勢いで陽花がぶつかってくる。


『ずるいよお兄ちゃんっ!! こんなの許されないんだからねっ!!』


 バンバンと扉を壊さんばかりの勢いで叩いてくる陽花……どんどん激しくなる、多分道具を使ってる。


(ほ、本当にぶっ壊してでも中に入ろうとしてるぅううっ!!)


「よ、陽花落ち着いてっ!! す、すぐ出るからっ!!」


『出ちゃ駄目でしょっ!! 陽花と一緒にお風呂入るんでしょっ!!』


 そんなこと一言も言った覚えはない……だけどこうなるともう止まらない。


『お兄ちゃんっ!! 早く開けなさいっ!! 可愛い陽花の命令ですっ!! 観念して心も身体も開きなさいっ!!』


「だ、駄目ですぅ……ああ、ドアが壊れるぅううっ!?」


『そうだよドアさん壊れちゃうよっ!! その前に開けないと大変なんだからねっ!! あとでパパとママに謝んなきゃだよっ!! ほら開けてっ!!』


 これ以上抵抗を続けてもドアが犠牲になるだけだ……俺は涙を堪えて抵抗をあきらめた。


 ドアが開き一糸纏わぬ状態で天女のような美しさを誇る裸体を惜しげもなく曝け出した陽花が入ってきた……投げ捨てた鉄パイプみたいなものは見なかったことにしよう。


「お兄ちゃんっ!! 陽花とっても怒ってるんだからねっ!!」


「わ、わかったから……た、頼むから前を隠して……うぅ……ふ、震えてるからぁ……」


 陽花の綺麗な肌が目に映る、そして女性的で魅惑的な……俺は湯船に飛び込んで視線を逸らす。


「ズルしたお兄ちゃんにそんなこと言う権利はありませんっ!! 罰として陽花とラブラブすりすりの刑ですっ!!」


「ちょ、よ、陽花っ!? だ、抱き着かないのっ!? ああ、お湯が溢れていくぅっ!?」


「お湯なんかどうでもいいでしょっ!! ほら陽花を見てしっかり抱きしめるっ!!」


 ふくれっ面の陽花が俺と向かい合う形で湯船に身を沈め抱き着いてくる、可愛らしいけれど……それどころではない。


 お湯に湿った身体はお互いをより密着させる、全身で柔らかさを感じる……何とか腰だけは引いてそこだけはくっつかないようにした。


(うぅ……む、胸が触れ合って……肩も背中もすべすべ……ああ、触れ合ってるだけで……気持ちよすぎて苦しい……)


 腰を引いて何とかそこだけはくっつかないようにして……優しく抱きしめた。


 何だかんだ言って陽花を抱きしめている間が俺にとって一番幸せな時間なのだ……後、見ちゃいけない所を覆い隠したいこともあった。


「もぉ、最初からこうすればいいのに……えへへ、陽花幸せ……」


 蕩けそうな表情で頬を緩ませる陽花、顔が赤いのはお湯が熱いから……だけじゃないだろう。


「陽花は恥ずかしくないのかな?」


「……陽花だって恥ずかしいよぉ……心臓だってドキドキしてるでしょ?」


「ああ、凄い伝わってくる……けどお兄ちゃんのほうがドキドキしてるよ……」


「うん、心臓壊れちゃいそうだね……えへへ、陽花色っぽい?」


「……」


 無言で頭を撫でてやる……どうしても口にするのが気恥ずかしい。


「あぁん……お兄ちゃん、陽花本当に幸せ……こうしてるだけで幸せ……だけどもっと先に進みたいなぁ……そしたらもっともっと幸せになれちゃうと思うの……お兄ちゃんだって気持ちよくなりたいでしょ?」


「お兄ちゃんは十分幸せだよ……陽花が居てくれればいいんだ……だからこの先に進むのはもう少し待って欲しいなぁ……幸せすぎておかしくなっちゃうよ」


「もぉ、男の子でしょぉ……甲斐性見せてよぉ……そんなんじゃ稲子お姉ちゃんも葉月お姉ちゃんも可哀そうだよ……順番待ちしてるんだからね?」


 最近姿を見せない二人、二十歳も後半になって色々と辛抱が効かなくなってきたらしい……実際最後に会った時は押し倒された。


 陽花が止めてくれなければ間違いなく一線を越えていた……それ以降は連絡こそとっているが俺たちが結ばれるまでは極力会うのを控えるつもりなのだそうだ。


「……あの二人には悪いけどね、やっぱり陽花が一番大事だからもう少しだけ耐えてもらうよ」


「陽花はいつでもオッケーなのになぁ……別に人の目なんか気にしないんだから……」


「それでも嫌なの……お兄ちゃんは陽花のことしか考えてないんだから……」


「嘘つきぃ……スマホの待ち受け見たよぉ……また幸人君に我儘言って女装させたでしょ?」


「うぐっ!?」


 まさかアレを見られているとは思わなかった……まあパスワードが陽花の誕生日だからどうしようもないのだけれど。


「幸人君もう女装止めてたのに……まあしてなくても美人さんだけど……男の人からたくさん告白されてるけど……陽花よりも……あんなの反則だよぉ……」


「うぅ……だ、だって……久しぶりに会ったんだもん……ちょっと当時を思い出して冗談で口にしただけだもん……」


 それだけでわざわざ洋服屋に駆け込んで色んな服を着て見せてくれたのだ……思わずセクハラしちゃったのは秘密にしておこう。


「お兄ちゃんさぁ、やっぱりそっちの気があるんじゃないのぉ……戸手さんもたまに困ったように陽花に相談してくるんだよ?」


「え、何をっ!? 全く心当たりないよっ!?」


「戸手さんの息子さん……この間のお泊り以来、お兄ちゃんのこと口にして顔真っ赤にしてるんだってぇ……何したのぉ?」


「な、何もっ!? た、ただ一緒にお風呂入って綺麗に身体を洗ってあげただけ……溺れたら大変だからねっ!!」


 戸手は相変わらず人見さんと仲が良く……今では三人目の子供の面倒にかかりきりだった。


 だから子育てを手伝いに行ったついでにお風呂にも入れてあげただけ……あんな戸手そっくりな可愛い子に変なことするわけないのになぁ。


「お、お兄ちゃんさぁ……陽花とお風呂入るのあんなに拒否っておいてぇ……浮気者ぉっ!!」


「う、浮気じゃないってばぁっ!! 俺は陽花が一番だし、誰にも手なんか出してないよぉっ!!」


「ふぅん、じゃあ疚しいところがない証明に陽花の身体も同じように洗ってくれるよねぇ?」


「え、あ、い、いやそれは……勘弁してください……」


 陽花の身体を余すところなく素手で洗ったりしたら……間違いなく俺の理性が崩壊する。


「やっぱり怪しいことしてるんでしょぉっ!! 陽花また怒っちゃうよっ!!」


「うぅ、可愛い……じゃなくて、本当に変なことはしてないから……多分」


「か、可愛いって……えへへ……じゃなくて、そんな言葉じゃごまかされないんだからねっ!! 何よ多分ってっ!?」


「い、いや本当に普通に接しただけです……信じてよ陽花ぁ……」


 頭をナデナデしてごまかそう……よし、とても嬉しそうにしている、効果的だ。


「もぉ……お兄ちゃんずるいぃ……すぐそうやって有耶無耶にしようとしてぇ……えへへ……」


「よしよし……陽花は昔っからいい子いい子されるの好きだね……」


「だってぇ、お兄ちゃんだからだよぉ……陽花やっぱりお兄ちゃん大好きだから許しちゃうよぉ……」


「ありがとう陽花……お兄ちゃんも大好きだよ……」


 陽花が笑ってくれている、俺に笑顔を向けてくれている……やっぱり今も十分幸せだ。


「よぉし、特別に髪の毛と背中は洗ってあげようっ!!」


「わーいっ!! じゃあ陽花はお兄ちゃんの下半身洗ってあげちゃうっ!!」


「絶対だめですぅっ!!」


 必死な攻防を繰り広げながら俺たちはお風呂で身体を洗い合った……大事なところを死守するのはとても大変だった。


「ぶぅ……お兄ちゃんの馬鹿ぁ……」


「はぁはぁ……今日も守り抜いたぜ……」


 脱衣所兼洗面所で歯磨きしつつお互いに背を向けてお着替えをする……何故か下着のチョイスだけは見られるのを嫌がるのだ。


(確か勝負下着のインパクトを減らさないためとかなんとか……あんまり派手なの着てほしくないんだけどなぁ……)


 陽花には清純な白が一番似合うと思う、それも飾り気のない奴だ。


 最もこんなことは言えないのだが……俺はさっさと着替えると陽花に声をかけた。


「着替え終わったかぁ?」


「ちょっと待ってぇ……うん、いいよぉっ!!」


 振り返ると俺の大きめのシャツを着て嬉しそうに微笑んでいる陽花……下は何も着てないようにすら見える。


「……陽花さん、それはちょっとエッチすぎませんか?」


「興奮した?」


「あはは……ほら、陽花ベッド行こうなぁ」


「あぁん、お兄ちゃんたらぁ……そんな言い方されたら陽花断れないよぉ」


 当たり前のように陽花をお姫様抱っこしてベッドへと連れていく、確かに傍から見たらまるで……頭を振って不埒な思考を飛ばす。


「ほら、もうおねんねしなさい……お兄ちゃんは家事をして……」


「もう全部終わってるよぉ……良いから一緒に横になってお話ししようよぉ?」


「……お話だけな、一緒には寝ないからね」


 念を押して隣に横になった……一緒に寝るとおはようのキスから始まって、絶対に離れようとしなくなるから結局仕事も学校も休むことになるのだ。


「分かってるよ、陽花そんな我儘さん言わないもん」

 

「全くどの口が言うんだろうねぇ……ほら、腕枕……」


「うん……陽花ね、お兄ちゃんの腕枕大好き……」


「俺も陽花にしてあげるの大好きだよ……明日が休みならずっとこうしてたいぐらいだよ……」


 陽花の頭が乗っかる、慣れ親しんだ重さ……この感触が幸せだ。


「なら休んじゃおっかぁ……陽花結構頭いいから一日二日休んでも平気だよ?」


「お兄ちゃんは一日二日休んだらとても嫌な目で見られてしまいます……」


「陽花の為に近場を選んでくれたからだよねぇ……ごめんねぇ」


「そんなことないよ……俺が少しでも陽花の顔を見たかったからだよ」


 そう少しでも早く帰って少しでも多く陽花に構ってあげたかった……だから他にも就職できる場所がありながら近場というだけであそこを選んだのだ。


 そしてそれは正しかった……仕事自体はきついしやりがいはないが、それ以上に陽花と接する一番幸せな時間を長く堪能できるのだから。


 学生時代のように常に楽しい時間を過ごすとはいかないが、俺はあの時以上に幸せだった。


(まあそれ以上に疲れるけど……陽花がもう少し落ち着いてくれれば……それはそれで寂しいからヤダなぁ……)


 相変わらずの陽花中毒だ、俺の症状も強くなる一方だ……これで一線を越えてしまったらどうなるのだろうか。


 間違いなくこれ以上執着して……ひょっとしたら共依存になるかもしれない。


(今だって……本当は会社も何もかも放り出して陽花と二人っきりでイチャついていたいんだから……)


「えへへ……だけどもうお仕事辞めちゃっていいんじゃないかなぁ? だってほら、葉月お姉ちゃんも稲子お姉ちゃんもお兄ちゃんを養う気満々なんだよぉ?」


 葉月は医者になった、稲子は役所の職員だ……俺より遥かに安定して収入もしっかりしている。


「うぅ……お兄ちゃんだって男らしいところ見せたいんですぅ……」


「もぉ……なら戸手さんのところに就職したら?」


 戸手はオカルト部時代の伝手を生かして、何でも屋をやって物凄く繁盛している……しかし相変わらず生傷が絶えない。


「お兄ちゃんが怪我したら陽花泣いちゃうでしょ……俺は陽花を泣かせるようなことはしません」


「今の仕事だって危険でしょぉ? 何なら陽花が頑張っていいところ就職しちゃうからお兄ちゃんは専業主夫していいんだよ?」


「あ、あはは……考えておきますぅ……」


 陽花は公認会計士の資格を目指しているようだ……これで成功されたら本当にお兄ちゃんの立場が危うい。


「と、とにかく今はまだ辞めません……陽花が居てくれるから全然頑張れるよ……」


「無理だけはしないでね……それで沢山長生きしてずっと陽花の隣に居てねっ!!」


「分かってるよ……これまでも、これからも……俺は陽花と一緒だよ」


「えへへ……お兄ちゃん大好きぃ……」


 陽花が俺の頭に手を回して寄せて、軽く唇同士を触れ合わせた……普通のキスは久しぶりだった。


「懐かしいな……お口さんのチュー……陽花大好きだったもんね……」


「うん、大好き……本当は初めて会った時にお兄ちゃんがしゃがんだ時にキスしちゃおうかなって思ったぐらいだもん」


「……陽花は俺に一目ぼれしてたのか?」


「最初はママに話を聞いていいなぁって思ってて……初めて会ったら目を合わせてくれて優しいなって思って……」


 懐かしそうに、そしてどこか恥ずかしそうに陽花はしゃべりだした。


「だけどあの頃、ママに変な男の人がまとわりついてたこともあって……陽花ね、物凄く怖がりだったんだよ……」


「人見知りさんだったもんねぇ……最初の頃は俺とも距離を取ってたもんね……」


「うん、だからお兄ちゃん良い人だなぁと思ってもちょっと怖くて近づけなくて……だけど陽花がお風呂で溺れそうになった時さっと助けてくれて……嬉しかったぁ」


「……ああ、あったねぇ」


 俺が過保護になる原因となった事件……更衣室でお風呂の順番待ちをしていなければどうなっていたことか。


「あの時からお兄ちゃんは陽花のヒーローだったの……それで思いっきり甘えられるようになって……たくさん我儘言って……お兄ちゃん何でも応えてくれるからどんどん好きになって行ったの……」


「そっかぁ……そうだったんだねぇ……」


「うん……それで今も……陽花ねぇ、お兄ちゃんが好きで好きで仕方ないの……本当に、好きすぎて……時々苦しいの……」


「陽花……」


 俺を見つめる陽花……目が潤んでいて、風呂上がりの頬は火照っていて……綺麗だなぁと思った。


「だから……本当は、今すぐにでもお兄ちゃんと一つになりたいの……もっと深くつながりたいの……」


 顔が近づいてくる、俺は動くことができない。


「お兄ちゃん……やっぱり……駄目?」


 吐息が掛かるほどの距離で、陽花が切なそうにつぶやいた。


「……本当の本当に陽花が耐えれないなら……陽花がそれを望むんなら……お兄ちゃんは何でもしてあげるよ……」


「……ありがとうお兄ちゃん、やっぱり優しいね」


「陽花のことが世界で一番大好きだから……愛してるからね、何でもしてあげたいんだよ……」


「陽花もお兄ちゃんが……皆川石生を……愛してます……」


 初めて陽花が俺の名前を口にして……そのまま唇を重ねた。


 両手が背中に回って、俺も優しく陽花を抱きしめた。


「……ぷはぁ……なんか普通のキスなのに……特別なキスより……ドキドキしちゃったぁ」


「うん……俺も……ドキドキしてるよ」


「えへへ……やっぱり今はこれで十分……陽花まだお子様みたい……この続きはまた今度にするねぇ」


「そっか……」


 俺は優しく陽花を撫でてやった、いつまでもいつまでも……幸せを実感しながら。


(俺の陽花……世界で一番大切な宝物……)


 こんな日がずっと続いてほしいと俺は心の底から願いながら目を閉じた。


『お兄ちゃぁんっ!!』


 夢を見た、まだ幼い陽花と一緒にいたころの夢。


 俺が初めて幸せを感じたときの夢。


 とても懐かしくて、時々戻りたいとすら思ってしまう夢だ。


『陽花……お兄ちゃんは今がずっと続いてほしいよ……』


 夢の中で昔の俺が陽花を抱きしめながら寂しそうにつぶやいている。


 俺はそんな過去の俺に……優しく微笑みかける。 


(安心しろ、何も変わらないから……成長しても俺たちは……ずっと仲良しだよ……)


 今回はっきりわかった、だからもう朝目を覚ましても……幼い陽花を探し求めることはないと思う。


 俺は過去の陽花に軽く手を振ってやり、今の陽花を求めて振り返った。


(…………っ!?)


 口元が何かに触れる心地、鼻には成長途上の女性特有な清涼感溢れるけど艶やかな香りが入ってくる。


 更に口内を舌が蹂躙する、あちこちを舐めまわし……俺の舌に絡みつき逃がそうとしない。


「んっ……ちゅぅ……はぁ……えへへ、お兄ちゃんおはよ~」


 目を覚ませば美しく成長した陽花の顔がドアップで映る、布団の上から俺にまたがって顔を覗き込んでいる。


「お、おはよう陽花、何をしているのかなぁ?」


「おはようのキス……もっとしちゃうから……」


 顔を火照らせ瞳を潤ませながら俺に顔を近づける陽花、切り揃えられた黒髪が揺れる姿もまたとても美しい。


(や、ヤバい……一緒に寝てしまったっ!?)


 しかし俺はそれどころではない、慌てて陽花から距離を取ろうとして……しがみ付かれた。


 更に顔を寄せてきて、強引にキスの続きを始めてしまう。


「んっ……ちゅっ……ちゅっ……んふぅ……」


「んぅ……はぁ……ほ、ほら陽花……んぅっ……そろそろご飯食べ……んっ……て歯磨きして学校行こうな?」 


「やだぁ……お兄ちゃんとずっとこうしてるぅ……もっとキスしちゃうからぁ……ちゅっ……ちゅぅ……ちゅっ……」


「き……んっ……キリがない……んぅ……ぞ、ほら抱っこして……んんっ……連れてって……陽花ぁ……」


 全く俺の言葉を聞かずキスに夢中になっている……しかし俺もまた抵抗しきれない。


 可愛い陽花が頬を火照らせて、一生懸命キスをしに来ているのだ……逆らえるはずがなかった。


 髪を乱す陽花、舌を伸ばす陽花、潤んだ目で俺を見つめる陽花……嬉しそうに微笑んでいる陽花。


 陽花の全てが愛おしくてたまらない……他の全てがどうでもよくなっていく。


(ああ……もうどうにでもなれっ!!)


 俺もまた衝動のまま陽花に抱き着いて、腕の中に収まった宝物の感触を堪能することにした。


「あぁん、そんな強く抱き着いて……やっぱりお兄ちゃんも陽花と離れたくないんでしょぉ……これはもう結婚するしかありませんねっ!!」


「そうだねぇ、お兄ちゃんもう陽花の虜だから……とっても可愛い陽花と結婚できなかったら死んじゃうよ」


「えへへ~、しょうがないから一緒に居てあげるっ!! ずっとずぅっと一緒に居てあげるからねっ!!」


 絶対に離さないとばかりに俺を抱きしめる陽花、こっちも力いっぱい抱き返して……たくさんキスをした。


 俺にデレデレな可愛い義妹……だけどまだ中学生だ、手を出すのはヤバすぎる。


 だけどどうしようもない、俺もまた陽花にデレデレなのだから。


「陽花……大好きだぞっ!!」


「陽花も……お兄ちゃん大好きっ!!」


 心の底から幸せそうな陽花の笑顔を見て、心の底から嬉しそうな陽花の言葉を聞いて……俺はその日嬉し涙で枕を濡らした。

 【読者の皆様にお願いがあります】



 この作品を最後まで読んでいただきありがとうございます。

 

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 これで終了ですが、たまに外伝等を投稿するかもしれません。

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[一言] 完結おめでとうございます! 陽花ちゃんと幸人君とても可愛かったです! 外伝も楽しみにしてます!
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