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皆川石生の決心

「ふぅ……流石にもう寝る時間だなぁ……」


「そうね……名残惜しいけどチェックアウトに遅れたらまずいし、そろそろお開きね」


「えぇ~、どーせだから徹夜で遊ぼうよ~」


「楽しそうだけど……僕たちはお風呂も入らないといけないからね」


「……別に一日ぐらい平気だろぉ……もう一回ぐらい遊んでもいいだろぉ……」


 みんなで遊んでいたがそろそろ眠る時間だ……なのに先輩組が愚図っている。


「だけど、ぼくそろそろねむくなってきちゃいましたぁ……ふぁぁ……あくびしちゃいましたぁ……」


「陽花はまだへいき……んにゃぁ……へいきだもん……」


 子供二人に至っては寝ぼけ眼で首がカクンとしている、可愛すぎる。


「キリがないですよ……ほら、解散しましょう」


「うぅ~石生君のいぢわるぅ……」


「詩里香先輩も行こうよ……遊び足りないなら後で付き合ってあげるからさ」


「わわっ!? は、離せ離せ離せぇえええっ!?」


「じゃあまた明日……おやすみなさい」


 我儘をいう先輩二人をなだめながら、俺は陽花を抱いて部屋を後にした。

 

「おにいちゃぁん……陽花……ねむ……く……くぅ……」


 既に俺の腕の中で眠りに落ちていた陽花をそっとベッドに横たえる……とてもかわいい寝顔だった。


 ずっと見ていたい気持ちを抑えて、荷物をまとめて帰りの支度をする。


(早かったなぁ……)


 あっという間の毎日だった、想像通り騒がしくて……ただ楽しかった。


 こんな時間をまた過ごしたいと心から思う……そのためにも俺は決めなければいけないことがある。


(俺は陽花とどうなりたいんだ?)


 荷物をまとめ終わり陽花の元へ向かう、ベッドのわきから可愛い陽花の寝顔を見守る。


「すぴー……んむぅ……兄ちゃ……んふふ……くぅ……」


 どんな夢を見ているのだろうか、俺を呼んで嬉しそうに微笑む陽花。


 本当に可愛くて愛おしい、ずっと腕の中にとどめていたい。

 

 俺のそばから離れないでほしい……俺の宝物。


(稲子さんも葉月さんも大事だ……戸手も幸人君も大事だ……だけど陽花はそれ以上だ……)


 俺の天使、俺の全て……俺の妹、義妹。


「陽花……お兄ちゃんは、お兄ちゃんするのが辛いよ……」


 そっと撫でてやる、大切な妹を……陽花という女の子を。


 もしも兄という立場でなければどうなっていたのだろう、もっと歳が近ければどうだったのだろう。


 もっと簡単に答えを出せた気がする……そもそもこんな考えを持たなかったかもしれない。


「くぅ……すぅ……お兄ちゃぁん……ちゅぅ……すぴー……」


「……ちゅっ」


「んにゃぁ……えへ……すぅ……」


 優しく起こさないようにほっぺたにキスをしてやると、それだけで陽花は眠ったまま嬉しそうにする。


(こんなことで喜んでくれるなら幾らでもしてあげたい……陽花が笑い続けられるなら何でもしてあげたい……)


 だからこそ思う、兄の俺が……歳の離れた俺が……こんなことをしていていいのかと。


 将来的に大人になって知識を身に着けた陽花はこのことを嫌な思い出として振り返るかもしれない。


 そう思うと、心が捩じ切れそうなほどに痛む。


(でもじゃあ逆に……陽花が心変わりしなくて……ずっと今のまま……知識を身に着けたうえで俺を恋人として望んだら……)


 考えないようにしていたこと、駄目だと言い聞かせていたことに俺はようやく踏み込む決意を固める。


 稲子さんや葉月さんと話して、二人が向こうから動いて関係を変えてくれた……俺を変えてくれた。


 ならばせめて、気持ちに応えられなかった代わりに……陽花への答えはしっかり出さないと駄目だろう。


 陽花に対して関係を変えるのか、変えないのか……背中を押してくれた二人のためにも決めないといけない。


(大人になった陽花……多分あの二人に引けを取らないほどの美人で可愛い子に育つであろう陽花……俺に……構ってくれるのだろうか?)


 頭を振ってその考えを飛ばす、決めなきゃいけないのは俺がどう接するかだ。


 陽花が普通の兄妹を望むようになるかどうかはその時にならないと分からない。

 

 それを待つのではなく、あくまで俺自身の感情を……考えを定めないといけない。


(陽花……世界で一番かわいい俺の妹……世界で一番愛している俺の妹……妹だ)


 陽花の頭を撫でる、眠り続けながら嬉しそうに反応している。


 これだけで幸せだ、どうしても今が続けばいいと思ってしまう。

 

 俺は陽花を撫でながら、ゆっくりと目を閉じた。


『お兄ちゃん、チューしよぉ』


 ふと今朝の夢を思い出す、目を開けると陽花の顔……幼い顔だけど夢で見た大人の陽花と重なって見えた。


(キスに……抵抗なかったなぁ……)


 夢は夢だ、だけど……今もこうして大人の陽花と重なって見えてなお口へのキスへ抵抗が薄い。

 

 何故ならあの夢の陽花は、大人になった陽花は……今の陽花みたいに無邪気に甘えてきたから。


(今と変わりなくてだから……ああ、そうか俺は……っ)


 今みたいに無邪気で俺に甘えてキスを強請る陽花のままでいてほしい……のだと、ようやく気が付いた。


 大人になっても、成長しても今のような関係で……キスを望まれる関係でいたいのだ。


「はは……なんだ」


 簡単な答えだった……ただ、きっと駄目になると思い込んで必死に自分を自制していただけだった。


(世界一可愛い陽花、世界で一番愛している陽花……この時点で答えが出てるじゃないか)


 愛しているから傷つけたくないから……兄妹という常識的な範囲にお互いを置いておきたかった。


 俺が傷付く分にはいいけれど、万が一にも陽花には傷付いてほしくなかったから。


(なら簡単だ……やっぱり答えは出てた……俺は陽花の思うとおりにしてやればいいんだ……)


 陽花が望む関係を……幼いうちは兄として節度を守り、成長して判断力が付いた後は陽花の望むとおりにしてやればいい。


 そこで拒絶されるのが恐ろしくて、最初から距離を置こうとしていたのが間違っていただけだ。


(俺が傷付く覚悟さえできていれば簡単な事だった……我ながら情けないなぁ……)


 ようやく己の答えを見つけ出した俺は晴れやかな気持ちで陽花の隣に横になった。


 後は陽花次第だ、だけどどう成長しようと……俺は陽花が望む相手でいてあげたいと思った。


 そして……俺は夢を見た。

 

『お兄ちゃん、陽花おっきくなったよー』


『もうあのとくべつなちゅーしてもへいきだよねー』


『だからお兄ちゃんからちゅーしてぇ』


『……えへへ、お兄ちゃん大好きぃ』


 世界で一番幸せな夢だと思った。


 どうか現実になってほしい……叶ってほしいと心から思った。

 【読者の皆様にお願いがあります】



 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

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