一件落着
「……ごめんなさい、詩里香先輩」
「……うるさい」
土下座する戸手の前で布団にくるまった詩里香先輩が不貞腐れている。
あのような醜態を晒されたのだから当然だ。
「まあまあ……とにかく、あれだ……結局戸手に情報を渡さなかったのは新しく入った奴だったんだろ?」
「ああ、特に無能でろくに働こうともせずに女子部員全員に節操なく声をかけてたクソ野郎みたいだ……後でしっかり責任を取らせてやるよ……」
「お、落ち着きなさいって……ほ、ほら一応一番重傷だった人みたいだし……お手柔らかにね……」
「分かってるよ、ちゃんとばれないようにやるよ」
「全然わかってない……」
戸手は正気に戻ったようでかなり怒り狂っているようだ……まあ俺たちには普通に対応できるようになったからまだマシだ。
「とりあえず人見さん、替えのパンツ取ってきたから履き替えて~……ノーパンだと戸手君が興奮しちゃうよぉ?」
「う、うるさいうるさいうるさいぃいいいっ!!」
「今回ばかりは人見先輩に同意です……そういうことはこっちに聞こえないように伝えてあげてくださいよ稲子さん……」
稲子さんが差し出したリボンが付いたパンツをササっと受け取り布団の中でもぞもぞと蠢く人見先輩……というかパンツを直接渡さないであげてください。
「でもまあ……ごめん、僕知らなかったとはいえ……詩里香先輩を放置して……心細い思いをさせてちゃったんだね……」
「そ、そうだぁ……お、お前が居ないから……来たけど……遅かったけど……来たけどぉ…………うぅ……」
「そのせいでオカルト部は潰れたようなものだもんね……あはは、それは嫌われるよねぇ……道理であの日から当たりが強くなったわけだよ……うん、納得できた……」
「その言い方からすると、前はもう少し……人見先輩はまともだったのか?」
「わ、私はいつでもまともだぁあああっ!! お、お前らと一緒にするなぁああっ!!」
俺の言葉に反応して暴れる人見先輩……全然納得できねぇ。
「いや殆ど変わらないけど……怒鳴るだけじゃなかったよ……ちゃんとお礼を言える人だった……そっかぁ、僕のせいで……ごめん……」
「きゅ、急に態度を変えるなぁ……お前だって……お前だってあの日から……当たりが悪くなって……私の前で笑わなくなって……」
「何だかんだでオカルト部も……詩里香先輩に振り回されてばっかりだけど……楽しかったから……辛かったんだ……」
俺たちの前で元気なくボソボソと会話を続ける二人……だから空気が重いんですよぉ。
「……稲子さん、ちょっと発破かけて明るくしてみてください」
「えぇ、私だって空気ぐらい読むよぉ……せっかく二人が思い出話に浸ってるのに邪魔なんかできないよぉ」
「これのどこが浸ってるって空気なんですか……」
肝心な時に役立たない人だ……まあ俺も口出しできないんだけどさぁ。
「うぅ……私だって……あそこがなきゃ……オカルト部がなくなって……戸手しかいなくなって……戸手もオカルト同好会に居る私しか相手してくれなくて……あそこしかないから……」
「詩里香先輩だから相手をしてたんですよ……だけど迷惑だって言うから……一緒に居ても怒らせるばっかりだから……もうどうしていいかわからなかった……だから今回でけりをつけようと思って……告白して……玉砕したから……はぁ……」
「あ、あんな告白の仕方する奴があるか馬鹿っ!!」
「ああでもしないとお前……じゃなくて詩里香先輩にあんなこと言えないよ……すぐ馬鹿なことするから後始末しなきゃいけないし……」
落ち込んでる戸手、だけどどうも人見先輩の反応がおかしい。
「……あんな告白の仕方じゃなきゃOKしたんですか?」
「はぅっ!?」
勇気を出して尋ねてみると、人見先輩はわかりやすく固まった。
「え……詩里香先輩?」
「し、知らん知らん知らんっ!!」
そして布団を頭まで被って隠れてしまう人見先輩、ある意味わかりやすい。
「ちょ、ちょっと詩里香先輩っ!? そ、そこはちゃんと返事を……僕のこと嫌いだって……そ、それにあの先輩のこともあるし……か、顔出してくださいっ!!」
「うぅううううるさいうるさいうるさいぃいいいっ!! いいからあっち行けぇえええっ!!」
「い、嫌だっ!! 今度こそ離れるものかっ!!」
「とでおにいさんじょうねつてきですぅ……」
「ゆ、幸人君にもしてあげようかっ!?」
「お兄ちゃん……めっ!!」
陽花に怒られてしまった……ぐすん。
「人見さん、そろそろお昼ご飯だよぉ……出てきて食事処行こうよ~」
「稲子さんさぁ……いやもう何でもないです……はぁ……」
何か疲れてしまった……それにいい加減二人きりにしてあげたい。
「戸手、俺たち先に食事処行ってるから……説得して連れてきてくれ」
「う、うん……頑張るよ……詩里香先輩ほら、せめて顔ぐらい見せて……」
「うるさいうるさいうるさいぃいいいっ!!」
先ほどまで修羅場に見えていたのに、一転して夫婦喧嘩にしか見えなくなった。
付き合いきれなくなった俺たちは二人を置いて食事処へと向かうのだった。
そして俺たちが昼食を食べ終わったころになってようやく二人はやってきた……戸手が人見先輩を背中に張り付けた状態でだ。
「おお、仲直りしたんだな……見事正常運転だ」
「あはは……一応それ以上というか……まあ、その上手くいったよ」
「うぅぅ……うるさい、お前は下僕だぁ……わ、私の言うことに従うって言うから特別に……その……だから……だけだからなっ!!」
「おお、けっこんされたのですかっ!! プロポーズのことばはなんでしたかっ!!」
陽花が敏感に反応した……やっぱり結婚ごっこが大好きなようだ。
「それはもう二度と一人にしないよ、かなぁ」
「うるさいぃいいっ!! そんなのに答えるな馬鹿ぁっ!!」
「あはは、詩里香先輩は可愛いなぁ」
「……戸手が壊れた、いや無敵化した……うぅ、人見先輩めぇ……俺の戸手を……きぃ……」
「お、お兄ちゃん……お兄ちゃんには陽花がいるでしょぉ……もぉ……」
人見先輩の暴言にももはや余裕を崩すことなく、戸手は人見先輩を向かいの席に降ろして食事を持ってきた。
「ほらぁ詩里香先輩、あーんしてぇっ」
「はぁあああっ!? お、お前お前お前っ!? あ、頭壊れたかぁあっ!?」
「嫌だなぁ、恋人同士なら当然ですよぉ……ほらあーんっ」
「お前らぁああっ!! こ、この馬鹿を止めろぉおお……もがぁっ!?」
叫び声を上げようと口を開いたところにすかさず戸手が食事を突っ込む……満面の笑顔でだ。
(戸手君さぁ……実は結構怒ってない?)
「あはは、ほら幾らでもあるからねぇ……全部食べさせてあげるよ……」
「と、戸手ぇええっ!? お、お前何……むぐぅっ!?」
「……なあ戸手、嫌いとか言われてさんざん不安をあおられたからちょっと怒ってるだろ?」
「いやだなぁ、僕らはラブラブなだけだよ……ふふ、悶える詩里香先輩は可愛いなぁ……」
どうやらやはりイラっと来ていたようだ、それをいっぺんに解消する気らしい。
「ほどほどにしておきなさいよ戸手君、せっかく両思いに成れたのにまた嫌われちゃうわよ?」
「ふふ、ありがとう正道さん……大丈夫、きちんと手加減するから」
戸手の言葉に少しだけ驚いて……俺は何故か妙に嬉しかった。
人をフルネームでしか呼べなかった戸手も、多分変わろうとしているのだろう。
俺が陽花のお陰で変われたように、戸手も人見先輩と付き合いながら変わって行こうとしているのだろう。
前なら戸手が遠くに行ってしまいそうで苦しかったけれど……目の前で本当に嬉しそうに微笑んでいる戸手を見ているとよかったと心の底から思えた。
「た、助け……むぐぅっ!?」
「あはは、しゃべりながら食べてると喉詰まりするよぉ」
「仲良いなぁ……」
俺たちは仲睦まじく食事を続ける二人を見守り続けるのだった。
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