皆でお話し
「あぁあああっ!! お前お前お前ぇええええっ!!」
「へっへーんだっ!! 私の勝ちぃっ!!」
葉月さんの部屋に戻った俺たちは仲良く暴れる先輩二人の姿を目撃した。
「あーおにーちゃーんっ!!」
「陽花ー、戻ったよーっ!!」
「……あの二人どうしたのかな?」
「七並べしてたんだけど矢部……じゃなくて稲子先輩が人見先輩の出せる場所全部せき止めちゃって……」
「さいごのふたりになったらパスできるかいすうがおおいからってやべおねえさんカードださなかったんですよぉ」
流石稲子さん、空気読まなすぎ……というかガチで勝ちにいきすぎです。
「あ、あはは……まあ仲良くやってるみたいで何よりだよ……」
「戸手ぇえええっ!! この女やっつけろぉおおっ!!」
「……トランプに負けたぐらいで騒ぐなよ」
どうやら人見先輩は正常運転に戻ったようで、いつものように戸手の背中に張り付いた……戸手が少しだけほっとしたように見えたのは気のせいじゃないと思う。
「まあまあ、せっかくだし皆でもう一回ぐらいなにかしましょうよ」
「けどこの人数でできる遊びって……また神経衰弱ぐらいしかないんじゃないかなぁ?」
「そんな面倒なもんやるかぁーっ!!」
「お兄ちゃん……陽花わがままいうのやめるぅ……」
「そうだぞ、少しは控えないとあんなふうに育っちゃうんだぞー」
ずっと人見先輩の我儘を見ていたようで陽花がしおらしい発言をした、反面教師として素晴らしい教材だ……本当にあれのどこがいいのだろう。
「じゃあ何をします……それとも石生様と戸手君の出会いでも聞きましょうか?」
「葉月さんはそればっかりだなぁ……別に構わないけどな」
「僕も構わないけど……皆はそれでいいのかな?」
「うん、陽花もむかしのお兄ちゃんしりたいーっ!!」
陽花が腕の中で微笑む、可愛いからナデナデしよう。
他のみんなも頷いて……人見先輩だけはそっぽを向いているが否定意見が上がることはなかった。
「なら話すけど……そうだな、俺と戸手が出会ったのは中学生になった時だったよ」
「同じクラスになって……だけど席はちょっと離れてたよね」
「いやー覚えてないな……あの時はぶっちゃけそんなに仲良くなかったしなぁ」
思い返す、出会ったばかりの頃……全然思い出せない。
「意外~、こんなに親しいんだから出会ってすぐ親友になったかと思ってたよぉ~」
「そんなことないですよ、というか俺……当時は人との交流を嫌っててクラスメイトの名前すらろくに覚えてなかったからなぁ」
「ふふ、でも僕は覚えてたよ……だって物凄く独特な自己紹介だったからね」
「どくとく……ですかぁ?」
幸人君が可愛く小首をかしげる、抱きかかえてナデナデ……する前に葉月さんに持っていかれた。
「石生様ったら中学生らしく、恥ずかしい自己紹介でもしちゃったのかしら?」
「い、いやそんな覚えは……してないよな?」
「皆川はねぇ、苗字だけ呟いてすぐ席に座っちゃったんだよ……担任が慌てふためいてたなぁ」
「……あぁ……そうだったかなぁ」
すこし思い出した、確かに周りの奴らがドンびいてた気がする。
「うわぁ……お兄ちゃんかっこいーねー」
「よ、陽花っ!? い、今は違うからねっ!!」
「ようかちゃんもひとのこといえないよねぇ、たしかてんえんしてきたとき……」
「ゆきとくんしーっ!! それはトップシークレットですぅっ!!」
腕の中で陽花が物凄く慌てふためいている……そっちのほうが気になるのだが、良い子の幸人君はお口チャックしてしまった。
「凄く気になるんだけど……まあ出会った当時はそんな感じだなぁ」
「じゃあ仲良くなったのはいつ頃なの?」
「一回目の席替えで偶然隣同士になったんだ」
「戸手は人気あったからなぁ……いつも騒がしくて人の中心にいて面倒だったなぁ」
「……戸手が人気、冗談だろぉ」
人見先輩がぽつりとつぶやいた……何だかんだで気にはなっているようだ。
「いや本当にね……いろんな人から頼られて悩みを解決してて常に誰かと一緒に居たよ」
「へぇ~、女の子にもモテモテだったのぉ?」
稲子さんが空気を読まずに聞いてくる……答えていいのかこれ。
「……まあお世話好きで明るく話せる相手だったから、女子とも結構一緒にいたよな」
「いうほど深い仲じゃなかったよ……義理チョコしかくれなかったぐらいだし……」
「おいおい、義理チョコすら貰ったことのない俺に何という言い方だ……」
「あれ……稲子先輩去年は渡してないんですか?」
「うぅ……本型のチョコを作って渡そうとして溶かしちゃって、代わりに自作の栞を渡したのぉ」
予想もしない言葉が返ってきた……あの栞妙に甘ったるい匂いがしたと思ったらそう言うことだったのか。
「ことしは陽花があいをこめたチョコレートプレゼントするからねっ!! だいほんめいちょこですっ!!」
「その時は一緒に手作りしましょう陽花ちゃんお姉さまぁっ!!」
「わ、私も混ぜて葉月ちゃんっ!! 今年こそ本型チョコを完成させるのだっ!!」
「……モテモテだねぇ皆川は」
「あはは……幸人君はいくつもらえたのかなぁ?」
「ひ、ひみつですぅ……」
頬を抑えてくねくね動く幸人君……渡す側だったのだろうか、俺も欲しい。
「まあそれはともかく話を戻してちょうだい……それで何がきっかけで仲良くなったのよ?」
「きっかけねぇ……ある日なぁ、戸手がぶっ倒れたんだよ……過労でな」
「懐かしいなぁ……あの時はまだ成長途中だったから体力が付いてなくてねぇ、無理しすぎたよ」
「な、何かすさまじいわね……それでどうしたの?」
食いつく葉月さんに俺は首を横に振って見せた。
「何も……ただ俺は隣の席だったから最低限散らばった荷物を拾って返してやった」
「えぇ……他に何もしなかったのぉ? 介抱も?」
「ああ、そういうのは他の奴らが……当時の戸手と親しかった奴らがやってたよ」
「そうなんだよね、あの時の皆川は淡々としてて……逆に周りから責められてたよねぇ」
「隣に座っててどうして不調に気づかなかったんだぁとか……めちゃくちゃ言われたなぁ」
理不尽な話だった……自分たちが過労を押し付けた事実を認めたくなかったんだろうけど。
「あんまり執拗だったからねぇ、何故か僕が謝罪することになって……そこから話し始めたなぁ」
「俺は必要最低限しか会話しなかったし……戸手も深く追求することはなかった」
「だけどそれが居心地よくて……僕はほら、人に頼られると頑張らなきゃって思って無理しちゃうけど……皆川は僕に頼らなかったから……」
そう戸手はいつだって誰かに頼られると限界以上まで頑張ってしまう……良い奴過ぎるのだ。
「俺もちょうどいい距離感で居心地がよかったよ……何より、やっぱり会話に飢えてたんだろうなぁ……気が付いたら毎日話すようになってた」
「どうでもいいような会話、他愛のない深入りしない表面上だけの会話……だけど妙に楽しかったなぁ」
「それでそんな関係を長く続けている間に今みたいな仲になったってわけ?」
「まあ大体そうなんだけど、一応もう一つきっかけ見たいのがあってな……進級してクラスが分かれたんだよ」
俺の言葉を聞いて戸手が笑う……恥ずかしい話だからなぁ。
「当然表面上の付き合いだったからお互い交流が減って廊下で頭を下げるぐらいになったんだけど……ある時忘れ物してね」
どっちがと言わない辺り、戸手は優しい。
「それを取りに相手の教室に行って……返して、それからは普通に行き来するようになった……楽しかったんだ……多分もう友達になってたんだなぁ」
「そう、忘れ物が気づくきっかけになって……それからは皆川とつるんで遊ぶようにもなって……一緒の高校に進学したってわけだよ」
「うーん、意外に盛り上がりに欠けるねぇ……こう殴り合いーとか裸で抱き合いーとかなかったのぉ?」
「稲子さんは何を期待してるんですか……強いて言うなら一つの布団で寝たぐらいですかねぇ」
俺の言葉に女性陣が目を見開いた……何か誤解してませんか。
「ど、どういうことよ石生様っ!?」
「えぇ~っ!? い、石生君って受けっ!? 攻めっ!?」
「な、な、な、い、一緒の布団ってどういうことだ戸手ぇえええっ!?」
「……いっしょにおねんねしただけじゃないの?」
「……そうですよねぇ、そんなにあわてることですかぁ?」
子供二人は小首をかしげてる、俺の天使たち……ずっとピュアな心を忘れないでいてほしい。
「あはは……修学旅行で泊った部屋がエアコンが壊れててねぇ、しかも指摘しても聞いてくれなくて仕方なく抱き合って寝たんだよね」
「そうそう、戸手のぬくもりが心地よくて……ぐっすりだったなぁ」
「ふふ、皆川の抱き心地も最高だったよ……ぐっすりだったねぇ」
「お、お、お、お前らぁああっ!? へ、変態かぁああああっ!?」
人見先輩が叫んでいる……変な人だ、普通だろうに。
「普通ですよ、友情の範疇だよなぁ戸手」
「友達いないから知らないんだな……普通だよね、皆川」
「……うぅ、普通じゃないと思うけど私も友達いないからわからないわぁ……稲子先輩わかりますぅ?」
「……ぼ、ボッチ飯の達人の私に分かるわけないよぉ……人見さんはどう?」
「お、お、おかしいに決まってるだろぉおおおおっ!!」
相変わらず人見先輩は困った人だ……普通だというのに。
「まあとにかく、俺と戸手の仲はこんなもんだ……面白い話でもなかっただろ?」
「だけど僕らの友情は伝わったんじゃないかな……どうだった?」
「今のあんたらが異常に仲がいいのは伝わったわ……はぁ……」
「でも二人って一緒の高校に行きたいからあそこを受験したんだよねぇ……なのにどーして部活は別だったの?」
稲子さんが一番痛いところをついてくる……察してくれ、ってこの人が空気読めるわけないか。
「それはまあその……なんだ……」
「……僕がオカルト部に入りたかったからだよ、皆川には悪いことをしたね」
「……よく言う、オカルトなんか頭っから信じてなかったくせに……何で入ってきたんだよ」
戸手の発言に人見先輩がぼそっと呟いた……また空気が重くなりそうだ。
「そんなの……好きな女が居たからだよ……初対面で泥をぶっ掛けて、人の背中に乗って暴れて……喧嘩してばっかりの詩里香っていう先輩に惚れたからだよっ!!」
しかし戸手はむしろそんな空気を吹き飛ばすかのように呟いたかと思うと、最後には勢いよく叫びあげた。
「え……あ……な、な、な、な、な、ななななななぁあああっ!?」
ぽかんとしていた人見先輩だが言葉の意味を咀嚼し終えると、途端に顔を真っ赤にして暴れだした。
「ああクソっ!! これでも色々考えてたのに……二人っきりでとか雰囲気とか……けどもうこの機会を逃したら言えないよっ!! そうだよ、僕はお前が好きだから……一目ぼれしたからオカルト部に入ったんだよっ!!」
「は、はぁあああっ!? な、な、なんでぇえええっ!? そ、そんな素振り見せなかったじゃないかぁああっ!!」
「ずっと見せてたよっ!! 何でお前の我儘に毎日毎日休日まで潰して付き合ってたと思ってんだよっ!!」
「で、で、で、で、でもお前お前お前人のこと馬鹿馬鹿ばっかり言ってたじゃないか、バーカっ!!」
「仕方ないだろお前馬鹿なんだからっ!! 本当に馬鹿な事ばっかりして、中身を知れば知るほど失望させられて……なのに嫌いになれなかったっ!! むしろどんどん目が離せなくなっていったよっ!!」
もう俺たちのことなど眼中にないとばかりに怒鳴り合う二人……せっかくなのでかぶりつきの席で観察させてもらうことにした。
「ふ、ふ、ふざけるなぁああっ!! わ、私はお前なんか大っ嫌いだったっ!! ずっとずぅっと大嫌いだぁああっ!!」
「うわぁ……人見さん凄い……あの空気の中で断れちゃうんだぁ……あ、お菓子頂戴?」
「稲子先輩は人のこと言えないような……音立てないでくださいよ、二人の邪魔しちゃ悪いですよ……」
「さぁ、とでおにいちゃんはここでどうかえすでしょうか……?」
「みんなさぁ……もう少し気を使おうよぉ……」
小声でささやき合う俺たち……目の前で修羅場を展開されているのだ、こうでもしてないと心が持たない。
「っ!? そ、そうかよ……まあそうだよな……わかってたよ…………はぁ、そりゃあそうだよな……うん……変な事いって悪かったよ……だけどこれが最後だから……もうこれっきりだから……」
「とでおにいさん、ものすごくかなしそうですぅ……うぅ……ぼくもらいなきしちゃいましたぁ……」
「と、戸手ぇ……うぅ……何も言ってやれない無力な俺を許してくれ……」
はっきりとフラれた戸手が目に見えて落ち込んでいく、だけどまだ割って入るわけにはいかない。
何故なら……人見先輩の手が戸手の服を掴んでいるからだ。
「本当に嫌いだっ!! お前が私の全部を奪ったっ!! オカルト部の居場所をっ!! 先輩としての立場をっ!! お前が全部全部奪って行ったぁっ!!」
「……悪かったよ、だけど僕は……僕なりにお前の為に……お前がオカルト部を大事だって言うから僕も大事にしようと……必死だったんだよ……」
「嘘だぁっ!! だ、だってだってぇえええっ!! じゃあなんであの日来てくれなかったんだよっ!! あの日ぃいっ!!」
「……あの日って何でしょうね?」
「さぁ……生理かな?」
「生々しいからやめてください……」
「せいり……おおそうじのひですかぁ?」
「うーん、いそがしいもんねぇ……てつだわないときらわれちゃうよねぇ」
俺の天使最高、汚れを知らぬ天使たち万歳。
「な、何だよあの日って……僕がお前と一緒に居なかった時なんてそれこそお前が先輩たちとつるんでる日ぐらいだったろっ!!」
「うわぁ……聞いた石生君、私たちもそれぐらい一緒にいようよぉ……お菓子これで最後ぉ?」
「そうよ、毎日毎晩陽花ちゃんおねぇっ!? うぅ、叩くことないじゃないぃ……こっちに飴ならありますよ?」
「すまん、だが今暴走したらやばいだろ、我慢してくれ……かみ砕くのは厳禁ですよ」
俺たちは音をたてないようにお菓子を頬張りながら、目の前の修羅場を観戦する……気分は映画鑑賞だ。
「あの日だよぉっ!! お前が来なかった日っ!! オカルト部がっ!! オカルト部がなくなった日だよっ!!」
「な、何言ってんだっ!? お、お前が僕を呼ばなかったから行けなかったんだろうがっ!!」
「お、お前こそ何言ってるんだっ!! わ、私がお前を呼ばないわけがないだろぉおおっ!! お、臆病な私がお前抜きでオカルトに挑むわけないだろぉおおっ!!」
二人が目に見えて混乱し始めた……すれ違いかなぁ。
「だ、だけど僕は知らなかったぞっ!! そ、それにお前は他の奴らと僕を見返そうと勝手に依頼を取ってて……違うのか?」
「そ、そりゃあ戸手は憎らしかったけど……私がオカルトに一人で挑めるわけないだろぉ……失敗する怖さを誰よりも知ってるんだぞ……」
「……詩里香先輩、僕が知っていて本当に駆けつけないと思いますか? オカルト部に……貴方の元に……」
「……それ、は……来る……に決まってるけど……来てくれたけど……じゃあ何で……だって……みんな、戸手はデートで忙しいって……わ、私なんかもう相手にしてられないって……い、言ってたって……」
「な・ん・だ・っ・て・?」
人見先輩が半泣きで呟いた言葉を聞いて、戸手は……般若のごとき笑顔を見せた。
「ひぅっ!?」
「ひぃっ!?」
「くぅっ!?」
「にゃぁっ!?」
「ひゃぅっ!?」
「詩里香先輩、誰がそんなふざけたことをほざいたのかなぁ……教えてくれないかなぁ……」
物凄く怒り狂ってる……傍から見ていた俺たちですら悲鳴を上げてしまったほどだ。
「ひぅうううううううううっ!?」
当然もろに正面から見つめた人見先輩は気の毒なほど震えあがり……お漏らしした。
「……行こうか」
「……じゃあな」
「……さよならぁ」
「……お、お兄ちゃぁん」
「……お姉ちゃぁん」
「ひ、ひ、ひぅううう……」
戸手のプレッシャーに耐え切れず、また人見先輩の醜態をこれ以上見続けるのは心苦しくて俺たちはそっとその場を後にするのだった。
「おやおや、どうしたのかなぁ詩里香先輩? そしてどこに行くの皆ぁ?」
「「「「「「ひぃいいっ!!」」」」」」
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