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戸手と朝風呂

「ふぁぁ……眠い……陽花、起きろぉ……」


「ふぁぁ……あれ、お兄ちゃん……おはよーのちゅーするぅ……」


「しなくていいの……ほら、起きて朝ごはん食べに行こう」


「んにゃぁ……おはよーのちゅーするぅ……すぴー……」


 相変わらず寝ぼけている陽花を抱きかかえて顔を優しく洗ってやる。


 しかし寝ぼけ眼のままだ……しかたないのでこのまま連れて行こう。


「ふぁぁぁ……おはよう石生君……あれぇ、陽花お姉さまどうしたの?」

 

「おはよう稲子さん……まだ寝ぼけてるんだよ……」


「すぴー……うぅん、おきてるよぉ……くぅ……」


「おはよう石生様……あらら、陽花ちゃんお姉さまって朝強いと思ったのに……」


 葉月さんの言葉に首を振る……実はそこまで強いわけではない。


「おはよう葉月さん……ぐっすり寝て自分の意志で起きれば目覚めが良いんだけど途中で人に起こされたりするのは駄目なんだよ、だからアラームでは起こさないようにしてるぐらいだよ」


 前に一度鳴り響く携帯電話をぶん投げたこともあった……何より起きた後も物凄く不機嫌になる。


「へぇ……でもそれじゃあ学校に通い始めたら大変じゃない?」


「……まあ最悪は裏技があるから」


 おはようのキスをしてやれば一発で目が覚める……やっぱり後が怖いからやりたくないけど。


「おにいさん、おはようございます……ようかちゃんもおはよう」


「くぅ……うにゃぁ……ゆきとくんおはよぉ……ここようちえん……じゃない……くぅ……」


「違うよ、そろそろ起きて……」


「うにゃあだってぇえええっ!! よ、陽花ちゃんお姉さまかわぃいいいいっ!! ペロペロさせてぇえええええっ!! 葉月が顔中嘗め回して起こしてあげ……あぐっ!?」


 陽花の可愛すぎる舌足らずな発言に久しぶりにスイッチが入ってしまったらしい、とりあえず殴って正気に戻しておこう。


「うぅ……な、なんなのぉ……あうぅ……あれ、みんないるぅ……おはよー」


「お、おはよう陽花お姉さまぁ……そしてごめんなさい石生様ぁ~」


「まあ陽花も起きたみたいだし、結果オーライということでいいですよ……それよりご飯食べにいきましょう」


 食事処へ移動すると、既に戸手と人見先輩が席に座っていた……少し離れて。


「おはよう皆、先に食べてるよ」


「ああ、それはいいんだが……」


「まあ気にしないでよ、好きなところで食べていいからさ」


「そうだよぉ、石生君達も早く買ってきなよ?」


 俺達が戸手と人見先輩へ意識を集中している間に稲子さんは既に食事を購入して人見先輩の隣に座っていた……空気読まなすぎる、無敵かなぁ。


「……はぁ、陽花食べようか」


「うん、お兄ちゃんえらんでー」


「幸人は何食べたい?」


「なんでもいいですよぉ」


 俺たちも食事を買って席に座ることにした。


 戸手と俺と陽花が並んで座り、俺と陽花の前に葉月さんと幸人君が、その隣に稲子さんと人見さんが居る。


「お兄ちゃんあーんっ!!」


「はいはい……流石に葉月さんと稲子さんは普通に食べてくださいよ」


「ぶぅ……けど仕方ないかぁ……ああ、やっぱりおいしーっ!!」


「分かったわよ……うん、悪くないわ」


 陽花にだけ食べさせながら、俺たちは普通に食事をとった……平和だが静かすぎる。


(騒がしいのに慣れ過ぎてしまった……ちょっと物足りない気がしてしまう……)


「そうだ、戸手は今日この後どうするんだ?」


「うーん……昼からは近くの神社でも見て回ろうと思ってるけど、せっかくだし朝風呂でも入ってこようかな」


「それはいいなぁ、俺も朝風呂浴びちゃおうかな……陽花のことお願いしていいか?」


 確かに肩まで浸かれる風呂に入れる機会などそうそうない……いっぱい堪能してやろう。

 

「ようかちゃんお姉さまがいいなら構わないけど……私たちはどうしましょうかねぇ?」


「はーいっ!! きのうのとらんぷのつづきするぅっ!! ぜったいかつもんっ!!」


 陽花も素直に受け入れてくれた……どうやらよほど昨日の負け方が気にくわなかったようだ。 

 

「あらあら、じゃあまた勝っちゃおうかなぁ……人見さんはどうする?」


「……うるさい、お前らは関係ない」


「でも戸手君お風呂入っちゃうよ? 一人でどうするの?」


「うるさいうるさいうるさいぃいいっ!! 私は一人でやれるっ!! 何でもできるっ!! 戸手とセット扱いにするなぁっ!!」


 人見先輩が叫ぶ……戸手はあえて返事をしようとしなかった。


 当然俺たちも何を言えるはずもなく、重苦しい空気があたりに満ちる。


「いやそうじゃなくて、一緒に遊ぼうって誘ってるんだよ?」


 稲子さんだけがノンストップだ……今日は特に強いなぁ。


「そうね、少し聞きたいこともあるし一緒に部屋に来ましょうよ人見先輩」


 いや葉月さんも正常運転のままだ……なんで今日は二人ともこんなに元気なのだろうか。


「……勝手にしろぉ」


 元々他に予定などなかったのだろう、あっさりと人見先輩は折れた。

 

 その姿を戸手は痛々しい笑みを浮かべて見守っていた。


「じゃあ食べ終わったし、早速いこーっ!!」


「そうね……じゃあ陽花お姉さま行きましょう、幸人はどうする?」


「ぼ、ぼくは……あさからおにいさんとおふろはいるのはずかしいですぅ……ようかちゃんとあそびますぅ」 


「……お兄ちゃん、しばらくゆきとくんにかまうのきんしれいですっ!!」


 陽花の発言に衝撃を受ける俺、世界で二番目にきつい罰だ……一番はもちろん陽花に構えなくなることだ。


 固まる俺と何も言わない戸手を置いて、女性陣は……幸人君と一緒に立ち去って行った。


「うぅ……あんまりだぁ……」


「はは……でも助かったよ、正直僕も今ちょっと人見先輩から距離を置きたいところだったからね」


「そ、そうなのか……まあとりあえず風呂に入ろう……タオルだけ取ってくるわ」


 一旦部屋に戻りタオルだけもって戻ることにした……どうやら皆は葉月さん達の部屋に集まっているらしい。


(後で戸手を連れて合流するか……)


 風呂場に向かいながら今後のことを考えた……どうにかして仲直りしてもらわないと空気が重くてたまらない。


「よぉし風呂風呂……流石に朝だから人は少ないなぁ」


「そうだね……軽く身体を流してお湯につかっちゃおうか」


 戸手の言う通り身体を軽く洗い、すぐに昨日と同じく露天風呂へと向かった。


 やはり人気がなく肌寒い空気の中で肩まで浸かれるお風呂は最高だった。


「はぁ……生き返るぅ……」


「本当に落ち着くよ……はぁ……」


 二人並んで空を仰ぐ、適度に雲が流れて合間合間に日差しが差し込める。


 静かで穏やかな時間が過ぎる……これはこれで悪くない。


「……そういえば、皆川はまたちょっと頑張ったのかな?」


「何のことだ急に?」


「矢部稲子先輩と正道葉月さん……皆川と名前で呼び合ってたじゃないか」


「……頑張ったのは俺じゃない、稲子さんと葉月さんだ……俺は流されただけだよ……」


 仲良くなれたのは俺の手柄ではない、向こうが干渉してきてくれたからだ……俺は自力では何も変われていない。

 

(陽花も……陽花が積極的に関わってくれたから……)


 情けない限りだ……昨日稲子さんに言われた通り俺もそろそろ自分なりの答えを見つけて動き出すべきかもしれない。


「それでも動けるだけいいよ……僕は、駄目だからね」


「……告白したのか?」


「ううん、それ以前さ……あの後はろくに話も聞いてもらえなかった……声をかけてもうるさいの一言で切り捨てられて会話にもならないよ」


「そうか……それじゃあ取り付く島もないなぁ」


 肩を落とす戸手に、俺は何か言ってやりたいが……そんないい言葉は思い浮かばなかった。


「それでもこの機会に何とか伝えたいよ僕の気持ちを……そして終わりにする」


「いいのか、終わらせて?」


 俺が聞くと戸手は、一瞬だけ泣き出しそうな顔になった……また初めて見る顔だ。


「……仕方ないよ、いつまでも付きまとうわけにはいかないし……もう詩里香先輩は受験生だ……お別れにはちょうどいい」


「そっか……そうだよなぁ……俺たちだって来年は受験生だしなぁ……」


 時は流れていく、いくら今が心地よくてとどまっていたくてもそんな我儘は許されない。


(俺はどうなるんだろう……将来、いつまで陽花と……みんなと一緒に居られるんだろうか……)


 少し考えて、頭を振った……皆との別れ、特に陽花との決別など考えたくもない。


 しかし戸手は今まさにそれを考えて行動しているのだ……やっぱりすごいと思う。 


「……なあ、少し早く上がってみんなのところに行かないか?」


「どうしたんだい、急に?」


「時間は限られてる……だから今のうちに精いっぱい遊んでおこうぜ」


 こうして穏やかな時間も悪くない、だけどやっぱりみんなで過ごす掛け替えのない時間を大切にしたいと思った。


「せっかくみんなでいられてるんだから、戸手も人見先輩もみんなと一緒に思い出作っておこうぜ」


「……そうだね、ふふ……やっぱり皆川は凄いなぁ……そういうことを言ってくれる君を僕はやっぱり尊敬しているよ」


 戸手は俺を眩しいものを見るように目を細めながら、嬉しそうに微笑みながらつぶやいた。


「俺は戸手が眩しいよ……お前に逢えなかったら……多分今の俺にはなれなかったよ……ありがとうな」


「ううん、僕の方こそ……ありがとう、友達になってくれて」


 俺たちは互いに向き合い、笑いあった。


「……ところで、葉月さんに俺たちの出会いを聞きたいって言われてるんだが……一緒に話してくれぇ」


「あはは、勿論構わないよ……存分に話して聞かせてあげようよ、僕たちの仲をね」


 快く頷いてくれた戸手と一緒に、俺は早速風呂から上がり皆の元へと向かうのだった。

 【読者の皆様にお願いがあります】



 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

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