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葉月さん

「あら、皆川様……どうしたの?」


「正道さん……ちょっと眠れなくてね、そっちこそどうしたの?」


「さっき矢部先輩が部屋に戻ってきたのだけど……何かバタバタしてて目が覚めちゃったのよ……幸人はぐっすりだけどね……」


 困ったように言いながら俺の隣に座る正道さん……その顔は笑っていて稲子さんの奇行を気にしている様子はなさそうだ。


「いやぁ、でもやっぱり温泉は気持ちよかったわ……皆川様はどうだった?」


「良かったよ、いつも陽花が溺れないようにお風呂のお湯を少なめにしてるから……全身浸かったのなんか久しぶりだったよ」


「ふぅん……そういえばどうして陽花ちゃんお姉さまと一緒にお風呂入らないのかしら?」


「初めてあった時からその手のは恥ずかしがってるんだよ……お着替えもおトイレも一人でしてるし」


 最も最初の頃は食事も歯磨きも全部一人でやっていた……寝るときは帰ってきた伊代音さんと寝てたけれど。


「そっか……よく考えたら私、皆川様の周りのこと全然知らないわね……ちょっと悔しいわぁ」


「そんなことないと思うけどな……俺の友好関係なんか限られてるから正道さんはむしろ詳しいほうだと思うぞ」


「その友好関係の中で一番知らないのが悔しいのよ……私だけまだ付き合い始めて一か月も経ってないんだから」


「……そういえばそうだった、あんまり濃すぎて昔からの友達みたいに思ってたよ」


 本当にある意味で一番気兼ねなく接している……弄っているともいえるが。


「うーん、嬉しいけどちょっと複雑ねぇ……できれば恋人って言ってほしかったわぁ」


「それは……すまん、難しい……」


「あはは、陽花ちゃんお姉さまでしょ……わかってるわよぉ」


 あっけらかんと笑って見せる正道さん、やはり美しいと思う……同時にシャンプーと石鹸のいい香りがしてときめいてしまう。


「でもほら、私第三夫人だから……陽花ちゃんお姉さまと付き合った上で恋人って呼べる程度の仲になればいいのよ」


「いや俺は陽花とは……というかそもそも第三夫人とか本気で言ってるの?」


「もちろんよ……こんな居心地のいい場所他に知らないもの……ううん、仮に他にあっても行きたくないわ」


 まっすぐ俺を見つめて嬉しそうに微笑み続ける……本当に心の底から笑っているように見えた。


「私好みな陽花ちゃんお姉さまがいて、同じ男の人の話題で盛り上がれる矢部先輩が居て……幸人を可愛がってくれて、私と同じぐらい変態な皆川様が居て……本当に毎日楽しくて仕方ないのよ」


「おいおいおい、俺のどこが変態だっ!?」


「あんだけ幸人にセクハラしておいてよくいうわよ……最近あの子寝言でお兄さんそこ駄目ですぅ~とか言ってるのよ?」


「うぐぅっ!?」


 そ、そんなことを言われることをした記憶はない……けどちょっと可哀そうなことをしたかもしれない。


「まあ幸人も嬉しそうだからいいけど……うん、本当に皆川様と皆と……ずっと一緒に居たいわ……」


「そこまで言われると光栄だけど……ただ俺は……ヘタレだから、正道さんの想いに応えられるとは思えないよ」


「……私のこと嫌い? もしくはそういう目で見れない?」


「いいえ、好きですよ……本当に魅力的だとも感じています……それ以上に化け物だと思ってるけど」


 俺の言葉にがっくりと肩を落とす正道さん……だって化け物じゃないか。


「えぇ~そこは素直に好意だけ口にしてよぉ~……うぅ、皆川様はもう少し私を女の子扱いしてもいいと思うわ」


「出来るわけないでしょ、初対面がああだったんですよ……だからこそここまで遠慮ない関係になれたんですけど……」


「それもそうね……でも、はぁ……まあ好かれているならいいわ……それだけで私の想いは報われてるわ」


 またすぐに笑顔になる正道さん……本当にこんな関係になれるとは思わなかった。


「そんな安上がりな……正道さんは黙っていれば美人なんですからもっと高望みできますよ」


「もうそんなの嫌よ、こうして馬鹿言って馬鹿やって笑いあってるほうが幸せ……だから話を戻すけど第三夫人とか平気、というかむしろ望むところなのよ」


「……そうですか」


 そこまで断言されては、俺にはもう何を言うこともできなかった。


(だけどやっぱり嬉しいな……暴走すると面倒だけど……)


「ええ……はぁ、どうしてもっと早く皆川様に話しかけなかったのかしらね……せっかく隣の席に座ってたのになぁ」


「でもあれより早いと陽花が居なかったからやっぱりそこまで仲良くなれなかったと思うぞ?」


「あらら、そうなのね……そのあたりも私全然知らないから……教えて欲しいな、皆川様のこと……」


「……そうだなぁ、まあどうせ眠れないから話してもいいけど……何聞きたいんだ?」


 正道さんは目を輝かせた……そんなに食いつくこととは思えないのだが彼女にとっては重要らしい。


「じゃあやっぱり最初は戸手君との出会いよねぇ……どうしたらあそこまで仲良くなれたかとか……」


「ああそれなぁ……話してもいいけどどうせなら明日戸手も交えてしたほうがいいだろ、別のことで頼む」


「えぇ~……絶対話してよ明日」


「ああ、もし無理そうなら帰りの新幹線ででも話すから……他に何が聞きたい?」


 少し考えた様子を見せた正道さんだが、やはりすぐに口を開いた。


「じゃあ……陽花ちゃんお姉さまと出会う前の……ううん、皆と出会う前のあなたのこと聞きたいわ……誰も知らない皆川様のこと……」


「……前に戸手に出会ったのが中学に上がった頃だってのは言ったよな……その前だと小学生ぐらいかなぁ……」


 俺は昔を……ずっと思い返すことのなかった記憶を掘り起こす。


「俺の生みの母は確か俺が幼稚園に入ったぐらいに亡くなって、もう記憶にも残ってなくて……代わりに親父が構ってくれたけど、やっぱり仕事が忙しくて俺は鍵っ子だったよ」


「そうなのね……私のほうは幸人が生まれるとほとんど同時に亡くなって……だから私は覚えてるけど幸人はやっぱり知らないのよねぇ」


「そっか……じゃあ正道さんが母親代わりなわけで……その立場で女装を強制するって酷くないかおい?」


「ぐぅっ!? い、言わないでよぉ……皆川様にあってからは普通の服も買うようにしたわよぉ……今回も持とうとしたけど貴方が居るから混乱させないために女服着るって言い張ってたけど……」


「おおう、それが本当なら嬉しすぎ……複雑すぎるな、うん」


 俺の為に幸人君が女服を着てくれている……最高じゃ……複雑だな、うん。


「と、とにかく話を戻そうな……ええと、だから鍵っ子で……家事とかも自分でしなきゃいけなかったからどうしても友達と遊ぶ時間がつくれなくてなぁ……それでも何人か普通の友達は居たんだけどなぁ」


 孤立しがちだった幼少期にも確かに普通の友達は居た、だ。


「ある時なぁ、親の話題になって……執拗に聞いてくる奴が居て……喧嘩になった……それからは何か人付き合いが苦手になってなぁ……気づいたら孤立してたよ」


「……そうなの」


「ああ、俺ももう人に話しかける気にもならなくてまっすぐ帰って家事を済ませて……それが当たり前になって行った……それだけだ、面白くもなんともないだろ?」


 そう、それだけだ……俺の人生はそんなカラカラでスカスカなものだったのだ。


「……それが変わったのが中学校に入って戸手君に出会ってからってことね?」


 正道さんの言葉に小さく頷いて見せる……最初のきっかけがそれだった。


「まあそれでも劇的に変わったわけじゃないけど……戸手が良い奴だったから付き合いが続いて……それで高校に入って矢部先輩に出会って……ある日陽花がやってきて……正道さんに出会えた」


 そうだ、皆に出会えたから……何より陽花と会えたから今の毎日が充実している俺になれたのだ。


「皆川様は……皆川様も前より今の自分のほうが好きかしら?」


「ああ……もう二度と前の俺には戻りたくない……こんな楽しい毎日捨てられないよ」


「ふふ……私も同じよ、ずっとここに居たい……もう前みたいな孤独な自分には戻りたくないわ」


「そっか……でもあれだぞ、俺結構前の正道さんのこと好きだったんだぞ……憧れてた」


 俺の言葉を聞いて正道さんは少しだけ目を見開いて、すぐに悪戯っ子のように口元を歪めて見せた。


「あらぁ~そうだったのぉ~へぇ~、じゃあ……今の私と比べてどっちが好き?」


「言うまでもないだろ……今のほうが好きだよ、一緒に笑えてるから」


 言って俺もまた正道さんに笑顔を返してあげた……本当に、前はこんな関係になれるとは思わなかった。


「ふふ、ありがとう……でもそっかぁ、憧れてくれてたのかぁ~……結構嬉しいわねぇ……」


「ちなみに正道さんは俺のことどう思ってたんだ?」


「うーん……ただのクラスメイト?」


「ですよねぇ……どうせ冴えない凡人ですよ俺は……」


 肩を落として溜息をつく……まあそうだろうとは思ってたけどさぁ。


「うふふ、まあそう気を落さないの……逆に聞くけど例えば矢部先輩とかこうなる前はどう思ってたのよ?」


「稲……あの人は……絶対本人に言うなよ……魅力的だと思ってたよ……当時は正直、恋人になってほしいと思ってた」


「うわぁ、ものすごく高評価じゃない……私は?」


「化け物……冗談だよ、正道さんは高嶺の華過ぎて……付き合えたらいいなぁとは思ってたけど願望レベルだったからなぁ」


 それに対して矢部先輩は美人で胸も大きいけど身近な人で……結構本気で惹かれていたと思う。


「なるほどねぇ……それで読書部に入って猛烈アピールしてたってわけ?」


「逆だよ、幼少期孤独だったって言っただろ……だから一人で時間を潰せる本が好きで読書部に入って……無邪気に本を進めてきて身体に触れられたりしているうちに好きになったんだよ……」


「ふーん、まあ胸大きいものねぇ矢部先輩……物凄く触り心地良いのよ? 柔らかいのに弾力があって指がめり込むというか……」


「止めてくれぇ……想像しちゃうから止めてぇ……」


 何とか冷静になろうと正道さんの胸部を見つめる……駄目だ、やっぱり女性の胸だと思うと危険だ。


「ど、どうせ私は真っ平ですよぉっ!! でも陽花ちゃんお姉さまだって小さいから皆川様はそっちが好みなんでしょっ!?」


「……陽花とはただの兄妹だし……そういう目で見たこともない」


「でも血が繋がってないんでしょ……なら年齢だけ解決できれば問題ないじゃない……こっちと違ってね」


「そういえば幸人君は正道さんと結婚したいって……でもそっか、実の姉弟だもんなぁ」


 俺の言葉に頷いた正道さん……ならば結婚できるはずはない、答えに悩む必要もない。

 

 その点は俺とは事情が似ているようでまるで違う……それが羨ましいのか、或いはホッとしているのか……自分の気持ちがわからない。


「多分近いうちに幸人は姉離れするわ……寂しいけど、こればかりは仕方がない……けど皆川様は違う」


「そうだな……だからこそちゃんと俺の答えをださないとなぁ」

 

「そうよ、しっかり捕まえておきなさいよ……私の理想は陽花お姉さまと矢部先輩を交えての初夜なんだからね」

 

「さらっととんでもないこと言うな……」


 ほぼあり得ないとは思うがそんなことになったら……俺の身体が持たない。


「あら、でも意外とみんな本気だと思うわよ……皆川様が覚悟さえ決めればね」


「……ヘタレな俺には難しいよ」


「まあ皆川様が女性陣にどんな答えを出すかは知らないけど私はずっと付いて回るわよ……絶対にもう孤独な自分には戻りたくないし……あなたを戻らせもしないわ」


「……ありがとう正道さん、嬉しいよ」


 本当にうれしい発言に、俺は心の底から笑顔を返すことができた。


「当然よ……だけどせっかくだから一つお願いしてもいいかしら?」


「……名前で呼んでほしいとか?」

 

「あら、正解よ……ひょっとして矢部先輩にも同じこと言われた?」


 頷いて見せると正道さんは納得した様だ。


「だからあんなにバタついてたのねぇ……じゃあ当然私も許してくれるわよね?」


「嫌だって言ったら粘着されそうだしなぁ……しかたないなぁ、葉月さんは」


「……もう、どうせならもっと格好良くいってよ皆か……石生様……好き……」


 小さく呟いて俺に顔を寄せた葉月さんは、そっと俺の頬にキスをした。


「ふふ……自分でしておいて恥ずかしいわ……悪いけど部屋に戻るわ……お休み石生様」


「ああ、お休み葉月さん」


 小走りで部屋に走り去っていく葉月さんを見送りながら、俺は熱の残る頬に触れてみた。


 とても熱く感じる……熱が収まるまでもう少しここで待機していようと思った。

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