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旅館でお食事

「ああ、いいお湯だったぁ……気持ちいいし最高の時間だったなぁ戸手、幸人君」


「うぅ……お、おにいさぁん……ぼ、ぼくひとりでからだふけましたよぉ……はぅぅ……」


「あはは、正道幸人君は可愛いからねぇ……僕もついナデナデしちゃったよ……」


「とでおにいさんはドライヤーつかうのうまかったですねぇ……ようかちゃんのおにいさんは……うぅ……」


 俺があんなに丹念に綺麗に全身を優しく拭き取ってあげたのに何が不満なのだろうか……見悶える幸人君は最高だったぜ。


「ほら、牛乳買ってあげるから……戸手はどうする?」


「そうだねぇ、せっかくだしコーヒー牛乳でも飲もうかな」


 三人で瓶に入った飲み物を手に運動場の近くにある椅子に腰かけ、力を抜いて女性陣が出てくるのを待つことにした。


「ごくごく……つめたくておいしいですぅ、おにいさんごちそうさま」


「お姉さんには世話になってるからね、これくらい気にしない……んくんく……はぁ、本当に風呂上りの牛乳は最高だなぁ……」

  

「……はぁ、うん……本当に美味しいねぇ……瓶片付けてくるよ」


 戸手が俺たちの瓶を回収箱まで持っていく。


「しかし、俺たちも結構入ってたのに……遅いな皆」


「女の人だからね、まだまだかかるんじゃないかなぁ……」


「ずぅっとみんなでおはなししてましたからねえ……」


 幸人君の言う通り、ずっとあの四人は何やら話していた……騒いでいたと言ったほうが正しいだろう。


 しかし意外に馴染んでいるようにも聞こえた……何より陽花が楽しそうだったから良しとしよう。


「そうだ、せっかくだし……座敷童が出る部屋でも見に行ってみるかい?」


「そういえばそんなこと言ってたなぁ……」


 俺はちらりと幸人君を見る、お風呂上りで火照った身体が浴衣の隙間から見えて……鼻血がでそうだよぉ。


(じゃなくて……怖いの苦手みたいだけど大丈夫かな?)


 怖い妖怪ではないとはいえ、怯えて俺に抱っこをせがんだり……よし、今すぐ行こう。


「じゃあ幸人君、見に行ってみようか?」


「こ、こわくないですかぁ?」


「幸運を呼ぶって言われてるから、怖い妖怪ではないよ」


「うぅ……おふたりがいくならついていきますぅ」


 既に震えながらも俺たちの裾を握ってついてくる幸人君、やっぱりホラーと幼子の相性は最高だ。


 案内表示に従って移動していくと、旅館の内部とは思えない狭く古めかしい通路に出た。


「はぅぅ……な、なんかへんなふんいきですぅ……」


「た、確かにここだけ変に古ぼけてるというか……」


「何度か立て直ししているけど、この場所だけは座敷童の為にって古いまま残してあるみたいなんだ……雰囲気あるよねぇ」


 スタスタと平然と進んでいく戸手、流石オカルト部の猛者。

 

「ゆ、幸人君……抱っこして連れて行ってあげようか?」


「う、うん……おねがいしますぅ」


 俺もちょっと気圧されて人肌を感じたくなった……幸人君の体温と震えが伝わってくる、幸せぇ。


 そして戸手の後ろをついていくと、ある部屋の前で動きが止まった。


「皆川、止まって……これは幸人君は見ないほうがいいねぇ」


「ど、どうしたんだ?」


「いや多分座敷童へのプレゼントなんだろうけど……薄暗い部屋にものすごい数の人形があって、慣れてない人にはきつい光景だろうからね」


「お、おにんぎょうならぼくすきですけどぉ……」


 戸手が言うからには相当なのだろう、だけどせっかく来たのに見ないで帰るのはどうかと思う。


「じゃあとりあえず幸人君は目をつぶってて、お兄ちゃんが見て大丈夫そうなら声をかけるから」


「はい、わかりました」


 ぎゅっと目を閉じる幸人君、ペロペロしてやりたい……けど今やったら悲鳴を上げそうだから我慢しよう。


「さて、どれど……うぉっ!?」


 実際に部屋まで言って見てみると、確かに言葉通り異質な雰囲気だ。


 壁中に市松人形やキャラクターもののぬいぐるみ、さらには藁人形まで飾られている。


 しかもかなり長い年月が経っているようで地味に風化している様子がまた恐怖を醸し出している。


 おまけにしめ縄やギザギザな紙垂、お札のようなものまで散乱していて……子供には見せられない。


「すごいねぇ、これはあの馬鹿が悲鳴をあげて逃げるわけだ……あはは、安産祈願のお守りまであるよ……」


「こ、この場所にあると逆になんか恐ろしいなぁおい……」


「……お、おにいさんめをあけてもへいきなんですか?」


「い、いや止めておいたほうがいいよ……そろそろ行こうぜ戸手」


 どうにも長居したいとは思えなくて俺は戸手の腕を引っ張った。

 

「皆川がそう言うなら行こうか……」


「そ、そうですか……じゃ、じゃあぼくたちはいきますね、さようならです」


「……幸人君どうしたの?」


「えっとぉ、そこのこにおわかれをいったんですけど……やっぱりかおをあわせていったほうがいいですかぁ?」


 思わず戸手と顔を見合わせ、もう一度部屋の中を覗き込むが俺たち以外の姿はない。


「ゆ、幸人君……何を言ってるのかなぁ?」


「だからぁ、おにいさんのあしもとにいるこですよぉ……さっきからこわくないよってぼくにはなしかけてるじゃないですかぁ」


 幸人君は目を閉じているがその顔は不思議そうで……全く冗談を言っているようには見えなかった。


「……し、失礼しましたぁっ!!」


「……また来るね」


 慌てて立ち去った俺に対して、戸手は部屋の中に小さくお辞儀してからついてくるのだった。


「はぁ……はぁ……な、何だって言うんだ……」


「あはは、本物だったら幸人君はきっとこれからたくさん運が巡ってくるんじゃないかな……いやあ面白かったねぇ」


「ええとぉ、もうめをあけていいんですかぁ?」


「いいよ……はぁ、なんか物凄く疲れた……」


 心底楽しそうに笑っている戸手の余裕が羨ましい……流石にオカルト部で鍛えられただけのことはありそうだ。


「お兄さんつかれてますねぇ……いいこいいこしてあげますね」


「ああ、癒されるなぁ……うぅ……ごめんねぇ幸人君……」


 こんないい子に怖がらせて喜ぼうとしていた己の醜さを恥じる。

 

「いいんですよぉ、ほらようかちゃんもいっしょに……あれ? でもようかちゃんは……じゃない?」


「ゆ、幸人君冗談はやめようねぇ……」


「でもたしかにいま、お兄さんのせなかにおんなのこがいたんですよぉ……へんだなぁ?」


「なるほどねぇ、幸人君じゃなくて皆川を気に入ったのかなぁ……女子供だけじゃなくて妖怪にまで好かれるなんて流石だねぇ」


 戸手は羨ましそうに言いながら、俺の背中を観察したりさすったりしている……質の悪い冗談はいい加減にしてほしい。


「なあ戸手……お前の言うオカルト部の凄い先輩の連絡先今度教えてくれ……」


「あはは、いいけど何かあったら先に僕に相談してよ……これでも結構僕も名前売れてるんだから」


「ええとぉ、いまのがざしきわらしさんなんですか……すごいいいこだとおもいますよ?」


「……幸人君にはかなわないよ、きっとね」


 何やら妙に背中が重い気がする、まるで陽花が乗り掛かって来たときのような感覚が……気のせいということにしておこう。


「お待たせ、悪いわね待たせちゃって」


「お姉ちゃん……おにいさんのせなかにおんなのこがみえますか?」


「止めてくれ幸人君、これで見えたら大変なことになる」


「何があったのお? 女の子って陽花お姉さまならこっちだよぉ?」


 正道さんと矢部先輩が出てきた、湯上りの女性特有の色気が凄まじい……けどそれどころじゃない。


「あれ、あの馬鹿はどうしたの?」


「人見先輩なら奥で牛乳の蓋が開かなくて暴れてたわよ」


「戸手戸手戸手戸手ぇええっ!! これあけろぉおおっ!!」


 牛乳の蓋も開けられず戸手に飛びついた人見先輩……これのどこに一目ぼれする要素があるのかまるで分からない。

 

 おまけに後ろから出てきた陽花の手にはしっかりと蓋が開いた牛乳瓶が握られていた……幼稚園児以下かよぉ。


「お兄ちゃーんっ!! 陽花きれいにな……っ!?」


「よ、陽花……ど、どうした?」


「え……へ、へんだなぁ……いまお兄ちゃんのせなかにどろぼうねこがいたようにみえたのに……」


 このタイミングで恐ろしい言葉を口にした陽花……陽花も怖いが背中も怖い。


「あはは、やっぱり皆川についてきちゃったみたいだね座敷童」

 

「ひぅうううっ!? な、ななななぁあっ!! の、呪われたのかぁっ!?」


「やっぱりようかちゃんもみえるよねぇ……」


「えぇ……皆川君、座敷童に取り付かれちゃったのぉ?」


「ざ、座敷童ですってぇええっ!! そ、それはどんな子なのぉおおっ!! 美少女っ!? 下着はっ!? 年齢はっ!! どこにいるのっ!? 皆川様の背中をペロペロすれば合法的にペロペロできるのっ!!」


 ビビる人見先輩、納得したように頷く幸人君、嬉しそうな戸手と正道さん、呆れてる矢部先輩、不思議そうに首を傾げる陽花。


(ああ、疲れるわぁ……せっかくお風呂でリフレッシュしたのにぃ……やっぱり背中重い気もするしぃ……)


「人見先輩、おはらいとかできませんか?」


「ひぅうううっ!! こ、こっちくるなぁああっ!! と、戸手戸手戸手戸手ぇええっ!! な、何とかしろぉおおおっ!!」


「だから僕に頼るなよお前さぁ……まあ害を為すものじゃないから気にしないほうがいいよ、実害が出たら改めて教えてよ」

 

「まあプロがそう言うなら従うけど……」


「だ、だからどんな子だったのぉおおっ!! こっちに来ていいのよ座敷童ちゃぁあああんっ!! 葉月が舐め舐めちゅばちゅばぎゅっぎゅしておねんねしてあげるわぁああっ!!」


「ああ、いまちょっといやそうにしてましたぁ」


「うぅ……お兄ちゃんからはなれてよぉ、じゃないとねどこにはづきおねえちゃんをはけんしちゃうよぉ」


 妖怪にすらドン引きされる正道さん、いや本当に役立つなぁおい。


「もぉお、それより湯上りの美少女に囲まれてるんだよっ!! お褒めの言葉はないの、皆川君、戸手君、幸人君っ!!」


「……陽花はピカピカでいい匂いだねぇ、よしよし」


「まあ、そのなんだ……いい匂いではあるよお前も……」


「お姉ちゃん、やっぱりとってもすてきですぅ……」


「……みんな嫌いだぁ……ぐすん……」


 誰からも声をかけられなかった矢部先輩が拗ねているが仕方ない、胸元がはだけてて男性陣にはコメントしずらいんですよあなた。


「お兄ちゃんすきぃっ!! おんぶしてぇっ!! 陽花お兄ちゃんのからだはあますところなくようかのところだっておしえてやるのぉっ!!」


「おいおい……まあいいけど、何か変だったら言えよ」


「戸手戸手戸手ぇっ!! こいつから離れろ離れろ離れろぉおおっ!!」


「……はぁ……これだもんなぁ……」


「ありがとう幸人、あなたも綺麗になったわね……矢部先輩も魅力的ですよ」


「うぅ……葉月ちゃんだけだよぉそういってくれるのぉ……執拗にお胸揉んできたけど許しちゃうぅ……」


「だ、だって……触り心地気になったんですもの……うぅ……」


 どうやら正道さんはお風呂場で矢部先輩の身体を堪能したらしい……同性ってずるいわぁ。


「そ、それはともかく……時間もいい感じだし皆で夕食でも食べない?」


「あんまり食欲ないけど……そうだな、食べとくかぁ……」


 皆で食事処へ移動し、食事を購入してお座敷に座った。


 手前側に人見先輩、矢部先輩、正道さん、幸人君が腰を下ろし、向かい側に戸手、俺、陽花の順で並んだ。


「皆川君はお肉ばっかりだねぇ、せっかくだから刺身を食べればいいのに……一切れ交換する?」


「答えを聞く前に一番大きい肉をもっていかないでください……ほら、陽花あーんして……」


「あーんっ……もぐもぐ……こういうところでたべるごはんもおいしーねぇ」


「皆川様ぁ、私もあーんっ……もがげはぁ……ぐぐぅ……はぁはぁ……だ、だから強引に詰め込まないでぇ……」


「ああ、私にも食べさせてぇ……あーん、ほらあーん……っ」


 人のおかずを取って行った矢部先輩は無視して、俺は陽花と正道さんの口に食事を運び続ける……幸人君は一人で食べれて偉いなぁ。


「お、お前らぁあああ……ひ、人目を考えろぉおおおっ!!」


「お前が言うなって言いたいけど今回ばかりは同意だわ……皆川さぁ、ものすごく目立ってるよ?」


「俺に言うな、いい年して口を開くこいつらに言え……」


 もう慣れてしまった俺にとっては作業のようなものだが周りから見たらいちゃついていると思われているようだ……なんだかんだで美少女揃いだからなぁ見た目だけは。


「もぐもぐ……おにいさんもごはんたべましょう、さめちゃいますよぉ……」


「幸人君が食べさせてくれたら喜んで食べるよ……ほら陽花、お肉小さく切ったからあーんして……正道さん味噌汁一気に流し込むから上向いて……」


「もぐもぐ……ごくん……えへへ、しあわせぇ……」


「がほごぼっ……ぐぅぅ……はぁはぁ……ふ、不幸せぇ……」


「皆川君、食べさせてよぉ……あーん……んんっ……わ、ワサビ入れすぎぃいいっ!!」


 矢部先輩の要望通りに食べさせてやったところ感激のあまり涙を流しだした。


「まともな奴がいないぃい……戸手ぇ……お前友達は選べよぉおお……」


「選ぶ相手すらいない奴が言うな……おい、お前それは食えないやつだろうが……」


 戸手が人見先輩のお皿からおかずの一部を取り除き、代わりに自分のを渡してやっている。


「むぅぅ……こ、子ども扱いするなぁ……」


「じゃあせめて自分が食べれる物ぐらい把握してくれ……僕はいつも傍にいるとは限らないだぞ……」


「う、うるさいうるさいうるさいぃいいっ!! 別にいてくれって頼んだわけじゃないだろぉおおっ!!」


「……わかってるよ、そんなこと」


 戸手はぼそりと呟くと、それ以降は何を言い返そうともしなかった。


「……人のこと言えないぐらい目立ってるよな、あの二人も」


「ええ……むしろあの二人の発言で食堂内の雰囲気が一気に暗くなったわ」


「完全に修羅場と勘違いされてるよぉ……あんな大声出すからぁ……」

 

「すごいよねぇゆきとくん、うちのようちえんでもあんなうるさいこいないよねぇ……」


「のどをいためないといいんですけど……もぐもぐ……」


 周りから色んな視線が飛んでくる……破局寸前のカップルとバカップルが同席してるとか勘違いにもほどがありますよ皆さん。


 結局その後はお通夜のような雰囲気で食事を続ける俺たちだった。

 【読者の皆様にお願いがあります】



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