オカルト部について
「……ねえ、どうしてそんなに浴衣が着崩れてるの皆川様ぁ?」
「……うぅ……何でもないもん……しくしく……」
「泣いてたら何もわからないよぉ……お姉さんに相談してみない?」
「大丈夫だもん……うぅ……俺は強い子だから……くぅ……」
まさか陽花にあちこち弄られたなどと言えるはずもない……しかし執拗に撫でまわされてしまった、もうお嫁にいけない。
「よしよし、おにいさんいいこいいこ……」
「幸人君の優しさが染みるよぉ……」
浴衣姿の幸人君はいつもと違って新鮮で可愛らしい……けど、やっぱり女の子にしか見えない。
「よしよし、お兄ちゃんいいこ……どうしてよけるのぉっ!?」
伸びてきた陽花の手を咄嗟に避けてしまった……あれだけぺたぺた触りまくっておいて避けられないと思ったのだろうか。
「全くもう……一応卓球道具借りてきたけどやれそうにないわねぇ」
「じゃあ私と勝負するぅ? 勝ったほうが皆川君と一緒に眠る権利を……」
「あげません……俺を勝手に賞品にしないでください……」
「お兄ちゃんは陽花とねるのぉ……だっこぉ……」
陽花を抱き上げ、ついでに幸人君も抱きかかえる……幸せだなぁ。
「ぶぅ、皆川君ったらノリが悪いんだからぁ……じゃあ勝ったほうが陽花お姉さまの新しい洋服を買ってあげる権利を……」
「陽花ちゃんお姉さまに好きな衣装を着せる権利いいいいいっ!? はぁはぁ、そ、それって絆創膏三枚でもいいのよねぇっ!?」
「駄目に決まってるだろうがっ!? 何考えてんだお前らっ!?」
「はづきおねえちゃん、それはおようふくっていわないよぉ……お兄ちゃんよりひどいよぉ……」
俺のどこが酷いというのだろうか……もう一回ぐらいお洋服を買ってあげようかなぁ。
「い、行くわよぉおおっ!! はぁああっ!!」
「ひぅうううっ!?」
正道さんが全力でサーブしたボールは、卓球台にぶつかる前に摩擦熱で燃え尽き……い、いや多分玉を持ってなかっただけだろう。
「み、皆川君……ルールだとこういう場合どうなるのかなぁ?」
「知りませんよ……」
多分人間同士の戦いしか想定してないだろうから決まってないと思う……化け物とスポーツ勝負を挑んだ自業自得だ。
「うぅ……じゃあサーブ権だけでも貰うね……行くよぉ……えいっ!!」
大振りをする矢部先輩、当然浴衣だから胸の揺れ方もいつもより激しい……おまけに少しはだけて肌色が目に付く。
(こ、これはヤバい……けど目が離せねぇ……大迫力ぅ……)
「お兄ちゃん……はなのしたのばしてぇ……えっちぃ……」
「い、いやその……す、すまん……」
陽花に叱られてしまった……情けないところを見られたなぁ。
「ひゃぁっほぉおおおっ!!」
「ひぃううううっ!?」
正道さんがボールを叩き返そうとしてやっぱり消失……い、いや打ちそこなってどっか飛んでいったんだなぁ。
「……いい加減正気に戻れ、これ以上ボール無くしたらもう言い訳できねぇぞ」
「ぐぅぅ……ふぅ……はぁはぁ……わ、わかったわよぉ……」
「今のは打ちそこないで私に一点ねぇ……よーし、もう一回……えぇいっ!!」
「軽く……軽く当てて、そこよっ!!」
凄まじい勢いでボールが跳ね返り、卓球台の角に当たり跳ねるボール……やっぱり真面目にやればスポーツ万能な正道さんは強い。
「あ、あんなの取れないよぉ……」
矢部先輩が嘆く……文学少女が勝てるはずがなかった。
その後も順調に点を取られる矢部先輩、だけど空振りするたびに揺れて揺れて揺れまくりだ……他のお客までチラチラ見てやがる。
俺もどうしても目が離せない、まるで震えない絶壁の正道さんとは偉い違いだ……まあこっちは卓球の腕で注目を集めてるけど。
「よーし、これで最後よ……えー……っ!?」
「……さいうるさいうるさいうるさいっ!!」
「いい加減にしろよお前っ!! こんな場所で騒いでんじゃねえよっ!!」
騒がしい声がして運動場が騒がしくなる……来たか。
「全く……やあ待たせたかな皆?」
「と、戸手ぇえっ!? な、何でこいつらが居るのぉっ!?」
「やっと来たか戸手……人見先輩も久しぶりですね」
「うわぁ……あのこだぁ……」
「あれ、はじめましてですね……ぼくは正道幸人です」
俺から降りてトテトテと二人の元に移動してぺこりとお辞儀をする浴衣姿の幸人君、とても可愛い……しかし何故か人見先輩は悲鳴を上げて戸手の背中に張り付いた。
「ひゃぅううううっ!? 戸手戸手戸手ぇえええっ!! ざ、座敷童ぃいいっ!? や、やっつけろぉおおっ!!」
「お前さぁ、座敷童が何かも知らねぇのかよ……初めまして正道幸人君、僕は戸手茂良……この馬鹿は人見詩里香、馬鹿って呼んであげてね」
「な、なななななぁああっ!? ば、馬鹿はお前だバーカバーカっ!!」
「とでのおにいさん、ひとみおねえさんがかわいそうですよぉ……」
あんなうるさい生き物を庇う幸人君はいい子過ぎる……ナデナデしてあげたい。
「うぅぅ……そ、そんな目で見るなぁ……」
純粋過ぎる幸人君の眼差しに耐え切れないように顔を隠す人見先輩……汚れてるなぁ。
「やれやれ……まあいいや、とりあえず温泉入ろうか?」
「俺はいいけど、そっちは準備できてるのか?」
「うん、部屋に荷物は置いてきたし着替えは持ってきてあるから……座敷童のいる部屋に走って行って悲鳴を上げて逃げ回ってたこの馬鹿は知らないけどね」
「うぅぅううるさいうるさいうるさいぃいいいっ!!」
どうやら先ほど大声を上げていたのはそういうわけらしい……ビビりなのにオカルト好きってどうなんだ?
(というか俺ですら知ってる座敷童のことを知らないとか、この人本当にオカルト部員なのか?)
「ったく、ほら……じゃあ行こうか皆」
何だかんだ言って人見先輩用の浴衣とタオルは準備してあったらしい。
温泉の入り口まで移動して男湯と女湯で別れる。
「じゃあね、皆川君……私が出るまで待っててねぇ」
「じゃあまた後で、さっきの運動場ででも集合しましょう」
「えへへ……お兄ちゃんまたあとでねぇ……」
「お、お前……ゆ、幸人とか言うお前……お、男湯でいいのかっ!?」
別れを言う女性陣の中で人見先輩だけ幸人君を不安そうに見ている……やっぱり女の子にしか見えないもんなぁ。
「幸人君は男の子だからこっちでいいんです……じゃあまた後で……」
「はぁあああっ!? ど、どこがどこがどこがぁああっ!?」
「ひとみおねえさん、ぼくほんとうにまだおとこのこなんですよ」
「ま、まだってお前お前お前ぇええっ!?」
完全に混乱している人見先輩を置いて、俺たちはさっさと男湯へと入って行った。
「しかし、相変わらず騒がしい人だな人見先輩……」
「いつもああなんですかぁ……のどをいためないといいんですけどねぇ」
「あはは、正道幸人君は優しいねぇ……まあ叫び慣れてるから大丈夫だと思うよ」
当たり前のように言う戸手が服を脱ぐと意外と立派な身体が出てきて……あちこちが傷跡だらけだ。
ただでさえ人見先輩のせいで注目されていたというのに、さらに視線が厳しくなった気がする……俺はもう慣れてるから平気だけどな。
(しかし温泉に誘ったのは悪かったかなぁ?)
人見先輩が来るからどちらにしてもここには来ただろうが、俺たちが居なければ温泉に入る必要はなかったはずだ。
「とでおにいさん、いたくないんですか?」
「うん、これぐらい全然平気だったよ……心の痛みに比べれば……でもそれももう大丈夫、皆に逢えたからね」
「……そうか、ならよかった」
「そうですねぇ、ぼくもみんなにあえてたのしいですから……よいしょうんしょ……ぬげましたぁ……」
幸人君が一生懸命服を脱ぐ様子が可愛くてついつい見とれてしまった……何か一部の男達がチラチラ見て、ショックを受けたように去って行ったような気がする。
(こんなに可愛いんだから見たくもなるか……だが抱っこするのは俺だけの権利だぜっ!!)
俺はワクワクしながら服を脱いだ……二人と違って誰からも注目されなかった、ちょっと寂しい。
「さて、まずかけ湯をしてから身体を洗ってしまおう」
「ほらぁ幸人君に掛けてあげようねぇ……はぁはぁ……」
「おにいさぁん……かけすぎですよぉ……」
水も滴るいい男……凄い可愛い、撫でまわしたい・
「転んだら危ないから抱っこして連れてってあげようねぇ……」
つるつるの肌が俺の肌に直接ふれる……湿っていてとても感触が良い。
「あぁん……ぼくひとりであるけますよぉ……えへへ……」
「あはは……皆川は意外と子煩悩なんだねぇ……」
「こんなすべすべでぷにぷにの肌に傷をつけるわけにはいかないからね……ほら幸人君、ここに座ってねぇ」
「お、お兄さんぼくあらうのはひとりでやりますぅ……は、はずかしいですからぁ……」
幸人君は自分でてきぱきと髪の毛と身体を洗い始めてしまった……うぅ、素手で撫でまわすように洗ってあげたかったのにぃ。
仕方なく自分の髪の毛を洗い、身体に取り掛かる……そうだ背中ぐらい洗ってあげよう。
「幸人君、背中は一人じゃ洗えないよねぇ……お、お兄ちゃんが素手で綺麗に撫で……洗ってあげるからねぇ」
「ぼ、ぼくひとりで……んんぅ……お、おにいさぁん……」
「はぁはぁ……つるつる……すべすべ……この手触り……極上だぁ……」
「やれやれ……じゃあ僕が皆川の背中を洗ってあげようか……ゴシゴシっと……」
俺たちは互いに背中を流し合い泡を洗い落とした……幸人君のほっぺが火照ってキュートだぁ。
「も、もぉ……おにいさぁん、ぼくひとりでできたのにぃ……」
「い、嫌だったかいっ!?」
「い、いやじゃなかったですけどぉ……なんかとってもはずかしかったですぅ……」
「まあまあ、そろそろ肝心の温泉に入ろうよ……せっかくだしいきなりだけど露天風呂に行かないかな?」
戸手に誘導されるがままに俺たちは冷たい風の吹く外に出た。
「うぅ、さ、寒い……早く入って……はぁ……極楽だなぁ」
「あたまがすずしくて、でもおんせんはあったかくて……きもちいいですぅ……」
「外が寒いから露天風呂が逆に気持ちいいねぇ……」
肩まで使って身体の芯まで温める……やっぱり全身が浸かれるお湯はいいなぁ。
「ふぅ……しかし意外と人が居ないなぁ」
「本当だねぇ……まあ空いている分には助かるけどね」
「はふぅ……いち……にい……さん……」
幸人君が数を数え始めた、多分十か百数えるつもりだろう。
(しっかり身体を温めないと風邪ひいちゃうからなぁ……見守っておこう)
「いやぁあんっ!! あっちいってぇええっ!!」
不意に陽花の叫び声が聞こえた……どうやら壁で仕切られるだけですぐ近くに女湯の露天風呂があるらしい。
「駄目だよぉ陽花お姉さまぁ……ちゃんと身体擦らないと綺麗にならないよぉ……」
次いで矢部先輩の声が聞こえる……そういえば前にも陽花は身体を擦るのを嫌がって逃げ出したことがあった。
「よ、よ、陽花ちゃんお姉さまぁああっ!! は、葉月が素手で綺麗に舐めるように丁寧に磨き上げてあげるわぁあああっ!!」
正道さんの叫び声……素手で身体洗うとか変態かよ。
「うるさいうるさいうるさいうるさいいいいっ!!」
最後に人見先輩の声、一番うるさい……けどなんだかんだ言って一緒に行動しているようだ。
「あはは……みんなどこに行っても目立ってるねぇ」
「やれやれだ、大人しくできないもんかねぇ」
「でもたのしいそうです……おねえちゃんもようかちゃんも……やべおねえちゃんもひとみおねえちゃんも……」
幸人君の言う通りどこか皆の声がいつもより柔らかく感じたのは……気のせいじゃないと思いたい。
「そうだねぇ、やっぱりあの馬鹿も……詩里香先輩も友達と出かけるのは楽しいんじゃないかなぁ……」
戸手が人見先輩を名前で呼んだ……特別扱いだ、羨ましい。
「なあ…………いや、何でもないわ……」
「……オカルト部の……詩里香先輩のことでしょ……?」
俺は少し悩んで頷いた……ずっと気になってはいたのだ、ただ負担になりたくなかったから戸手が言うのを待っていた。
「とでおにいさんはおかるとぶなんですか……お、おばけこわくないんですか?」
「僕はお化けなんか信じてないから……何より人間のほうがずっと恐ろしいからね」
「でもその割に入学してすぐにオカルト部に入ってたよな?」
「うん……そこに詩里香先輩が居たからね」
戸手は軽く周りを見回して、誰もこちらを見ていないことを確認するとぽつぽつと話し始めた。
「詩里香先輩とはねぇ、入学式の前に一度学校を下見に来たときに桜の木の下で出会ったんだ……桜の葉が舞い散る中であの馬鹿は一生懸命土を掘っていたよ」
遠い目をして語る戸手、俺も幸人君も上手い相づちも打てずに聞き入っていた。
「その光景があんまりにも現実離れしてて……見惚れていた僕に気づいた詩里香先輩は初見だから怯えて震えて隠れて、逃げ出そうとして転んだんだ」
「……その後の光景が想像できそうだ、照れ隠しに土とか泥とかぶつけられたんじゃないか?」
「あはは……大正解、いやぁ助け起こそうとしたら酷い目にあったよ……うん、本当に厄介な人だよ」
「それで放っておけないから入部して手助けしてるうちに……ってところか?」
戸手は一度関わった相手を見捨てられない男で、だからこそ人と距離を置きたがる……俺のせいで矢部先輩と関わってたせいで辞書の朗読に付き合わされたぐらいだ。
「ううん、違うんだ……本当に情けない話なんだけど……一目惚れだったよ」
「ひとめぼれ……しちゃったんですかぁ?」
「そんな目にあっておいて一目惚れ……す、すごいな」
「やっぱりそう思うよねぇ、自分でも驚いたし今でも信じたくないけど……こればっかりは事実だからねぇ……はぁ……」
ため息をつく戸手、だけどその顔は照れくさそうにしながらも晴れ晴れとしていて……嬉しそうに見えた。
「幸人君は知らないと思うけど僕の親って離婚と再婚を繰り返してるんだ……だから正直ずっと男女の恋だとか愛だとか信じられなかったし一生縁が無い物だと思ってた」
「そうなんですかぁ……ぼくのおうちもママはいないしパパもかえってこないからちょっとだけわかるきがします」
「……そんな姿を見せつけられたらなぁ、誰だって愛情不信になるわなぁ」
「うん、だけど……だからこそ自分が一目ぼれできたのが……人に恋をできたっていう事実に驚いて……何より嬉しかった」
静かに微笑む戸手、だけどその顔がいつもより輝いて見えるのは気のせいじゃないだろう。
「それでその恋心を守るためにずっと人見先輩のお守りを続けてるってわけかぁ……戸手も大変だなぁ」
「まあ詩里香先輩は卒業した先輩にしか目が行ってないから、叶わぬ恋だけどね……分かってはいるんだけどねぇ」
「……そっかぁ」
俺は何といっていいかわからなかった……ただ友人の決心だけは邪魔しないでおこうと思った。
「だから今回……告白したところで失敗するのは目に見えてるけど、けじめはつけないといつまでも先に進めないから……僕も詩里香先輩もね」
「……こくはくするんですね、とでおにいさんはとってもかっこいいですよ」
「……ああ、そこまでわかっていて告白できるお前は凄いと思う……尊敬できる俺の親友だ」
「ありがとう……だけど勇気が出たのはこうして皆で旅行に来て……ううん、皆川が変わっていくところをみて羨ましくなったからだよ」
そういって戸手は俺に眩しいものを見る目を向けてくる。
「どんどん友達を増やして、楽しそうにしている皆川みたいになりたかったんだ……そんな風に笑いたいって思ったんだよ」
「……俺はそんな大した奴じゃないよ、変わってもいない……全部陽花のおかげだ」
「ううん、あの陽花ちゃんと付き合って皆川は変わったよ……構ってる時点で影響を受けていったんだよきっと……」
「それにようかちゃんもお兄さんのえいきょうをうけてあんなすてきなこになったんだとおもいます……まえはだれともおともだちになろうとしてませんでしたから……」
幸人君の言葉に驚く……そういえば幸人君以外の友達を俺は知らない。
「そ、そうなのか……知らなかったよ」
「ようかちゃんがこっちにきたばかりのころはほんとうにだれともはなさなくて、ひとりですみっこにかくれていました……だけどだんだんお兄さんのはなしをするようになって……おねえちゃんのはなしをしていたぼくとなかよくなれたんですよ」
「僕が陽花ちゃんに初めて出会った時もあんなふうに快活に話すような子じゃなかったよ……ただ必死な形相でお兄ちゃんから離れてって言うのが限界みたいな感じだった……皆川はきっとお互いにいい影響を与えあっているんだと思うよ」
二人の言葉をかみしめる……陽花も俺と同じで孤独だったんだなぁ。
一人の時間が多くて、一人のほうが気楽で……人と交わって失敗するのが怖かった昔を思い出す。
だけど家族として一緒に暮らすようになって、子供だから心配で面倒を見て……気が付いたら懐かれていた。
そして俺は……変わったのだろうか。
全く自覚はなかった……けどこれだけ友達ができたのだ、きっと変われたのだろう。
「ならいいけど……でも陽花が俺の影響を受けているならもう少し大人しくていいと思うんだけどなぁ」
「あはは……皆川の影響を受けたからこそじゃないかなぁ」
「たしかにようかちゃんがおにいさんにむけるあいじょうひょうげんは、おにいさんのえいきょうをうけているとおもいますよ」
「ええぇ……俺あそこまで独占欲ないと思うよぉ?」
俺の言葉を聞いて戸手はともかく幸人君まで困ったような顔をする……な、なんでだよぉ。
「ま、まあそれはともかく……ついでだから聞くけどオカルト部がつぶれる原因になった事件って何なんだ?」
とりあえず話を逸らそうと気になっていた話題を振ってみた。
「ああ、あれかぁ……現実的に言えば集団ヒステリー……詩里香先輩達に言わせると……悪霊の仕業だって言ってた」
「悪霊……集団ヒステリー……どっちにしても嫌な単語だなぁ、それで具体的には何があったんだ?」
「前に詩里香先輩のさらに上の先輩が物凄い業績の持ち主って話したよね? 僕も何度か会ったことがあるけど、まあ確かに凄かったよ……お化けだとか呪いだとかそういう相談を全て完璧に解決してた」
「ほ、ほんとうのおばけさんみたんですかぁっ!?」
幸人君が震えながら俺に抱き着いた……キュンと来たよお兄ちゃん、幼子とホラーは何て相性がいいんだろう。
「僕は見てないよ、霊感がないのか先輩達の出まかせか……ただ先輩たちはそれこそ校外の人たち、有名な社長とか政治家の悩みすら解決してたからどちらにしても大した才能だと思う」
「ま、マジかよ……すげえなっ!?」
しかしそんな人たちと居た詩里香先輩があの無様さなのはどういうことなのだろう。
「そう凄かったんだ、だから助けられた人から強烈に慕われていてねぇ……詩里香先輩もその一人だった……それで先輩たちの力になりたくて……いや、追っかけとしてかもしれないけどオカルト部に入った」
「へぇ……でもあのビビりっぷりを見ると確かに前に何かに祟られてた後遺症っぽくも見えなくないなぁ」
「だけどあの通り才能ないから……それでもずっと一緒に居たってこともあって先輩たちには可愛がられてたみたいなんだ……だけどそれが逆にプレッシャーになったみたいでねぇ」
「プレッシャーですかぁ?」
幸人君の言葉に頷く戸手。
「受験シーズンになって先輩たちは部活に顔を出せなくなって……途端にオカルト部の相談事は減って……先輩たちの作り上げたオカルト部を潰したくないって詩里香先輩は派手に行動するようになった」
「ああ、今やってるみたいにオカルトっぽい現象を追いかけて回ったのか?」
「そうだよ、初めて会った時も桜の木の下に死体が埋まっているとかいう七不思議があって……まあデマなんだけど、あの馬鹿は必死にそれを証明しようとしていたよ……ずれてるよねぇ」
「うぅ……そんなことしょうめいしなくていいとおもうんですよぉ」
死体という単語を聞いて腕の中で小さくなる幸人君……癒されるぅ。
「要するに自分にも霊感……というかそういう才能があるって見せつけて相談を増やしたかったんだろうねぇ、それでも僕が入部してから少しずつ相談が入るようにはなったんだ」
「意味はあったんだなぁ……けど相談持ち込まれてもどうしようもないだろ?」
「まあね、あの人は臆病だから全部僕に丸投げでねぇ……僕は僕でオカルトなんか信じてないから物理的に強引に解決してやったよ」
「ど、どういうことですか?」
「最初の相談はこっくりさんに使った十円が戻ってくるって相談だったから目の前でやすりを使って粉々にしてやったよ……これで祟られるのは直接壊した僕だからってね」
想像以上の力技にびっくりする……そりゃあ戻っては来ないだろうけど、確か貨幣の破損て犯罪じゃなかったかなぁ。
「次の質問は心霊写真の持ち込みだったなぁ、一晩預かって画像編集してプリントした写真を除霊したって言い張って渡して元の写真は燃やしてやったよ」
「おいおい、いいのかよそれ?」
「あはは、一度だってクレームは来なかったよ……そしたら全盛期ほどじゃないけど人気が出て入部する人もいて……先輩達にも気に入られてたまに校外で受けた依頼を手伝ってほしいって言われたよ」
案外大活躍していたようだ、全く知らなかった。
(この頃の俺は多分読書部で矢部先輩に勧められた本を読みふけってたなぁ)
「ただこれが詩里香先輩や新しく入部した人たちには面白くなかったみたいで……評価されたのは実際に解決してる僕だけだったから……それである時から危険な依頼に手を出し始めたんだ」
「危険な依頼って?」
「先輩の伝手を辿って校外の依頼を請け負うようになって……物理的に暴れたり訳の分からない液体を振りまいたりする狂人一歩手前な連中の相手をして……いっぱい怪我したなぁ」
当時の戸手がたくさん包帯を巻いていたわけが分かった気がした。
「それでも何とかギリギリでやっては来れた……だけどやっぱり評価されるのは僕だったから皆不満が溜まってたみたいで……ある日、自分たちもできるんだって内緒で大きな依頼を取ったんだ」
そこで戸手は苦々しそうな、それでいて苦しそうな顔をした。
「丁度その日は休日で僕は外に居たんだけど、偶然先輩の一人と出会って……そこで初めて依頼のことを知って慌てて部室に向かったよ……先輩たちは僕が付いているからいざとなったら連絡がくるって安心してたみたいなんだ」
「……それで、どうだったんだ?」
「酷かった……窓から飛び降りた人、自分を傷つける人、教室中を荒らしている人……その中で震えて小さくなっている詩里香先輩を見つけて……僕は彼女だけ連れて全てを置き去りに逃げた……」
「うぅ……そ、それでどうなったんですかぁ?」
「それでお終いだよ、依頼自体は先輩が何とかした……けど死人こそ出なかったけど救急車も出てるほどの大惨事な大失敗だ、あっという間にオカルト部の名は地に落ちて……部員は先輩と僕らを除いて辞めて……先輩方の卒業と共に同好会になった……」
辛そうにため息をつく戸手……恐らく何だかんだで詩里香先輩のこと以外でもオカルト部を楽しんでいたのだろう。
「それで人見先輩はもう一度盛り上げようと……頑張ってるってわけか」
「あの性格だからね、他に友達も居場所もなかったみたいでオカルト部に執着してるんだよ……僕も人のこと言えないけどさ」
道理であの部室に入り浸るわけだ……そしてそんな事件があった教室なら封印されるわけだ。
「おっかないですよぉ……もうそんなきけんなかつどうしないほうがいいとおもいますよぉ」
「そうなんだけどねぇ……先輩たちは気にするなって言うし、詩里香先輩は自分にはそれしかないって思い込んでるし……惚れた弱みで僕も離れられなくて困ってるよ本当に」
そう言いながらも戸手がどこか嬉しそうに見えるのは勘違いじゃないと思う……やっぱり詩里香先輩もだがオカルト部のことも好きなんだろう。
「まあ、あんまり無茶するなよ……俺じゃあ役に立てそうもないが手伝えることがあったら言ってくれ」
「ふふ、嬉しいなぁ……だけど何かあったら先輩に相談するから平気だよ」
「そうか……でも無理だけはするなよ本当にさ」
「そうですよ、とでおにいちゃんがたおれたらきっとひとみおねえちゃんもないちゃいますよ」
「……だといいんだけどねぇ」
幸人君の言葉に戸手は嬉しそうにしながらその頭を撫でてあげるのだった。
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