皆で朝食
口元が何かに触れる心地、鼻にはとても清涼感溢れるけどどこかミルクのような甘ったるい匂いが入ってくる。
目を開くとにこやかに笑う陽花が場所を矢部先輩に譲っているところだった。
そして俺の身体にまたがった矢部先輩が顔を近づけてきて……何とか手で押しとどめた。
「おはよう陽花、そして矢部先輩……何をしているのかなぁ?」
「おはようのちゅーだよぉっ!! ほら遠慮しないで受け入れてぇっ!!」
「お断りします……ほらどいてください、重いですよ」
「お、重くないもんっ!! 皆川君酷いよぉっ!!」
陽花に比べれば十分重い……俺は陽花だけでお腹いっぱいだ。
「ほら諦めてどいて……正道さんも何か言ってやって……」
「ちゅっ……お姉ちゃん、きょうはいっかいでいいですよね?」
「駄目よぉ、ちゃんと目が覚めてるか確認しないと……あと十回はするわよ、ちゅっ」
「……嫌がってるでしょ幸人君、止めてあげてください」
「いや、はづきおねえちゃんのいうとおりですっ!! あとじゅっかいしないとちゃんとめがさめたかわかりませんっ!!」
「ほらぁ、皆もこう言ってるし意地張らないでキスしようよぉっ!!」
無理やり迫ろうとする矢部先輩、その隣から同じように唇を突き付けてくる陽花……朝から疲れる。
「そんなことする暇ありません……皆の分の朝ごはん作るからどいてください」
「もう、皆川君たら照れちゃってぇ」
「ちゅっ……ちゅっ……陽花ちゃんお姉さま、私の唇なら空いたわよ?」
「あー、私も陽花お姉さまとキスするぅ」
「もー、ふたりともしょうがないなぁ……」
矢部先輩と正道さんが陽花に迫る……陽花の唇を渡せるものか。
俺は二人に応えようとしていた陽花を抱き上げると、抵抗しないうちにほっぺたにキスをして大人しくさせる。
「お、お兄ちゃぁん……えへへ、あさからだいサービスさんだねぇ」
「このまま一緒に朝ごはん作るぞ……皆は終わったら呼びに来るからゆっくりしててください」
「ぶぅ……キスもしてくれないし陽花お姉さままで独占しちゃってずるいんだからぁ」
「陽花ちゃんお姉さまの唇ぅ~……うぅ……我慢して布団をかたずけておきますぅ」
正道さんの暴走癖はかなり収まってきているようだ……苦労して一晩相手しただけの甲斐はあったようだ。
ちゃっちゃっと冷凍食品を解凍しつつ、冷蔵庫にあるものを適当に炒めて朝ごはんを人数分並べる。
「出来ましたよ、食べちゃいましょう」
「「「「はーい、いただきまーす」」」」
皆で食事を始める……やっぱり幸人君以外、どいつもこいつも一人で食べようとしない。
もう抵抗をあきらめて俺は一人一人の口に食事を運ぶことにした。
「はぁ……この調子じゃぁ昼ご飯作る暇ないなぁ」
「もぐもぐ……昨日の晩御飯のこともあるし、今日のお昼は私が出すからみんなで学食に行きましょうよ」
「それはありがたいけど……いや、素直にお世話になります」
「もぐもぐ……ありがとう葉月ちゃん、今度面白い本貸してあげるから一緒に読もうね」
(面白い本ねぇ……あの魔本じゃないだろうなぁ?)
もしそうなら止めないといけない……正道さんまであんな危険図書の虜にするわけにはいかない。
「もぐもぐ……陽花もはづきおねえちゃんのほんよみたいー」
「もぐもぐ……ぼくはえんりょしておきます、どきどきしてたいへんですから」
「幸人君はいい子だなぁ……陽花は頼むからもうあんな本を読まないでくれよぉ」
これ以上陽花に変な影響を受けてほしくない。
何だかんだで、和気あいあいと話し合いながら食事を終えて俺たちは出発する準備を済ませた。
「忘れ物ないな……じゃあ行ってきます」
「「「「いってきまーすっ!!」」」」
「矢部先輩と正道さんはお邪魔しましたでしょうが……」
陽花と幸人君を二人とも抱き上げて俺は幼稚園の送迎バスへ連れて行った。
「じゃあ先生、後はお願いします」
「はい、わかりました」
「お兄ちゃん、いってくるねーっ!!」
「おにいさん、ありがとうございました……いってきます」
幼児二人はバスに揺られて去って行く。
「じゃあ俺たちも行きましょうか」
「そうね、行きましょう」
「はーい、今日一日がんばろーっ!!」
そして俺たちは並んで学校へと向かい始めた。
自然と矢部先輩が左腕を絡めて引き寄せる……豊満な胸が触れていて、感触が気になって仕方ない。
対抗するように正道さんが右腕を絡めて引き寄せる……肋骨の感触がするぐらいだ、差が気になって仕方がない。
「あのさぁ、歩きずらいんだけど……」
「良いじゃないのぉ、こんな可愛い女の子二人に囲まれてちょっとは喜ぼうよぉ」
「そうよ、素直に喜びなさいよ……周りの男子はあなたを羨ましそうに見てるじゃないの」
確かに注目は浴びている……だけどヒソヒソと聞こえてくる内容は羨望とはかけ離れている気がする。
(また薬が切れて暴れるんじゃないかとか聞こえてる……俺は薬物を使ってこいつらをいいなりにしてるわけじゃありませんよぉ)
学校内での俺のイメージはどうなっているのだろうか、もう今更気にもならないが。
「でも楽しかったねぇ、皆でのお泊り会……またしようねぇ」
「俺はしばらくしたくないです……」
「我儘ねぇ皆川様は……だけど明日から三連休よ、皆で温泉旅行に行くのよ?」
「ああ、もうか……早かったなぁ」
一週間があっという間に過ぎてしまった気がする。
それだけ楽しみだったということか、或いは日々に余裕がなさ過ぎたのか。
(多分後者だなぁ……騒がしすぎたよ)
温泉旅行で身も心も休めたいものだ……こいつらが付いてくる時点で無理っぽいけどなぁ。
「皆川君は準備できてるの?」
「ええ、まあ……二人はどうなんですか?」
「ばっちりよ、幸人の分も済んでるわ」
「私も完璧だよぉ、ちゃぁんと勝負下着もたくさん準備してあるんだからぁ」
胸を張る矢部先輩、だから揺れるし触れるからやめてほしい。
「あら……私も持ったほうがいいかしらねぇ、皆川様ぁ?」
「持たなくていいですぅ……うぅ、通学路でなんて会話してるんですかあなたたちはぁ」
周りの目がまた厳しくなった……新婚旅行じゃないからね皆さん、陽花みたいなこと言わないでくれ。
「今更じゃないの……ほら、楽しくいきましょうよ」
「そうだよぉ、楽しんた者勝ちだよ……笑って行こうよ」
二人の美少女が俺に笑いかける……嫌な気持ちになるわけがない。
「そうですね……楽しみにしておきますよ、温泉旅行」
俺も少しだけ笑顔になると、二人に引っ張られるように道を進んだ。
「おはよう皆、楽しそうだねぇ」
「おお、戸手かおはよう」
「戸手君おはよぉー」
「おはよう戸手君、明日から三連休だけどあなたたちは予定決まったのかしら?」
正道さんの言葉に戸手はいい笑顔を返してくれる。
「確実じゃないけど、やっぱり例の旅館に向かうみたいだ……だから多分当日は合流できると思うよ」
「おおっ!! それは良かったっ!!」
「ふふ、僕も皆川や皆と一緒に出掛けられそうで嬉しいよ……思いっきり楽しもうね」
「ああ……はぁ、楽しみだなぁ温泉旅行」
俺は満面の笑みを浮かべると戸手との温泉旅行について思いを巡らせた。
(一緒に温泉で背中を流し合って……お風呂上りには一緒に部屋で駄弁るのも面白そうだなぁ)
「……ねえ、普通は私たちみたいな女子とお泊りするほうを喜ぶべきじゃないの?」
「……葉月ちゃん、この旅行で私たちの身体にメロメロになるまで溺れさせちゃおうよぉ」
「そうね……お風呂上りに二人掛かりで襲って、なし崩しで既成事実を作りましょう」
「……とんでもない発言をしないでください、ドン引きです」
こう言ってはいるが、実際にそんなことされたら……我慢できそうにない。
(いや二人が望んでるんなら手を出しても……いやいや、そんな汚れた身体で陽花に触れられるものかっ!?)
頭を振って変な思考を吹き飛ばした……今回の旅行は陽花も一緒に行くのだ、そんな破廉恥な真似をする余裕などない。
何より二人とは付き合っているわけでもない、恋人でもないのに手を出すような真似はしたくない。
「ははは、頑張ってね皆川……僕もこの旅行で少しだけ頑張ろうかな」
「人見先輩か……」
「うん……いつまでも保護者面していても迷惑だろうから、いい機会だよ」
「そっかぁ……頑張れよ、応援してるから」
戸手は決意を固めた瞳でゆっくりと頷いて見せた。
(上手くいくかどうかはわからないけど……上手くいくといいなぁ)
俺は友人の想いが届くことを願った。
「上手くいくといいわね、戸手君と人見先輩……そしたら少しは皆川様がこっちを見てくれるかしら?」
「本当にねぇ……人見さんと戸手君ならお似合いだしぃ頑張ってねぇ」
「ありがとう二人とも、上手くいったら特別に皆川の恥ずかしい過去話を……」
「戸手、やっぱり邪魔していいか?」
「じょ、冗談だよ……」
調子に乗る戸手を軽く脅してやる……ああ、だけど楽しいなぁ。
俺は幸せをかみしめながら学校へと向かうのだった。
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