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皆で読書

「ふぅ……これで大体済んだな」


 俺は家事を済ませるついでに温泉旅行の支度を終わらせてしまう。


 そのタイミングでちょうどお風呂が出来上がったようだ、皆を呼びに行く。


『……』


 前と違い今度はドアの向こうは静まり返っている……よく耳を澄ませると矢部先輩の声だけが微かに聞こえてくる。


(な、何か嫌な予感が……)


 そっと扉を開くと矢部先輩が本を開き、その周りに頬を赤くした皆が集まっている。


「す、凄いのねぇ……最近の漫画はぁ……ごくっ……は、早く続きを読んでくれない……っ!?」


「あぅうぅ……や、やべのおねえちゃん、陽花ねぇこのほんよんでるとなんだかとってもどきどきしちゃうのぉ」


「ぼ、ぼくもなんかへんですぅ……くるしいようなここちいいようなふしぎなきもちになってしまいますぅ」


「それは正常な反応だから安心して、じゃあ続きを読むわね……『先輩、私先輩になら……一番大切なところもこんなに……』」


「うぉらああああああっ!! 何朗読してんじゃぁああああああっ!!」


 力づくで矢部先輩の持つ本を蹴り飛ばす、少し汚れてしまったかもしれないがもはや気にしてる余裕はない。


(油断したぁ……この人たちに常識を求めるべきじゃ無かったぁ……)


「い、痛っ!? み、皆川君流石に酷いよぉっ!?」


「酷いのはエロ本朗読してる矢部先輩でしょうがっ!! 何考えてるんですかあんたはっ!?」


「エロ本じゃないもんっ!! 立派な女性向けコミックスだもんっ!!」


 蹴り飛ばした本が壁に跳ね返り、ちょうど正道さんの手元に届いた。


「み、皆川様落ち着いて……ほ、ほらこれ年齢制限のない普通の漫画だからね?」


 ページを開いてこちらに見せ付けてくる……半裸で下着姿の二人が絡み合ってキスしようとしている。


「こ、この何処が健全なんですかぁっ!? 完全にアウトですよぉっ!!」


「よ、陽花まだちょっとしかよめてないのぉ……もっとよみたいのぉ……」


「こ、このほんはぼくたちがよんじゃだめなんですかぁ……?」


「駄目ですぅうううっ!! 君たちみたいな純粋な子は生涯見てはいけないものですぅううっ!!」


 完全に顔を火照らせている子供二人の様子に頭を抱えてしまう……俺の汚れを知らぬ天使たちがぁっ!?


「もう、皆川君はちょっと過保護すぎるよぉっ!!」


「過保護じゃなくて普通ですぅっ!! 幼稚園児に何見せてんですかぁっ!!」


「何って全年齢版の漫画だよぉっ!! 社会がこれなら誰に見せても大丈夫だって言ってるんだよっ!!」


「そうだよぉ、お兄ちゃんはすこしかほごすぎるよぉ」


 陽花がすかさず矢部先輩のフォローに入った……ただ読みたいだけでしょ。


(勘弁してくれ……陽花が余計な知識を身に着けたらそれこそお終いだ……)


 今以上に激しく攻め掛かってくるか……あるいは俺から距離を置いてしまうか。


 どちらにしても耐えられそうにない、俺はこの距離が一番幸せなのだから。


「ようかちゃん……ぼ、ぼくもこのほんはすこししいげきがつよすぎるきがします」


「ほ、ほら幸人君もこう言ってるしここまでにしておこうっ!!」


「まだ二対二だよぉっ!! 葉月ちゃんも読みたいよねっ!! ほら三対二でこっちの勝ちぃっ!!」


「何言ってるんですかっ!! 正道さんも読ませるの反対ですよねっ!! こっちの勝ちですぅ!!」


 本を持っている正道さんを両側から引っ張り合う……びくともしない、頼もしすぎる。

 

「ふ、二人とも落ち着いて……じゃあ先に私たちが読んでみて判断しましょう」


「ふぅん……まあそれなら皆川君も認めざるを得ないだろうしそうしようか?」


「……絶対に許可なんか出しませんが、まあそういうのなら試しに読みましょうか」


 仕方なく茶番に付き合うことにする……絶対にこんな危険図書を陽花と幸人君に読ませるわけにはいかない。


「お兄ちゃぁん、いじわるしないでよぉ」


「お姉ちゃん……へんなほんならよまなくてもいいですから」


 俺の足をぽかぽか叩く陽花に対して正道さんと矢部さんの近くを所在なさげにうろつく幸人君……教育方針間違えたかなぁ。


(俺より正道さんのほうがちゃんと良い子に育ててる……そ、そんな馬鹿なっ!?)


 少しショックを受けながらも、正道さんが持つ本に意識を集中する。


『あぁん……んっ……そ、そこはぁ……』


「アウトぉおおおおっ!! 思いっきりやばい声上げてるじゃないですかぁっ!!」


「こ、これぐらい少年漫画でもあるよねぇ……修行中とかさぁ」


「……矢部先輩、ちょっと無理がありませんかぁ」


「はい没収っ!! いい加減にしないと本当に追い出しますよっ!!」


 本を取り上げて睨みつけてやる……涙目になっても魅力的、じゃなくて許しません。


「うぅ……皆川君が虐めるぅーーびえぇええええんっ!!」


「えぇ……本気で泣いてるよこの人、子供かなぁ」


「お兄ちゃん、やべおねえちゃんをいじめたらかわいそうだよぉ……ゆるしてあげてよ」


「べ、べつに虐めてるわけじゃないんだけどなぁ……」


 少し居心地が悪い……いやでも俺何も悪くないんだけど。


「皆川様ぁ、女の子が泣いているんだから少しは優しくしてあげないと駄目よ」


「いや、だってさぁ……」


「おにいさん、やべおねえさんかわいそうですよ……ゆるしてあげてください」


「うぅ……幸人君までそんなぁ……」

 

「うぇえええええんっ!!」 


 皆が俺を攻め立てている中で矢部先輩の泣き声が響く……うぅ、どうしてこうなった。


(俺が折れるしかないのか……何故だぁ……)


「や、矢部先輩……わかりました、言い過ぎました俺が悪かったですぅ」


「びぇえええ……許してくれるのぉ?」


 一瞬で泣き止んでこっちをチラチラ見てくる矢部先輩……ウソ泣きじゃねえか。


「あのねぇ……はぁ、もういいです疲れました」


「わーいっ!! ありがとう皆川君、じゃあ続き読むから本返してぇ」


「それは許してません……ほら、お風呂に入ってきてください……」


「先に頂いていいのかしら……何か悪いわね、やってもらってばかりで」


 正道さんが常識的なことを言っている……今は矢部先輩より全然マシに思える。


「良いからこの変態を連れてってやってください……陽花もお願いだから大人しくお風呂に入ってきて……」


「よ、陽花ちゃぁんお姉さまぁあああっ!! 一緒に素肌と素肌をこすり合わせて身体を洗いあいっこしましょぉおおおっ!!」


「……ぐはぁ」


「お、お兄さんだいじょうぶですかっ!?」


 ちょっと胃の中身を吐きかけた……ストレスがやばい、味方がいない。


(よ、陽花と幸人君のダンスを思い出して……ああ回復が追い付かない……)

 

「ご、ごめんね皆川君……私調子に乗り過ぎたね……」


「わわっ!? わ、わるかったわよ皆川様っ!!」


「お、お兄ちゃんだいじょうぶなのぉっ!?」


「だ、大丈夫だよぉ……だから頼むから暴れないで問題を起こさずにお風呂を済ませてください」


 俺の懇願に思うところがあったのか、三人の女性は素直にお風呂場へと移動していった。


(監視……監視したいところだけど、もう限界だぁ)


 流石にお風呂場で本は読めないだろうから暴れるとしても正道さんだけだろう……うん、一番心配だなぁ。


 でも流石に一線を越える真似はしないはずだ、多分……それにいざとなれば矢部先輩が止めてくれるはず。


(や、やっぱり様子を見に行ったほうがいいかなぁ)


「いたいのいたいのとんでいけぇ……いたいのいたいのとんでいけぇ……おにいさんまだいたいですか?」


「幸人君……お陰でかなり良くなったよ、ありがとうねぇ」


「そうですか、おにいさんむりしないでくださいね……なでなでしてあげますから」


「うわーい、お兄さんとっても嬉しいよっ!!」

 

 胡坐をかいて幸人君を足の上に抱き上げるとそこから手を伸ばして頭を撫でてくれる。


 幸人君のぬくもりが伝わる、また幼児特有の甘くも心地よい体臭も嗅ぐことができる。

 

(うわぁい、幸せぇ……陽花もいればもっと幸せだったなぁ)


 思わず抱きしめてしまう……身体中を撫でまわしたい衝動にも駆られたが何とか我慢した。


「おにいさん、これじゃああたまをなでてあげられませんよぉ……」


「いいんだよぉ、もう十分癒されたから……今度は幸人君を撫でてあげようねぇ」


 抱きしめたまま片手で幸人君をいい子いい子してあげる……やっぱり繊細な髪の毛が痛まないように優しく丁寧にだ。


「えへへ……おにいさん、ぼくきもちよくなっちゃいますよぉ」


「いいんだよ、好きなだけ気持ちよくなってくれ……いい子いい子ぉ」


 俺はそのまま現実逃避をするように幸人君をいつまでも抱きかかえ頭をナデナデし続けるのだった。

 【読者の皆様にお願いがあります】



 この作品を読んでいただきありがとうございます。

 

 少しでも面白かったり続きが読みたいと思った方。


 ぜひともブックマークや評価をお願いいたします。


 作者は単純なのでとても喜びます。

 

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