皆と食後
食事を終えると伊代音さんは本当に時間がないらしく、すぐに玄関へと向かった。
「すごい心残りだけど時間がないから帰るわ……石生君、くれぐれも節度を守って皆さんとお付き合いしなさいね」
「誰とも付き合ってないですぅ……うぅ……」
「葉月さんも、私が言うことじゃないかもしれないけど……あまり子供に変な姿を見せないようにしなさいっ!!」
「は、はい……できる限り常識的に頑張りますぅ」
正道さんは食事中にも何度か暴走の兆候を見せただけあって、伊代音さんの警戒心も高い。
「稲子お姉……稲子さんも変な本を朗読しないように、子供には刺激が強すぎます」
「はぁーい……絶対楽しめるのになぁ」
「陽花も変なリクエストはしないようにね、みんなが可愛がってくれるからって甘えて調子に乗るんじゃないわよ」
「わかってるよぉ……もうママったらしんぱいしょうなんだからぁ、陽花いちどだってわがままいったことないよ?」
俺の腕に抱かれた陽花が首を傾げる……可愛いけど絶対わかってて言ってるよなぁ。
「幸人君もね、嫌なことは言っていいんだからね……無理しちゃ駄目よ」
「わかりました、ありがとうございます……だけどぼくはぜんぜんいやじゃないからだいじょうぶです」
「良い子だなぁ幸人くんはぁ……よーし、お兄ちゃんがナデナデしちゃうぞぉ」
「お兄ちゃん、陽花もナデナデーっ!!」
「わ、私も陽花ちゃんにナデナ……あ、あははしませんよ」
「えーっ!! 私だけ仲間外れにしないでよぉっ!! ほらナデナデしてぇっ!!」
「……だから人前でいちゃつくのをやめなさい、どうして数秒すら我慢できないのかしら」
伊代音さんが心底疲れたようにため息をついた……いちゃついていたつもりはないのですが。
「す、すみません……ほら皆も少し落ち着いて……」
「「「「はーいっ!!」」」」
みんな返事だけはいいがそれまでの行動を止めようとしない……だって幸人君の撫で心地とてもいいんだもん。
「あぁ、もう本当に心配過ぎるわよっ!! 皆川君、本当にしっかりしなさいよっ!!」
「が、頑張りますぅ……お義母さんもお仕事頑張ってください」
「ママ―おしごとがんばってねーっ!!」
疲れていたような伊代音さんだが俺と陽花の言葉を聞くと途端に笑顔になった。
「じゃあ行ってくる……」
「行ってらっしゃーい、お義母さまぁ」
「頑張ってきてくださいね、お義母さま」
「え、えっと……いってらっしゃいおかあさま」
「ま、まだお義母さまと呼ばれる筋合いはありません……はぁ、じゃあ行ってくるわぁ」
結局伊代音さんは後ろ髪惹かれるように、もしくは重い身体を引きずるようにして家を後にした。
「ああ、疲れたぁ……暗くなってきたし矢部先輩も正道さんもそろそろ帰ったほうがいいですよ」
さりげなく幸人君は確保しつつ言ってみる……まあ無理だろうけどさ。
「うーん、泊まっていっちゃ駄目ぇ?」
「駄目ですぅー、こんなに大人数が泊まれるほど余裕はありませーん」
「そうねぇ、じゃあ私たちは帰るわ……ほら幸人帰りましょ?」
「えーっ!! まだゆきとくんとあそんでないよぉ……もうお兄ちゃんいじわるいわないでみんなでおとまりしようよぉ」
陽花の言う通り確かにまだ食事しか済ませていない……だけどみんなが俺に食べさせてもらおうとするから時間がかかったんだぞ。
「お姉ちゃん、もうすこしだけようかちゃんとあそんでいっちゃだめですか?」
「でもこれ以上遅くなったら真っ暗になってしまうわ、女の子二人で帰るのは恐ろしいわよ」
女の子二人……正確には男の娘一人と化け物一匹だろう。
「正道さんなら絶対安全だと思うのですが……まあ幸人君もこう言ってることだし本当に泊っていきますか?」
「もぉ皆川君たら幸人君に甘々すぎるよぉ……そんなに小さい子が可愛いのぉ?」
矢部先輩がとても失礼なことを言ってくる……可愛いに決まってるだろう。
「陽花もそうおもうよぉ……けどお兄ちゃんもこういってるしみんなとまっていこうよぉっ!!」
「一応万が一の場合に備えて着替えは用意してあるけど……本当にいいのかしら?」
「私も持ってきてるよーっ!! 皆川君にばっちりアピールできる魅力的なのーっ!!」
「ベッド自体は俺のに陽花のと親父と伊代音さんのがありますからね、正道さんが気にしないなら泊まっていってください」
矢部先輩を全力で無視してやる……というか変に色っぽいの着られたらまずい、耐えられる自信がない。
「じゃ、じゃあお言葉に甘えて陽花ちゃんお姉さまと一つ屋根の下っ!! あぁあぁあああっ!! よ、陽花ちゃぁああああんっ!! 葉月と一緒にお風呂入っておトイレ済ませておねんねしましょうねぇえええっ!!」
「はづきおねえちゃん……はぁ、陽花いっしょにおんせんにはいるのがふあんだよぉ」
「まあまあ、私が一緒だから安心してよ陽花お姉さま……だから私も泊まっていいんだよね皆川くぅん?」
「普通の着替えを持ってるなら許可しますよ……最悪前みたいに俺の服を着てください」
結局皆泊まっていくようだ……まあ温泉旅行という本番を迎える前に一度体験しておくのも悪くないだろう。
「おねえちゃんたちはみんないっしょにおふろにはいるんですね……じゃあぼくはおにいさんといっしょにはいりますね」
「ゆ、幸人くぅうううんっ!! お、お兄ちゃんが全身余すところなくピカピカに洗い流して磨き上げてあげるからねぇええっ!!」
こんな幸福があるなんて思わなかった……お泊りって素晴らしい。
(ってなんか皆の視線が痛い気がする……よ、陽花まで俺をジト目で呆れたように見つめてるっ!?)
「……ゆきとくん、いやだったらひとりではいってもいいんだよ?」
「だいじょうぶです、おねえちゃんとのおふろでなれてます……やさしくしてくださいねおにいさん」
「はぁああああいっ!! お兄ちゃんねぇ、幸人君の肌が万が一にも傷付かないよう丁寧に洗ってあげるからねぇっ!!」
「……やっぱり皆川君って同性愛の気があるのかなぁ、おまけに子供好きとか変態さんだよぉ」
矢部先輩の言葉が突き刺さる……さっきから突っ込みが厳しいよこの人。
「ち、違いますぅっ!! ただ単純に保護欲からくる衝動ですぅっ!!」
「何だかんだで皆川様って私と同類なのねぇ……これはきっと運命の出会いだったんだわ」
「い、一緒にしないでくださいぃっ!! 全然似てないよなぁ陽花っ!?」
「うぅ……もっとがんばってのうさつして陽花だけしかみれないようにしないと、お兄ちゃんがはんざいしゃになっちゃうよぉ」
誰も否定してくれない……俺はまともな人間なのに。
崩れ落ちた俺に幸人君が近づいてくる。
「おにいさんなかないで、いいこいいこしてあげますね」
「うぅ……ありがとう幸人君……陽花もナデナデしてほしいなぁ……」
「私がしてあげるよぉ……ほら、いい子いい子~」
「やれやれ……いい子いい子、皆川様はいい子~」
皆が俺を慰めてくれる……肝心の陽花はあきれた様子で俺を眺めるだけだった。
「お兄ちゃんたらぁ……しかたないなぁ、陽花はちゅーしてあげるね」
「い、いやそれは……ほ、ほっぺかおでこにお願いしますぅ」
「はーい、ちゅっ……えへへ、ばしょまちがえちゃったぁ」
思いっきり唇にキスされる……溜まり切った心労のせいで抵抗もできず癒されてしまった。
「陽花お姉さまだいたーんっ!! 皆川君、私ともお口とちゅーっ!!」
「よ、陽花ちゃんお姉さまぁあっ!! 葉月ともちゅーしてぇええっ!!」
「ちゅ、ちゅーってみんなだいすきなんですねぇ、ぼくもしたほうがいいんでしょうか?」
「幸人君はしないでぇっ!! というかキスの安売りは本来駄目なんですぅっ!!」
「これぐらいしたほうがいいよぉ、お兄ちゃんも陽花ともういっかいちゅーしよぉ?」
子供たちが悪い影響を受けている……本当にこの二人にはしっかりしてほしい。
「とにかくぅ、おふざけはこの辺にしておきましょう……俺はお風呂の支度をしますからその間は皆で遊んでいてください」
「あ……泊めてもらうんだから私がやりましょうか?」
「私がやってもいいよぉ、お風呂掃除~」
「これぐらいは自分でやりますよ……陽花と幸人君を見守ってあげてください」
「じゃあ陽花たちはあそんでるねー、いこーゆきとくんっ!!」
「はい、じゃあおことばにあまえてあそんできます」
子供二人がペコリと頭を下げて廊下を走っていく……可愛すぎるなぁ。
その後を正道さんと矢部先輩が追いかけていく……やっぱり不安だなぁ。
俺は急いで風呂掃除を終えると、すぐに陽花達の元へと向かった。
『…………っ』
どうやら俺の部屋で遊んでいるらしい……もうエロ本は処分したし変なことにはなってないよなぁ。
恐る恐るドアを開いて……俺は余りの衝撃に声を出すことも忘れて固まってしまった。
「ふふ~ん」
陽花と幸人君が並んで両手をチマチマと上下に動かしている。
頭を振り回して腰をフリフリしている……前に見た陽花のお遊戯ダンスを二人でやっているのだろう。
思わず声を出すことも忘れて見とれてしまう……ご、極楽だぁ生きててよかったぁ。
ダンスに集中している子供二人はともかく、正道さんと矢部先輩も見惚れているようで誰一人俺に気づく様子もなかった。
「じゃーんっ!! どうだったぁ、陽花たちのおゆうぎ……ようちえんでもだいにんきなんだよぉ」
「えへへ、みんなすごいってほめてくれるんです……せんせいたちもかめらさつえいしてくれるひともいるんですよぉ」
「すっごい可愛かったわよぉおおおおおおっ!! 陽花ちゃんお姉さまぁっ!! 葉月も一緒に踊りたぁいいっ!!」
「うん、とっても可愛いよぉっ!! 見惚れちゃったもん、二人とも素敵だよ」
正道さんと矢部先輩の称賛を受けて陽花も幸人君も嬉しそうだ……どうやら心配する必要はなかったらしい。
(俺も見ていたいけど……せっかくだし二人にこの場は任せて俺は他の家事を済ませておくかぁ)
今週末は温泉旅行に出かける都合上、一週間分の溜まった家事を片付ける時間がない。
俺は後ろ髪惹かれる思いで部屋をそっと後にするのだった。
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