皆と晩御飯
「お兄ちゃん、あーんっ!!」
俺の膝に座る陽花が可愛く口を開く、俺は小さく切った食事を中へと運び込んであげる。
「んぐんぐ……お兄ちゃんおいしーっ!!」
「皆川君、あーんっ!!」
俺の左隣に座る矢部先輩がお淑やかに口を開く、俺は食べやすくした食事を舌の上に置いてあげる。
「もぐもぐ……皆川君おいしーよぉっ!!」
「皆川様、あーんっ!!」
俺の正面に座る正道さんが大口を開ける、とりあえず箸でつまめるだけ掴んだ食事を流し込んであげよう。
「もがむぐぅっ!? お、おいしいわ皆川様ぁ」
「良く飲み干せたなぁ……やっぱり大した化け物だなぁ」
「皆川様が食べさせてくれたから一生懸命飲み干したのにぃっ!! 意地悪ぅうっ!!」
何やら悶えている……期待に応えて食べさせてやったというのに我儘な奴だ。
「はいはい……さあ幸人君も食べさせてあげるからねぇ、ほらあーんして」
「ありがとうおにいさん、だけどぼくはひとりでたべられます……もぐもぐ」
「くぅうっ!! た、食べさせてあげたかったのにぃいいいっ!!」
正道さんの膝に座りもぐもぐと小さい指を使ってご飯を食べている幸人君、プルプルの唇の奥で頑張って歯を上下させているのがわかる……これはこれで癒されるわぁ。
「お兄ちゃんさぁ……ほら陽花にあーんしてっ!!」
俺は後ろ髪惹かれる思いで幸人君から目を離すと陽花に食事を運んだ……ああ、小さいお口で俺の箸を受け入れてもぐもぐする陽花も可愛いなぁ。
「皆川君、私にもあーんっ!!」
「矢部先輩、もういい加減にしてください……俺が食べる時間が無くなるでしょう」
「皆川様ぁ、あーんっ……ごぼぐばぁっ!?」
「正道さんはこれぐらい突っ込めばもうお腹いっぱいじゃないっすかねぇ」
何で俺が一人一人に食べさせてやらないといけないのだろうか……陽花はともかく、肝心の幸人君に食べさせてあげられないのが辛い。
「もぐもぐ……おにいさんはみんなからたよられててすごいですね、ぼくもいつかおにいさんみたいになりたいです」
「ゆ、幸人君に言われたらお兄ちゃんとっても嬉しいよっ!! 何でもしてあげるから幸人君も遠慮なくいってねっ!!」
「お兄ちゃんちゅーっ!! なんでもしてくれるっていったよねっ!! おくちにあのとくべつなちゅーっ!!」
「皆川君、私にもちゅーっ!! お口にちゅーっ!! ディープキスプリーズっ!!」
左と下から唇が迫る……君たちには言ってないんだけどなぁ。
「皆川様ぁっ!! 陽花ちゃんお姉さまっ!! 私ともちゅーっ!! ディープで濃厚なチューっ!!」
「お姉ちゃん……ようかちゃんはかわいそうだよぉ、おにいさんだけにしておいたほうがいいよぉ」
「うぅ……四面楚歌だぁ、もういっそ幸人君もちゅーしようかぁ?」
「お、おにいさんとちゅーですかぁ……い、いやじゃないけどはずかしいですぅ」
幸人君が顔を火照らせて頭をフリフリしている……うん、陽花の次に……同じぐらい可愛いかもしれない。
「……石生君、もう私は何をどう言えばいいのかしらぁ?」
「あーっ!! お義母さまお久しぶりですぅっ!!」
「い、稲子お姉……ごほん、ええ久しぶりね稲子さん……だけど今は石生君とお話ししたいわ」
「い、伊代音さん……どの辺から見聞きしていらっしゃいましたか?」
気が付けば背後に伊代音さんが立っていた、声が震えてる気がする……これやばくない?
「幸人ちゃんとやらにキスをせがんでいるところからよ……初めまして幸人ちゃん、私は陽花の母で伊代音です」
「ようかちゃんのおかあさんですか、はじめましてぼくは正道幸人です……ようかちゃんのおともだちです」
「そーだよーっ!! ゆきとくんは陽花のだいじなおともだちなんだよーっ!!」
「そうなの、これからも陽花と仲良くしてやってちょうだい……それで、その幼稚園児にキスを要求した石生君は何か言い訳があるなら聞くわよ?」
「うぅ……弁解の余地もございませぇん、幸人君ゴメンねぇ」
確かに冷静に指摘されるとシャレにならない……頭が混乱していたとはいえ幼稚園児の男の子に何ということを言ってしまったのかぁ。
「ぼくはきにしてませんからおにいさんをせめないであげてください……いつもおにいさんにはおせわになってますから」
「良い子ねぇ、ちなみに苗字からして葉月さんの妹ということでいいのよね?」
そういえば女の子の格好をして女の子にしか見えないのが幸人君だった……冷静に考えたらこれもまともじゃないなぁ。
「うぅ……は、はは……まあそんなところですよねぇ皆川様ぁ」
「あ、あはは……そんなところだよねぇ陽花ぁ」
「え、えへへ……そうだったかなぁやべおねえちゃん」
「えっ!? 幸人君は男の娘だよぉ」
陽花ですら空気を読んだというのに矢部先輩さぁ……そんなんだからボッチ飯の達人になるんですよぉ。
「な、何を言ってるのかしら稲子さんは……幸人ちゃんは……君?」
そこでようやく敬称の違いに気づいたようだ、目を見開いて恐る恐るという感じに幸人君の顔に手を伸ばした。
「こ、この長い睫毛……きめ細かい肌……潤んだ瞳……ゆ、幸人ちゃんは女の子よねぇ?」
「ぼくはがんばっておんなのこになろうとしてます、だけどむずかしいです」
「……つまり男の子なのね?」
「微妙に発音が違いますっ!! 男の娘ですぅっ!!」
矢部先輩の余計な発言で伊代音さんの額に血管が浮かび上がる。
「そんなことはどうでもいいでしょっ!? はぁはぁ……ゆ、幸人ちゃんは自分の意志で女の子になろうとしてるのよねぇ」
「はいっ!! お姉ちゃんがちいさいおん……っ!?」
「あははぁ……と、ともかく幸人は私がしっかりと面倒を見てるのでご安心くださいぃいいっ!!」
「じゃあ何で口を押えるのっ!? 葉月さんはさっきも忠犬とか陽花のことお姉さまとか言ってたけど本当に大丈夫なの石生君っ!?」
そんなことを聞かれても困る……俺だって八割がたアウト判定なのだから。
「ママぁ……ごはんさめちゃうよぉ、そんなことよりいっしょにたべようよぉ」
「そんなことって陽花あなたっ!? はぁ……もういいわ、疲れたわよ」
ため息をついて気を落ち着かせたらしい伊代音さんが俺の右隣に座る……一度気絶したから耐性でもついたのかな。
「じゃあ、お兄ちゃんあーんっ」
「だから陽花、甘えないの……石生君も甘やかさないの」
「皆川君、あーんっ」
「皆川様、あーんっ」
「稲子さんも葉月さんも……仮にも親の前でいちゃつかないで頂戴、石生君も浮気現場を見せつけないで欲しいわ」
どの辺が浮気現場なのだろうか……手も足も出してないのにぃ、ついに家族にまで誤解が広まってしまったぁ。
「ご安心してくださいお義母さま、前にも言ったけど私は第二夫人ですから浮気じゃないのですぅ」
「ええ、私も第三夫人ですからもんだいないですよ、お義母さま」
「陽花がせいさいっ!! お兄ちゃんしょうこのちゅーっ!!」
「……石生君、あなた転校して一人暮らしする気ないかしら?」
「うわぁ……魅力的な提案だなぁ」
一瞬だけ良いかなぁと思ってしまった……けど陽花が居ないんじゃ行く気はしない。
(それに戸手や幸人君と別れるのも辛いなぁ……矢部先輩と正道さんも会えないと静かになって寂しいだろうなぁ)
「ええっ!! だ、駄目ぇっ!! 皆川君行っちゃヤダぁっ!!」
「そ、そうよ皆川様が居なくなったら私一人ぼっちじゃないっ!!」
「あ、あのようかちゃんのおかあさん……おにいさんをここにいさせてあげてください」
「そうだよぉっ!! 陽花からはなれちゃだめなんだからねぇっ!!」
みんなから留められる……不謹慎だが、かなり嬉しい。
(俺ってこんなに人から必要とされる人間になれたんだなぁ……)
「わかってるわ、冗談よ……全く石生君たらモテモテじゃないの」
「ははは……でもちゃんと節度は保って付き合ってますのでその辺は安心してください」
「そーだよぉ、皆川君全然手を出してくれないんだもんっ!! ちゃんと勝負下着も穿いてきてるのにぃ」
「矢部先輩いつの間に……私も穿いてくればよかったかなぁ」
さらっととんでもない発言を繰り出す矢部先輩……本当に辞めてほしい、禁欲生活で溜まりまくってるんだから本当に一線超えちゃいますよ。
「しょうぶしたぎってなあに?」
「しょうぶ……たたかうんですか?」
「汚れなき麗しの天使である陽花と幸人君は生涯知らなくていい単語だよぉ……」
「貴方たち……それに石生君も子供に悪影響を与えるから発言には気をつけなさい」
何故か俺まで叱られた……酷すぎる。
「はぁ……ああ、もうこんな時間っ!? 早く食べちゃうわよっ!!」
伊代音さんの言葉を合図に、俺たちは今度こそ晩御飯を和気あいあいと食べ始めた。
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