親友の戸手茂良という男
「おはよう皆川、おー今日も見事に死んでるね」
「戸手か、おはよう……ギリギリ生き永らえたと言ってくれ……」
「はは、妹さんでしょ……あれはヤバいからねぇ」
友人であり唯一俺の事情を理解してくれている戸手茂良はつまらない愚痴にも付き合ってくれる素晴らしい人間だ。
だからついつい甘えて色々とぶちまけてしまうが、一度だって笑顔を絶やしたことがない……本当にいい奴だ。
「だろぉ……いや可愛いんだけどね」
「確かにね、初めて君の家で出会った時は親の仇を見るような目で睨まれたけど可愛かったからねぇ」
「いや仲良かったじゃんお前……あれで陽花は結構人見知りするところあるから珍しいと思ってたんだけど」
「ああ、皆川がトイレに行ってる間に恥ずかしい写真コレクションを共有して君の想いを応援するよって囁いたら一発で堕ちたよ」
「何やってんだお前はっ!?」
訂正する、こいつはこいつでやばい奴だ……というかそんなことがあったのか。
「いやでもねぇ、私のお兄ちゃんとの時間を奪わないでって言われて包丁持ちだされたら降参するしかなくない?」
「初耳だよっ!? てかマジでそんなことあったのっ!? お前一言も言わなかったじゃんっ!?」
「聞かれなかったし、そんな大したことじゃないからね……女が揉め事に包丁持ちだすのなんて良くある事だよ」
さわやかな笑顔で断言する友人、何があればこの齢でここまで達観できるのだろう。
「俺たち同い年だよな、何でそんなにサラリと流せる……というか恥ずかしい写真コレクションって何だよっ!?」
「んーそれは聞かないほうがいいと思うよー、精神的安定のためにもー」
「気になるわっ!! というかなんでそんなもの集めてんだよっ!?」
「あーそれは聞かないほうがいいと思うな―、精神的安全のためにもー」
のらりくらりと躱されてしまう、向こうのほうが一枚も二枚も上手だ。
結局この件の追及はあきらめざるを得なかった。
「そういえば、君さ最近部活動に顔出してないだろ……ほら読書部とかいう珍しい奴」
「いや一応鍵を渡してあるとはいえ陽花のお迎えがあるし、そもそも俺の帰りが遅いと……見ろこの着信履歴を」
「自宅からの連絡で埋め尽くされてる……しかも同一日付か、まあ良くあることだから気にしても仕方ないよ」
戸手が笑いながら携帯電話を5台取り出して履歴を見せてくれる……なんで5台も持ってるんだよ。
「戸手、お前は携帯を何台持って……全部同じ相手で埋め尽くされてるぅ!!」
「ね、女の子って寂しがり屋だから……まあ良くあることだよ」
「お前はお前で修羅場をくぐってるんだなぁ、敵わねえよ畜生……」
「そんなに褒めないでくれ、それより部活の話に戻るけど先輩の矢部稲子さんが心配してたよ」
「矢部先輩が……」
色々とおすすめの本を渡してくれた先輩の顔を思い出……ああ、毎朝の陽花のドアップ顔しか思い出せねぇ。
「読書部入る人って殆どが矢部稲子先輩が目的って感じだからさ、一緒に本を読める君が居なくて寂しいんだって」
「矢部先輩、美人だからなぁ……完全にメガネ読書少女だけど」
「それがまた大人しそうで落としやすいとか勘違いされてるんじゃないかな……僕からすればあの手のタイプは内心何かため込んでて爆発すると大変だと思うけど」
「いやあの矢部先輩にかぎってそんなことはないだろ、優しくて気遣いができて細かいところにも気付いてくれて笑顔は可愛いしストレートヘヤーはいい匂いだし本の趣味は良好で胸はでか……うん、あの人に限ってそんなやばい一面はないよ」
「青いなぁ……だけど僕にはその純粋さが眩しくて羨ましいよ」
俺をまるで愛おしいものを見るような目で眺めてくる戸手だが、俺にはいつだって笑顔を浮かべられる戸手のほうが眩しく見える。
「まあ近いうちに顔出してあげなよ」
「ああ、わかったよ」
戸手にはそう答えたが、何だかんだで陽花を放っておくのはかわいそうだから暫く顔を出すのは無理だろう。
机に突っ伏して朝の疲労を癒しながら俺は陽花のお出迎えについて考えるのだった。
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