陽花の罰ゲーム
あっという間に放課後になってしまった、まあ半日以上気絶していたのだから当たり前だ。
俺はとぼとぼと力なく陽花がやってくるバス停に向かっていた。
(ああ、どうか神様……陽花のご機嫌が治っていますようにっ!!)
朝方の別れを思うと、今から陽花にあうのが恐ろしくて仕方がない。
だけど可愛い陽花を一人で歩いて帰らせるわけにはいかない……俺は死刑宣告を待つ死刑囚ぐらいの気持ちで陽花を待ち続けた。
「先生さようならぁ」
バスが到着して陽花が下りてきた……声からして落ち着いているようだ。
「先生いつもご苦労様です、陽花もおかえり」
「……ふん、だ」
「よ、陽花っ!? 陽花さんっ!? 陽花様ぁっ!!」
いつもなら抱っこを要求する陽花が、俺を無視して顔をそむけてしまう……なんてこったぁっ!!
「あはは……喧嘩しちゃったんですか?」
「い、いえその……そういうわけじゃないんですけどぉ……」
「陽花ちゃん、一日中不機嫌だったんですよ……幸人君が一生懸命とりなして何とか帰り際には落ち着いたと思ったんですけどねぇ」
「お、お世話をおかけしました……幸人君にもお礼を言っておいてください」
先生に頭を下げて、さっさと先に行こうとする陽花を追いかけた。
「ほ、ほら陽花ぁ、一緒に帰ろうなぁ」
「……お兄ちゃんなんかしらないもん」
「ゆ、許してよぉ陽花ぁっ!!」
陽花に嫌われてしまったかもしれないと思うと心が締め付けられる、苦しくてたまらない。
もうなりふり構わず頭を下げて、それでもこっちを見てくれないので無理やり抱きかかえた。
「やぁんっ!! かってに陽花にさわらないでよぉっ!!」
「い、いつもは抱っこして欲しがるじゃないかぁ……このままお家まで連れてってあげるからぁ」
「陽花はおこってるのぉっ!! きやすくさわらないでよぉっ!!」
「あ、暴れないの……わかった、お兄ちゃんが悪かったからどうすれば許してくれるの?」
謝罪一辺倒だ……我ながら情けないが陽花に嫌われたら生きていけないから仕方ない。
(俺はシスコン過ぎるぅ……いつの間にここまで陽花にメロメロになってたんだ?)
俺だって陽花のせいで被害を被っているのに……けど不機嫌な陽花を見ていられない。
「それぐらいじぶんでかんがえてよねっ!! いまの陽花はお兄ちゃんがだいすきっ!! じゃ、じゃなくてぇとにかくきょりをおくのっ!!」
「大好きなのかぁ……よ、よかったぁ」
どうやら怒っていても俺のことを嫌ったわけではないようだ……それだけでほっとしてしまう。
「なにをよろこんでるのぉ……まったくお兄ちゃんったら陽花にメロメロなんだからぁ、えへへ……じゃなくてぷんだっ!!」
安堵した俺の様子に陽花は一瞬笑顔を見せるがすぐにはっと正気に戻ったように顔を背けてしまう……可愛い。
反射的に俺を大好きだと言ってしまう陽花、俺の好意を感じ取ると怒っていても笑ってしまう陽花。
本当に俺は好かれているのだと実感できてうれしくなる、と同時にそんな陽花を怒らせてしまったことが申し訳なくなる。
「ごめんな陽花、本当にお兄ちゃんが悪かったから許してくれ」
「……ことばだけじゃゆるさないもん、こうどうでしめしてくれないとだめだもん」
「行動って……こうしてお姫様抱っこしているでしょ?」
「そんなのあたりまえでしょっ!! いっしょねんねとおひめさまだっこはお兄ちゃんのぎむなのっ!!」
そんな義務は聞いたことがないが陽花がいうならそうなのだろう……うぅ、お兄ちゃんの中で常識が壊れていく。
「ええと、じゃあ今日の献立は陽花の好きなものを……」
「陽花はお兄ちゃんがつくるものならなんでもすきなのっ!! おわびなんだからそうじゃないでしょっ!!」
怒っているのにところどころ俺への愛情を隠し切れない陽花……愛おしすぎる、つい強めに抱きしめてしまった。
「いい子いい子、陽花は本当に可愛いなぁ……」
「そ、そんなことじゃ……えへへ……はぅっ!? ご、ごまかされないんだからぁ~お兄ちゃぁん~大好き~……じゃないもんっ!!」
「そんな嬉しそうな顔で言われてもなぁ……そろそろ許して本音で語ったほうが楽じゃないかぁ……いい子いい子」
「あたまなでるのずるいぃ~陽花きもちよくなっちゃうでしょぉ……おくちにちゅーしなきゃゆるさないさくせんなのにぃ~」
気が付いたら陽花の方からも俺に抱き着いている……というか作戦って言ったな今。
(怒ってるふりして俺からのキスを誘っていたのか……何という巧みで恐ろしい罠だ)
幼稚園児にしては高度な駆け引き過ぎるのではないだろうか……誰だよ、俺の天使に余計な知識を与えてるやつはっ!?
「そんなことを企んでいたのかぁ……い、家に帰ったらお口さん以外にしてあげるからこれで許してくれ」
「ぶぅ、おくちさんがいいのにぃ……お兄ちゃんはずるいよぉ、陽花をだっこしてあたまなでなでなんてはんそくだよぉ」
「わかったよ、お兄ちゃんしたくてしちゃうけど陽花が嫌ならやめておこうかなぁ」
「あん、お兄ちゃんのいじわるぅ……もっともっとつづけてほしいのぉ」
陽花が頭を擦り付けてくる……もちろん可愛すぎて抱っこもナデナデも止められるわけがない。
「よしよし……お兄ちゃんなぁ、自分で思ってた以上に陽花が大事すぎるからあんまり意地悪言わないでくれよぉ」
「陽花のほうがお兄ちゃんをだいじにおもってるもん……だけどそうするね、お兄ちゃんほんとうにつらそうだったからね」
「ありがとう陽花、そこまで想われてお兄ちゃんは幸せだよ……ちゅっ……はっ!?」
「っ!? お、お兄ちゃんにちゅーされたっ!! おそとでされちゃったぁっ!! やったぁーっ!!」
余りにも愛おしすぎて外だということも忘れておでこにキスをしてしまった……俺やばいかもしれない。
腕の中で陽花が照れながらも嬉しそうに頭を振っている……丁度周りに誰もいなかったし物凄く喜んでくれたから良しとしよう。
「じゃ、じゃあこれで仲直りなっ!! ほら家も見えてきたしちょうどいいよねっ!!」
「えへへへー……うん、ゆるしちゃいますっ!! だって陽花もお兄ちゃんだいすきだもんっ!!」
満面の笑みを浮かべて俺の身体にくっつく陽花……ああ、幸せだなぁ。
「ただいまーっ!! おうちついたよ、お兄ちゃんおやくそくのちゅーっ!!」
「ただいま……お外でおでこにしてあげたでしょ?」
「あれはお兄ちゃんがしたいからじはつてきにおこなったぶんでしょ? おわびぶんはこれからだよぉ」
「えぇ……別カウントですかぁ、そうですかぁ」
陽花特別ルールにより、俺は再度キスをしなければならないようだ……ルール改正が必要だと思います。
というか許してくれたんじゃなかったのだろうか……まあ約束は約束ということなのだろう多分。
「さあお兄ちゃん、陽花のどこにちゅーしてくれるのかなぁ?」
「……ほっぺたでいいよね?」
「そこは1てんなので100かいするひつようがありますっ!!」
「……百点取らないとだめですか、そうですかぁ」
部位により効果が変動するらしい……ほっぺたで1点とか厳しすぎないかこのゲーム。
「ちなみにおくちさんだといっかいで50てんなのでにかいですんでおとくですよっ!!」
「お口でも二回必要なんですね……陽花さん厳しいです」
「あのとくしゅなちゅーならいっかいで100てんですっ!! これはもうするしかありませんねっ!!」
「絶対にしません……じゃあ手の甲にしてあげよう……ちゅっ」
床に降ろした陽花の手を取って、高貴なお方にするように手の甲を持ち上げてキスしてあげた……これは何点だろう。
「えへへ、これいいねぇ……陽花おひめさまみたい」
「如何ですか陽花姫、これで満足でしょうか?」
「うん、0.1てんあげちゃうっ!! あと999かいでいいよぉっ!!」
「……小数点をご存じですか、そうですか陽花は天才だぁ~」
本当に誰が陽花に余計な知識を与えているのだろう……将来が楽しみなようで不安です。
「よーし、頑張ろう……ちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅちゅ……ふぅ……1000回は遠いなぁ」
「ぶっぶーっ!! いっかいいっかいちゅーにこころをこめないとかてんされませんっ!! いまのはむこうですっ!!」
「えぇ……具体的にはどうすればいいんですか?」
「いっかいに10びょうはかけてくださいっ!! じゃないとあいじょうがつたわりませんっ!!」
更なる陽花ルールが判明した……特殊裁定とか許されないと思います。
「ええと1000回×10秒だから最速で10000秒かかって60で割ると約167分……三時間近くかかりますねぇ」
「おくちさんだとおはやいですよっ!! とってもおとくなこーすですっ!! いまだけとくべつかかくで10ぱーせんとおふですっ!!」
「10%オフって……大損じゃないですかぁ、2回で済むところが3回になっちゃうでしょ?」
「陽花とさんかいもちゅーできるんだよ? おとくでしょ?」
いかにも当然でしょとばかりに笑顔を見せる陽花……もう完全に手玉に取られている。
(やっぱり一回ぐらい説教したほうが……けどせっかく許してもらえたのに意地悪するのも……って意地悪じゃねえよ俺ぇっ!?)
説教すら陽花の機嫌を損ねると思うと忌避感が湧いてくる……俺はもう駄目だ、一生陽花の言いなりかもしれない。
「と、とにかく他のところで頑張ります……首筋とかどうだ……ちゅっ……」
「あんっ……そこくすぐったいよ、げんてんさんっ!!」
「お、おう……マイナスになってしまったぁ、これ無理ゲーすぎませんかねぇ」
「すなおにおくちにちゅーすればすむのに……おうじょうぎわがわるいよお兄ちゃん」
陽花の気分次第で点数が変動する……これ下手したらお口にキスしても終わらないぞ。
「特別ボーナスステージをください……他にいい点が取れる方法を伝授してくだせぇ」
「ぶぅ……そんなに陽花のおくちにちゅーするのいやなの?」
「……本来お口さんのキスは兄妹でするものじゃないからね、他の場所ならまだなんとか」
「はぁ……そこをのりこえるのがあいじょうでしょ? お兄ちゃんも陽花をあいしてるならがんばってよね」
何だかんだで幼く純粋な陽花はそう言うが、どうしても兄として……余計な知識がある大人としては受け入れがたい。
(本当に大事だから……愛情があるからこそ駄目なんだよ)
俺は何とか頑張って別のところでちまちまと点を稼ぐのだった。
『陽花採点表……髪の毛0点、鼻頭0.2点、瞼−10点、あご0.001点、肩0.03点、二の腕0.04点、脇の下-100点、おへそ-5点、他不明なり』
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