陽花とごっこ遊び
「お兄ちゃん……陽花ね、きのうみたアニメごっこしてみたいのっ!!」
「あのねぇ、もうお休みする時間でしょ? それに真似しないって良い子の陽花ちゃんはお約束したよね?」
帰ってから全てやることを終えて、今まさに寝ようとベッドに入ったところでこれだ。
「でもしたくなっちゃったのぉ……お兄ちゃんつきあってほしいなぁ?」
可愛らしく小首をかしげて俺をまっすぐ見つめてくる陽花……無邪気そうに見えるがこういう時は必ず何か企んでいる。
「……変なことしないか?」
「お兄ちゃん、陽花がいままでいちどだってへんなことをしたことがありますか?」
「沢山あるー……ありすぎて数えきれないよぉ」
「それはけいさんミスだねぇ、すうしきがきっとまちがえてるんだよ……だから陽花をしんじていっしょにあそぼうよ」
俺の言葉を否定して強引に話を推し進めようとしている……単純な足し算を間違えるもんか。
「本当に変なことしないね? また騙してキスとかしたら流石に怒るよ」
「うんっ!! だましてちゅーなんか陽花ぜったいしないよっ!! いままでだってしたことないもんっ!!」
「そこまで堂々と主張するとは……将来は政治家かなぁ」
「しょうらいはお兄ちゃんのおよめさんっ!! それよりはやくあそぼーよーっ!!」
既に陽花の中では遊ぶのは決定事項のようだ……逆らったところで泣かれたらお終いだ。
(むしろ涙を見たら俺はキスしてでも泣き止ませようとしてしまう……うぅ、素直に従うしかないのかぁ)
一体俺の兄としての威厳は何処に行ってしまったのだろうか……完全に陽花の尻に敷かれている。
「わかったよぉ……それで何をすればいいんだい?」
「お兄ちゃんはつーこーにんのやくとやられやくといっぱんじんのやくとわるいてきさんのやくっ!! 陽花はせいぎのみかたっ!!」
「うわぁ……お兄ちゃん四つも役をこなせるかなぁ」
これはあれだ、安月給でこき使われる下っ端と高額で悠々と活動できる超大物の関係だ。
(そんなところまでリアルに再現しなくても……まあ偶然だろうけどさぁ)
「まずはやられやくがてきさんにやられるのをつーこーにんがもくげきして陽花にたすけをもとめるシーンからね」
「おおう、いきなりハードっ!? ど、どうしろとっ!?」
「はい、スタートぉっ!!」
「ふ、ふはははは貴様の命はここまでだぁ……ぐわぁ……た、大変だぁ誰か助けてくれぇ……」
一人三役をこなすのは大変だ……せめて声の緩急と高低で演じ分けるしかない。
「……お兄ちゃんってえんぎへただねぇ、けどきゅうだいてんあげちゃいますっ!!」
「や、優しいなぁ陽花は……それでどうすればいいんだ?」
「げんてんっ!! ものがたりちゅうはやくになりきるのっ!! よけいなはつげんはげんきんですっ!!」
「先に話しかけたのは陽花なのにぃ……た、誰か人が襲われてるぞぉ助けてくれぇ」
とりあえず最後の指示通り助けを求め続けよう……早く助けに来てくれ陽花。
「おまちなさいっ!! あなたのあくぎょうはこの陽花さまがゆるしませんっ!!」
「おお、陽花様が来てくださったっ!! 助けてください陽花様っ!!」
「てきやくが陽花のとうじょうをよろこんでどうするのっ!! そこはくやしがるところでしょっ!! だいほんどおりやってよっ!!」
どうやら陽花の心の中にある台本に従わないといけないようだ……ブラックとかいうレベルじゃねぇ。
「くぅぅ……またしても俺を苦しめるのか陽花めぇ……」
半分……いや四分の一……いや八分の一ぐらいは本気だ。
「陽花さまがいるかぎりあなたのわがままはゆるされないのだっ!! さあかくごをきめてていこうをやめ、すばらしい陽花さまのしもべになりますというのだっ!!」
「な、なんという信じられない我儘……本当に正義の味方ですか?」
「ええいわからずやめぇっ!! こうなったらせいぎのてっついをうけるがいいっ!!」
「主張が通らないと暴力……どう考えても陽花様に正義は無いと思いますぅ」
脇役のセリフなど主役様には届かないようだ、陽花様は手をぐるぐる回しながら俺に向かってきた。
(昨日のアニメの子はちゃんと説得から入ったのになぁ……うぅ、酷すぎる)
「う、うわぁ~これは敵わないぞー……撤退だぁ」
「だめぇ~にがしませんっ!! ここでとどめをさしますっ!! ほらたおれてっ!!」
逃げようとする相手を引き留めて止めを刺す正義の味方……正義ってなんだろう。
「くうぅ……やられたぁ……ぱたん……」
「せいぎはかならずかつっ!! だいじょうぶですかいっぱんてきなつうこうにんのやられやくなおかたっ!!」
(全部ごちゃまぜだ……ろくにシナリオを考えてないからそうなるんだぞ)
どうやら俺は敵にやられた男に変わったらしい……先が全く読めない。
「こちゅうとしんおんをかくにんします……ばいたるさいんがありませんっ!! きとくじょうたいですっ!!」
(急に医療系になったっ!? バイタルサインとかよく知ってるな)
「きんきゅうおぺをかいししますっ!! ますいちゅうにゅうっ!!」
「いっ!?」
「ますいちゅうははんのうしちゃだめっ!! もういっかいちゅうしゃしますっ!!」
「っ!?」
注射と称して皮膚を抓られる……全く麻酔が聞いてない、この人藪医者です。
だけどここで文句を言って機嫌を損ねたら今までの苦労が水の泡だ、頑張って反応しないよう頑張ろう。
「ますいがきいてきましたっ!! じゃあまずはじんこうこきゅうからっ!!」
(そ、そうきたかっ!! それが狙いだったのかっ!!)
「……ふはははぁっ!! 俺の死んだふりに引っかかったなぁ陽花めぇっ!!」
「なにしてるのお兄ちゃんっ!! あくやくはたいじされたのっ!! ちゃんとかんじゃのやくをやってよぉっ!!」
「ふっふっふ、実は死んだふりをして陽花の隙をさそっていたのだぁっ!! 覚悟しろぉっ!!」
しっかり抱きかかえて動けないよう固定してやる……オペを称して全身弄られてたまるかっ!!
「ええい、おうじょうぎわがわるいっ!! こうなったら陽花のひっさつわざ、めろめろちゅーでこんどこそハートをしとめてやるぅ」
「残念だがこの体勢からその必殺技は打てまいっ!! 陽花破れたりっ!!」
「ああん、お兄ちゃんずるいぃっ!! ちからぬいてよぉっ!!」
俺の腕の中でじたばたと暴れている陽花……凄まじいパワーだが絶対に離すものか。
「うぬぅ~はぁはぁ……お兄ちゃぁん、これじゃあおあそびにならないよぉ」
「じゃあ陽花の負けで終わりにしようね、ほら疲れたしおねんねできるでしょ?」
「ぶぅ……わかったからうでまくらさんしてよぉ」
「全く困ったもんだね、ほら腕まく……っ!?」
腕枕をしようと少し力を抜いたとこで陽花が素早く俺の顔に唇を押し当ててきた……余りの勢いに歯がぶつかってとても痛い。
「いったぁあいっ!! お兄ちゃんのいじわるぅっ!!」
「痛ぅ……陽花がぶつかってきたんでしょ、油断も隙も……よ、陽花唇から血が出てるっ!? け、怪我しちゃったのっ!?」
「えぇ……ふぇええっ!! お、お兄ちゃん陽花ちがでてきちゃったぁっ!! うぇえええん、いたいよぉっ!!」
血が出ていることを確認してしまったせいで怪我を深刻にとらえてしまい、陽花は泣き出してしまった。
「だ、大丈夫っ!? ああ、お口さん濯いで絆創膏……は貼れないから消毒して……ええとええとぉ……」
「お兄ちゃぁん……うぅ……陽花いたいのぉ……きずぐちさんなめてぇ……」
「えっ!? い、いやそれは……うぅ……な、舐めたらよくなるかな?」
「お兄ちゃぁん……陽花……いたいのぉ……うぅ……ふぇぇぇ……っ」
陽花が泣いている、苦しみを訴えている……一刻も早く癒してあげたい。
「わ、わかったよ……ちゅ、チューっ……」
切れている部分を中心に口をくっつけて、舌を伸ばして舐めてあげることにした……め、めちゃくちゃ変態的な気がする。
(き、気にしてる場合じゃないよなっ!! よ、陽花の血液の味がするぅ……お、美味しいとか考えるな俺)
「んんぅ……ちゅっ……んふふぅ……」
「んっ!?」
傷口を舐めるたびに陽花がぶるっと身体を震わせる、痛みを感じているのかと思った瞬間……陽花もまた舌を伸ばしてきた。
お互いの舌が触れると、陽花は途端に痛みなど忘れたように笑みを浮かべそのまま舐め合いに持ち込もうとしてきた。
咄嗟に離れようとした俺だが、すかさず陽花の両手が俺の頭を抑え込んでいた。
「んぅ……ちゅっ……ちゅる……んぅぅ……はぁ……え、えへへ~陽花やっぱりこのちゅーすきぃ」
陽花がとろんとしている、ひょっとしたら罠だったかもしれない。
だけど今の俺にとってディープキスを叱るより陽花の傷のほうが大事だ……世界一輝かしく美しく繊細なる芸術品のような珠玉の宝物に傷が残ったら一大事だっ!!
「き、傷は……大丈夫そうだね、痛みはない?」
「うん……お兄ちゃんとのうこうなちゅーしたら陽花もうなんでもへいき……もういっかいしたらかんぺきかも」
「うぅ……ふ、普通のキスだけだよ、陽花に万一でも傷が残ったら嫌だからね……ちゅっ……」
念のためもう一回傷跡に口づけし軽く舐めてやる、今度は陽花が舌を入れられないようにしっかりガードを固めた。
「んんぅ……ずるいよぉお兄ちゃん、陽花をうけいれてよぉ」
「ふぅ、今度こそ傷は塞がったかな……陽花もうあんなことしちゃだめだよ?」
完全に混乱して訳が分からないことをしてしまったが、傷が小さかったためか意外にも効果はあったようで出血は収まったようだ。
「やだぁ……もっとしたいのぉ」
陽花が身体を悶えさせながら舌を伸ばしながら俺に顔を近づけてくる……お間抜けな顔だがこれはこれで微笑ましい。
「ダメダメ、このキスは大人用ですぅ……陽花だって疲れちゃうだろ?」
「陽花ちょっとなれてきたみたい……もういっかいぐらいならできちゃうよぉ」
「慣れちゃ駄目なの……ほら今度こそ寝るよ」
俺は陽花を抱き上げると強引に横たえさせ、片手で身体を抑えながらもう片方の腕を枕替わりにしてやる。
「ぶぅ……いいもん、またあさおきたときれんしゅうしちゃうから」
「もう駄目だよ、さすがに怒るよお兄ちゃん」
「ふふん、お兄ちゃんは陽花にメロメロだからしかったりできないもん……しってるんだからぁ」
すさまじく調子に乗っている……流石に甘やかしすぎた。
「今度という今度は本当だからね、本当の本当に怒るんだからね……泣いたって叱るからね」
「ほんとうにできるのぉ? こんなにかわいい陽花をどなりつけたりできるのぉ?」
「……で、できるよ多分きっと恐らく理論上は」
「えへへ、お兄ちゃんやさしすぎぃ……あんまりこまらせたらわるいから陽花ふつうのちゅーでがまんするね」
普通のキスも別に許可しているわけではないのだが……こうなったら仕方がない。
「あ、ありがとう陽花……いい子いい子してあげようね」
「わーい……ちょっと陽花わがままだったかも……お兄ちゃんいつもありがとう……だいすきだよ……ちゅっ……」
頭を撫でるために押さえつけるのをやめた途端に陽花は俺の鼻の頭にキスをした……口じゃない辺り本当に少しだけだが反省したようだ。
「やれやれ、ほら目を閉じておねんねしなさい……ふぁぁぁ、お兄ちゃんのほうが眠くなってきちゃったよ」
昨日は徹夜だったのを思い出した、眠気がどんどん襲ってくる……だけど陽花が寝付くのを確認するまでは眠れない。
「いいよぉ、たまには陽花がねかしつけてあげちゃうね……いーこいーこ」
「だけど陽花も寝なきゃ……ふぁぁぁ」
欠伸が止まらない、陽花の優しい手つきに微睡んでしまう。
慈愛の笑みを浮かべて俺を撫でる陽花、頭を撫でて額を軽く擦り眉の間の皺を指で伸ばしてくれる。
(ああ、気持ちいい……こんな風に人に寝かせてもらったの幼稚園以来……いや初めてかもしれない……なぁ……)
「陽花……お兄ちゃん……眠いよ……」
「おやすみお兄ちゃん、いつもありがとう」
どうしても耐えられず、俺は陽花に甘えるように眠りに落ちるのだった。
【読者の皆様にお願いがあります】
この作品を読んでいただきありがとうございます。
少しでも面白かったり続きが読みたいと思った方。
ぜひともブックマークや評価をお願いいたします。
作者は単純なのでとても喜びます。
評価はこのページの下の【☆☆☆☆☆】をチェックすればできます。
よろしくお願いいたします。




