正道さんと矢部先輩とお昼ご飯
「ふぁぁ……眠すぎる……」
「大丈夫なの皆川様……足取りがふらついているけど?」
「ちょっと徹夜してなぁ、まあ今日は早めに寝るよ」
夜中に陽花がしっかり眠れているか不安で観察し続けたのだ……まあとても有意義な時間だったからいいのだが。
「そうしなさい……ところで今日はどこで食べる気なの?」
昼飯を食べる場所を探して俺と正道さんは移動を続けていた。
今日も戸手は元オカルト部の部室で食べているようだが、流石にあんな居心地も空気も悪い空間はもうごめんだった。
「実はちょっと矢部先輩と話すことがあるからあの人と合流して考えよう……どこかいいところ知ってるかもしれないし」
理想は人目につかず落ち着ついて食べれて……万が一正道さんが暴走しても周りと俺に被害が出なくて済む場所だ。
「正道君、葉月ちゃんこっちこっち~」
階段の上から矢部先輩が手を振っている……いい笑顔だ、非常に怪しい。
だけど逆らっても仕方がない、俺たちは素直についていくことにした。
「ほら、ここ屋上手前の踊り場~……誰も来なくて落ち着いて食べれるんだよ」
「まあ屋上が施錠されているから誰も来ないとは思いますが……良く知ってましたね」
「ふふふ……うぅ……どうせ私はボッチ飯のプロですよぉ」
自慢げに笑ったと思ったら一転して涙目になる矢部先輩……扱いづれぇ。
「あら? 矢部先輩は確かに女子の友人は少なそうですけど男子に人気でしたし……幾らでも食べる相手はいたんじゃないんですか?」
「……逆にそういう人たちと食べたくないから余計に孤立しちゃったのぉ、凹凸のないボディの葉月ちゃんにはわかんないのっ!!」
「うぐっ!! うぅ、身体的特徴を責めるのは卑怯ですよ矢部先輩……それに正道様は小さいほうが好みなのよっ!!」
「えぇっ!! そ、そうだったのっ!?」
勝手に決めつけないでほしい、俺はどちらかと言えば巨……何とも思ってない。
「た、確かに陽花お姉さまも小さいしぃ……で、でもだからこそ第二夫人には別の持ち味が求められてるんだよね?」
「……俺に同意を求めないでください、あとこの場で俺の妹の名前を出さないでください」
「よ、陽花……妖怪……妖怪女って言われたのよ私……ああ、よ、陽花ちゃ……違う妖怪……妖怪ぃ……」
「も、もの凄く耐えてる……一応頑張ってるんだねぇ」
正道さんも少しずつ耐性をつけてきている、この調子なら教室で食べれる日も近いかもしれない。
「時間も勿体ないし早く食べましょう……話したいこともありますし」
「はーい、今シート敷くからねー」
矢部先輩が出したピクニックシートの上で皆お弁当を広げて食べ始めた。
「矢部先輩は、サンドイッチ二切れだけですか……持つんですか?」
「も、持つもん……持たせないと駄目だもん」
「矢部先輩はダイエットなんか必要ないと思いますよ、それとも私と一緒に運動でもしますか?」
「い、いや違うの……ちょっと旅行資金を溜めようと思って……」
正道さんの言葉に矢部先輩が決意を秘めた眼差しを俺に向けてきた……ちょっと可愛い。
「改めてすみません矢部先輩、俺の妹の我儘に付き合っていただいて……正道さんにも礼を言っておきます」
「ごめんなさい、話が見えないわ……どういうこと?」
「実は先日の土曜日貰った抽選券で温泉ペア旅行券が当たったんですよ……だけど妹を一人で温泉に入れるのは怖くて……」
「あら、あれ当たったのねっ!? 凄いじゃないっ!!」
正道さんは自分のことのように喜んでくれた。
「それで陽……妹お姉さまの保護者として私が任命されたのですっ!! そのために旅行資金をためているわけです」
「いや本当に申し訳ない、頼んでおいて自腹を強要させてしまうなんて……無理しないでくださいね」
「ちょっと無理しないとたまらないし……けど、絶対行きたいから頑張るんだからねっ!!」
「……あのさぁ、こういうの二人とも嫌かもしれないけど……私が出すからみんなで行かない?」
正道さんが恐る恐るといった様子で口を開いた……流石に想像もしていなかった発言に俺も矢部先輩も驚いた。
「正直ありがたい提案だけど……やっぱり金銭関係についてはしっかりしたほうがいいと思う」
「う、うん……そりゃあ助かっちゃうけど流石に悪いよぉ、結構かかっちゃうし」
「本当にお金に関しては気にしないでほしいわ……こういうことに使えるなら私としても助かるのよ」
前もそんなことを言っていた……けれどもやはりまともな友人関係を続けるためにもお金に関してはきっちりしておきたい。
(……ああ、何だかんだで俺の中じゃ正道さんも……もう友人なのか)
会話の内容よりも自分の考えのほうに衝撃を感じた……だけど正道さんは違うように取ったようだ。
「あ、あの気を悪くしたらごめんなさい……別に同情とかじゃなくて、本当に私が皆と行きたくて提案しただけなの」
「いや正道さんの提案に思うところがあったわけじゃないので安心してください」
「そうなの、よかったぁ……でもじゃあ受け入れてくれないかしら? 私も幸人を連れて参加したいから……」
「ええと、じゃあ……俺が矢部先輩の分を借りて後で返済しますよ」
これなら誰も罪悪感を抱かずに行けるはず……一番ベストな判断だろう。
「駄目だよぉっ!! 私の旅費なんだから私が借りるよぉっ!!」
「だ、駄目よっ!! こんなことで貸し借りなんか作りたくないわっ!!」
なのに猛反発された……矢部先輩はともかく、正道さんは貸す側がいうセリフじゃない。
「なおさらですよ、貸し借りを作りたくないからこそしっかり返したいんですよ……そして矢部先輩は俺たちの付き添いなんだから俺が負うべき旅費ですっ!!」
「ちーがーいーまーすーっ!! 私が行きたくて着いていくんだから私が借りなきゃダメなんですぅっ!!」
「ほ、本当にこんなお金で貸したとか思われなくないのっ!! お願いだから私に招待させてっ!!」
本当に正道さんの理屈がおかしい……正気だというのにここまで変なことをいうとは不思議だった。
「もう、私だって葉月ちゃんとはちゃんとしたお友達になりたいのっ!! だからこそお金はしっかり返したいのっ!! 皆川君も同じ気持ちでしょっ!?」
「ま、まあ否定はしませんが……と、とにかくお金なんかで関係を拗らせたくないんです」
「……二人ともありがとうね、だけど本当に使い道に困ってるお金なのよ……母の医療ミスを隠ぺいした慰謝料に保険金、仕事の虫でただお金を送ることだけが義務だと思ってる父……お陰でお金だけはある……お金しかないのよ私」
正道さんは自嘲するようにつぶやいた……俺にはどこか他人事に感じられない、矢部先輩も似たような表情だ。
「幸人が居たからまだ耐えられた……だけどどうしても孤独感が消えなかったわ」
(俺も親父が単身赴任でずっと一人だった……矢部先輩も家族とはうまくいっていないらしいし……似た物同士よく集まったもんだなぁ)
「だから皆との思い出作りに使えるなら使いたい、使わせてほしいのよ……きっと天国の母も喜んでくれるわ」
「だ、だけどぉ……やっぱり……」
「矢部先輩……正道さんがここまで言ってくれてるんだからお言葉に甘えましょう」
ここまで心情を吐露してくれたのだ……その気持ちを汲んであげたい。
「ほ、本当っ!? 使ってくれるのっ!!」
「ただし、お返しはさせてもらいます……お金以外の形にはしますけど、それは受け取ってくださいよ」
「……そうだねぇ、じゃあ悪いけど今回はお言葉に甘えちゃおうかなぁ」
「ええ、もちろんよ……ふふ、楽しみだわぁ友達と旅行なんて初めて……」
正道さんの言葉は俺にとっても同様だった……家族旅行ですらしたことがない。
「ちっちっち、違いますーっ!! これはお出かけデートなんだよっ!! 皆川君と陽花ちゃんを中心にした四重デートだねっ!!」
「いやデートじゃないから、ただの温泉旅行だから……正道さんも何か言っ!?」
「よ、陽花ちゃん……温泉……お風呂……あ、あぁあああああっ!! 陽花ちゃぁあああああんっ!! 葉月が身体の隅々まで奥深くまでしっかりしっとりじっくりと洗ってあげるからねぇええっ!! 今すぐげぇっ!?」
早まったかもしれない……というか陽花とこいつを一緒にお風呂に入れるとか危険すぎないか?
「やっぱり辞めていいか?」
「ご、ごめんなさい皆川様っ!! 旅行までにもう少し耐性を上げておきますからぁっ!!」
「あ、あはは……私も少し身体を鍛えておくよぉ」
楽しみのはずな温泉旅行が、今から不安で仕方がなかった。
だけどまあ決まってしまった以上は仕方がない……初めての旅行を思いっきり楽しもうと思った。
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