陽花とアニメ
「ただいまーっ!! お兄ちゃん、さっそくアニメみようよっ!!」
「その前に手洗いうがい……その後はお昼ご飯のお時間だよ、今作るからちょっと待っててね」
「陽花おなかすいてないよー? さきにあにめみちゃおうよ?」
「だから言ったでしょ、やっぱりアイスクリームは余計だったね」
陽花を抱きかかえたまま帰宅した俺は洗面所で手洗いうがいを済ませてしまう。
「ほら陽花もお手て洗って、がらがらぺーしなさい」
「はーい……がらがらぺっ、お兄ちゃん陽花ほんとうにおなかへってないのぉ」
「ちゃんとお昼は食べなきゃだめだよ……量は減らすからね」
「うん、がんばるー」
(どうするかな……ああ、冷凍食品の使いかけをかき集めてお子様ランチでも作るか)
弁当などで使い切れなかった冷凍食品の余りを複数種類解凍してお皿に盛りつける。
デザートがあれば完璧だったが、先にアイスクリームを食べているのだからなくても問題ないだろう。
「陽花ー、この小さい紙にちょっと何か絵を描いてくれないか?」
「うん、いいよー……お兄ちゃんだいすきハートマークっ!!」
「陽花のご飯なんだけどなぁ……これを爪楊枝の後ろにくっつけて、よーし完成だっ!!」
「おおーっ!! お兄ちゃんすごーいっ!! れいとうしょくひんばっかりとはおもえないよっ!!」
レンジで温めるところを見られていたが喜んでもらえたようだ。
元々残り少ない量だったのを、さらに俺用に切り分けて一口サイズにしたオカズばかりだ。
これなら陽花でも食べきれるだろう……代わりに俺はちょっと物足りないが、陽花の笑顔で胸がいっぱいだから何とかなるだろう。
「お兄ちゃん、おこさまランチならスプーンでたべたいっ!!」
「よくわからないこだわりだなぁ……まあたまにはいいだろう」
陽花用の小さいスプーンを渡してあげるとしっかり握りしめてご飯を食べ始めた。
(食べさせてあげたかった……い、いや俺しっかりしろっ!!)
もう当たり前のように陽花へ食べさせようとしていた……本格的に思考が汚染されてきている気がする。
気持ちを切り替えようと陽花が食べる姿を観察する……大きくお口を開いてオカズをパクリしている。
「んーっ!! お兄ちゃんおいしいよーっ!! だけどデザートさんがないねぇ?」
「アイスクリーム食べたでしょ……ほら食べ終わったらごちそう様しようね」
一口サイズの物ばかりだからあっさりと食べ終えてしまう……お兄ちゃんのお腹の虫は不平不満を上げていますがお兄ちゃんだから平気です。
「あまいデザートさんをようきゅうしますっ!! おこさまらんちなんだからデザートをたべないとごちそうさまできませんっ!!」
「もぅ我儘さんだなぁ……何かあったかなぁ?」
身体によくないと思うがついつい探しに行こうとしてしまう。
「はーいっ!! しょくごのちゅーがいいでーすっ!! お兄ちゃんちゅーっ!!」
「キスはデザートに入りません……馬鹿なこと言ってないで御馳走様して歯を磨いてアニメ見ちゃおうね」
「ばかなことじゃないも~ん……陽花にとってお兄ちゃんとのちゅーはいちばんだいじなことだもん」
陽花が俺にくっついて離れようとしない……目を閉じて唇を突き出してくる。
「流石にそれは駄目だって言ってるでしょ? いい加減にしなさい」
「ぶぅ……あ、そうださっきのおでかけのときばつでちゅーしてくれるっていってたよねっ!? そのけんりをこうししますっ!!」
「権利の行使って……い、いやそんな約束はしてないと思うが……」
あくまで外でするよりはマシだとは言ったが本当にキスをするとは言っていなかったはずだ。
だけど陽花の中ではもうするのが決定事項のようだった。
このまま放っておいてご機嫌を損ねても面倒だ……いや、これは建前だな。
(少しでも早く陽花の笑顔を見たいだけ……ただの俺のエゴだ)
思わずキスしかけていた俺自身を制する……どんどん抵抗がなくなっていたが本来兄妹でキスなどすべきではない。
「陽花、キス以外なら何でもしてあげるから他のことにしてくれないかな?」
「えーっ!! 陽花ちゅーがいいっ!! お兄ちゃんとちゅーしたいのっ!!」
「駄目だってば……じゃあ代わりに今日も一緒に寝てあげるからね」
「いっしょにおねんねするのはあたりまえでしょっ!! それじゃあばつにならないもんっ!!」
確かに最近は一緒に寝るのも当たり前になってしまっていた……陽花が喜ぶものだから我慢できなかったのだ。
「本当は一緒に寝るのもおかしいんだよ、一人で眠る練習だってしとかないと将来……」
「ずっといっしょなのっ!! 陽花はお兄ちゃんとずっといっしょっ!! これからさきもまいにちいっしょにねるもんっ!!」
「……そうはいかないんだよ、ずっと一緒になんかいられないんだよ」
いつもならとっくに俺が折れているところだ……だけど何故か言い返してしまった。
「いるもんっ!! 陽花ずっとお兄ちゃんといっしょにいるもんっ!!」
感情的になって泣きそうな顔でぎゅっと俺の身体にしがみつく陽花……健気な姿に胸が痛む。
(ああ、もうだめだ限界だ……こんな顔見ていられない)
「わかったよ、変なこと言ってごめんね……ほらキスしてあげるから泣き止んで……ちゅっ……」
おでことほっぺたにキスしてあげる……どうしようもなく、甘い。
「うぅ……お口さん……お口さんじゃなきゃ……だめ……ゆるしてあげない……ぐす……」
「……はぁ、今回だけだからね……泣き止んでね……ちゅっ……」
何度目になるかわからない今回だけという言葉を免罪符に、俺は陽花の柔らかい唇に口を重ねた。
「んぅ……んんっ……ぷはぁ……お兄ちゃぁん……もう一回ぃ……」
「もう終わり、ほら泣き止んで……」
「うぅ……陽花……そんなやすいおんなじゃないもん……もういっかいしてくんなきゃ……ないちゃうもん……」
「涙を武器にしないの……全く末恐ろしい……本当にこれで終わりだからね……ちゅっ……」
陽花への口づけ、妹にキス……自己嫌悪こそあれど行為自体に嫌悪感を欠片も抱けない俺はどうしようもない奴だと思う。
「え、えへへ……にかいもちゅーされちゃったぁ……陽花しあわせぇ~」
それどころか……本当に嬉しそうにしている陽花を見るともっとしてやりたくなってしまう。
(重症だ……陽花中毒、どうしようもないシスコンだ)
「ほ、ほら今度こそお終い……歯磨きしてアニメ見ようね」
「はーい……だけどお兄ちゃん、もうさっきみたいなこといわないでね」
陽花は俺の胸に顔をうずめて僅かに残った涙を拭き取った。
「陽花ね、ほんとうにお兄ちゃんとはなれたくないの……かんがえたくもないの……だからあんなこといわれたらかなしくなっちゃうの」
「そっか……ごめんな陽花、わかったよ」
「うん……お兄ちゃんだいすきー」
陽花を優しく抱きしめて頭を撫でてやる……俺の中で幾らやっても許される線引きの行為だ。
せめてこれぐらいはいつまでも……陽花が嫌だと言うまではしてあげようと思う。
そのまま二人で並んで歯を磨き、俺たちは居間のテレビで陽花が借りたアニメを鑑賞することにした。
「あっ!! はじまったよお兄ちゃんっ!!」
テレビに主役の少女たちが映し出される……は、肌が露出し過ぎじゃないかっ!?
(あ、アニメとはいえ女児が見るんだから……もっとこう頭からつま先まで防護服を着てたほうがいいと思うのだが……)
「かわいいかっこうしてるぅ……お兄ちゃん、ほらああいうかっこうがしゅりゅうなんだよ?」
「アニメですぅっ!! これはフィクションですぅっ!! 実在の人物が真似をしてはいけませんっ!!」
「お兄ちゃん……まあ陽花はお兄ちゃんがよろこんでくれればどんなかっこうでもいいけどぉ……」
別に俺の好みというわけではないのだが……やっぱり俺が過保護なのかなぁ。
「変身したよーっ!! すっごい綺麗なドレスっ!!」
「最近の変身シーンは上に着る感じなのか、健全でいいわぁ……け、けどスカート翻り過ぎでは……?」
「あっ!! すごい、いまのかっこいいねっ!!」
「へぇ、女児向けなのに結構アクションシーン頑張ってるなぁ……だ、だけどスカートで蹴りは駄目でしょっ!?」
意外に面白い、学生である俺が見ても中々楽しめる派手な内容だった。
ただ陽花が真似をして怪我をしてしまわないかだけが心配だった。
「あ、ああっ!! がんばれーっ!!」
テレビに向かって応援する陽花……身体もノリノリで動いている。
ぴょんぴょん飛び跳ねたりしていて可愛いのだが、転んでしまわないか不安だ。
俺はアニメより陽花の姿を中心に眺め続けるのだった。
「ふぅ、おわったぁ……たのしかったねぇお兄ちゃん」
「そうだねぇ、悪くはなかったけど……良い子の陽花は真似しないでね?」
「しないよぉ……ふあぁ、なんかおねむになっちゃったぁ」
「あれだけ激しく応援すれば疲れるよなぁ……だけどお昼寝はなぁ」
確か幼稚園ではお昼寝はしていないはずだ……こういう時どうしているのだろうか?
「お兄ちゃん、おふとんいこうよぉ……いっしょにおねんねしよ?」
「うーん、だけど今寝たら夜眠れなくなっちゃうよ?」
「お兄ちゃんがうでまくらしてくれればきっとねむれるよぉ……ふあぁぁ……ほんとうにねむいのぉ……」
大きい欠伸をする陽花、眠そうな瞳と合わせてマスコットみたいだ……頭がくらくらしている、抱きしめたい愛おしさだ。
実際に抱きしめてしまう、陽花は俺の体温が気持ちいいのかそのまま目を閉じてしまった。
「お兄ちゃん……陽花……スー……」
「おーい、寝たら夜が大変だぞー」
起こすべきなのだろうがどうしても陽花に大声をかけることができない。
軽く揺さぶったりしてみるとされた瞬間は目を開けるが、またこくんと俺にもたれかかって目を閉じてしまう。
(か、可愛ぃいいいっ!! じゃ、じゃなくてどうしようか?)
正直なところ寝顔が魅力的でもう起こす気なんかなくて、気が付いたらベッドに運び込んでいた。
「クー……スピ―……お兄ちゃぁん……スー……」
陽花は寝言でいつだって俺のことを呼んでいる……本当に夢の中ですら一緒に居たいと主張しているようだ。
(あんなことわざわざ言わなくてもよかったのになぁ……また泣かせちゃうところだったな)
「ごめんな陽花」
「クー……クスッ……スー……」
俺は陽花の頭を撫でてやる……眠ったまま気持ちよさそうに笑っている。
本当に陽花はずっと俺と一緒に居るつもりなのだろうか……いや今は本気だとしてその気持ちはいつまで続くのだろう。
どちらにしても俺は陽花が離れるまでは傍にいるつもりだ……なのに何故こうまでして離れなければいけないことを強調してしまうのか。
(今言っても陽花を悲しませるだけ……成長するまでこのつかず離れずの距離を保っていればいいじゃないか)
キスを迫ってくることは確かに問題だ……だが致命的な間違いとまでは言えないはずだ。
実際に正道さんも……正気だった正道さんも幸人君のおでこなどにはキスをしていたし、それを見て俺も異常だとは感じなかった。
だから子供のお遊びに付き合うぐらいのつもりでいればいいのだ……伊代音さんもそういっていたではないか。
だけど俺はどうしても言わないと気が済まない……まるで自分に言い聞かせているみたいだ。
(そりゃあ陽花のスキンシップは強くなる一方だけど……子供らしい範囲で収まっているじゃないか)
幼い陽花にはそれ以上の知識があるわけがなくて、知識が身に着くころには自然と兄離れするだろう……いや、知識が身につくことで兄離れすることになるのかもしれない。
とにかく今は深刻に考える必要はないはずなのだ、キスだって交際モドキの範疇なのだから。
それでも駄目だと言ってしまうのは……陽花を悲しませてまで口にしてしまう理由は何なのだろう。
(本気になってしまいそうだから……ではないと思いたい)
頭を振って思考を切り替える……最近こんなことばかり考えて落ち込んで陽花を不安にさせている気もする。
しっかりしないといけない、陽花の兄として……想い人として。
(はぁ、一応家事終わらせて晩御飯でも作って……陽花が寝坊してもいいようにアラームのセットと簡単に取れる朝食の献立を考えて……)
お昼寝してしまった陽花が明日の生活に差し支えないよう、俺は今の自分に出来ることを行うのだった。
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