陽花とお散歩
「わーい、おさんぽおさんぽーっ!!」
「お散歩なんだから歩いてほしいんだけどねぇ」
「えーっ!! 陽花をだっこできてお兄ちゃんうれしくないのぉ?」
「俺は陽花の歩く姿が見たいよ……」
この間買ったばっかりの格好に着替えた陽花を抱きかかえて家の周りを散歩して回る。
(ああ、陽花ったら本当に可愛いなぁ……美少女コンテストとかあったらぶっちぎりで一位とれるんじゃないかなぁ)
最もそんな大会があっても出場などさせない……変な奴に変な目で見られたらたまらないからな。
だから今も口ではこう言っているが本当は歩かせる気は余りない。
陽花の可愛さにメロメロになった人が攫わないとも限らないからだ。
「お兄ちゃん、あっちにこうえんあったよねぇ……いこーよぉっ!!」
「行ってもいいけど遊具は危ないからダメだよ」
「えぇー陽花ブランコさんだいすきなんだよぉっ!!」
「お兄ちゃんのお膝の上なら許します、一人で乗るのは駄目ーっ!!」
話している間に近所にある公園へとたどり着いていた……日曜日だけあって他にも子連れの人が多い。
(……よしっ!! うちの陽花が一番可愛いっ!! 勝ったなっ!!)
「お兄ちゃんおかおがゆるんでるよぉ……よそのこどもをみてそんなかおしてたらつうほうされちゃうよぉ?」
「い、いや陽花が……じゃなくて、とにかくブランコでも乗るか?」
「のるけど……陽花がどうしたの?」
「さあねぇ……よーしブランコさんだー」
膝の上に陽花を座らせて、俺の両腕を鎖の外側から回し込んで陽花が絶対に落ちないように確保する。
「よーし、漕いでいくぞー」
地面を蹴り上げて軽く勢いをつけ、膝を折り曲げ伸ばした反動でどんどんと加速していく。
「うわーいっ!! はやーいっ!! たかーいっ!!」
「陽花、怖くないか?」
「だいじょうぶだよーっ!! だってお兄ちゃんといっしょだもんっ!!」
「そっかー、なら続けてあげよう」
風が気持ちいい、陽花の身体から漂う香りが心地よい。
何より目の前で無邪気に喜ぶ陽花が眩しい。
(幸せだなぁ)
何も考えずずっとこうしていたい……最近陽花と一緒にいるとこんなことを考えてばかりだ。
「お兄ちゃん、つぎはおすなばいこうよっ!!」
ようやく満足した陽花は俺の腕の中から砂場を指し示した。
「陽花の麗しいお手手が汚れちゃうからダメー、あっちの滑り台……も落ちたら危ないなぁ」
「ぶぅ……それじゃあじゃんぐるじむもうんていものぼりぼうもだめになっちゃうよぉ」
「勿論駄目だよ、危ない危ない」
(うーん、こうしてみると危険がいっぱいだ……公園は陽花一人じゃ立ち入り禁止にしよう)
一つ一つ確認して回るが、どれも陽花を遊ばせるには危険な代物に思われた。
「お兄ちゃん……さいきんちょっとおかしいよぉ、かほごすぎるよぉ」
「ぐっ!? ふ、普通じゃないか……過保護というより当たり前の判断だと思うんだけど……」
「めのまえをみてよぉ、ふつうはみんなみたいにあそぶんだよ? 陽花たちがしょうすうはなんだよ?」
一体どこで少数派などという言葉を覚えてきたのか……しかしどうしようもなく正論だ。
「うぅ……そうだけど、お兄ちゃんは過保護と言われても陽花の身の安全が一番大事なんですぅ」
「はぁ、もうまったくお兄ちゃんは陽花にめろめろすぎるよ? しっかりしないとこれからもっと陽花かわいくなってお兄ちゃんちょくしできなくなったちゃうよ?」
「これ以上可愛くなるのかなぁ……今の時点で世界一可愛いのに……想像できないなぁ」
「ひ、ひとまえでそこまでいわれちゃうと陽花でもはずかしいよぉ……けど陽花せかいいちかわいいんだぁ、えへへ……」
何だかんだで嬉しそうに笑っている陽花、やっぱり俺に褒められると喜びを抑えられないようだ。
「そんな俺にとっての宝物を傷つけるわけにはいきません……違うところ行こうな?」
「も、もうそんなおほめのおことばじゃごまかされないんだからぁ……だけどお兄ちゃんがべつのところいきたいなら陽花つきあっちゃうっ!!」
「ありがとう陽花……じゃあまた適当に散歩して歩こうか?」
「はーいっ!!」
俺は陽花を抱きかかえたまま公園を後にした。
日差しの照り付ける心地よい陽気の中を二人で歩く……穏やかで平穏な時間が過ぎる。
とても幸せなのに時間がどんどん過ぎて行って、他に何かしたほうがいいんじゃないかなんて考えがよぎる。
(陽花と二人でいられる大事な時間……一分一秒をじっくり味わいたいのに……無駄にしたくないとも思っちゃうんだよなぁ)
「ふ~んふ~んふふんふっふ~ふん」
陽花がご機嫌な様子で鼻歌を歌っている、また結婚式の曲だ。
「陽花はその曲が大好きだねぇ……前にも聞いた気がするよ」
「えーっ!! お兄ちゃんったらぁ……やっぱり陽花のおふろをぬすみぎきしてたんだぁ」
指摘されて思い出した、確かに前に聞いたのは陽花がお風呂に入っているときだった。
「うぅっ!? ご、ごめんなさい……どうしても陽花が溺れないか心配で……」
「うそつきさんはいけないんだよぉ……ばつとしてかえったらちゅーしよーね?」
「そ、それはぁ……うぅ……今すぐじゃないからまだマシかなぁ……」
「お兄ちゃんははずかしがりやさんだからね、陽花だってはいりょしてあげちゃうんだから」
俺の腕の中で偉そうに胸を張る陽花……生意気な姿も魅力的にしか映らない。
(本当は普通のキスでも拒まなきゃダメなんだろうけど……逆らったら不機嫌になるからなぁ)
「ありがとうねぇ、お兄ちゃん嬉しくて涙が出てくるよぉ……うぅ……」
「そんなえんぎしちゃってぇ……すなおにうれしいです陽花さま、ぼくとけっこんしてくださいっていえないのぉ?」
「陽花ぁ……お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだからそんなこと言わないぞぉ」
こればっかりは本心だ……そうでなければいけない。
「ぶぅ……いいもん、もっともっとゆうわくしてぜったい陽花のとりこにしちゃうんだから」
「もう十分虜だよ……」
(もう最大値だから……これ以上は無いんだよ……)
陽花の頭を優しく撫でて身体を抱きしめる……俺にはこれが限界だ。
「えへへ……お兄ちゃんだいすきーっ!!」
嬉しそうに笑う陽花……本当にこの無邪気な笑顔をずっと見ていたいものだ。
(ああ、そうか……時間が限られてるから俺は、少しでもたくさんこの笑顔を見たくて……甘やかしちゃうのか……)
「お兄ちゃんも陽花が大好きだよ……可愛い陽花……」
もしも将来、陽花が思春期を迎え兄離れし……彼氏を作っても俺はこの笑顔だけは見ていたい。
(俺に向けて……なんてことは言わないから……誰かに向けた笑顔でもいいから……見ていたいなぁ)
そのためにもやっぱり陽花は幸せにしてあげなきゃいけない……笑顔を曇らせるようなことだけはしたくない。
俺は兄として一線をしっかり引いて守ってやらなければとはっきりと決意した。
「お兄ちゃん? どうかしたの?」
「どうもしてないよ、それより陽花は他に行きたいところはないか?」
「お兄ちゃんといっしょならどこでもいーのっ!!」
「そっかぁ……じゃあこのまま適当に散歩続けような」
俺は陽花をしっかりと抱きかかえたまま、近所の散歩を続けた。
「あーっ!! わんわんだよお兄ちゃんっ!!」
「あれは吠えるので有名なワンちゃんだから近づかないようにね」
「おーっ!! にゃんにゃんだよっ!! お兄ちゃんにゃぁおんっ!!」
「陽花、それ可愛すぎ……他所でしちゃいけませんよっ!!」
他愛もない光景に喜ぶ陽花、その姿を見て俺もまた喜びを隠せない。
「あーっ!! お兄ちゃんやたいだーっ!! あいすくりぃむうってるよぉっ!!」
「何でこんな時期にこんな場所で?」
「たべたいたべたいたべたーいっ!!」
「もうすぐお昼ご飯だよ、食べれなくなっちゃうでしょ?」
腕の中でじたばた暴れてわがままを言う陽花……落ちないよう支えるのが大変だ。
仕方ないから買ってあげた……俺は本当にどんどん陽花に弱くなる。
「ありがとーっ!! お兄ちゃんだいすきーっ!! つべたくてあまいよーっ!! お兄ちゃんも一口どうぞ」
「全体を舐めまわした後で……陽花はわざとやってるのかなぁ……あむ」
「おいしーでしょ? やっぱりかってせいかいだったねぇ……ぺろぺろ……」
「確かに美味しいけど……陽花さん、どうして俺が齧ったところばっかり舐めてるのかなぁ?」
間接キス……ぐらいのつもりなのだろうか?
陽花が顔をべとべとに汚しながらアイスクリームを完食した。
「あーおなかいっぱいっ!! 陽花まんぞくだよぉ」
「あーあ、お昼ご飯食べれなくてもしらないぞー……ほらお顔拭いてあげるからこっち向いて……」
「やぁん……お兄ちゃんがなめとってよぉ……」
「だからどこでそんなこと覚えてくるの……よし、キレイキレイなったよ」
拭き取ったティッシュを捨てる……場所がないので仕方なく新しいティッシュにくるんでポケットにしまった。
「うぅ……お兄ちゃんの意気地なしぃ……あっ!! はとさんいっぱいっ!! お兄ちゃんとつげきーっ!!」
「そんな意地悪な真似しないの……ってこっち寄ってきたっ!? 餌なんか持ってないよっ!! しっしっ!!」
「すっごいはばたいてるーっ!! えいがのワンシーンみたいだねぇ」
「確かになんか見たことあるような……そうだ、陽花何か映画とかアニメでも借りてきて見ようか?」
近所にゲーム屋を兼任したレンタルショップがあったはずだ。
「うん、みるーっ!! せかいいちうつくしいいもうとにさえないお兄ちゃんがこくはくするやつーっ!!」
「ほほう……正道さんみたいな生き物がたくさん出てきて襲い掛かってくるやつにしてやるっ!!」
「だ、だめぇっ!! そんなほんかくてきなホラーはいけないんだよっ!! 陽花がおもらししちゃったらどうするのっ!!」
「何言ってるんだ、実物を見てるんだからもう怖くなんかないだろ?」
休日ということでそれなりに盛況しているお店へ入り、棚を見て回る。
「こわいものはこわいのぉ……あっちのアニメのコーナーいこうよぉ」
「はいはい……幼児向けはこの辺かなぁ」
「お兄ちゃんあれなんかかわいいよっ!! あれにしようっ!!」
陽花が指し示したのはヒラヒラのドレスを着た女の子が悪い奴と戦うアニメだった。
(ちょっと破廉恥じゃないかこれ……でも女児向けだし多分変なシーンは無いよな)
「わかったよ、じゃあ陽花はこれな……折角だし俺も何か借りてくか」
陽花がアニメを借りたので俺は普通の映画にしようとその場を離れた。
(多分陽花も見たがるだろうし、ホラーは×だし妙な色気シーンがありそうなものも×……む、難しいなぁ)
特撮物、アクション、SF、コメディ……どれも中々ピンとこない。
「お兄ちゃん、あののれんのむこうがわにはなにがあるの?」
「暖簾って……あそこはお子様は立ち入り禁止なのです、陽花にも俺にも早すぎる作品しかありません」
「ええーっ!? 陽花もうせいしんてきせいじゅくをむかえたおとなだからだいじょうぶだよっ!! いってみようよっ!!」
「絶対っ!! ぜぇったい駄目ですぅっ!! あんなところ陽花には一生縁のない世界ですぅっ!!」
俺は陽花が余計なものを視界に収めないようにその場を離れることにした。
「みたいみたいっ!! 陽花おとなだもんっ!! なにがあるのかぐらいみてもいいでしょっ!!」
「駄目なのっ!! 絶対にダメなのっ!!」
「いいもん、すきまからなかをのぞいて……っ!? ほらとでのおにいちゃんだっているじゃんっ!!」
「陽花ったら言っていいことと悪いことが……っ!? と、戸手っ!?」
暖簾の隙間から見慣れた姿が見えて思わず叫んでしまった……中から気まずそうに戸手が姿を現した。
「まさかこんなところで出会うなんてね……久しぶりだね陽花ちゃん」
「とでおにいちゃんっ!! 陽花のお兄ちゃんがここにはいっちゃだめだってうそついたのっ!!」
「す、すまん……邪魔したか?」
「ああ、誤解させちゃったかな……あと陽花ちゃんこのコーナーは本当に危ないんだよ?」
戸手が陽花に顔を寄せると、あえて不気味そうな声を出す。
「ここにはぁ~呪われたDVDがぁ~隠されてるというぅ~噂があるんだぁ~」
「の、のろいなんて陽花しんじな……」
「ひゃぁああああっ!! 戸手戸手戸手戸手ぇええええっ!!」
「やぁああんっ!! お兄ちゃんひめいがきこえたよぉっ!!」
聞き覚えのある声と共に暖簾の下から顔を真っ赤にした人見先輩が飛び出し、戸手の背中へ強引にへばりついた。
「重いから離れろクソガキっ!! てめえがダウジングとかで勝手に突っ込んだんだろうがっ!!」
「うぅううるさいうるさいうるさぁあああいいっ!! あ、あんなあんなあんなあんなコーナー潰しちゃえばいいんだぁっ!! こんなお店火をつけてやるぅううっ!!」
「ふざけんなっ!! 犯罪予告してんじゃねえよっ!! あはは、というわけだから陽花ちゃんもここには近づかないほうがいいよ」
戸手の言葉にこくこくと涙目で首を何度も縦に振る陽花……結果オーライだ。
「お兄ちゃんはやくにげよぉっ!! もう陽花このおみせちかづきたくないぃいっ!!」
「大げさだよ……大体呪いのDVDってなんなんだよ?」
「さぁ? この馬鹿が勝手に言い出しただけだからねぇ」
「ば、馬鹿って言うなぁああっ!! 馬鹿っていうほうが馬鹿なんだばぁあああかあぁあっ!!」
戸手の背中に両手で張り付きながら両足で戸手を蹴りつける人見先輩。
「痛ってぇっ!! お前が馬鹿じゃなきゃ誰が馬鹿なんだよっ!! 小学生かお前はっ!! というか小学校からやり直せっ!!」
「黙れ黙れ黙れ黙れぇえっ!! そ、そっちのお前も見てるなぁああっ!! あっちいけぇええっ!!」
戸手を強引に揺さぶり棚へ近づかせた人見先輩は、中身の入っていないパッケージを投げつけてきた。
「ちょ、ちょっと待ておいっ!? 仮にも商品を投げるのは不味いですってっ!?」
「うわぁ……陽花のようちえんにもこんなわがままなこいないよぉ、なんさいなのこのこ?」
陽花がドン引きしている……まあ確かに行動だけ見れば陽花より遥かに幼い。
「聞いたかよクソガキっ!! お前幼稚園児以下だとよぉっ!! みっともないでちゅねぇーっ!!」
「あぁあああああっ!! お前お前お前ぇえええっ!!」
俺が抱きかかえる陽花に向けてDVDのパッケージを投げつけてきた。
何とかガードして人見先輩を睨みつける。
「人見先輩……陽花に暴力振るうなら許さねえぞ」
「ひぅううっ!! 戸手戸手戸手戸手ぇっ!! あいつやっつけろぉおっ!!」
「いい加減にしろよお前っ!! ごめんね、皆川も陽花ちゃんも……今度お詫びするから今日はこの辺にしてくれないかな?」
「ああ……本当に何かあったら相談してくれよ戸手」
申し訳なさそうに俺たちに頭を下げながら人見先輩を拘束しつつ、辺りに散らばったDVDのパッケージを片付け始める戸手。
これ以上この場にとどまって戸手に迷惑をかけるのも悪いので立ち去ることにした。
「またね皆川……陽花ちゃんもまた会おうね」
「ばーかばーかばーかぁああっ!! あーほあーほあーほぉおおおっ!!」
「……お兄ちゃん、よのなかっていろんなひとがいるんだねぇ陽花せけんしらずだったよぉ」
「俺もまだまだ知らないことばっかりだよ……世の中広いなぁ」
妙に疲れてしまった……俺は適当な映画を手に取るとさっさと清算を済ませてお店を後にするのだった。
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