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陽花のお遊び

「せんせー、さよーならー……お兄ちゃん帰ろーっ!!」


「せんせい、さようならです……ごめんなさいやべおねえさん、おせわをおかけします」


 二人の子供が俺たちの元にやってくる……トテトテと歩く姿だけで癒される。


「じゃあ矢部先輩、俺が言うことでもないけど幸人君をお願いしますね」


「はーい、任せておいて……幸人君、お姉さんは私の部屋で待機してるからね」


「わかりました、それじゃあようかちゃんにおにいさん……またね」


「ゆきとくんばいばーいっ!! またあしたねーっ!!」


 自転車に陽花を載せている間に幸人君は矢部先輩に手を引かれて去って行ってしまった。


 もう少し粘着されるかとも思ったが、やはり正道さんを家の中に置いておくことに抵抗があるのだろう。


「陽花、明日は土曜日で幼稚園もお休みだぞ」


「ああ、そうだったぁ……あしたはお兄ちゃんとおデートだったねぇ」


「うーん、もう自転車通園は終わりだから防具一式は必要ないんだけどなぁ……」


「あれぇ? 陽花のあたらしいおようふくをかいにいくんでしょ?」


 既に陽花の中ではお洋服を買いに行くことになっていたようだ。


(正直、この年だとすぐに成長するから服を買ってもすぐ着れなくなっちゃいそうだけど……まあたまにはいいかぁ)


「そうだねぇ、じゃあ明日はお洋服を買いに行くとしますか」


「わーいっ!! おデートおデートっ!!」


「ただのお買い物です……おっと、陽花ここだけちょっと静かにしようね」


「ええ、きゅうにどうし……ここがやべおねえちゃんのいえなんだねぇ、まどにあのばけものがはりついてるよぉ」


 正道さんが二階の窓に内側から顔を押し付けて潰れたお饅頭のようになりながらこっちを見つめ、舌を出して窓を舐めまわしている……紛うことなき化け物の姿だ。


(あの窓ガラス、ワイヤーで補強されてる上に窓枠には鉄格子が入ってる……なんであんな部屋があるんだろう?)


「あのおへやならばけものもにげだせないよねぇ……お兄ちゃん、わがやにもひつようだとおもいますっ!!」


「おいおい、別に正道さんを家に招待しなければいいだけだろ……他に利用できるわけもないしなぁ」


「でもあそこにお兄ちゃんを……ううん、なんでもないけどとにかくつくっておくにこしたことはないとおもうの」


(今なんか……い、いや聞き間違いに決まってるよな、俺の天使が監禁とか思いつくはずないし)

 

「必要ありません、それにあの家は親父の家だから勝手に改造するわけにはいきません」


「ぶぅ……じゃあお兄ちゃんが陽花といっしょにくらすためにつくったおうちにはつくろうね?」


「……絶対に作りません」


 自分で発言しておいてどういうつもりで呟いた言葉なのか分からないでいた……監禁部屋のことか、それとも陽花とのお家のことか。


(俺たちは兄妹でいずれ陽花は兄離れする、だから家を作ったところで……入り浸りそうだなぁこの調子だと)


 少なくとも彼氏ができるまでは俺のそばを離れそうにない。


(本当にそうか? もっと早く、思春期にもなれば陽花は俺から離れていくんじゃないか? いやそうじゃなきゃいけないんだけど……)


 少し前まではそうなってほしいと心から思えた、陽花の為にも俺自身のためにもだ。


 だけど今は……キスにすら抵抗も無くなってきた今も俺は本当に同じように考えられるのだろうか。


「お兄ちゃん? とてもへんなおかおしてるよ……どこかいたいの?」


 陽花が俺を心配して声をかけてくれた……俺にとって何よりも陽花を不安にさせないことが一番大事だ。


 頭を振って思考を切り替えることにした。


「ごめんちょっと考え事してただけだよ……大丈夫だよ、俺はお兄ちゃんだからね」


「むりしちゃやだよ? お兄ちゃんがくるしんでるのをみたら陽花ないちゃうからね?」


「わかってるよ……うん、わかってるから」


 自転車を止めて泣き出しそうな陽花の頭を撫でてあげる。

 

「えへへ……もう、お兄ちゃんはすぐそうやってごまかそうとするんだからぁ」


 とてもうれしそうに笑う陽花を見て俺はそれだけで胸が満たされる。


(余計なこと考えても仕方ないな……とにかく今は陽花を沢山可愛がってあげよう)


「陽花、ちょっとしっかり捕まっておけよ……自転車はこれが最後だろうし一回だけスピードアップしてやるからな」


「してくれるのぉっ!! やったぁーーっ!!」


 陽花が小さい手でぎゅっと俺の背中にしがみつくのを感じる。


 柔らかさと共にほのかなぬくもりがつたわる……俺の宝物だ。


「行くぞーっ!!」


 俺は思いっきり自転車のペダルに力を籠めた。


「うわーいっ!! かぜさんきもちいいーっ!! お兄ちゃんすごーいっ!!」


 可愛い妹の賛辞に気を良くして俺はどんどん速度を上げていった。


(無邪気だなぁ、こんな時間がいつまでも続けばいいんだけどな……)


 俺の思いとは裏腹に速度が上がった自転車はあっという間に自宅まで到着してしまい、こうして俺たちの自転車通園は終わりを告げた。


「ただいまーっ!!」

 

「ただいま、さてお兄ちゃんはいつも通り晩御飯とお風呂の支度をしてしまうよ」


「ええー、そのまえに陽花とおあそびしよーよぉ」


「お遊びねぇ……何をしたいのかな?」


 確かに今からご飯を作っても食事には大分早い時間に出来上がってしまうだろう。


 だから多少は陽花に構う時間はある……本当は学校の課題とかやることはあるけど、陽花のお世話に比べればどうでもいいことだ。


「えっとねぇ……かくれんぼーっ!!」


「お家の中で隠れん坊かぁ……まあ鬼ごっこよりはマシかなぁ」


「じゃあお兄ちゃん、そこにすわっておめめをとじてひゃくびょうかぞえてねぇ」


「はいはい、じゃあいくよー……1、2、3、よ……っ!?」


 唇に何か柔らかいものが触れる感触がする……毎朝されている感触だ、わからないはずない。


「あーお兄ちゃんおめめあけちゃだめなんだよぉ、ルールいはんだよぉ」


「よ、陽花……まさかキスするためにこんなこと言いだしたのか?」


「お兄ちゃんなにいってるのぉ、陽花はかくれるばしょをさがすのにいそがしいのにぃ……ほらちゃんとおめめさんとじてかぞえてよぉ」


(はめられたか……最近どんどん狡猾になってきてないか?)


 せめてもの抵抗として顔を俯かせて続きを数える。


「5、6、な……っ、8、9、じゅ……っ、十一、じゅう……っ、じゅうさ……っ、じゅうよ……っ、陽花さんもう辞め……っ」


「んーっ……ちゅっ……なにいってるのぉ、お兄ちゃん……ちゅっ……おとこににごんは……ちゅっ……ないんだよぉ……ちゅっ……えへへ……陽花とっても……ちゅっ……たのしいなぁ……ちゅっ……」


 胡坐をかいている俺の両足の上に乗っかって下から唇を何度も押し付けてくる……隠れる気配はまるでない。


(どうすればいいんだこれ……まさか百まで数えきるまで耐えろと言うのかっ!!)


 ここの所他にぶっ飛んでる人たちが多くて油断していた……陽花も引けを取らないぐらいヤバい子ではあるんだよなぁ。


 かといってどうしようもない、ここで強引に終わらせたりすれば罰と称して何をしてくるやら。


(普通のキスしかしてこないし……毎朝のキスだと思って我慢しよう)


「じゅう……っ、じゅうな……っ、じゅうは……っ、じゅう……っ、にじゅ……っ、にじゅい……っ、にじゅ……………………ぷはぁっ」


「ちゅーーーーーーっ、ぷはぁ……もういっかいながめにちゅーー……」


「にじゅさ……………………ぷはぁっ、にじゅうよ……………………くはぁっ、にじゅう……………………ふはぁはぁっ!?」


(だ、駄目だ……どんどん一回当たりのキスが長くなっていくっ!? 陽花さん勘弁してよぉっ!!)


 誰か何でもいいから止めてほしい……伊代音さんの乱入でも矢部先輩の訪問でも、いっそ正道さんでも……やっぱりそれは無しで。

 

「にじゅうろ…………………………………………ぷはぁはぁはぁっ!! よ、陽花さすがにこれ……っ!!」


「んちゅーーーーーーっ……ちゅーーーーーっ……ちゅーーーーーーっ……」


 もう陽花は俺の言葉を聞いていないようだ、ひたすらキスすることに夢中になってしまっている。


 そのうち唇を離してくれないのではという恐怖すら浮かんでくる。


(ご、ご飯はどうする……このまま抱き上げて、いや目を閉じてたら作れない……とかそういう話じゃないぞ俺しっかりしろっ!!)


「よ、陽…………………………………………………………っ!!」


 遂に離れなくなった、それどころか唇をくっつけたまま強引に口を開こうとし始めている。


 俺の唇に陽花の舌がチロチロと触れ始めている……ディープキスに持ち込もうというのかっ!?


(ああ、もうっ!! 矢部先輩本当にこれどうしてくれるんですかっ!!)


 何とか口を開けまいと抵抗する、流石に幼稚園児と力の比べあいではまけはしない……ギリギリのところで。


(な、何でこんなハイパワーなんだろう……愛の力かな、恐るべし)


「んーー…………んふふ…………」


「んっ!? っっっっっ!?」


 陽花が口をつけたまま怪しい笑い声を洩らす……そして俺の鼻をつまんだ。


(こ、呼吸がっ!? よ、陽花さんそこまでしますかっ!!)


 もう流石にこれ以上は受け入れられない、顔を放そうとして……陽花の片手が頭の後ろに回っている。


 力いっぱい抑え込まれていて、これを無理やり外したら腕が痛んでしまうかもしれない。


(陽花が、けがをさせちゃ、けどこれまずい、あ、呼吸が、苦し、だ、駄目だ、苦し、耐えられっ!?)


「っっっっっ……んふっ!?」


 口を開いてしまい空気を求めて陽花の口内を吸い上げてしまう。


 空気と混じって陽花のお口の中にある唾液が俺の喉に入ってくる……何故か妙に甘ったるい味に感じられ頭がくらくらしてきた。


「んちゅぅ……ちゅっちゅー……ぴちゃぴちゃ……んんぅ……っ」


 陽花はすかさず舌を俺の口の中に入れてあちこちを舐めまわしだした。

 

 俺は自分の舌で追い出そうと試みるも、むしろ表面を滑らされ逆に味わわれてしまう。

 

 もう耐え切れず目を開いてしまう……顔中真っ赤にして目を潤ませた陽花の顔がドアップで映る。


 とろんとキスに酔いしれているようでいてどこか苦しそうで……それでも最後まで陽花の両手から力が緩むことはなかった。


「んんっ………………ぷはぁ、はぁ……はぁ……はぁぁ……ふぅ……ふぅ……よ、陽花……つかれちゃったぁ……」


「はぁはぁ……はぁ……も、もう陽花っ!! 流石に怒るよっ!! しちゃ駄目だって言ったでしょっ!!」


「お兄ちゃぁん……おこっちゃやぁ……陽花ねぇ……お兄ちゃん……すきぃ……だいすきぃ……」


 力なく俺の身体に身を預けて、涙すら流しながらも嬉しそうに俺の顔を見つめる陽花。


「陽花、もう一回いうけどこのキスは大人のキスなの……陽花には早すぎるの、もうしちゃだめだよ?」


「……じゃぁ、いくつになったらいいの……陽花ねぇ……はやくお兄ちゃんみたいに……おとなになりたいのぉ……」


「お兄ちゃんはまだ大人じゃありません、陽花も俺も大人にはまだまだなれないの……ゆっくり時間をかけて成長しないとダメなんだよ」


 本当はもっと叱るべきだろう、軽く体罰もすべきかもしれない……だけど気が付いたら俺は陽花の頭を撫でてしまっていた。


 あんまりにも陽花が辛そうに見えたから……苦しそうに見えてしまったから……甘やかしてしまう。


(伊代音さんの言うとおりだなぁ……流石に問題だよこれは)


 これからは少し厳しくしたほうがいいと思う……思うだけでできるのならば苦労はないのだが。


 とりあえず陽花が落ち着くまで俺は優しく抱きかかえていい子いい子してあげるのだった。


「お兄ちゃぁん……陽花ねぇ……陽花ねぇ……すぅー……くぅー……」


 何か言おうとした陽花だが気持ちよさそうに目を閉じると可愛らしい寝息を上げた。


 その姿からは先ほどまでの様子は想像もできず、年相応の幼く無邪気な子供にしか見えなかった。


(やれやれ……本当に困ったなぁ)


 俺は陽花をベッドに連れていき毛布を掛けてやると、今度こそ晩御飯の支度にとりかかった。


 いつもなら足元に陽花がくっついていて相手をしながら食事を作っていた……何やら物足りない。


(もう最近は家にいる間ずっと陽花と一緒だもんなぁ)


 脳内にも陽花の姿ばかりが思い浮かぶ……俺のほうもどんどん陽花に浸り始めている。


 だけど俺の感情は兄としてのそれだと思う……少なくとも一線を越える気にはならないし欲情の相手としても見れない。


 先ほどのディープキスですら愛おしいとは思えども興奮まではいかなかった。


(陽花は知識が無いからあそこで止まっているけど、俺との関係をどこまで望んでいるのだろうなぁ……)


 結婚したいと言っていた、だけどそれは人前でキスをすることだと思っている。


(もしも将来的に陽花が、そっちの知識を身に着けて……その上で求めてきたら俺は断れるのか?)


 ずっとキスは駄目だと言い続けてきた、だけど気が付いたら自分からするぐらいに抵抗がなくなっていた。


 ディープキスは散々駄目だと言った、それでも実際にされてもちゃんと叱ることはできなかった。


(このままで本当にいいのか……俺は陽花を甘やかしすぎて、道を踏み外させようとしているんじゃないか?)


 前に伊代音さんと話したことが思い出される……陽花には幸せになってほしい。


 そのためにも隣には俺が居るべきではないと思う……ちゃんとした彼氏と男女の関係になるべきだと思う。


(はぁ……苦しいけどいい加減、幸人君との関係を始めとしてどんどん認めていくべきなのかもしれないなぁ)


 考えるだけで胸が苦しいのは父母性愛だからだろう……本当にそうだと断言する自信はないが。


 しっかりしないといけない……自分の感情と陽花に対する教育方針とをごちゃまぜにしてはいけない。

 

 ある程度陽花を思い通りに育てられる立場だからこそ……自分に都合がいい形に陽花の人生を歪めることなど許されない。


(本当に俺がしっかりしないとなぁ……陽花を幸せに……ずっと笑顔でいさせてあげるためにも)


 考え事をしながらも身体は自然と動いていて、食事とお風呂の支度が終わっていた。


 あとは陽花が起きるのを待つだけだ……なぜか無性に陽花の顔が見たくなって俺はベッドへと向かった。


「すぴー……むにゃむにゃ……お兄ちゃん……くぅー……」


 気持ちよさそうに毛布を抱いて眠っている……本当に愛おしい寝顔だ。


 俺は陽花の隣で横になり、ずっとその寝顔を眺め続けるのだった。

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