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戸手と人見詩里香

「なあ戸手のクラスってここだよなぁ?」


「そのはずだけど……おかしいわねぇ、どこかに行ってるのかしらね皆川様」


 同学年の女子に様付けで呼ばれている俺……別のクラスでも有名になってしまう。


「……正道さん様付けは止めて、皆が見てるから」


「もう今更じゃない、諦めましょう……」


 大体正道さんのせいなのだが全く反省する気はないらしい。


「折角久しぶりに昼飯でも一緒に食おうと思ったんだけどなぁ……」


「そんなに私と二人きりの食事は嫌なの……嫌に決まってるわよねぇ……うぅ……ごめんなさい皆川様ぁ……でもボッチ飯は嫌なのぉ」


 涙を流して俺に縋りつく正道さん……鬱陶しい限りだ。


 だが放っておいたら無理やりにでも俺と食事をしようとするし……俺と食事になれば高確率で陽花へと話は及んで暴走するだろう。


(やっぱり間に冷静に突っ込める奴が必要だ……矢部先輩だとむしろ火に油だし、俺にはもう戸手しかいないんだぁ)


「分かったから、それより戸手の奴どこに行ってるのやら……」


「ひょっとして元オカルト部の部室かしら……立ち入り禁止で施錠されてるはずだけど」


 サラリという生徒会長の正道さん……立ち入り禁止ってどういうことよ?


 正道さんの案内の元でそのオカルト部の部室とやらに向かう。


「何でそこまで厳重に管理してんだ……?」


「あら聞いてないの? オカルト部が同好会になるきっかけになった大事件のこと?」 


「……あいつから言い出さない限り聞かないって決めたからな」


「へぇ……意外ね、あなたたちは隠し事のないぐらい仲が良い関係だと思ったわ」


 正道さんの言葉に首を横に振ってこたえる。


「逆だよ、自分で言うのも何だが……俺が深入りしない奴だからこそ戸手と友人になれたと思ってるよ」


「そう……聞いてもいいかしら、あなたたちの関係について」


「そうだなぁ、いつか機会があれば……な」


「何よそれ……じゃあせめて二人が出会った時期ぐらい教えてよ?」


 戸手と初めて出会った日……俺が一人っ子であることに慣れ切ってしまい孤独だったころ。


「中学生に上がった時に同じクラスだったんだよ……それより、まだつかないのか元オカルト部は?」


「そろそろよ……ほら見えてきたわ」


「どれどれ……うわぁ、壁中ひび割れだらけ……このあちこちにあるどす黒い染みはまさかなぁ」


 ドアだけが新調されていて、外部から鍵をかけられるようになっている。


 手をかけてみるけれどしっかり施錠されていて開く様子はなかった。


「戸手~いないのかぁ~」


 ノックしながら声をかけてみると、物音と共にドアが内側から開かれた。


「……珍しいね、皆川君がここに来るなんて」


「な、な、な、な、な、なんでぇぇえええっ!! この馬鹿馬鹿馬鹿ぁっ!! 開けるな開けるな開けるなぁああっ!!!」


「うおっ!? 部室内から槍がぁっ!? これは傘っ!? おおぅ三又の矛っ!?」


 罵声と共にいろんなものが飛んでくる……正道さんが片手の指だけで止めてくれた、こういう時は便利だ。


「ごめん皆川ちょっと待ってて……こらぁあっ!! てめぇえええ物なげてんじゃねえよぉおおっ!!」


 怒鳴り声をあげながら部室に入っていく戸手……戸手だよなぁあれ?


「な、なあ正道さん……あれって戸手……だよなぁ……?」


「ええ……そうか知らないのね、戸手君あの人と関わる時だけああなのよ」


「……知らなかったよ、あんな顔することもあんな声を出すことも」


「私が言うのもなんだけど安心しなさい、オカルト部でもあの子……人見詩里香さんだけだから特別なのは」


 正道さんの言葉を聞いても俺の胸に去来する寂しさは消えなかった。


(勝手に俺が一番仲がいいって思ってたけど……本当に俺は戸手のことを知らなすぎるなぁ)


「さらに言えば……あなただけよ、戸手君がフルネーム呼びじゃなくて呼び捨てにしてるのはね」


「……ありがとうな正道さん」


「あ、あはは……初めてお礼言われた気がするわ」


「ご、ごめんね騒がしいところを見せて……みんな中に入ってよ」


 戸手に招き入れられて俺たちは元オカルト部の部室へと足を踏み入れた。


「一面に暗幕……なんかの木像に怪しい仮面……床には怪しいシミと魔法陣……なあここって教室だよねぇ?」


「あはは、勝手に改造しちゃって怒られちゃいそうだよね……」


「私も詳しく知らないけど卒業した先輩たちが物凄い人だったみたいで、校外にまで轟くほど業績があって学校側も特例処置を許してたみたいなのよ」


 オカルト部で郊外にまで轟くほどの業績……全く想像がつかない。


「うぅぅぅっ!! あっちいけよぉぉおおっ!!」


 窓にカーテン代わりに下げられた暗幕に身を隠すように包まりながら、こっちを睨みつけてくる人見さん。


(一年の頃に何回か遠目では見たことあるけど……こんな人だったのかぁ)


 人見さんは手近にあるものをひっつかんでこちらにぶん投げてくる。


「いい加減にしろよお前っ!! そんなことばっかしてっから僕がいっつも尻ぬぐいさせられてんだぞっ!!」


「うるさいうるさいうるさいっ!! ここにオカルト部以外が入ってくるなぁっ!! 戸手も出てけぇ裏切り者ぉっ!!」


「もうオカルト部は無いんだよっ!! ぶっ潰れたんだよみんなと一緒にっ!! はぁ……いや恥ずかしいな皆川の前で……」


「いや、いいんだけど……まあとりあえず飯食わないか?」


「……ここで食べるの? 皆川様が言うならまあいいけど」


 確かに物凄く居心地が悪いし真っ暗だし……食欲わかねぇ。


(けど今更移動してる時間もないしなぁ……)


「ここで食べるならシート引くよ、ちょっとはましになると思うから」


「うぅぅ……お前ら勝手なことするなぁっ!!」


「黙ってろクソ餓鬼っ!! ほらお前の飯だよ、食いたくなきゃどっか行けよ……はぁ、困った人だよ本当に」


「うーん、やっぱりいつ見てもびっくりするぐらいの二面性ねぇ」


「……正道さんが言えることじゃないと思う」


 戸手が引いたキャラクターもののシートの上に座り俺たちは食事することにした。


 シートの隅のほうに人見先輩も座り、戸手から受け取ったお弁当を食べ始めた。


「ねぇ皆川様も戸手君も自分でお弁当作ってるのよねぇ……結構上手よねぇ」


「俺のは陽花のついでだからなぁ……殆ど朝の残りものだし冷凍食品でごまかしてるだけだぞ」


「僕だって似たようなものだよ……どっかの馬鹿が偏食だから一部は手作りだけど」


「うぅぅうるさぁあああいっ!! うるさいうるさいうるさいっ!! 勝手にお前が作ってるだけだろぉおっ!!」


 じたばたと暴れる人見先輩……埃が舞うからやめてほしい。


「じゃあ自分で何とかしろよっ!! 一週間絶食して人の弁当泥棒した挙句にアレルギーでぶっ倒れた馬鹿を誰が介抱したと思ってんだっ!?」


「あぁああああああああっ!! うるさぁあああああああああああいっ!!」


「……正道さん、うるさいのはお前だって突っ込みは止めといたほうがいい?」


「……あの二人の間に入り込みたいんでしょうけど止めておきなさいよ、目を付けられたらどうするのよ?」


(ううん、正論過ぎる)


 確かに矢部先輩に正道さん、おまけで陽花という問題児を抱えている俺にこれ以上変人を受け入れる余裕はない。


「大体お前がなぁっ!! お前さえ来なきゃあ私はぁっ!! 私はなぁっ!! オカルト部はぁ……うぅ……っ」


「僕が来なきゃなんだよ……お前ひとりで支えられたとでもいうのか? はっ、お笑いだな」


「うるさい……うるさい……」


「むしろお前が止めなかったから……唯一卒業した先輩たちを知ってるお前が止めようとしなかったから……」


「うるさい……うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさいっ!!」


 まるでそれしか言えないみたいに人見先輩はうつむいて同じ言葉を叫び続ける。


「いつまで現実逃避してる気だお前はっ!! いい加減目の前を見ろっ!! ここに誰が居るっ!? もう誰も、いないんだよ……っ」


 ご飯がまるで美味しくない。


(全く事情がわからない……だけど、多分必要になれば戸手のほうから話してくれるはずだ)


 俺はひたすら二人のやり取りを無視して食事を続けた。


「……皆川様、オカズ交換しない?」


「ああいいぞ、その卵焼きくれ……うん、いい甘みだ」


「皆川様の卵焼きも悪くないわよ、ちょっと焦げてるけど」


「ああ、今日はちょっと陽花が甘えてきてそれで……っととしまったっ!?」


 俺は思わず口を閉じたが遅かった……陽花という単語を口にしてしまった。


(陽花の名前を聞いて暴走する確率は役二分の一……だが今日は朝から今までずっと暴走していない、溜まり切っているっ!!)


「ふ、ふふ陽花……陽花ちゃん……あ、はあ……だ、駄目よ私……陽花ちゃんの……考えちゃ駄目……ペロペロ……」


「が、頑張れ……耐えてくれ正道さんっ!!」


 この状態で正道さんまで暴走したら俺は……逃げよう。


「あああぁああああっ!! お前がお前がお前がお前がぁああっ!! あっちいけよぉおおおっ!!」


「うるせぇこの馬鹿女っ!! お前こそ教室かえれっ!! いつまでもここに依存してんじゃねえっ!!」

 

「依存……陽花ちゃん……帰る……教室……陽花ちゃんの……陽花ちゃん……ようかちゃぁああああああああああああんっ!! どこぉおおおおおおおおおおっ!! 葉月はここよぉおおおおおおっ!!」


「ひぅぅううっ!!」


(終わった……)


「な、な、な、なななななななぁっ!! う、うるさいうるさいうるさぁあ……」


「ねえねえねえねえ陽花ちゃんどこどこどこぉおおおっ!! あなたが陽花ちゃぁあああんんっ!? この小さいボディは陽花……ちがぁあああああうぅううっ!! 陽花ちゃんちがぁああううううっ!!」


「ひぅううううっ!! と、戸手戸手戸手戸手ぇええええっ!! やっつけろぉおおおっっ!!」


「人の背中に飛び乗るなっ!! ああ鬱陶しいっ!! 正道葉月さん、ちょっと悪いけど今は……っ!」


「しゃぁああああっ!! 陽花ちゃぁあああああああああああんっ!! 葉月が行くよぉおおおっ!!」


 窓ガラスに向かって走り出す正道さん……ってソレは不味いっ!!

 

「だぁあああああっ!! 畜生ぉおおおおおっ!!」


 咄嗟に腰にタックルをかまして何とか体勢を崩させる。


 頭から窓ガラスに突っ込もうとしていた正道さんは俺に飛び掛かられたことで飛距離が伸びず、窓枠に思いっきり頭を打ち付けた。


「あうぅうっ!? あぁ……うぅ……す、すみませんでしたぁあああっ!!」


「あ、ちょ、ちょっと待て……俺を置いてくなぁっ!?」


 俺の言葉も聞かずに正道さんは恥ずかしそうに顔を抑えてオカルト部を飛び出していく。


「お、おまえおまえおまえおまえぇええっ!! あ、あんなあんなあんな化け物紐付けておけよぉおおおっ!!」


「紐どころか鎖付けてても引きちぎるよあいつは……じゃなくて、済まんな戸手邪魔したな」


「あ、あはは……まあ気が向いたらまた来て……」


「もうにどとくるなぁああああっ!!」


「だから黙れよお前はっ!!」


 騒々しいののしり合いをしり目に俺は正道さんを追う……ふりをしてこの空間から脱出することに成功した。


(まさかこんな形で正道さんを利用できるなんて……覚えておこう、重い空気には暴走正道さんっと)


「……ああ、空気が美味しい……一人ってさいこーだなー」


 俺は昼休みが終わるまでの間、一人の時間を満喫するのだった。

 【読者の皆様にお願いがあります】



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