陽花と二人で過ごす夜
「じゃあそろそろ帰るね、長々とお邪魔してすみませんでした」
何とか食事を終えてひと段落付いたところで、矢部先輩を見送るべく玄関まで移動した俺たち。
「やべおねえちゃんとまっていきなよぉ……いいでしょママぁ~」
「わ、私は構わないですよ稲子お姉さま……ぽっ」
「いいえ、帰るべきですぅっ!! お疲れさまでしたぁっ!!」
起き上がってからの伊代音さんの様子がおかしい限りだが、もう気にしないことにした……陽花>矢部稲子先輩>伊代音さんかぁ、もうこの関係性他所から突っ込まれても説明できんぞっ!?
とにかくこれ以上の混乱はごめん被る、俺は力づくで押し出すように矢部先輩を外へと追いやった。
「ああん、皆川君ったら強引なんだからぁ……じゃあね、また来ますっ!!」
「いつでもきてねぇ~やべおねえちゃんならだいかんげいだよぉ~」
「次来るときは事前に連絡してちょうだい……色々と身支度したいし……ぽっ」
伊代音さんが本格的にやばいかもしれない……不憫だなぁ親父も。
それでも何とか追い出すことに成功した、ようやく平穏が訪れてほっとしてしまう。
「はぁ……じゃあ二人ともお風呂に入っちゃいなさい、その間に私も洗濯物終わらせて明日の準備を済ませたら出るから」
「……ママも行っちゃうのぉ?」
「また仕事だからね、はぁ安定して週末に休みたいわぁ……」
何だかんだで陽花は伊代音さんが居なくなるのが寂しいようで、チラチラと顔色を伺い始めた。
「いや俺がやっておきますから、陽花とお風呂入ってあげてください……せっかくですからね」
「石生君……そうね、久しぶりだものね……ごめんね、また頼ってしまうけどお願いするわ」
「お兄ちゃんありがとーっ!! ママおふろはいろーっ!!」
二人とも嬉しそうに笑いながらお風呂場へと向かって行った、わずかな時間でも親子で団らんしてもらいたい。
俺は早速伊代音さんの分も家事をこなしてしまうことにした。
「お兄ちゃぁああああんっ!! たすけてぇえええっ!!」
「ど、どうした急……は、裸ぁあああっ!?」
突然お風呂場から駆け出してきた陽花は何も身に着けておらず、可愛らしいサクランボさんがこんにちわしていた。
産毛しか生えていない総身、お風呂上がりだからか火照った肌と陽花の全てが俺の……保護欲を刺激する。
(バスタオルで包み込んで優しく拭き取ってあげたい……お着替え手伝ってあげたいなぁ……)
「ちょっと待ちなさい陽花っ!! 石生君捕まえてっ!!」
「な、何が……って伊代音さんまでぇええええっ!?」
同じく捕まえようと風呂場を飛び出したらしい伊代音さん、豊満なプリンがプルンプルンしている……矢部先輩よりはちっちゃいけど十分すぎるボリューム感だ。
何より茂みが……大人の茂みがっ!?
「いーやーっ!! 陽花それきらいーーっ!!」
「嫌いでもしっかり擦らないと汚れがおちないでしょっ!! 石生君の目が届かないからって横着してっ!!」
俺の周りをくるくると回りながら追いかけっこする二人、震えるプリンに刺激され震えないサクランボに癒され……目の毒だぁ。
(ああもう、嫌がらせかなぁ……仮にも家族だから欲情するわけにもいかないのに……禁欲生活もそろそろ限界だよぉ)
俺は一生懸命何か違うことを考えて目の前の現実を忘れようとして……ああ、陽花の姿しか思い出せないぃいっ!!
「ほら、お風呂場に戻るわよ……ごめんなさい石生君」
「おにばばぁあああっ!! お兄ちゃんたすけてよぉおおおっ!!」
「またそんな汚い言葉使ってっ!! 駄目でしょっ!!」
引き摺られていく陽花が居なくなるまで俺は座り込んで見守ることしかできない……だって立ったら起っちゃうからね。
「あの二人は家族……あの二人は家族……エロくない……エロくない……微笑ましい光景……微笑ましいやり取り……」
自分に言い聞かせながら家事を行う俺はお兄ちゃんの鏡だと思う……誰も評価してくれないけどなっ!!
夕食に使った食器を洗って乾かし、昼間に伊代音さんが干しておいてくれた洗濯物を取り入れて畳んで片付ける……陽花の下着を見ていると欲情が収まって……伊代音さんの下着はヤバいよぉ。
「ひどいめにあったよぅ……おふろおわったよ、お兄ちゃんはいっていいよー」
「ありがとう石生君……さ、さっき見たことは忘れてちょうだいね」
「は、はは……わかってますよ」
俺はお風呂場に直行して冷水で必死で身体の火照りと欲情を抑えた。
そして湯船につかる、親の監視があったためか伊代音さんが気をきかせてくれたのか久しぶりに全身浸かれるほどの湯量だった。
(はぁ……めちゃくちゃ気持ちいい、やっぱりお風呂はこうじゃないとなぁ……)
蕩けて全身から力が抜けていきそうなぐらい心地いい、これからしばらく味わえないのだから存分に長風呂してしまいたい。
「お兄ちゃん、そろそろママ行くって……おみおくりしよー」
「それもそうか……ごめんごめん、すぐあがるよ」
しかしそうも行かなそうだ……最も俺も別れを言っておきたいので未練なく湯から上がった。
「……陽花さん、身体を拭きたいからそこから出て行ってください」
「きにしなくていいよぉ、かぞくだもんっ!! せっかくだし陽花がおからだふいてあげるよっ!!」
「大丈夫だからっ!! お兄ちゃんはお兄ちゃんだから一人でできるもんっ!!」
陽花に浴室の外で陣取られてしまい、出るに出られない。
「もう何してるの陽花ったらっ!? 本当にごめんなさい迷惑ばっかりかけて」
「はなしてよぉっ!! お兄ちゃんのおからだふいてあげたいのぉっ!!」
「自分がやられて嫌なことを人にやろうとしないのっ!!」
「じゃ、じゃあ陽花もつぎからお兄ちゃんにおからだふいてもらうもんっ!! だからお兄ちゃぁあああん……」
ようやくいなくなったようだ、俺はそっと浴室から出ると手早く全身を拭いて着替えてしまう。
(ふぅ、あの二人は……玄関っぽいな)
玄関付近で問答している二人の元へと急いで向かう。
「全く……いい、これ以上石生君に迷惑をかけちゃ駄目よっ!! 本当に嫌われてしまうわよっ!!」
「ぶぅ……へいきだもん、お兄ちゃんはわたしにめろめろだから」
既に支度を済ませた様子の伊代音さんがこちらに気づき、深々と頭を下げた。
「はぁ……石生君、こんな子だけどこれから先ずっとお願いするわね」
「ははは、まあ陽花に彼氏……彼……陽花が成人するまでは確実に近くにいますよ」
「おとなになってからもずっといっしょぉっ!! ぜったいにがさないもんっ!!」
陽花が俺の脛にしがみつく……抱き上げて伊代音さんと視線の高さを合わせてやる。
「正直なところ私はもうあきらめてるから、後は石生君次第だからね……とにかく二人で仲良く協力して生活しなさいよ」
「よくわかりませんがわかりました、これからも仲良くやっていきます」
「陽花とお兄ちゃんはとってもなかよしだもんっ!! しょうこのちゅーっ!!」
「はぁ……石生君、本当に一線だけは10年……いやこれももう任せるわ」
心底疲れ切った様子でため息をついて、だけど最後に俺たちに向き直ると伊代音さんはにっこりと笑顔を浮かべてくれた。
「じゃあ行ってくるわ、またね二人とも」
「行ってらっしゃい伊代音さ……お義母さん」
「ママいってらっしゃーいっ!! またすぐにかえってきてねーーっ!!」
「……ふふふ、行ってきます」
そして伊代音さんもドアを開けて出て行って、俺と陽花だけが残された。
二人きりの自宅は妙に静かに感じた、つい一昨日までと変わらないはずなのに。
(先輩が来てからの二日間騒がしかったなぁ……だけどなんか寂しいなぁ)
「お兄ちゃん……あのね、陽花なんかとってもさみしいの……おむねさんにあながあいちゃったみたい……」
恐らくは陽花も俺と同じことを感じているのだろう、俺の身体にぎゅっとしがみついた。
「陽花、今日はお兄ちゃんと一緒に寝てくれないかな……一人で寝るのはちょっと寂しいから」
「うん、いっしょにねるぅ……ありがとうお兄ちゃんだいすきっ」
「俺も陽花が大好きだよ……」
本当に陽花が居てよかったと思う、この静けさは一人だと耐えられそうにない。
家事はほとんど終わっているし他にやることもない……何よりとても疲れた。
俺は陽花を連れてベッドに入り込むと腕枕をしてやり、優しく頭を撫でてあげた。
「お兄ちゃん……陽花……やっぱりお兄ちゃんのうでのなかにいるのがいちばんおちつくの……ずっとこうしててね……」
「そうだな……陽花が望む限り、してあげようかな……」
「えへへ……お兄ちゃん……きもちいい……すぴー……」
眠りに落ちた陽花の可愛らしい寝顔を見届けた俺は、自身にも迫ってきた睡魔に逆らうことなく瞼を閉じた。
とても心地よい睡眠に落ちていき……唐突に顔面に衝撃を感じて飛び起きた。
「な、なんだなんだっ!?」
「お、お兄ちゃん……よ、陽花おトイレいきたくなっちゃったよぉ……ついてきてぇ」
どうやら陽花に顔を叩かれたようだ、涙目で俺を見つめている。
「そういえば寝る前にトイレ行ってなかったなぁ……ごめんごめん、連れてってあげるよ」
「うん……おこしてごめんねぇ、けど陽花まっくらでこわかったのぉ」
「分かってるよ、ほら抱っこしてあげるから」
陽花を抱きかかえ漏らさないように急いでトイレに向かい明かりをつけてドアを開いた。
中の便器は幼児でも一人で用が足せるように補助階段と補助便器が設置されている。
「ほら、行っておいで……お兄ちゃんお外で待ってるから」
「うぅ……こわいからいっしょにいてぇ……おててつないでてぇ」
「え……よ、陽花は見られたら恥ずかしいんじゃないかな?」
「う、うん……はずかしいからあっちむいてて……おねがい」
俺が陽花のお願いを断れるはずもなく、言いなりとなり手を差し出してそっぽを向いた。
「ありがとー、じゃあおといれしちゃうねー」
「宣言しなくていいから……」
「うー……はぁ……んぅ……」
陽花の気持ちよさそうな吐息に交じり、ちょろちょろとオシッコが便器に吸い込まれる音が聞こえてくる。
一体陽花はどんな顔をしてトイレをしているのだろう……ちょっとだけ興味本位で気になった。
だけど流石に振り返るのは変態すぎて俺にはできなかった……正道さんなら堂々と振り返るだろうけど。
「ふぅ……すっきりしたぁ……お兄ちゃん、かみとってぇ……」
「はいはい……ほら」
俺が片手を掴んでいるせいで紙をうまく取れなかったらしい、俺が手渡してやるとゴソゴソと何やら物音が聞こえてきた。
(見えないから余計に想像して……妹だぞ俺、変なことは考えるなよ)
自分に言い聞かせて落ち着かせるために陽花の顔を思い浮かべ……流石に逆効果だ、正道さんの暴走顔でも思い出そう。
(やべぇ、嫌な意味で俺の思考をあの化け物が埋め尽くしつつあるわ……やっぱり退治してぇなぁ)
しかし落ち着くという意味ではこれ以上ない効果を発揮した、もう大丈夫だ。
「お兄ちゃんおわったよぉ……ベッドにもどろぉ」
「はいはい、ほら陽……パンツ下がったままだぞ……」
「えぇ…………きゃぁーーーお兄ちゃんのえっちぃいいいいっ!!」
ポカポカと脛を叩かれる、弱々しいが身体全体でぶつかりに来ていて馬鹿にならない威力だ。
「自分が履き忘れたんでしょ、八つ当たりしないの」
「うぅ……れでぃのぱんつをみたつみはおもいのっ!! ばかばかぁっ!!」
「カエルさんのパンツなんかお兄ちゃんは興味ありません……ほらベッドに帰ろう」
「しっかりみてるでしょぉっ!! お兄ちゃんのばかぁっ!!」
さらに攻撃が強まってしまう、これは困った。
何とか強引に抱きかかえてベッドまでは戻ったが、完全に拗ねていてこっちを見てくれない。
「陽花、機嫌をなおそうなぁ……ほらいい子いい子してあげるから」
「ふん、お兄ちゃんなんかきらいだもんっ!! 陽花にはじをかかせたお兄ちゃんなんか……」
「わかったわかった、俺が悪かったから機嫌治して……何かしてほしいことあればしてやるから」
「そんなことできげんをとろうなんてじゅうねんはやいのぉ……でもどうしてもっていうなら、あのとくべつなちゅーしてくれたらゆるしてあげちゃうよぉ」
陽花がちらっとこっちを見つめる、その表情はいたずらっ子そのものでとっくに機嫌は治っていたようだ。
「陽花さてはそれが狙いだったのか……あのキスは駄目だって言ったろ?」
「それいがいじゃゆるしてあげないもーん……かわいい陽花にゆるしてもらえなかったらお兄ちゃんいきていけないでしょ?」
「そんな我儘言う子はしりませんよ……ほら腕枕で我慢して寝なさい」
「やぁ……あのちゅーするのぉ」
じたじたして抵抗する陽花、可愛い……じゃなくて困った子だ。
「大体俺からするキスはこの間の一回きりだって約束でしょ」
「そんなこといったっけ? 陽花おぼえてないもーん」
「はぁ……今日の陽花は特別に我儘だね、どうしたの?」
「だってぇ……なんかものたりないの……さみしいのぉ」
ぽつりとつぶやいた陽花の声は物悲し気で、聞いていると胸が締め付けられてしまう。
「全く……しかたないなぁ……」
「してくれるのぉ?」
「ほっぺたで我慢しなさい……ちゅっ」
陽花のプニプニほっぺに軽くキスしてあげる……幼子特有の柔らかさとしっとり感がする、極上のほっぺだ。
「あぁん……お兄ちゃん、そんなちゅーじゃゆるしてあげないんだからぁ……えへへ~」
「しっかり機嫌治ってるじゃないか、ほらおねんねするよ」
「はーい、だからもう一回ちゅーしてー」
「本当に我儘さんだ、いい加減にしないとお兄ちゃん怒るぞ……ちゅっ」
今度はおでこにしてやる、髪の毛からシャンプーの匂いに交じって甘くすら感じる幼子の匂いがした……ああ、ずっと嗅いでいたい。
「えへへへへ~、きょうはだいサービスさんだねぇ……陽花ねぇすごくしあわせになっちゃったぁ……お兄ちゃんだいすきぃ……」
陽花は俺の胸に顔を押し付けて匂いを嗅いでいる、とても幸せそうな顔をしてた。
俺が優しく頭を撫でてあげると、ふっと力が抜けてそのまま眠りに落ちてしまった。
「すぴー……すー……お兄ちゃぁん……すー……」
寝言で俺を呼ぶ陽花に応えるように、俺は眠くなるまでの間ずっと頭を撫でつつけてあげるのだった。
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