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正道さんの暴走

 口元が何かに触れる心地、鼻にはとても清涼感溢れるけどどこかミルクのような甘ったるい匂いが入ってくる。

 

 さらに口内に何か柔らかくも湿った心地の良い何かが侵入し、俺の舌と絡み合いざらつく感触を与えてきた。


「っっっ!!?」


 目を開けて飛び込んでくるのは愛おしい陽花のドアップ顔、なのだがその表情は少し赤く火照っているような気がする。


 しかも俺の唇にくっついている陽花の小さなお口から小さな舌が入ってきていて、唾液を飲み込もうとしているではないか。


「んぷはぁっ!? よ、陽花何してるんだっ!?」


 思わず後ずさり自分の唇を両手で押さえてしまう……ファーストキスだけでなく、ファーストディープキスまで奪われるなんてっ!?


「お兄ちゃぁん……こ、このちゅー……す、すごいへんなきぶんになっちゃうのぉ……陽花ねぇ……からだにちからはいらないのぉ」


 完全に蕩けた表情で瞳を潤ませながら切なそうに俺を見つめる陽花の姿は、幼稚園児とは思えないぐらい……病人に見えた。


「あらあら、陽花ちゃん……早速実践したんだねぇ、どう大人の味は?」


「よ、陽花……ちょっとつらいのぉ、だけどくせになりそうなのぉ……」 


「もう二度としちゃいけませんっ!! 矢部先輩も止めてくださいよっ!!」


 腰が抜けたように俺の身体の上にへたり込む陽花を抱きかかえて、椅子に座らせて下敷きで扇いでヒートダウンを図る。


 本当に力が入っていないようで、顔はお熱が出たときのように真っ赤っかだ……ああもう、早速悪影響が出てるぅっ!!


「でも本当におはようのキスしてるんだぁ……嫉妬しちゃうなぁ」


「そんなこと言ってないで、矢部先輩も扇いであげてくださいよっ!!」


「はいはい、陽花ちゃん大丈夫?」


「うぅ……うん、らくになってきたの……おにいちゃん、もういっかいしよ?」


「絶対にしませんっ!! これからはおはようのキスは禁止ですっ!!」


 あんまり調子に乗らせ過ぎたかもしれない、昨日のエロ本の影響とは言えディープキスまでしてくるとは予想外だった。


「えぇ~、お兄ちゃんはきもちよくなかったの? あのほんのひとはきもちよさそうだったのにぃ……やべおねえちゃん陽花やりかたまちがえてたかなぁ?」


「そんなことないよ、とってもお上手だったよ……きっとお兄ちゃんは恥ずかしいからごまかしてるんだねっ!!」


「矢部先輩、もうとっとと部屋から出てってくれませんかね? というか帰ってくれません?」


 やっぱり昨日のうちに追い出しておけばよかったと後悔する。


「皆川君、怒っちゃやだよぉ……ほら陽花ちゃんも不安そうな顔してるでしょ?」


「そうだよぉ、やべおねえちゃんにいじわるしちゃだめだよ?」


 本当に昨日のうちに仲良くなっていたようだ……余計なコンビネーション発揮してもうっ!!


「はぁ……とにかく陽花にはあのキスは早すぎる、暫く封印しなさいっ!!」


「ぶぅ……じゃあふつうのちゅーならおはようのちゅーしてもいーい?」


「……いつも通り過ごしましょうね、じゃあお兄ちゃんはご飯を作ってきます」


「皆川君……折角一泊お世話になったんだから良かったら私が作ろうか?」


 矢部先輩は料理ができるのだろうか、そんな話は聞いたことがないが……女性の手料理とか、食べてみたくないと言ったら嘘になる。


「あーじゃあ、お願いしちゃおうかな?」


「うん、任せておいて……陽花ちゃんもお兄ちゃんに出す分手伝ってくれる?」 

 

「はーい、お兄ちゃんすこしやすんでてね……あいじょうをふんだんにこめたりょうりをつくってみせるからっ!!」


「……怪我だけはしないよう十分気を付けてください」


 ぱたぱたとかけていった女性二人を見送りながら、俺は久しぶりに一人きりの朝を満喫……できねぇよ、不安で仕方ない。


(陽花は包丁で手を切らないかなぁ? 熱いお湯とか火で火傷しないかな? 食器を運ぼうとして落として破片で足を切ったりとかっ!?)


 とても黙って待ってなど居られない、俺はそっと陽花たちの様子を伺いに向かった。


『……ちゃんがいったとおりだったね、お兄ちゃんったら陽花にめろめろだったよね?』


『ふふふ、本当にねぇ……ああ、私も皆川君とキスしたいなぁ……』


『う~ん、ほんとうはいやだけど……とくべつにやべおねえちゃんならゆるしちゃいますっ!!』


 料理する音に交じってなんかとんでもない話が聞こえてきている気がする……俺の唇は陽花のものじゃないのに勝手に許可出さないでほしい。


『え、本当っ!? やったぁっ!! じゃあ陽花ちゃんの許しも得たし早速チャレンジしてみようかなぁ』


『そのかわりね陽花にもっとかげきなこともおしえてねっ!! あ、あとあくまでも陽花がせいさいだからねっ!!』


『はーい、じゃあお姉ちゃんは第二夫人だね……よろしくね陽花お姉さまぁ』


『おねえさま? やべおねえちゃんのほうがとしうえだよ?』


『そういう関係もあるのよ、今度分かりやすい本を持ってくるからゆっくり読み聞かせてあげるね』


 やばい、矢部先輩早いところ何とかしないといけない……もう二度と家には誘わないようにしよう。


 陽花に悪影響を与えまくりだし二人そろうと手が付けられない、俺は陽花だけで手いっぱいだっ!!


『はーい、やべおねえちゃんはなしがわかるぅ……だいすきーっ!!』


『お姉ちゃんも陽花お姉さまだいすきだよーっ!! ちゅーっ!!』


『もう陽花のみりょくにめろめろなんだからぁ……れんしゅうがわりだからね、ちゅーっ』


「ああお腹空いたな―っ!! そろそろご飯できたかなーっ!! きっとご飯ができてるよなーっ!!」


 耐え切れずに乱入してしまった、とてもお腹が減ったからね……決して陽花が別の人にキスするのが嫌だったわけじゃないぞっ!!


「あ、皆川君……もうすぐできるよ~、食器用意してね~」


「お兄ちゃんたらくいしんぼうなんだからぁ~」


「あははは、二人の手作り料理楽しみ……あはは、昨日俺が作った冷凍食品そっくりだなぁ……うぅぅ……」


 手料理を食べる夢は断念しました、まあこんな短時間で作れるものって限られてるもんなぁ。


「なんとこのりょうりはぜんぶ陽花がつくったのですっ!! すごいでしょっ!!」


「そうだよ、陽花お姉さまが時間を決めてボタンを押して完成させたんだよっ!! 誉めてあげてっ!!」


「うわぁすごいなぁ陽花はぁ……お兄ちゃん嬉しくて涙が出てくるよぉ……うぅぅ……」


 俺は食卓に並べられた冷凍食品の山を味わって食べるのだった……ああ、食べなれた味が広がる。


「お兄ちゃん、陽花にたべさせてぇ~」


「皆川君、私にも食べさせてぇ~」


「あっはっは~二人とも自力で食べれるじゃないか……昨日食べてたよね?」


「そうだっけ、やべおねえちゃん?」


「ううん、食べれなくて大変だったよね陽花お姉さまぁ?」


 もうどうにでもなれ、どうでもいい……どうなっても知らない。


「……もういいです、わかったから二人とも口を開けてください……はいあーんしてっ」


「あーんっむぐむぐ……お兄ちゃんにたべさせてもらうとおいしーねっ!!」


「あーん、もぐもぐ……皆川君に食べさせてもらうと格別だねぇ」


「あはは、二人に食べさせてると格段に時間がかかるねぇ……うぅぅ……」


 朝から疲れる、心が壊れそうだ……誰か助けてよ。


 俺は普段より時間をかけながら大きい子供と小さい子供のお世話をする羽目になった。


「さて私は一旦帰るね、歯ブラシも持ってきてないし……し、下着も替えたいから……」


 食事が終わると先輩は制服へと着替えなおし、一度自宅に帰るために玄関へと向かった。


「そうっすねぇ……じゃあまた学校で会う時があればいいですねぇ」


 正直もう会いたくないです……俺の器じゃ二人は抱えきれないっす。


「うん、また会いに来るね……陽花お姉さまもまた今度一緒にご本読もうね、ばいば~い」


「とくべつにやべおねえちゃんはうちにくることをきょかしますっ!! ほんたのしみにしてるからねっ!! ばいば~い、またきてねーっ!!」


 ようやく去って行ってくれた、嵐のような時間だった。


 もう一度ベッドに横になって休みたい衝動に駆られるが、時間はそれを許してくれない。


 俺は身体に活を入れると、陽花と一緒にお出かけの準備を済ませいつも通りバスの停留場へと向かった。


「えへへ、やべおねえちゃんってけっこういいひとだったねっ!! またこんどおうちにつれてきてねっ!!」


「あははは、そのうちかなり先の未来で機会があれば呼ばないこともないことを検討しようかな?」


「むぅ、むずかしいいいまわししてぇ……いじわるしないのっ!!」


「だってなぁ……あれ、あの人って……?」


 いつもの幼稚園バスが到着する場所に見慣れない人影があった、ここから乗るのは陽花ぐらいだったのに。


 近づいて人影の正体がわかってくると、俺は驚きを隠せなかった。


「ま、正道さん……なんでこんなところにっ!?」


 生徒会長の正道葉月さんがそこでギラギラと瞳を光らせながら、周囲を見回していたのだ。

 

 そして彼女は俺の言葉を聞くなりこちらへとぎろりと視線を向けて、走り寄ってきたではないか。


「おおぉおおはようっ!! 皆川君おはようっ!! ねえねえねぇ陽花ちゃんはどこ……あ、ああああ生陽花ちゃんだぁあああっ!!」


「ひぅっ!? お、おにいちゃんだ、だっこおぉっ!?」

 

「お、おう俺にしがみつけっ!! 絶対離れるなよっ!!」


 もろ変質者っぽく鼻息荒く近づかれて、俺は陽花を守ろうと抱きかかえて警戒しながら後ずさった。


「な、な、なんでそ、そんなに……はぁはぁ、け、警戒してるのっ!? よ、よ、陽花ちゃ、ちゃん始めまして私ね皆川君のお友達のは、葉月よぉ……よ、よろし、よろしくね、ふ、ふひひ……あ、握手しましょうっ!!」


「お、お兄ちゃんこのひとこわいいぃいいっ!!」

 

「あ、安心しろ陽花俺も怖いっ!!? ま、正道さんこっち来ないでくださいっ!!」


「ど、ど、どうしてそんなひどいこと言うのよっ!? わ、私たち親友でしょっ!! だから陽花ちゃん何も怖いことなんかないんだよぉおお、はぁはぁ……よ、陽花ちゃんは脅え顔もか、可愛いねぇ……じゅるりぃ……ふ、ふひひ」


「ろくに話したこともないでしょうがっ!! お願いだから陽花が怯えるから近づかないでくださいっ!!」

 

 思わず蹴りを繰り出してしまったが、正道さんは見事なブロッキング技術で捌き懐に飛び込んでくる……プロのボクサーか何かかよっ!?


「ひぃいいっ!! お、おにいちゃぁああんっ!! ふぇえええっ!!」


「だ、大丈夫だ陽花俺が付いてるっ!! それ以上近づくなら容赦しませんよっ!!」


 陽花が俺の胸に顔をうずめて涙を流し始めた……それほどに正道さんはすさまじく気持ち悪くて恐ろしいっ!!


「ふひへへへへぇ……そ、そんなこといわないでぇ……ね、ねえ陽花ちゃんほらほら私笑顔でしょぉおっ!! なぁんにも怖くなんかないんだよぉおっ!! だ、だからね、こ、こっちおいでっ!! お、お姉ちゃんがだ、抱っこ……じゅるりっ……」


「ひぃいいっ!! お、おにいちゃぁあああんっ!! びぇええええっ!!」


 涎を拭いながら陽花に顔が触れそうな距離まで接近されて、陽花はさらに怯えて目をつむって震えだしてしまう。

 

 流石にもう怯んでいる場合ではないし陽花を泣かせる奴を許す気もない……俺は全力で膝蹴りを叩き込んだ。


 接近しすぎていた正道さんだが何とこれもまた見事な腕先のさばきで弾いてしまう……文武両道をこんな形で生かさないでほしい。


 こうなったら仕方ない、俺は思いっきり勢いをつけて頭突きをかました。


「この、くらえっ!! ぐぅっ!?」


 陽花に魅入っていた正道さんはうつむきがちになっていたこともあり、死角から迫る頭突きは躱せずに後頭部へと直撃した。


 物凄く硬い石頭で、ぶつけたおでこにすさまじい衝撃が走り視界に星が瞬いた気がした。


「ぎゃぅっ!? ぬ、ぬうぅっ!!」


 全力で後頭部に叩き込んだ一撃は正道さんを後ろに下がらせることに成功したが、彼女は倒れることなく足を踏ん張り衝撃を堪えきった。


 そして再びじりじりと接近してくる、もはやモンスターだ……ここで退治しておかねばっ!!


 俺はもう相手の性別はおろかクラスメイトであることすら忘れて、全力で退治に掛かった。


 力強く大地を蹴り上げて飛び掛かるように体重を乗せた蹴りを胴体に向けて放つ、これも又見事に腕で受け止められたが体重の差でついに横っ飛びに吹き飛んだ。


 しかし側転するようにくるりと一回転して着地すると、即座に距離を詰めてくる。


「くそっ!! あの一撃で倒れないとはっ!?」


「あはははははっ!! 私の陽花ちゃんへの愛は無敵なんだよぉおおおおっ!! 陽花ちゃんペロペロしたいぃいいよよぉおおっ!!」 


「お兄ちゃぁああん!! 陽花こわいのぉおおっ!!」


「ちょっと待ってろ、今この化け物の息の根を止めてやるからなっ!!」


 俺たちは正面から向き合いじりじりと間合いを詰め始めた……こうなったらこいつが倒れるまで攻撃し続けてやるっ!!

 

「あ、あの……す、すみません、バスがきましたよ?」


 にらみ合う俺たちの間に陽花と同じ制服を着た少女が割って入ってくる、申し訳なさそうに俺たちに頭を下げて……あのモンスターの手を引いていこうとするではないか。


(な、なんという勇気のある少女だろうかっ!! あの化け物が怖くないのかっ!?)


 正道さんは足を大きく広げ膝をまげ中腰でギラギラした目でこちらを睨みつけ、だらしなく開いた口からは舌と涎を垂らしているがその姿は本当に化け物にしか見えない。


 そんな正道さんにおびえることもなく手を差し伸べる姿はまるで聖女のようだ、見た目の麗しさも相まってうちの陽花に勝るとも劣らぬ……いや同じぐらいの……いややっぱりうちの陽花のほうが可愛いけど僅かに劣るぐらいの素晴らしい少女だ。


「ええい、触るな幸人っ!! 姉はようやく理想の幼女を見つけたんだぁっ!! もう似非妹のお前なんぞに用はないっ!!」


「お、お姉ちゃん……そ、そっかぁ僕はもういらないんだ、ご、ごめんねぇ……じゃあひとりでいくね?」


 健気に少女が差し出した手を乱暴に払いのける正道さん……同じ年齢の妹を持つ身としても許す気にはなれない非道な行いだった。


「て、てめえっ!! それでも人間かっ!?」


「うぅぅ……ゆ、ゆきとくんなのぉ?」


 叫んで再度攻撃を仕掛けようとしたところで、腕の中の陽花が恐る恐る声の主のほうへと顔を向けた……ゆきと君ってどこかで聞いたことあるような?


「あ、陽花ちゃん……あさからごめんね、さわがしくて……えっとあなたがお兄さんのみなかわさんですね、はじめまして正道幸人(まさみちゆきと)です……陽花ちゃんとはいつもなかよくしてもらっています」


「あ、ど、どうも……って、き、君が陽花の友達の幸人君っ!? ひょっとして……お、男の子っ!?」


 女性用の制服に身を包んだ姿が、見た目の可愛らしさと相まって本当に女の子にしか見えない……男の子と言われても全然信じられない。


「は、はい……だけどがんばってお姉ちゃんのいもうとになろうとしています……だけどむずかしいです……」


「所詮男だからね……見た目は可愛くてもそこまでだったわ、陽花ちゅぁああああんに比べれば天と地だからねぇええ」


「くっお、お前最低だなっ!!」


 やはりこの場で叩きのめしておかなければいけない気がする……が一生懸命頭を下げる幸人君の前で攻撃するのはためらわれた。


「ご、ごめんなさい……お姉ちゃんをゆるしてあげてください、ぼくがおとこのこだったからいけないんです……」


「ゆ、ゆきとくんのお姉さんってこの人なの……こわいよぉお」


「こ、こわくないわよぉおっ!! ふひひ、わ、私や、優しいんだからねぇっ!! こ、これでも学校で生徒会長とかしてて、し、信用していいんだからっ!! ほら皆川君も妹の警戒を解くよう言ってあげて……」


 そういって陽花に向かって手を伸ばす正道さんを振り払うようにバスへと駆け込むと、陽花を中へと押し込んだ。


「陽花、次からはお兄ちゃんが直接幼稚園まで送り迎えしてやるからな……絶対にこの女に近づくなよ」


「う、うんそうするぅうっ!! やっぱりお兄ちゃんだいすきっ!!」


「あぁあああああああっ!! いぃいなぁあああああああああっ!! わ、私にもだいすきっていってぇえええええっ!!」


 何か後ろから叫び声が聞こえるが聞かなかったことにしよう。


「あ、あはは幸人君のお姉さんは変な物でも食べたのかなぁ……あの陽花ちゃんのお兄さん、本当に次からは幼稚園まで送り迎えしますか?」


「すみません、あんな危険生物に可愛い妹を近づかせるわけにはいかないので……今日も帰りは迎えに行きますから」


「わ、わかりました伝えておきます……幸人君、おいで~」


「は、はい……お兄さんごめんなさい、ぼくがわるいだけですからお姉ちゃんをゆるしてあげてください」


 健気に頭を下げる幸人君、確かにとてもいい子だ……だからこそ涙が出そうになる。


「幸人君は何も悪くないよ、いい子だよ……何も気にせずに幼稚園で遊んでおいでね」


 優しく頭を撫でてやると少しだけ悲痛な表情が和らいだ気がする……くそ、こんなかわいい男の娘に何であんな非道な真似ができるっ!?


(幸人君には悪いが、とてもお姉さんを許す気にはなれないな……)


「あぁあああっ!! 陽花ちゃぁああああんっ!! 陽花ちゃぁあああんっ!! またね陽花ちゃぁあああんっ!!」


 過ぎ去ろうとするバスに向かって手を振っている正道さんを後ろから思いっきり蹴り飛ばしてやる。


 しかしびくともしない……本当に人間かこいつっ!?


「あぁあぁああああ、行っちゃったぁあああああ……陽花ちゃぁああああんっ!! 陽花ちゃんがぁあああっ!!」


「人の妹の名前を叫ぶな化け物、というかお前何で弟をあんなに邪険にしてんだよ……あんなにいい子なのに」


 もはや全く尊敬はおろかあこがれも消え失せた正道さんを相手に、ぶっきらぼうに尋ねてみる。


「はぁ……し、仕方ないでしょ……じゃなくて、そ、その……わ、悪かったとは思ってるわよ……ご、ごめんなさい……」


 しかし急にしおらしくなると本当に申し訳なさそうに俺へと頭を下げ始めた……多重人格かな?


「な、何急に落ち込んでんだ……き、気持ち悪いぞっ!?」


「か、仮にも女子にそういうこと言う……っていうわよねぇ、どう考えても異常だものねぇ……はぁ……いや、本当にごめんなさい」


「だから急にテンションダウンするなよ、反応に困るんだが……どういうことなんだ?」


「うぅぅ……こ、ここだけの秘密よ、じゃなくて秘密にしてください……わ、私その、わかったと思うけど重度の……ロリコンなのよ」


 ロリコンというレベルだろうか、あそこまで可愛らしい陽花に執着する様子はどう見ても……ロリコンだわ。


「それで弟を女装させて、挙句の果てに陽花に目を付けたってわけか……変態め」


「ぐっ!? は、反論の言葉もないわ……自分でも変だとは思ってるし何とかしなきゃとも思ってるんだけど……まさかあんな理想の幼女が目の前に現れるなんて思ってもいなくて暴走してしまったのよ」


「陽花が可愛いのは認めるが、あんな危険な迫り方されたらトラウマになりかねないぞ……もっと冷静になれないのか?」


「な、なりたいわよっ!! け、けどその私一度スイッチ入ると……ああなっちゃうのよ、幸人には本当に迷惑かけてるわぁ……」


 本気で落ち込んだ様子を見せている……罪悪感ぐらいは感じていたのか。


「昨日写真見たときは我慢しようと思ったんだけど……一目だけでも実物が見たくなって……その、幸人に無理ってこっちに来て……本当にごめんなさい、泣かせちゃったわね……はぁ自己嫌悪だわ……」


「……難儀な性格してますね、まあどっちにしても陽花を泣かせるようなら近づかないでください」


「うぅ……ぜ、善処しますが今日みたいに我慢できずにふらふら近づいてしまうかもしれません、そ、そのときはさっきみたいに遠慮せず叩きのめしていいから……凶器の使用も許可するわ……」


「凶器ですかぁ……まあ何か考えておきます」


 生徒会長のとんでもない一面を見せつけられて、俺は朝から精神が限界値近くまで削られていくのを感じていた。


 しかしこのまま突っ立っているわけにもいかず、俺たちは自然と並んで登校を始めた。


 早すぎず遅すぎない時間帯の通学路は生徒にあふれていて、皆の憧れである正道さんと一緒に歩く俺を見て何やらヒソヒソしている。


 ちょっと前までなら多分いい気分になっていただろうが……今は全くうれしくない。


「ねえ、皆川君……陽花ちゃんって何が好きなの?」


「……秘密です、とても教えられません」


「い、いや今日の謝罪を籠めてプレゼントしようと思って……べ、別に好感度を上げようとか考えてるわけじゃないわよっ!?」


「今日のことを償いたいなら金輪際近づかないでください、陽花を泣かせるやつは許せないので……」


「はぅうぅ……そ、そこを何とかあとい、一回だけ……ね、あと一回でいいからっ!! 陽花ちゃんと会いたいのペロペロしたいのっ!! 匂いを嗅いで抱きしめて身体の柔らかさを全身で味わいたいのぉおおおっ!!」


 どうやらスイッチが入ってしまったようだ、急に騒ぎ出した生徒会長の姿に周囲がざわつく……またあいつかとか言って俺を指さすな、今回も全く無関係だよっ!?


 しかしこのまま放っておくわけにもいかない、俺は腕を後ろに回すと後頭部を手のひらで思いっきり叩いた……後ろからじゃないと攻撃が入らないんだよこの化け物。


 はっと目が覚めたように俺を見て頭を下げる正道さんだったが……周りからの俺への視線がとても痛い。


「ごめんなさい、助かったわ……はぁ、陽花ちゃん可愛すぎてどうにかなっちゃいそう……皆川君はペロペロしたくならないの? チュッチュしたくないの? ハグハグしたくないっ!? あの陽花ちゃんの愛おしい姿を瞼にやきつけ……っ!!」


 もう一回、今度はグーで後頭部を殴打する……DVじゃないんだよ皆さん。


「あはは……はぁ、迷惑をかけるわね……本当にごめんなさい……」


 暴力を振るった俺に頭を下げる正道さんの姿は、確かにDV彼氏に尽くす彼女の姿に見えなくもないが勘弁してほしい。

 

(も、もうやだこんな生活……俺が何をしたって言うんだよぉ……)


 精神的疲労が限界値を超えた俺は、もう周りの言葉も聞かずに脳内に可愛らしい陽花を転写して堪えることしかできなかった。

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