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「「あ……」」



 咲山裕也と穂織希空が初めて対面したのは、突然降り出した驟雨から避けるように駆け寄った古い書店の中で、暇を潰そうとして、偶然同じ本を手に取ろうとした時だった。



 裕也が通う私立清稜高等学校の一年生の中には【女神】様がいるらしい──そんなもっぱらの噂があった。



 いくらなんでも【女神】だなんて誇大評価も甚だしい、と当初は思っていたが、こうして間近で対面してみればあぁなるほど。たしかに彼女には、【女神】なんて大仰な表現がぴったりと当て嵌まる。



 艶あるブロンド色のストレートヘアーはサラリと溶けて柔らかそうだし、シミひとつない健康的な白桃色の柔肌は瑞々しさが際立っていた。精緻に整った鼻梁と山吹色で澄み渡った大きな瞳も相まって、実に浮世離れした端麗さを纏っていた。



 同じ高校に通っているということもあって、彼女の話をよく耳にするが、大半の人が才色兼備の美少女、という認識だったりする。



 実際、彼女は何でもできる。学期考査では常に学年五位以内を維持しているし、運動能力も男子に負けず劣らずで様々な部活動の勧誘が後を絶たないそうだ。



 裕也は、クラスも学年も違うので彼女のことをよくは知らないが、いっそそこまで完璧超人を貫き通せるのなら、一周回って誰よりも努力家なんだろうと思えたほどだ。



 短所といった短所は見当たらず、容姿端麗で秀外恵中──そんな如何にも王道漫画に登場する美少女など、努力なくして実際に体現できるはずもないだろう。



 なのに、本人がその努力する姿を見たという話は耳にしたことがない。つまり、隠れて自分を磨いている……ということに他ならない。



 それでも自身の能力の高さを鼻にかけてひけらかすわけではなく、むしろ謙虚な姿勢を貫き通し続けかつ、内面が良いとなれば、当然男子達が黙っていないのことにも頷ける。



 そんな美少女と偶然にも手を重ね合わせ居るのだから、今の状況は熱狂的な男子達からすれば羨ましい限りこのうえないのだろう。



 とはいえ、裕也自身がどうこう思うことはなかった。



 勿論、裕也とて穂織希空という少女は目麗しいと認識しているし、実際にそう映っている。



 だが、立場的にはただの先輩後輩。そして、二年生と一年生とでは別棟なので、接点が全くと言っていいほどないし、こうして顔をつき合わせたのも今日が初めてだ。



 恋愛物語なら偶々から始まるラブロマンスというのが定型的なのだろうが、生憎とここは現実世界。そんなロマンティックな展開で学校一の美少女と愛を育んでいけるのなら、恋人作りに勤しむ懸命な学生達は苦労しないだろう。



 もう一つ言わせてもらうのなら、異性として魅力的だからとはいえそれが恋愛感情に発展するかどうかは、必ずしも=関係ではない。例えば、とびきり美人の女性モデルをテレビの画面越しから鑑賞しただけで恋心を覚える人はほとんどいないだろう。つまり、裕也が希空に抱いているものはそれと同様のことだった。



 そんな訳で、甘ったるい展開とやらを期待する気も更々なく積極的に関わり合おうとも思わない。



 だから率直に言うのなら、失礼を承知でこんな見窄らしい古本屋で鉢合わせるのは意外だったのだ。



(この本が欲しかったのか……?)



 互いに手を伸ばした本は、なんてことはない普通の恋愛系ライトノベル。

 

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