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前奏曲:神風の吹く出逢い

こんにちは、猫アレルギーなのにペンネームに猫が入ってる『猫ノ助』です。


恋愛小説を描きたくて描いてみました。

一応、読んでくださるとありがたいです。


今作は、色々と訳ありな主人公とこれまた色々訳ありなヒロインの恋愛模様を描いた純愛物です。


それでは、どうぞっ!

 五月の下旬。桜の花弁が散って新緑が芽生える季節。



 雲から覗く斜陽の温もりと、頬を撫でる柔風がもうじき夏がやって来るのだと知らせを届けてくれる。



 この心地良い気候を堪能できるのもあと二〇日程度しかないのかと思うと、少しだけ残念な気持ちが込み上げた。



 あと二〇日もすれば大概の人が大っ嫌いな梅雨が訪れる。



 そうなれば、居心地の悪い学校内で唯一のマイプレイスと言っても過言ではない屋上で腰を落ち着けることが出来なくなるだろう。ぼっちには辛い話だ。



 自嘲気味な苦笑いが自然と溢れる。



「……音楽でも聴くか」



 そう独り言ちってブレザーの懐から去年の誕生日に両親がプレゼントしてくれた割と最新の音楽プレイヤーを取り出し、コードを繋げたイヤホンを耳に装着する。



 最近ではワイヤレスが主流になりつつあるようだが、俺はワイヤレスを好んで使わない。



 コードのひらひらとした鬱陶しさがなくなるのは魅力的だし、特に深い理由もないが、単に俺の嗜好に合わなかったというだけだ。



♪〜♫〜♩〜────



 すっと胸に染み渡るような前奏が耳朶を打った。



 きゅっと目を閉じて、より聴覚に集中できるように自ら暗闇を作り出す。



 俺の耳には、最近巷で有名になった正体不明の男性ソロシンガーSouの代表作──『君は傘を差していたのに』が耳に入ってくる。



 梅雨時の幻想的な愛について語らう歌詞と、非常にゆったりとした曲調が上手く噛み合ったことで一世を風靡した名曲と評価されている……らしい。



 らしいというなんとも曖昧な発言なのは、俺自身が世事に疎いから。



 普段からニュースやらテレビ番組などを好き好んで見ているわけではなく、日本の学生達が興味を示す趣味や事柄に全くと言っていいほど無関心だ。そのせいで唯一の友人と呼んでもいい奴からもしばしば呆れられるのだが、関心が向かないのだから仕方ない。



 ちなみに、Souについての情報もそいつから聞いた受け売りなので真偽はわからない。調べる気力も湧いてこない。



 興味のないことに時間を割いたところで疲れるだけ。最近の世の学生達は元気がありすぎる。若いって怖い……。



 そんなふうに億劫な気分に魘されていた時だった——




「──?」




 ふと、少女の歌声が装着していたイヤホン外からぼんやりと聴こえてくる。



 目蓋をゆっくりと開けイヤホンも取り払うと、その可憐な歌唱はさらに鮮烈さと熱を帯びて俺を魅了してきた。




「──ぁ」




 自然と、歌声の主へ視線が向いた……いや、吸い寄せられた。



 艶やかで陽光の輝きすら吸い込んでしまうのではないかと思える程の綺麗な黒のロングヘアー。



 すっとして綺麗な立ち姿。華奢な体躯なのに姿勢のおかげで背が高く見える。



 くっきりとした端正な顔立ちと、キリッとした瞳は何にも囚われない真っ直ぐな意志を宿していた。



 貯水槽の横……俺よりも高い位置にいる彼女の口から放たれる熱情を含んだ歌に、意識が持っていかれる。

 


 俺はこの歌を知らない。



 俺はこの声を知らない。



 だけど俺は、この感情を…………




「愛情……」




 ──誰よりも知っている。

 


 まだまだ荒削り。音は所々で外れテンポも走り過ぎ。



 原曲を知らない俺でもわかる程の聴いて取れる間違いはそこそこあった。



 でも、この衝撃は間違いなく本物。



 世俗に疎くても、そうはっきりと感じ取れた。



 気持ちを技術に乗せて世界を表現できる生粋の音楽人がプロだとするならば、彼女の歌は気持ちだけで世界を表現すろことの出来る莫大な可能性を秘めた原石。



「……うん、さっきよりはいい感じ」



 そんな姿に見惚れてしまっている俺の存在など、彼女は眼中にないのだろう。



 さっきの真剣そのものだった表情から険が取れて柔らかい微笑みが浮かんでいた。



 そのギャップに見惚れそうになるが、頭を横に振って邪念を払う。



 同時に、生き生きと歌っていた彼女の端麗な容姿がクラスで……いや、学校中で絶大な人気を誇る品行方正な美少女の姿見と重なる



「倉野……?」



 思わず口に出した名前。



 あんなにも自分を表現できる彼女が、普段は計算されつくした慈愛の微笑みを男女分け隔てなく向けているが裏では何を考えているのか全く分からない女神様(女狐)と同一人物などと、なんと的外れなことか。



「え……あ、あなたは──っ」



 しかし俺の声に反応した彼女の様子を見るに、どうやら見間違いじゃなかったようだ。



 目を瞠き明らかに狼狽した様子で俺を見る少女──倉野椎奈は、恥ずかしげに顔を朱色に染めて何かを言おうとして……



 ビュオォオオオオオオ〜〜〜ッ!



「〜〜〜ッッ」

「ぁ……」



 突如として吹き荒んだ風にスカートが捲り上げられ口を噤むんだ。



 ばっ! と勢いよくスカートの端を急いで押さえつけるも、誠に残念ながらこの角度ではばっちりと中身を拝めてしまう。



 まさか自分がラッキースケベな展開を引き当てる日がくるとは微塵も思っていなかった。



 当然、そんなことを目の当たりにしたのは初めての俺は、キッと睨み付けてくる倉野に果たして何を言えばいいのか困惑する。



 そして、



「まぁ……なんだ………………その……ピンクはかわいいよな」

「死ね──っ!」



 一番言ってはならぬこと……地雷を自ら踏みにいくという愚行に及んだ。



「わ、忘れてっ! 全力で頭から消してっ!」

「それは難しい話だな」

「は!?」

「だってまだパンツ見えてるし」

「え、きゃあぁああああああああ!?」



 本日二度目の少女の絶叫が空気を震わせる。



 これがパンツイベントというやつか。顔を羞恥に赤らめて全力で悶える様子が尊いと男連中は語っていたが、案外そうでもないな。



 ただ頑張って頭から消そうとするが、そのたびに風で揺れたスカートの端からピンク色の布地がちらちらと見えてしまい結局脳裏から離れなくなるという悪循環が起きている。だけど、男連中が期待していたような特別な感情は湧いてこない。



 実際そんなもんか。ぐらいの認識しか、美少女のパンツにはなかった。なんだか肩透かしを食らった気分だ。



「って、なんでまだこっちガン見してんのよっ!? あっち向いててよっ!」

「何を焦ってんだ、ただの布だろ? 見られて減るもんでもないだろうに」

「減ってんのっ! 現在進行形で私のSAN値がゴリゴリ減ってんのっ! ていうかもっと恥じらえ変態っ!」

「ん、わかったわかったー」

「おいコラ。テキトーに返事してんじゃねぇぞっ。一回本気で〆てやろうかっ」



 とはいえ、倉野の声音がぞっと背筋が凍り付いてしまいそうなほどに冷酷さを帯びてきたのでふざけるのも大概にしておこう。



 ヤンキー口調って半ば脅しみたいなものだと思っていたが、認識を改めなければ。本気で怖い……。



 と、かなりの恐怖で肩を震わせていたら、いつの間にかニコニコ顔の倉野がこちらに降りてきていた。


 

 さっきまで青筋立ててたくせに……こいつ、情緒不安定か。



 そしていつもクラスでみせるような女神の微笑みを機械的に浮かべて、



「……あなたは何も見ていないし何も聴いていなかった、そうよね? 相良君」



 ギリギリっと、彼女の細腕からは到底考えられないような怪力で俺の肩を掴んできた。



 まるで「頷かないと殺す」と言外に言われているような気がして、逆らったらただでは済まないと直感しこくこくと首を何度も縦に振るしかない。



「ならよろしい」



 そうしてふっと肩にかかっていた圧力から解放され ほっと安堵の一息。



 時間にすれば一分弱程度しか経過してないだろうが、感覚的には数分以上のやり取りだったように感じた。



 恐ろしい時間は長く感じられるとよく聞くが、本当にその通りだった。



 そして倉野はさっと身を離してからくるっと踵を返し、その端麗な顔をこちらに向けて、



「それでは、今日のことはご内密に♪ また教室でお会いしましょう。さようなら相良君」



 まるで向日葵のような微笑みを咲かせてきた。



 そのまま彼女は何も言わずにこの場をすたすたと立ち去っていき、やがて取り残された俺は……



「素のテンション高かったなぁ。普段と全然キャラが違うのって疲れないのかな」



 彼女のスタミナの高さに驚嘆して立ち尽くしていた。




 


面白いと思った人は、下スクロールして☆×5してください。


面白くない、あるいは見るんじゃなかったと後悔している方々は、何も見なかったことにしてブラバしてください。


よろしくお願いします。

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