部活に行こう
この春、俺は中学二年生になった。
俺はパッとしない人間だ。特徴は、太っている、という事くらいしかない。太ったのは、中学受験勉強を始めたら外遊びをしなくなった、というのが原因だろう。そして、俺は成績が悪い。席次は後ろから三番目だ。県内では良い方の学校に通っているが。これじゃあ、そこらの中学の奴らと変わらないよな。
まあ俺はそんな奴だから、もちろん日々の生活は楽しくない。デブだし、男子校で女の子いないし、勉強にはついていけないし、部活にもあまり顔を出していない。この前部活に行った時なんか、先生だけでなく、先輩にまで説教されてしまった。そして、家に帰っても散々だ。まず何もやる事がない。ゲームは中古屋に売られ、スマホは中一の三学期に、親に破壊された。まあ、全部俺が勉強しなかったせいなのだが。
ところで、最近厄介なイベントが発生した。担任の先生が、HRの時に部活に行っているかチェックすると言うのだ。これは部活に行かなければなと思った。親には、「部活には行っている」と嘘をついているからだ。担任から親に、「部活に行っていない」なんて報告されたら、より家に居辛くなるだろう。
そのHRまで一週間となる昨日、二ヶ月ぶりくらいに部活に顔を出した。俺は弓道部に所属しているのだが、同級生にかなり遅れを取っているのを感じた。練習の一つに、「中間」という練習がある。それをやらせてもらえるようになった辺りから、俺は部活に行かなくなった。そして今、同級生は本格的に的を射る、「的前」なる練習に進めているのに、俺は一人で「中間」の練習をしなければならない。正に公開処刑だった。帰りになると、同級生にも合わす顔が無くて、一人速攻で帰ってしまった。居場所無いな。
ついに例のHR当日、出席番号順で確認を取り始めた。俺の番が回ってきた。
「24番田村!お前部活ちゃんと行ってるか?」
「行ってます」
よかった、事なきを得た、と思った。だが、クラスメイトで部活が同じの佐藤が余計なこと言いやがって。
「あれ?田村って先生がチェックするって言った日から来るようになったことね?」
うるせえよ。余計な事言わんでええわ。正直めちゃくちゃ恨んだ。
ところが先生は、「生徒を信用できなくなったら教師として終わり」という考えを持っているらしく、俺は部活に行っているという判定になった。しかし、このHRが終わったからといって部活に行かなくなると、佐藤が先生に色々言うかもしれないので、俺は毎日部活に行く事になった。
六限終了のチャイムが鳴り、皆楽しそうにしている中、俺は憂鬱な気分で弓道場に向かった。そういえば今日、俺の所属する班の班長が来るんだっけ。班長にはこの前説教された。
弓道部では、四つの班に分かれて練習している。なんでも弓道は団体戦らしく、それに慣れる為、だったかな。あの競技が団体戦って所から俺は理解が出来ないが。
弓道場の前、まだ部長が来ていないらしく、多くの部員が道場が開くのを待っている。心做しか、周りからの視線が痛い気がする。
部活が始まる前の、「澄まし」なる精神統一の儀式と、準備体操を終え、練習に入る。新学期で新入生がいる中、まだ中一の練習過程を終えていない俺は新入生と一緒に練習しなければならない。新入生らを指導するのは、中二から高二の部員であり、同級生に指導される事もある訳で、とても虚しくなった。
暫く時間が経ち、俺は今から違う練習をさせられると言われた。どうやら例の「中間」の練習は、俺しかやる人がいないらしく、場所を取るのでスキップし、「的前」をやらせてもらえるらしい。「的前」を簡単に説明すると、28m先の的に矢を中てるという物だ。中一の最初、「的前」を見て「弓道部、楽しそうだな」と思って入部し、中二になってやっとやらせて貰えるのかと、なんとも言えない気持ちになった。地元中学の弓道部に所属している連中は、中一の六月にはもうやらせて貰えるとか言ってたっけ。そんな事を考えていると、遂に俺が「的前」をやる順番が回ってきた。先輩に入場の動作を教えられ、遂に俺は矢を放つ事が出来るのだ!
勿論「的前」に初めて挑戦して、中るなんてもってのほかで、仮に中ったとしてもまぐれらしい。俺は中らなかった。しかし、矢を放つのは中々気持ちがいい事に気づいた。部活に参加するいいキッカケになった。
その日は、俺が「的前」に二回目の挑戦をする前に練習は終わった。今後、新入生の前で恥をかきたくないので、いつもよりしっかり筋トレをした。トレーニングの後、掃除があり、弓道場内を班で分かれて掃除するのだが、意外に俺の班の班員は俺を受け入れてくれているようだ。佐藤が同じ班というの以外なら、俺はこの班が好きだ。その後、掃除が終わり解散する。一緒に帰る友達はいないからダッシュで駅に向かう。帰り道、先に学校を出た部活の先輩が、
「田村くんは用事があるだろうから一人で帰ってる訳で、俺たちはなんで二人で帰ってるんだ?」
みたいな事を言ってるのが聞こえた。知らねえよ。嫌味な先輩だ。
家に帰り、家族みんなで食卓を囲む。今日、初めて「的前」に立ったと話した。掃除の時先輩に、『「的前」に挑む』、や『「的前」をやる』という表現ではなく、『「的前」に立つ』と表現するということを教わった、という事も話した。家族はあまり感心がなさそうだ。
翌朝は目覚めが良かった。俺は少し学校が楽しみなのかもしれない。小学校以来の朝ごはんかもしれない。ベーコンに目玉焼き。美味しそうだ。腹が弱い俺は牛乳を飲んで腹を壊しつつ、駅に向かった。
俺はいつも、中学受験の塾から同じだった友達と共に学校に行く。伊藤と吉永だ。中一の頃は五、六人で登校してたが、皆別れていった。他愛のない話をし、学校に着く。特にやる事もないので、電子辞書をいじる。最近は電子辞書に入ってるメモで、パラパラ漫画を作るのがマイブームだ。
一限のチャイムが鳴る。いつもと同じような授業を、いつもより真面目に受けてみる。勉強をしない自分に焦るという日常は、昨日で終わったのかもしれない。
一日の授業が終わり、掃除当番の俺は掃除をする。いつもはなんとなく掃除をしていたが、今日は早く終わらせたいと思った。
部活に行こう。