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金持ちの俺  作者: けろ
3/3

第三話 俺の財産は全部でいくらあると思う?

俺達は修道院で起こった事件の真相を確かめるために、死体を調査することになった。

しかし、死体など怖くて見たくない俺は部下達に検死をまかせることにする。


エルフはぶつくさ文句を言っていたが、やはり頼りになる筋肉である。

死体の元へたどり着き、近くにいる神父に事情を話している筋肉たち。

俺が街一番の金持ちであることは、主要な施設の人間や有力者には広く知れ渡っている。

なので、こういったときに俺の名前を出せば色々と便宜を図ってくれるのだ。

金持ちはこういうときに便利である。


「アクノ様のお連れの方でしたか。どうぞ、ご自由にご覧ください」


エルフたちが俺の連れであることを確認した神父は、修道女達に死体の案内を任せた。

死体が閲覧可能になる最後の瞬間まで見るのを渋っていたエルフであるが、両手で覆い隠した目が隙間から捕らえた光景は彼女の心を動かす。


「う、うそ、マーチャじゃない……」


エルフはその瞳に映る人物に心当たりがあるようであった。

酷く動揺した様子の彼女を宥めながら、筋肉はどこからか取り出したゴム手袋を装着して死体に触れて調査を始める。

上半身裸の偉丈夫が慣れた手つきで検死している様子は非常にシュールであった。

数分とかからずに何か情報を掴んだらしい筋肉は「アリガトデス」と拙い共通語で修道女たちに礼を言い、俺の元へと戻ってくる。


「なにかわかったか?」


事件の真相を追う刑事のような口調で俺はエルフ達に問う。

別に、知ったところで何があるわけでもないのだが、野次馬としての好奇心と遊び心がそうさせた。


「あの死体、私のいた村に住んでいた人間だったわ……」


過去に交流があった人間との再開の場が検死になってしまったエルフは、酷く憔悴した顔をしていた。

そんな顔をされると、俺の子供心がライトニングをお見舞いしたくなってしまうのだが、ここはそういう場面ではないので自粛する。

俺にも一応人の心はあるのだ。


「あのシタイ、魔王の眷属に特有の「魔族の紋章」が刻印サレテイタ」


厄介な情報が入ってきたという様子で頭を掻く筋肉。

いやいや、なんだよその「魔族の紋章」って。

王道ファンタジーの物語が始まりそうな雰囲気出されても困るんだが。


「アイツは恐らく、魔王復活を目論む影の組織「ワールドエンド」の一員ダ」


賊はどうやらなんかかっこいい組織に属していたらしい。

やけに博識な筋肉が言うには、ワールドエンドという組織は構成員約数万人の大組織であるという。

メンバーは世界各地に散っているが、魔王復活という共通の目的のために活動しているらしい。

その一員である先ほどの死体が、魔王討伐の要衝であった「聖域」の破壊を目論んだということで、今回の事件は少し厄介なのだという。


「セキヒの修復には高い専門知識と、魔力を良く伝える「ミスリル鉱石」をフンダンに使う必要がアル」


壊された聖域の修復には莫大な費用がかかるらしく、街の税金でまかなうには少し足がでてしまうという。

この事件が原因でこの街の景気も悪くなってしまうかもしれないなと筋肉は憂慮していた。

いや、本当におまえは何者なんだよ。


俺達はしばらく現場に残り、憔悴しきったエルフが少し回復するまでまった。

やはり、感情豊かなエルフにとって、かつて親しかった人間が様変わりした様子で死体として発見された事実は深く心にダメージを追わせたのであろう。

地に膝を着き、先ほどまでの愛らしい笑みを失った彼女の悲痛な面持ちには、不謹慎ながら薄倖の美少女という言葉が良く似合っていた。

修道院から野次馬も消えて、いよいよ関係者だけとなったところで、俺は神父へと再び接触する。


「なあ、ぶっ壊された聖域の修繕ってどれくらいかかるんだ?」


俺のシンプルな問いかけに対し、神父は頭を抱えて答える。

その様子からやはり、筋肉からの説明にあったように莫大な費用がかかるであろうことが伺えた。


「信じられないかもしれませんが、20億ゴールドはかかると……」


聖域の石碑はそうそうなことでは壊れない強靭な耐久力をもっているのだが、今回はなにかしらの特別な手段で破壊されたということだった。

なので、そんな高耐久なものを作り直すの単純に大変であることと、高い魔導工作技術が不可欠であることからも値が張るということである。

街の税金でまかなうのはとてもじゃないが難しいという神父。

しかし魔王はいなくなったとはいえ、依然として街の周辺には野生の魔物が闊歩している現状で、広域防衛装置の聖域を失うことは苦しい。


「街の行政に掛け合っても、早期の修復はむずかしいでしょうな……」


知り合いの死に直面したエルフの悲しみとは別種の、現実として差し迫った問題に対する深い悲しみが神父の顔には見られた。

エルフが「あなたも大変苦しいでしょう」と目の前でうなだれる神父を励ます。

その様子は、ステンドグラスから光の差す修道院という背景もあってか、一枚の絵画のような光景であった。


しかし、神をあがめる書物のワンシーンのような雰囲気をぶち壊す者がここにいる。


「お金ならあるぞ」


絶望の空気感の中で地に臥す修道女や神父達に、俺はポケットから取り出した信用金貨20億ゴールド分を投げ渡す。


修道院全体の空気がざわついた瞬間であった。



------



20億ゴールドをポンと修道院に寄付して、俺達は自宅の方角へと歩き始める。


「ちょっと!!!あなたどこからあんな金額のお金だしたのよ!?」


先ほどから隣を歩く奴隷エルフが、高く美しい声を無駄に張り上げて俺に問いかける。

どうやら、彼女的には先ほどの寄付に納得がいってないようだった。


「そんなに寄付したことが不服だったか?」


面倒くさそうに返答した俺に対し、さらにエルフは反論を続ける。

寄付したこと自体にも驚きはしたが、別にそこは問題ではないらしい。

ただ、その金額が20億と非常識なものだったことに疑問を持ったのだという。


「俺からしたら20億なんて端金だ。気にすることはない」


ムカつきなのか驚きなのかエルフは口をパクパクさせているが、俺はお構いなしに右手をヒラヒラと振りながらエルフの前を歩く。

反対隣を歩く筋肉がその様子を見て「ダンナ……!」と驚いているあたり、やはり俺の財産について説明しておいたほうが良いかもしれない。

俺は歩みを止め、その場でエルフ達の方を振り返る。


「なあ、お前ら、俺の財産は全部でいくらあると思う?」


突然の主人からの質問に「分かるわけないじゃない!」と講義するエルフ。

筋肉も「20オクがポンと出せる……」と色々考えている様子である。

二人とも考えた結果の答えが「500億くらい?」とかそんな感じであったので、俺は遂に答えを与えることにした。


「全部あわせると……」


続く言葉を待つ二人がゴクリと唾を飲むのが分かる。

単純な好奇心から知りたいという気持ちもあるはずだが、それ以上に自分の「主人」の財力を把握する瞬間なのだ。

財産の量如何でこれから自分たちの生活がどういうものになるか、労働環境や奴隷の扱われ方も変わってくるわけである。


しかし、俺の口から出た言葉は彼らの想定を完全に超えていたらしい。



「ご、ご……5000兆ゴールド……!?」



ライトニングを撃ったわけではないが、エルフが白目を剥いて気絶した。












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