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金持ちの俺  作者: けろ
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第二話 街の騒ぎ



先日、街の奴隷商から「金髪美女エルフ」と「謎の筋肉」を入手した俺であった。

彼女達ともそれなりに意思疎通が図れるようになった頃のある日の朝のことである。


「旦那様、夜明けごろに街の修道院で事件があったそうです」


数十人は座れるであろうサイズの豪奢な食卓に座る俺に、同じく対面に座る執事セバスが声をかけた。

執事が主と同じ食卓に着くケースは非常に珍しいが、俺はそのへんの常識をあまり気にしない。


「ほーん、どんな事件だ?」


焼きたてのバターロールを齧りながら、俺はもう片方の手で顎を掻きながら返答を促す。

左隣に座り、スクランブルエッグを美味しそうに食べてるエルフも「修道院ってなに?」と話の内容に関心を示した。

エルフのさらに左隣に座る筋肉がたどたどしい共通語で、彼女に修道院について説明している様子が面白い。

というか、エルフの方が共通語が上手くて、人間であるはずの筋肉が上手く喋れないと言う構図が大変シュールである。


「なにやら、修道院の地下にある聖域と呼ばれるエリアに賊が侵入したらしいのです」


少し説明っぽくなるが、この世界には人類に敵対する魔王という生き物が過去に存在していたことを知っておいてほしい。

強大な魔力を持つ魔王が人類に与えた打撃は凄まじいものであった。

しかし、暴力の権化のような魔王にも弱点はあったらしく、その一つが「聖域」であるという。


「そして聖域に侵入した賊は、退魔の石碑を破壊してしまったそうです」


聖域のメインコンテンツである「退魔の石碑」は、自身を中心として広範囲の敵対する魔物に悪影響を与えるらしい。

そんなわけで、もともと修道院はその聖域を利用して街を守る防衛拠点のような役割を担っていたという。

俺も知らなかった。


「ダカラ、修道院は大事」


意外にも博識な筋肉の説明に対し「おお!!凄い分かりやすかったぞキンニク!」とエルフはパチパチ手を叩いてる。

いや、どうして筋肉にそんなにうまく解説ができるんだよ。


「それで、その賊ってのは捕まったのか?」


少しパサついたバターロールをミルクで喉の奥へと流し込んだ俺は、テーブルクロスで口を拭きながら尋ねる。

執事の返答によると「まだ捕まっていない」ということが分かった。


「おい、お前ら、修道院に行くぞ」


隣で幸せそうにお腹をなでるエルフと、その隣で無限にバターロールを食い続ける筋肉に声をかけた。

金持ちは暇だから、街で起きたイベントごとにはだいたい顔を出すのである。



------


屋敷の外に出ると、雲ひとつ無い最高の晴天であった。

日差しが強く、思わず手の甲を額に当てて呟く。


「めちゃいい天気だな……」


全くですなと答える執事に見送られながら、俺達は修道院のある中心街へと向かっていった。


俺は帽子を被るのがあまり好きではないので、奴隷エルフと筋肉にだけ日よけの装備を用意したのだが、


「オレ、日焼けする」


と言って、筋肉は帽子はおろか、半裸スタイルで外出に挑む。

反対に、「最高級の世界樹の蔓で編まれた麦藁帽子」と「樹木の精霊ドリアードの皮で作られた木綿のワンピース」を身に着けたエルフは


「あなた!!なんてことを……」


と凄く悲しそうな顔をしていた。

森と共に生きるエルフにとって「世界樹」と「ドリアード」は愛すべき隣人であるという。

そんな同胞を素材として惜しみなく使った衣服など、俺達からすると「人間」を素材にして作った衣装のようなものである。

考えただけでも恐ろしいものだ。

だが、「人間はなんて罪深いのだ……」と絶望の演技をみせるエルフが着替えている時に


「ふふ、世界樹産の帽子とドリちゃんの皮なんて最高よ!!」


と満面の笑みを浮かべていたのを俺は見逃さなかった。

そのへんの二面性が気になった俺は、世界の諸事情にやけに詳しい筋肉にエルフの生態について聞く。


「エルフって森の守護者なんじゃないのか?」


森と共に生きるエルフが、森の魂のようなものを破壊して喜んでいるのってどうなの?と聞くと、

筋肉が言うには「昔はそういう規律が厳しい時代もあったが、今はみんなほとんど気にしてない」とのことだった。

特に若い女エルフなんかは「獣臭くない良質な素材」として「世界樹」や「ドリアード」を好んで使うらしい。

ドリアードの皮も再生するらしく「命に別状はない」ということで、エルフの道義的にもセーフだというのが彼女達の理論であるという。


「エルフも現金なもんだな……」


俺は筋肉の話を聞きながら、横目で嬉しそうに衣服を触っているエルフを観察する。

なんかちょっとムカつくから軽めのライトニングを一発お見舞いしておく。


-----


心地よく照る日差しの中、税金で整備された石畳を歩き、俺達は中心街へとたどり着く。

中心街には大きな噴水を囲むような円形の広場があり、そこに面して件の修道院が存在している。


「おい、あれが修道院だぞ」


修道院を見たことがないというエルフに教えるように、俺は広場の一角にできている人だかりを指差す。

荘厳な雰囲気を醸しだす白い石作りの建物からは、天に向かって伸びる尖塔のようなものがいくつか生えていた。

高所に設置された窓にはステンドグラスが張られてあり、お昼時に修道院の中へと幻想的な光がさすというわけである。

俺の住む豪邸とはまた少し趣の違う建造物というわけだ。


「すごい人だかりね。野次馬根性でこれだけ集まるなんて、人間てば結構馬鹿なのね」


俺達もその一員ではあるが、結構な野次馬が今回の事件の現場を観光しにきているようだ。

口では野次馬を馬鹿にしているエルフであるが、彼女の美しい金髪からはみ出て見えるエルフ特有の長い耳は正直である。

餌を与えられた犬の尻尾のように、ピクピクと楽しそうに動いているのだ。


早速修道院に向かう俺達は、筋肉のパワーを利用して人だかりを分け入って進んでいく。

修道院入り口にたどり着いた頃に、建物の中から耳を劈く絶叫が聞こえてきた。


「ま、ま、魔王様バンザーーーーイ!!!!」


その声は少し高く、人間の若い男であることが分かる。

いったい建物の中で何が起こっているのか気になる俺達は、事件がまだ終わっていない可能性を危惧しながらも好奇心と野次馬根性で中へ入った。

白い石造りに対して、コントラストが良く印象に残る赤絨毯を踏みしめ、修道院の独特の空気感を味わう。

しかし、人類を守る神を崇める施設に対する犯行というのも中々に罰当たりな行為である。


「おい、いったい何が起こっている?」


俺は手近にいる修道女を捕まえて事件の全容を問う。

スラリと背の高い、モデル体系なエッチボディの修道女は「本日未明に地下の聖域を荒らした賊が、たった今自害なさったところで御座います」と丁寧に答える。

言葉と言葉の間に生まれる息継ぎや、死体を指差す所作の一つ一つが色っぽい。


え、じゃあそこに出来たてホヤホヤの死体があるってこと?


「エルフ、お前筋肉と一緒に死体の確認して来い」


彼女が指差した先には、黒いカーテンのようなもので隠された空間があった。

その中には恐らく、件の死体が地面に横たわっているのだろう。

俺はビビリなので、人間の死体を見る勇気などない。

ましてや、死にたてでまだ温もりを失っていない男性死体なんて論外である。

だから、ここは主人のために奴隷と筋肉が情報を仕入れてくるべきなのだ。


「ちょっと!あなたか弱い女の子に死体の確認させるわけ!?信じられないわ!!」


死体を見るのが嫌なのと、男である俺が率先して見に行かないことに異を唱えるエルフ。

確かに、主人公的にも世間体的にも主人である俺が行くべき時なのだろう。

しかし、そんなこと言っても怖いものは怖いから嫌だ。


「ワカッタ、オレとエルフで見てくる」


特に困った様子もなく、筋肉はワンピースの襟をかんで俺の方を指差すエルフの腰を抱えて死体へと向かっていった。




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