新元号により彷徨(さまよ)う
逃げると言っても、貧乏な俺はとりあえず逃亡資金をつくるためパチンコ屋へ。パチンコ屋では、誰も俺のこと知らないし、気にもしない。おかげでパチンコ玉が跳ねる音や音楽でうるさいのにかかわらず、落ち着つくことができた。
「んー、だめだわ」
しかし、逃走資金を得ることができなので、どうしようか迷っているその時だった。
「よう、ここにいたのか」
俺の名前を知っていて、さらにお金を借りている奴が声をかけてきた。今、一番会いたくない人間だが、無視もできない。
「悪いけど、金なら無いよ」
ちらっと奴の顔を見て、ぶっきらぼうに短く返事をした。
「どうしたんだ。浮かない顔して。ちょっと話があるから付き合え」
奴は、俺と同じくらいの年齢だが、いつも威張っている。平日の昼間からパチンコ屋にいる奴だから、禄でも無いとは思うのだが、どのような生活をしているのか詳しいことは分からない。素性の良くない人々と付き合いはあるようだが。
俺は奴を、取るに足りない道端の石で糞野郎と思うようにしているから、心の中では石糞と名付けている。
「おい、金はいつになったら返すんだ」
人気のない場所で、低く威嚇するような声で俺に聞いてきた。
「もう少しまってくれ。金ならなんとかするから」
「ふん、どうにもならないくせに。それよりも借金を返せる話があるから今から来い」
借金があるので、強く拒否もできずそのまま奴のあとについて、とぼとぼと重い足取りで歩き始めた。
着いた先は、繁華街の古びた雑居ビル。カビ臭く、暗く狭い階段を上がっていくが、ここも奴と同じような胡散臭さを感じる。2階のこれもまた古びた建付けの悪いドアを開けて2人で入っていった。
「失礼します」
奴が、今まで見たこともないような礼儀正しさで中にいる人に挨拶をした。
「よく来たね。まあ、そこのソファーにかけて」
機嫌が良さそうに大声をだしたのは、俺よりも10歳くらい年上と思われる禿たおやじ。しかし、なぜ俺に会いたいのか、なぜ機嫌が良いのか戸惑うばかりだった。